岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
「……連絡が来たな。どうやらコカビエルと魔王を戦わせるらしい。既にリアス先輩が冥界に向かったみたいだ」
「まあ妥当な作戦ね。倒せる者に来て貰うって言うのは」
「にゃあ。あのプライドの高いリアスがよくもまぁその作戦を了承したわね」
「彼女も彼女で成長しているのさ」
黒歌の疑問に答えつつ、支取先輩から送られて来た作戦内容が記されたメールを読み進める。
「問題はどうやってコカビエルを見つけるか、そしてコカビエルと魔王をどこで戦わせるか。そのあたりはまだ決まっていないらしい」
「空中でドンパチだけは勘弁して欲しいわね」
レイナーレがげんなりした表情で口にする。でも確かに気付いたらいきなり魔弾の空襲とかは勘弁して欲しい。
「――っ!?」
「黒歌?」
話し合いの最中に黒歌が急に険しい表情で立ち上がる。
「……御主人様、結界に悪魔祓いの気配を感知。どうやら移動しているみたいにゃん」
「……尾行しよう」
「だと思ったわ」
やり過ごすという手もあるが、それで事態が好転するとは思えない。少なくとも気配を消せる黒歌や、浄眼が使える自分は尾行する上ではかなり有利なはずだ。
「黒歌は先行して相手を尾行。尾行中は念話でやり取りを行う。自分とレイナーレは少し距離を取って後を追う」
黒歌とレイナーレとは現在エネルギーのやり取りを行う為に肉体の『
二人からエネルギーを借り受けている自分が一番得している気がしてその事を二人に伝えると、
『回路が繋がっているから御主人様の居場所の位置を感じられるし、オーラ残量を感じ取れるから何所でどんな無茶しているか、一発で解かるのはありがたいにゃん』
と言っていた……もしかして首輪を填められたんじゃないだろうかと、その時は思ったが口には出さなかった。肯定されたら泣いてしまうから。
他にも回路を繋げたお陰で一々術式を刻まなくても『念話』で会話できるようになったし、黒歌とも主従契約をしたのでいつでも二人を傍に転移できる。
因みに本来念話を行う場合は、専用の術式をやり取りしたい相手と自分に施すらしい。もしくは術式を組んだ魔道具を装備したりするんだとか。
「了解にゃん。それじゃあ行ってくるわね」
そう言って、黒歌が先に家を出て感知した相手を追う。
「自分達も行くぞレイナーレ」
「結局こうなるのよね。ま、分かってて好きになったからいいんだけど」
黒歌を追う形で自分達も家を出る。
『御主人様、対象は三丁目方面に移動中。背格好は白髪に黒のコートの男よ』
『了解』
黒歌の報告に返事を返しつつ少し距離を取って三丁目方面に向けて移動する。
黒歌の指示通りに人気の少ない道を進んでいると、確かに強い気配を感じた。黒歌に人型になるように促し、更に人通りの少ない裏路地へと入る。
「ぎゃあああ!!」
「っ!?」
路地に入った瞬間、悲鳴が響き渡り、感じていた気配の一つが完全に消えた。
「っちぃ!」
『レイナーレは隠れて周囲を警戒! 場合によってはすぐにグレモリーのみんなに連絡を!』
『分かったわ! 気をつけなさいよ!』
レイナーレを残して黒歌と一緒に向かう。
浄眼を開眼して不測の事態に備える。
路地を抜けると広い雑木林が並ぶ場所に出る。そこには朽ちた家屋が一件あり、その家の前で人が一人血の池に倒れ、それを見下ろすように黄金のオーラを放つ血塗れの剣を携えた神父服を着た白髪の青年が立っていた。
黒歌が念話で伝えた情報と一致するな。
「あらあららら? もしかして見付かっちった? あちゃ~やっぱ悲鳴はまずかったねぇオレちゃま反省!」
……なんだこいつは?
自分達の姿を見るなり、青年はその場の空気を無視するかのように、どこか芝居かかった仕草でふざけた言動を繰り出す。
「おんや~そちらのボインちゃんは悪魔じゃありませんか~? もしかしてアレですかい? これから二人でくんずほぐれつな展開を繰り広げちゃうって感じですかい? いや~羨まけしからん! そんなんじゃ碌な大人になりませんと先生に習いませんでしか?」
……ガトーに似ているが、どうもガトー以上に話が通じなさそうだな。それに信仰深そうでもない。
目の前の青年の狂気に少しの畏怖を覚えながら、とりあえず銃を構える。
「――あんたは何者だ? どうしてその人を殺した。見たところ同業者みたいだが? それとクロのあの姿を見ていいのは自分だけだ!」
一応黒歌の本名は伏せておく。
「そうにゃ! って御主人様! 今さらっと嬉しい事を言ってくれませんでしたか!」
流石は黒歌。臨戦体勢でもツッコミを忘れない。そんな君が大好きだけどその興奮した目は止めてね。時と場合を考えてね。
「おやおや悪魔と恋愛ごっこですかい? 最近の学生は進んでますねぇ~。っと、おんや~あんたが持ってるその銃は、まさかまさかのオイラの元相棒ちゃんではないですかい? 人の物を盗むと泥棒の始まりですよって、もう悪魔と付き合ってるなら人として終わってますからどうでもいいですか。そうですか。や~いこの泥棒!」
「っ――!? おまえ、あの教会にいたのか!」
この銃はアーシアの事件で偶然拾った物だ。それを知っていると言う事は……こいつ、はぐれ悪魔祓いか!
「ふむふむ。その口振りからすると、あんたさん、もしかしてあの一誠とかいう下級悪魔とお知り合いで? かーどこまで俺の邪魔をすれば気が済むんですかねーグレモリーの連中は! ああ神の試練とかマジありえない! こんなに献身的に働いているのにガッデム!」
「……とりあえず倒しちゃいません」
黒歌がうんざりした表情で今にも飛び掛ろうとするが、それを手で制する。
「止めとけクロ。ああいうタイプは言動で挑発して、ペースを乱したところを狙う。逆にこっちが何言っても無駄だ。冷静に行動するべきだ。何せ一目でクロを悪魔と見抜き、自分の武器を見破った観察眼があるんだから」
「っ!? そうね。分かったわ」
ガトーがそうだった。支離滅裂で理解しがたい言動をしながら、実は思慮深くこちらの心情を読み解くところがあった。
「あんたも戦闘職とは言え神父だ。人の心を汲み取るのは得意な方だろう? と言うわけで『後ろの建物の相手』が出てくる前に勝負をつけさせてもらう!」
そもそもこちらを攻撃する気満々だしなこいつ!
目の前の相手からずっと放たれていた敵意から、こちらを見逃す気がないのは最初から解かっていたので、その場で発砲する。
「おととと! 銃刀法違反ですよ君! でもでも、これで正当防衛成立ってやつですよ奥さん! 過剰防衛? 何それ美味しいのってね!!」
奴は持っていた剣を下段に構えてこちらに向かって駆け出す。
「御主人様下がって!」
「ああ!」
オフェンスを黒歌に任せて後ろに下がりながら魔術で自身の速度を上げる。
あとは銃で援護しながら黒歌が倒すのを待つ。
銃を構えて黒歌を援護するように神父へと発砲する。
「おりゃりゃっと!」
「せい!」
「うおっと!」
神父は飛んで来た光の弾丸を全て剣で切り伏せながら、黒歌の蹴りを素早く横に跳んで回避する。戦い馴れしている。それにどうも黒歌の様子が変だ。奴に近付いた瞬間、何か躊躇うような動きをした。
「どうしたクロ!」
「――御主人様、こいつの持っている剣は……聖剣です」
「何!?」
確かに妙は気配は感じていたが、あれが聖剣だと!?
あまりに今まで見た聖剣との印象の違いのせいで気付けなかった。
生前に二度、そして今生で一度聖剣を見たが、どの聖剣もこちらの心に響く美しさがあった。
しかしあの聖剣からはそれを感じない。悪く言えば輝きが鈍い、と言う感じか。
「ありゃりゃバレちまいましたか。ま、悪魔のボインちゃんなら近付けば解かりますよねぇ。何せ怖い怖い天敵ちゃんなんですから~」
「どういうことだ?」
「おっと僕ちんは無知ですねぇ。聖剣はそれ単体でも、ものすご~く強い聖なる波動を出しているんですよ。その為軽く斬られただけでも悪魔や堕天使にはそれなりに効果が出るって訳なのさ!」
なるほど。だから黒歌の動きが少し悪かったのか。
それを踏まえて上で、黒歌に尋ねる。
「クロ……勝てるか?」
すると黒歌は口の端を吊り上げて笑った。
「もちです」
「なら戦闘継続だ」
「ああ?」
黒歌と自分の返答に神父が目元をヒクつかせて眉を吊り上げる。
「おいおいおいこのビッチ悪魔ちゃんは解かってるんですかねぇ~聖剣ですよせ・い・け・ん。テメェなんてカスった瞬間に昇天御陀仏待った無しなんだよ!」
瞬間、神父の姿がブレる。
速い!
自分では完全には取らえられないその速度に焦って黒歌の方へと視線を向ければ――そこにはその場で半身を逸らした黒歌と先程まで黒歌が立っていた場所に聖剣を振り下ろす神父の姿があった。
そんな神父を黒歌は底冷えするような冷たい眼差しで見下し、告げた。
「――だから?」
「なん――ごぼっ!?」
黒歌の蹴りが神父の鳩尾に深く突き刺さり、そのまま勢いに押されて神父が廃屋に吹き飛ばされる。
――怖っ!!
多分オーラを纏っていたのだろうが、それでも凄い威力だ。
黒歌がつまらなそうに鼻を鳴らして、吹き飛ばされた時に落としたであろう聖剣を足蹴にして廃屋から遠ざける。
「馬鹿なのあなた? スピードが互角なら反応速度や気配察知、何より攻撃力が上のわたしが勝つに決まってるでしょ。聖剣は脅威ですが、当たらなければ問題無いのよ」
……やっぱり黒歌って強すぎじゃない? というか、容赦無いな。
浄眼を開眼して廃屋を警戒しながら、一応落ちてた聖剣を回収しに向かう。また使われても厄介だからな。
聖剣を手に取る。あれ? 見た目より軽い?
なんというか手に馴染む。聖剣だから特別仕様なのか?
不可解な現象に頭を悩ませていると、自分達がやってきた路地から複数の足音が聞こえた。
「新手!?」
「いいえ違うわよ」
黒歌が自分を庇うように前に出るが、その前にレイナーレが着地して否定する。そのすぐ後に足音の正体が現れた。
「え? 白野?」
「レイナーレさん?」
「それに姉様?」
現れたのはこちらを呆けたような表情を浮かべる。オカルト部の面々と、生徒会の匙元士郎だった。
ようやく合流。グレモリー側からすれば『なんで!?』状態。そして白野も『あヤバイ深入りした』状態。
そしてこの回で一番辛かったのはフリードのキャラ表現言動の再現に物凄く戸惑った。できるだけ原作に近付けたと思うけど……どうだろうか?