岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
黒歌が『悪魔祓い』の気配を感じてから三日経った。その三日の内にある変化があった。
一つは祐斗の態度がますますおかしくなった事。
部活にもほとんど顔を出さず、顔にも疲労が浮かんでいる。勉強中に居眠りまでする始末だ。そして理由を尋ねても答えられないの一点張りである。
もう一つは『悪魔祓い』の気配が一気に減った事。
黒歌が猫になって町をそれとなく探ったが、日を追うごとに気配の反応が減っているらしい。
かすかに血の匂いが町の彼方此方にあることから、『悪魔祓い』達は何者かと交戦し、死んだのではないかと黒歌は言っていた。
なんというか、嫌な感じだな。オカルト部のみんなもおかしいし。
何故かみんな自分を避けるように行動している気がする。それに夜には出歩かない方がいいとも言われた。流石に何かあったのは間違いないが……多分、みんなは自分を巻き込みたくないのだろう。
ここはみんなを信用して自分の周辺にのみ集中する事にした。
そして久しぶりに一人で帰宅していた放課後――変な二人組を発見した。
「迷える子羊にお恵みを~」
「どうか、天の父に代わって哀れなわたし達にお慈悲をぉ~」
厄介事の匂いがぷんぷんするぜ!
フード付きの白いロープで顔を隠し、その手にお皿を持って悲壮感漂う声で慈悲を~と訴える二人組の女性。
……というか、あの背の高い方の女性が持っている布に包まれた長い筒と、小柄の女の子の胸元から何かを感じるな。
不意に、浄眼が何かを訴えかけるように違和感を伝えてくる。浄眼の異質を見抜く力のお陰だろう。
にしても、あの大きな変な絵はなんだ?
二人の背後の壁には、教会や天使っぽい何かが書かれているので多分教会関係の偉人を描いたとおぼしき絵が立てかけられていた。
正直、あれを理解するにはセイバーの美的センスが必要な気がした。
……そっとしておこう。
触らぬ神に祟りなし。
そう判断した自分が踵を返して足早にその場を去ろうとしたその時、小柄な女性がまるで計ったかのようにこちらに顔を向けた。もっとも、フードを深く被っているのでこちらからは顔がよく見えなかったが、自分を見た瞬間、その小柄な女性は急にこちら目掛けて走り寄って来た。
「やっぱり神様はわたしを見捨てなかった!!」
ちょっ、なんだ!?
駆け寄ってきた相手はこちらに向かって思いっきりダイブしてくる。よ、避けたら怪我するかも。
一応相手が女の子と言うことで、避けずに受け止める。その瞬間、フードが外れて女の子の顔が露になる。
「……イリナ?」
記憶にある人物の面影のある顔と栗色のツインテールを見て、幼馴染だった少女の名を口にする。
「おお! 凄いわハクノン! よくわたしって判ったわね。イッセー君は判らなかったのに」
嬉しそうに見上げる相手は、やはりかつての幼馴染である紫藤イリナだった。
「イリナ知り合いか?」
「ええそうよゼノヴィア。わたしのもう一人の幼馴染の月野白野君。わたしはハクノンって呼んでるわ。正直一般人だから事が終わるまで接触するのは避けるつもりだったけど、この際形振り構っていられないわ。ほらゼノヴィアも一緒に!」
「あ、ああ」
近寄ってきた青い髪で前髪に緑のメッシュをいれたイリナよりも背の高いゼノヴィアという女の子に、イリナが自分の事を紹介すると、イリナはすごい切羽詰った表情で振り返った。ゼノヴィアという女の子も困惑した表情で頷いたあと、同じように切羽詰った表情をする。
な、なんだ? そんな切羽詰る程の何かが二人にあったのか?
「ハクノン!」
「あ、ああ?」
緊張した面持ちで、二人の言葉を待つ。
「「ご飯奢って!」」
「…………あぁぁ……うん」
そう言えばお金を恵んでくれって言ってたもんね。
自分の返事を聞いた瞬間、嬉しそうに手を取り合って喜ぶ二人を眺めながら、何故この展開に気付かなかったのかと、自分の迂闊さに若干へこんだ。
「これが、これがジャパニーズ蕎麦。ずるる~。あ、今度はたぬきソバを!」
「あ、天丼おかわり。今度は海老天で♪」
…………こいつら驕りだと思って容赦無いな。
二人が教会関係者なのは間違いないので、とりあえず家には連れて行かず。イリナが日本食が食べたいというので近場の日本食のチェーン店へと入店した。
したはいいが――どんだけ腹を空かしていたんだと言いたいほど、二人は食べ続ける。
「……そろそろ手持ちの勘定を越えそうなんですが? 足りない場合、自分は逃げるぞ」
そう言って二人に笑顔で伝票を突きつける。
「しょ、しょうがないわ。あ、デザート! 餡蜜だけ! 餡蜜だけだから!」
「ふむ。ではわたしは抹茶アイスを頼みたい」
「……ホントにそれで最後だからな」
ラストオーダの約束を取り付け、とりあえずドリンクバーで三人分のお茶のおかわりを淹れに向かう。
「ふむ。つまり、イリナの無駄遣いのせいで路銀が底をついた結果、物乞いしていたと」
「む、無駄遣いじゃないわ! 見なさいこの神々しい絵を!」
自信満々に絵を掲げるイリナ。
「……どちらかというと禍々しいと思うんだけど」
こう、地味に何を描いたか解かる分、狂気を感じるというか……見てみなさい。客も従業員もみんな目を背けているじゃないか。
「良かったよ。どうやら君は普通の感性を持っているようだ」
ゼノヴィアが心底安堵したように呟いた。
イリナはまだ納得がいかないのか、ブツブツと小声で文句を言っているが、不意に、何かを思い出したかのように動きを止めてこちらに振り返った。
「そう言えば、ずっと気になってたんだけど。白野、その腕はどうしたの?」
「ああ良かった気付いてないのかと思った」
「いや抱きついた時に気付いたんだけど流れ的に聞くタイミングがなくてははは……」
うん。あの後すぐにご飯の事で頭が一杯だったもんなイリナ。
「まあちょっと事故にあってね」
とりあえずそう答える。
「そう。でも元気そうで良かったわ」
イリナがこちらを気遣うような表情で、改めて再開した事を喜ぶ仕草を見せる。
こちらも苦笑しながらも、再開自体は嬉しかったので、イリナもな。と答える。
まぁそれはそれとして、思わぬ所で教会関係者に出会ったな。
黒歌から聞かされていた情報。そして木場の過去。色々と確認するには良いチャンスだ。
デカイ借りも作ったしね。おかげで財布は軽くなったが……。
さて、その為には自分の事も多少は話す必要があるだろうが、まあ仕方ないだろう。
「イリナ、ゼノヴィアさん。実は二人に教会関係について訊きたい事があるんだ」
二人に聞こえる程度の声量で喋る。
「ふむ。施しを受けた身だ。答えられる事なら答える。それとわたしの事はゼノヴィアでいい」
こちらが意図的に声を落としたことで何かを感じたのか、ゼノヴィアがお茶を飲みながら、しかしその眼は先程よりも少しだけ鋭くなった。
「そうか。じゃあ尋ねるが……『聖剣計画』と言うのを知っているか?」
自分の言葉を聞いた瞬間――二人の顔つきが明確に変わった。
「……ふむ、聖剣計画か。すまない。質問を質問で返すが、どこでその言葉を?」
「自分の知人がその計画の被験者だった。どうやらその計画はかなり酷い物だったらしい。なにせ被験者の子供を皆殺しにしたと言っていた。その知人は運良く仲間に助けられたから生き残れたと言っていた……だがそのせいで今も苦しんでいる。自分の仲間を殺した『具体的に憎む相手』を知らないせいか、彼は聖剣その物を復讐の対象にしている。世界中の聖剣を壊すなんて、そんな復讐は不毛だ。二人もそう思うだろ?」
二人にそう投げ掛けると、二人はなんと答えるべきか迷うようにお互いを見詰めたあと、イリナが口を開いた。
「ねえハクノン。もしかしてその相手って、木場祐斗?」
祐斗は既に悪魔化している。つまり教会としては死亡扱いのはずだ。だが今のイリナの言い方は、まるで祐斗が生きている事を知っているかのような言い草だった。
ということは……。
「……そうか。理由は知らないが、既に『彼女等』と接触済みって事か」
「……相変わらず。こういう時は頭が回るのね」
イリナが困ったように笑う。
しばし互いに沈黙が訪れる。こちらは二人の返答待ちだ。
二人も、自分の知人が祐斗であり、そして自分がグレモリーと関わりがある事に気付いたはずだ。あとは二人が話すか話さないかだ。
「……まあご飯も奢ってくれたし。彼はわたし達の先輩みたいなものだから、そのくらいは教えていいかな。無関係なのに復讐されても嫌だしね」
「そうだな」
イリナがそう言いながらゼノヴィアに視線を向ける。ゼノヴィアもイリナの言葉に同意するように頷く。
「ありがとう二人共。それですまないが、最初に木場の仇の名を教えてくれるか」
「いいだろう。木場祐斗を含めた被験者を惨殺した者の名はバルパー・ガリレイ。聖剣計画の発案者であり、総責任者、そして今では『皆殺しの大司教』と呼ばれ、異端の烙印を押されて追放された男だ」
本来なら原作で一誠達と遭遇するはずが白野と遭遇してしまう二人。
さて、ここから大筋は一緒だけどだいぶ原作と違う流れになります。
因みに初期段階では彼女達はいるだけで一切登場の予定が無かった!