岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
左腕を無くしてから数日が経った。
ようやくクラスメイト以外の生徒も自分の腕の事に慣れてくれたようで、自分にようやくいつもの日常が戻って来た。因みに黒歌とレイナーレとの交際は周囲に内緒である。まぁその内折を見て親しい人達には伝えるつもりだ。
「おはよう」
「やあ、おはよう白野君。少し話があるんだけどいいかい?」
いつものように祐斗に挨拶すると、祐斗が席を寄せて尋ねる。
「ああ、なんだ?」
「今日の放課後みんなでイッセー君の家に行く事になってね。部長から君も誘って欲しいと頼まれたんだ」
「一誠の家か? 分かった。それにしても唐突だな」
「なんでもイッセー君のお母さんが部長にイッセー君のアルバムを見せたいと言ったらしいよ」
なるほど。そう言えば以前、一誠のお母さんが『わたしの夢の一つは家に遊びに来た一誠の女の子友達に、一誠のアルバムを見せる事なのよ』と、どこか諦めの含んだ表情で言っていたが、その夢が叶う時が来たって事か。良かったね一誠のお母さん!
「しかしみんなでって事は、一誠をからかう気まんまんだな。相変わらず楽しい事には容赦無いな」
「はは、そこが部長の良いところさ」
二人で苦笑しながら互いの近況を話している内にHRが始まり、授業は進んでいった。
「でね。こっちが小学一年生の頃よ」
「あらあら全裸で海に。あら、白野君はちゃんと履いているのね。残念ですわ」
「……一誠先輩の赤裸々な過去がどんどん明かされていきますね」
「やめてぇぇええ見ないでぇぇええ!!」
放課後。オカ研のメンバーと一緒に一誠の家に向かう。そして着いて数分と経たない内に今のカオスな状況は作り上げられた。
一誠のお母さんは物凄い笑顔で数冊のアルバムを抱えてみんなが集まっている一誠の部屋にやって来て、それを平然と開いたのだ。
朱乃先輩と小猫ちゃんはお母さんと一緒に楽しくアルバムを見ながらお喋りしている。これはまぁまだ良い方だろう。たまに朱乃さんが自分の写っている写真に反応するのは出来れば止めて欲しい。精神的によろしくないので。
そして一誠はと言えば、叫び、悶絶し、今も羞恥から床で芋虫の様にひっくり返って奇妙な動きで悶えている。これもまぁ、当然の反応だろう。
問題は――あっちだな。
「幼い一誠……小さい一誠……愛らしい一誠……きゃわゆい一誠……」
「部長さん。今の部長さんの気持ち、わたしも分かります」
「そう。流石アーシアね。さぁ、もっと一緒に幼な一誠を堪能しましょう」
「はい!」
……あかん。あれ、あかんやつや。
一誠の小学校に上がる前の幼少期編と書かれたアルバムを、どこか恍惚とした表情で興奮しながら眺め続けるリアス先輩とアーシア。はっきり言おう……怖いです。
「ふ、二人共そんなにショタの俺がいいんですか。今の俺はダメダメですかぁあああ!!」
過去の自分に負けて泣き崩れる一誠。なんというか……不憫過ぎてこっちまで泣きそうだ。なんだこの公開処刑。
「で、祐斗は助けないのか?」
「いやぁ流石にあの二人に飛び込むのはちょっと。かと言って一誠君のお母さんから楽しみを奪うのも気が引けるしね。僕に出来るのはこうやってアルバムを一つ確保してあげる事くらいさ」
「と言いつつ読むあたり、お前もいい性格してるよ。ま、自分も見るから同罪だが」
祐斗と喋りながら祐斗が確保したアルバムを見る。これは多分小学校低学年の頃だな。
「所々に白野君も写っているんだね」
「まぁ幼馴染だからな。この頃は確かもう一人居たはずだ。えっと……あ、ほらこの子だ」
懐かしくなってもう一人の幼馴染を探そうとページを捲ると、すぐにその子が写っている写真を見つけ、その子を指差して祐斗に教える。
写真には栗色で短髪のやんちゃそうな顔をした短パン半袖の女の子が映っていた。
「名前はしど――」
「お前らまで見るなぁぁああ! つーか助けろ!」
「まあまあ。自分達はお前をからかったりしないからいいだろ。なぁ祐……と?」
女の子の名前を言おうとした所で一誠が泣き叫びながらやって来たのでなんとか宥めつつ、祐斗に話しかけるが、返事は無く。気付けば祐斗は自分が指差した写真を凝視していた。
「祐斗?」
「おいどうした木場?」
少し心配になって一誠と二人で祐斗の傍に近寄る。
祐斗は自分達が近寄ると写真から目を逸らさずに口を開いた。
「イッセー君、これに見覚えは?」
「え? この子? あ、違う剣の方か? う~んよく覚えてないな」
「……白野君は?」
祐斗から今まで聞いた事の無い低いトーンの声色が響く。
「特殊な剣だったのは覚えてる。清らかな気配を発していたから悪い物じゃないだろうが。それがどうかしたか?」
「いや、まさかこんな形で見かけるとは思わなくてね……」
次の瞬間、祐斗から僅かに殺気が過ぎる。
「これはね……聖剣だよ」
その日、その写真を見てからの祐斗は心ここに在らずといった感じで会話に混じる事はなかった。
一誠の家に遊びに行ってから数日が経った。で、今日は球技大会な訳だが……。
「なあ祐斗」
「…………」
祐斗に話しかけても彼は上の空で窓の外を眺め続ける。
あの日、一誠の家で聖剣の写った写真を見てから祐斗はこんな感じだ。一誠の話では部活対抗の為に練習しているた時もこんな感じで上の空だったらしい。
球技大会はクラス対抗試合、男女別競技、部活対抗試合の三つの枠に分けられていて、部活対抗以外は野球、サッカー、バスケ、テニス等の競技に人数さえ集まれば好きに参加できる。因みに自分は片手なのでクラスも男女別もテニスに出る。
「はあ~。祐斗!」
「え? あ、ごめん。なんの話だっけ?」
大きめの声で話しかける事でようやく気付いた祐斗は、心底驚いた様子でこちらに振り返った。
「はあ。なあ、何かあるんなら相談に乗るぞ?」
「いや、いいよ。ごめん」
全然申し訳なく思ってなさそうだな。
上の空の表情のまま形だけの謝罪をする祐斗に盛大にため息を吐く。
「はぁ。祐斗、お前今日は部活対抗まで休め。もしくはリアス先輩にもなんらかの理由をでっち上げて部活対抗も休ませて貰え」
「いやでも……」
「周りを見てみ」
反論しようとした祐斗に周りを見るように促す。そこには彼を心配そうに見詰めるクラスメイト達の姿があった。祐斗は初めてその事に気付いたようで、少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「木場君、体調が悪いんじゃない? 月野君の言う通り休んだ方がいいよ」
「そうだぜ。お前だ出るサッカーの方は月野が出てくれるって言うしよ。無理して怪我したら部活対抗にだって出れなくなるかもしれないだろ?」
「そうそう。お前ら文化部なのに凄い熱心に練習してたじゃん」
クラスメイト達が祐斗を気遣って休むように促すと、祐斗はしばらく迷った後に頷いた。
「……うん。そうさせて貰うよ。ありがとうみんな」
「……そう思うならしっかりこっち見て御礼を言ってくれ。一人で行けるか?」
祐斗が苦笑しながらまた謝罪を口にして教室を出て行く。
「なあ月野、木場に何かあったのか?」
「何かあったんだろうけど、教えてくれなきゃ分からん」
「親友のハクノンに教えないんじゃ誰も知らないよね~」
クラス全員が頷く。頭を掻きながらため息を吐き、とりあえず気持ちを切り替え、球技大会へと向かった。
クラス対抗試合は準優勝だった。
自分がやったのはパスを渡すだけだったが、クラスのみんなからは的確なパスで凄かったと褒められた。少しだけ嬉しかったが、サッカー部の多いクラスには勝てなかった。まぁそんな物だろう。
男子の部門ではテニスのシングルに出た。片手じゃサーブできないので、常に相手打って貰っていた。
応援に知っている人が沢山来てくれて嬉しかったが、何故か一年の頃にクラスメイトだった
彼は一誠が悪魔化する少し前に悪魔になった転生悪魔だ。確か今は生徒会にいるから多分支取先輩が転生させたのだろう。
『会長は渡さねぇぇええ!』
元士郎は叫びながら悪魔の身体能力を惜しみなく発揮していた。結局負けた。総合的に勝てないから仕方ない。しかも相手は悪魔の力全開だったし。因みに試合の後に元士郎は支取先輩にこっ酷く説教されていた。まぁ人間相手に本気はまずいよね。
そして部活対抗の時間になって観客席でオカルト研究部の活躍を応援する。種目はドッジボールだ。祐斗も参加しているようだが、いまだに表情は優れていない。大丈夫かねぇ。
一悶着ありそうな予感を感じながら、それでも今は応援する事しかできないので、とりあえずオカルト部を力いっぱい応援し続けた。
と言うわけで球技大会のダイジェストでした。エクスカリバー編って微妙にアニメと小説で細かい部分の流れが違うんですよねぇ。