岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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と言うわけでフェニックス編のラストです。



【新しい決意】

 ジリリリリリリリリ! という目覚まし時計の甲高い音に目を覚まし、時計を止める。

 

「ふぁあ~ん」

 

「にゃふぁ~」

 

 隣で猫の姿で丸くなっていた黒歌と共に欠伸をして同じように身体を伸ばす。

 

「ほら黒歌。早朝訓練に行くよ」

 

「うにゃ~久しぶりだから生活サイクルが狂ってるのよ~ちょっと待って欲しいのにゃ~」

 

 ダレている黒歌を抱かかえて脱衣所に向かい、黒歌を床に下ろして先に洗面台に向かって顔を洗う。

 

「ん。なんだかんだで慣れてきたよなぁ片手での生活」

 

 顔を洗いながら呟く。

 

 腕を失ってから一週間が経った。この一週間で色々変わった。

 

 まずオカルト部のみんなだが、自分の腕の件が思いの他応えたようで、それぞれ学園以外の時間に自主訓練をするようになった。

 

 それとリアス先輩からこれからは用事が無い限りは部室には来ない方が良いと言われてしまった。

 

『お父様とお母様をこれ以上悲しませるものではないわ』

 

 そう沈痛な面持ちで言われてしまってはこちらも頷くしかなく。ライザーとの一件以来、部室には寄っていない。それでも学園内ではみんなと変わらずに話すし、お昼も一緒に食べたりしている。朱乃先輩のセクハラも健在だ。むしろ数少ないセクハラチャンスとばかりに一回でのセクハラが激しくなったような気がする。

 

 他には一誠が両親に悪魔のことを話したらしい。物凄く驚かれたが言い争いにはならなかったと言っていた。

 

 そんな一誠の家には、現在アーシアの他にリアス先輩と小猫ちゃんが居候していると朱乃先輩に教えられた。なんでもライザーの一件でリアス先輩は一誠のことをかなり気に入ったらしく所謂婿候補と言うやつだそうだ。

 

 小猫ちゃんの方は黒歌にすぐに合えるからリアス先輩のついでにと転がり込んだらしい。意外と大胆な子だった。

 

 どうやら一誠のハーレムはちゃくちゃくと広がっているみたいだな。

 

「はい。黒歌の番」

 

「はーい」

 

 元の姿に戻った黒歌が寝ぼけ眼で顔を洗い始めたのでタオルを置き、先に部屋に戻る。にしても全裸は勘弁して欲しい。毎回見ないようにするこちらの身にもなって欲しいものだ。

 

 脱衣所から出て訓練の準備を始める。

 

 怪我をした翌日から、黒歌との早朝訓練を解禁した。もう色々周りに隠す必要も無いので大手を振って訓練できるという訳だ。が、その日常にも変化が生まれる。

 

 準備を終えて黒歌と共に玄関に向かうと、先に準備を終えた先客が頬を膨らませていた。

 

「遅いわよ二人共!」

 

「ごめんなレイナーレ」

 

「にゃん。待たせたわね」

 

 ジャージ姿のレイナーレがそう言ってこちらを睨む。どういう心境の変化か、彼女も早朝訓練に参加するようになった。

 

「「じゃ、行ってきます」」

 

 いつものように玄関から家に向かって挨拶を交わして三人で早朝訓練に向かう。これが今の自分の日常だ。

 

 

 

 

「やあ、おはよう白野君」

 

「おはよう祐斗」

 

 学園に行くと祐斗が率先して挨拶してくるようになった。それと以前よりもより一層気を遣ってくれるようになった。まぁ最初の頃はクラスメイトもそんな感じだったが、今は大分落ち着いた。落ち着いたが……。

 

「最近ますます二人の距離が近いわよね」

 

「事故で傷ついた親友の月野に寄り添う木場君。何これMO・E・RUu!!」

 

「ソリッドブッグのネタ入りましたーーー!!!」

 

「薔薇薔薇にしてやんよ! ヒャッハー!!」

 

 ――やはり自分のクラスは色々と濃ゆいクラスだと思う。というか男子諸君、クラスメイトが困っているんだから止めてくれ!

 

「おい知ってるか? 月野の奴、この前すげー黒髪美人の女性と二人で買い物してやがったんだよ」

 

「何!? オレは髪を纏めたボン、キュ、ボンなお姉さまと腕を組んで歩いているのを見たぞ!」

 

「俺、姫島先輩とお昼を食べているところを見た」

 

「ぼっきゅん。生徒会長と図書館で隣同士で談笑するところを見ちゃったんだな」

 

「…………」

 

 男子が一斉にこっちを振り向く。

 

「「爆ぜろ!! それか掘られてしまえ!!」」

 

 ――駄目だ。もはやこのクラスはギャグとノリで生きている奴等しかいない。

 

 因みにクラス、というよりも周囲には事故で腕を失った事なっている。広域暗示の魔法を、グレイフィアさん達が施したんだそうだ。

 

 どうやったのか尋ねたら『今は機械でポチ、ですよ』と言われてしまった。どこの宇宙人隠蔽組織ですかと物申したい。もっと頑張れよファンタジー要素!!

 

「あはは、また賑やかなクラスに戻ったね」

 

 いや祐斗よ、笑い事ではないぞ。クラス全員が自分達をカップルにしようとしているんだぞ? 何故そんな笑顔を浮かべられるんだ……ま、まさか本当ソッチ系じゃないよな?

 

 楽しげに笑う祐斗に対して、自分は引きつった笑顔を浮かべながら親友の真意を探るのに必至だった。

 

「ほら~もうすぐHRだぞ~席に付けぇ」

 

 担任が入ってきた事で馬鹿騒ぎは静まり、いつもの授業が始まる。

 

 ……なんだかんだでみんな授業は真面目に受けるから優秀な人が多いんだよねこのクラス。なのになんであんなノリが……解せない。

 

 我がクラスの最大の謎に頭を悩ませながら、昼休みは祐斗と一緒に一誠のクラスに行って、一誠、松田、元浜、アーシア、それとアーシアのお友達と紹介された桐生藍華(きりゅうあいか)を入れたみんなでお昼を食べた。

 

 藍華本人から呼び捨てで良いと言ってくれたので、呼び捨てにしている。こっちは何故か早々にハクノンとあだ名で呼ばれた。どうやら明るい子らしく、アーシアの恋を応援しているみたいでアーシアにあれこれ色仕掛け的な事を吹き込んだり、一誠にアーシアの良い所を伝えたりしていた。言動に少し遠慮が無いが、友達思いの良い子なのは間違いないだろう。この出会いも大事にしていきたいな。

 

 

 

 

「ん~。今日も平和だったなぁ」

 

 毎日こうなら良いのに。

 

 帰宅中、空に寂しく浮かぶ夕日を眺めながらそんな願望を抱く。

 

 しかし心の片隅でそれを否定する自分がいる。

 

 今年に入って二件。そう、二件もの事件に巻き込まれている。まぁ二件目は自分から巻き込まれに行ったんだがとりあえずそれは無視。

 

「……とりあえずの目標は出来る限りみんなを悲しませないようにすること、かな」

 

 ここで『出来る限り』なんてつけてしまっている時点で、守る気があるのかと自分自身に苦笑してしまう。

 

 だが部室に行く機会も減ったのだし、そうそう巻き込まれることは無いだろう。

 

 そんな風に楽観的に捉えつつ、今日の夕食に思いを馳せながら帰宅した。

 

 

 

 

 夜。いつもの日課の魔術訓練を終えてさて寝ようかと思ったその時、扉がノックされた。

 

「はい?」

 

「にゃ~御主人様ちょっといいかにゃ?」

 

 黒歌……と、この気配はレイナーレ?

 

 魔術訓練で感覚が敏感になっていたこともあり、扉の向こうに誰が居るか察する。

 

「いいよ~」

 

 いつもは遠慮無く入ってくるのに珍しいなと思いながら許可を出すと、真剣な表情の二人が入ってきた。

 

 何かあったのか?

 

 自分の正面に座った二人の雰囲気にただならない物を感じ、こちらも気を引き締める。

 

「御主人様。今回の一件でわたし達……決めました」

 

 黒歌が口を開き、レイナーレは何故か顔を赤くしてそっぽを向く。本当に何があったんだ?

 

「もう御主人様を性的な意味でくっちゃおう。と」

 

「…………おん?」

 

 ――イマ、クロカサンハ、ナント?

 

「すまない。よく聞こえなかったからもう一回頼む」

 

「強制子作りタイムです。御主人様」

 

 うおおおおおい!? 聞き間違いじゃなかった!

 

「ちょっと待て! なんでそうなる!?」

 

「だって御主人様はどうせ今後もまた無茶して色々巻き込まれるでしょ!」

 

 こちらに指を突きつけて断言する黒歌。ぐうぅ否定できない。

 

「いいですか? わたし達は御主人様を愛しています。一生を添い遂げたいと思っています」

 

「ちょっと待って。ちょいちょい『わたし達』って言ってるけど、え? レイナーレも?」

 

 黒歌は……なんとなくだけど、そうじゃないかとは思っていたけど、レイナーレはだってテンプレのごときツンデレさんではあるが、人間を見下してる堕天使だよ? 人間の子供が欲しいなんて思うはずは……。

 

「な、何よ! わわ、わたしがあんたを好きになっちゃいけないの? だ、だいたい! 命助けられてその後の生活の環境まで整えてくれ! す、好きになるに決まってるじゃない! 馬鹿! 鈍感!」

 

 泣きそうな顔で告白しながらこちらへの悪態をつく彼女の姿に、不本意にも胸がきゅんとしてしまった。なるほど、これがツンデレの破壊力か。侮れん。というか……。

 

「二人はその……一緒にその、まぁ、そういう関係になっても良いってことなの?」

 

「「そこは妥協しました」」

 

「妥協って……」

 

「「だってどうせまだまだ増えるだろうし」」

 

 なんでさっきから口調の違う二人が声を揃えて答えてるんだよ! 絶対に練習しただろ!

 

「ちょっと待って欲しい! それはさすがに名誉の為に抗議させて貰う! まるで人をナンパ男のように言わないで欲しい」

 

「黙りなさいこの天然人たらし!」

 

 天然人たらし!?

 

「御主人様、女の子は優しくされただけでコロっと行っちゃう子もいるにゃん。特にわたし達みたいに特殊な子は絶妙なタイミングで優しくされたら一気に傾くにゃん」

 

「絶妙なタイミングって、別に特別優しくした覚えは」

 

「だから天然だって言ってるのよ。このナチュラルフラグマンめ!」

 

 フラグマン!?

 

「残念ながら、わたし達に御主人様のフラグをブレイクする能力は無いわ。だから今の内にハーレム容認しつつ御主人様とそういう関係になって、少しでもフラグ拡大を防ぐ事にしたっていうのが、今日告白した理由の一つ」

 

 そんな人を感染系の病原菌みたいに……。

 

「……じゃあ他の理由は?」

 

 彼女達の発言に若干、というかかなりヘコみつつ別の理由も尋ねる。

 

「もう一つは――御主人様、わたし達に生きていて欲しいですか?」

 

「え? そ、そりゃあもちろん」

 

 理由を答える前に、真剣な表情でこちらに問いかけて来た黒歌に当然だと答える。

 

「では愛してください。あなたの愛をください。これから先、あなたが人間として死んだ後の数百、数千年を……生きるために。それがもう一つの理由です」

 

『そんな大げさな』

 

 とは――とても笑い飛ばせなかった。それほどまでに二人の表情は真剣そのものだった。

 

 何千年も生きる。それはきっと短命な人間には一生解からない事だと思えた。

 

「……このまま、あんたがわたし達を愛してくれないなら。あんたが死んだらわたし達も後を追うからね」

 

「それはダメだ!」

 

「じゃあ戦わないでって言ったらあんたは大人しくするの! 目の前で困ってる人を見捨てられるの!」

 

 レイナーレの願いに、言葉が返せない。何故ならそんな事は出来ない事を、誰よりも自分自身が自覚しているからだ。

 

「御主人様が片腕を失って戻って来た時、わたしは自分の半身を失ったんじゃないかって程のショックを受けたわ。そしてこのまま実際に御主人様を失ったら……生きる気力なんて無くなってしまう。そう思ったの」

 

「わたしもよ。まぁそのお陰で自覚できたんだけど……あんたが好きだって」 

 

 二人の言葉が突き刺さる。なんというか、鈍感なのは知っていたが、ここまで気付かないとは。何か別の力でも働いているんじゃないか?

 

 そんな事を考えてしまうほど、自分が女心に対して重度の鈍感だと思い知らされた。

 

 そして今度は、自分が二人をどう思っているかを考える。

 

 二人のことは……大好きだ。両親と同じ、掛け替えの無い存在だ。

 

 女性としても、その、魅力的だと思う。正直自分に惚れてくれるには勿体無いほどの良い女性だ。

 

 しかし自分は人間だ。彼女達の言う通り、この先彼女達と数百、数千年を共に生きられるわけじゃない。

 

 だったら自分ではなく。もっと相応しい者が、この先彼女達に現れ、彼女達を長く幸せに――。

 

 

『その時誓った――もう二度と俺は人間を愛すまいと』

 

 

 ――不意に、思考を続けていた脳裏に己の恋を一生抱えたまま死んだ男の言葉が過ぎった。

 

 ああそうだ。自分は知っているはずだ。

 

 自分は相応しくないと手を伸ばす事を止め、ただありもしない何者かが相手を報わせてくれると信じた結果、愛を失った人間嫌いの男を。

 

 学んで来たはずだ。教えられて来たはずだ。他ならない、事実として体験してきた彼らに。

 

 自分の未来は自分が動かなければ変えられないのだと。

 

 彼女達を『幸せにしてくれるであろう』という不確かな未来と、彼女達を『幸せにできるかもしれない』という不確かな可能性。

 

 違いがあるとすれば前者はただ結果を見ることしか出来ないこと。後者はただ過程を足掻くしか出来ないということ。

 

 なら――自分が選ぶ道など一つしかない。

 

「……黒歌、レイナーレ……不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「そ、それはつまり……」

 

「まぁまだまだ子供だけど、二人を幸せにするように頑張るよ」

 

 その選択が彼女達の道程で果て、その未来を見届けられない人生だとしても。互いに幸せにしたいと共に歩んだ道を、意味が在る物にしたい。

 

 少なくとも白野が二人に笑っていて欲しいと望み続ける限り、その道が途絶えることは無いのだから。

 

「にゃあああ本人の了承キター! もう我慢できない!!」

 

 ちょっまっあ、アアァァーー!!

 

 そのままケモノノように興奮した黒歌に押し倒され―――

 

 

 

 

 ―――次に目が覚めると、自分を挟んで寝ている二人の幸せそうな笑顔があった。

 

 まったく。大変な事になった。

 

 結局自分の人生に平穏なんて無縁なのだろう。

 

 でも悪くない。

 

 心に宿る幸福感と新しい決意を噛み締めながら小さな笑みを浮かべて服を着て一階に下りる。

 

「「昨晩はお楽しみでしたね」」

 

 そこにはニヤニヤと笑いながイイ笑顔で息子を見詰める愛しい両親がスタンバッていた。

 

 あ、これしばらくはこの事でからかわれますわ。 

 

 やはりこの世に慈悲等ないらしい。

 




昔のゲームにちょいちょいある『大人になったら分かるネタ』が好きです。
まさか『さくばんはおたのしみでしたね』にそんな意味があったなんて……。

まぁハーレムにはするつもりだったからね。今後のためにも早めに手を出して貰った。後悔はしてない。


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