岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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と言うわけで白野の片腕が無くなった後のお話です。



【親の愛】

 見慣れた玄関が目の前に立ち塞がる。

 

 ああ帰って来ちゃったよ。怒るかなぁ怒るよなぁ。だって片腕無くなってるもん。どうしようかなぁ。

 

 家の扉の前で開けたくない。という思いと、腹を括るしかない。という思いがせめぎ合う。

 

「どうしたの白野?」

 

「そうだぜ。早く中に入って事情を説明しようぜ」

 

 後ろで控えていたリアス先輩と、左手に包帯を巻いた一誠が怪訝な表情を浮かべながら扉を開けるように促してくる。その更に後ろには他の部員達もいる。

 

 ああもう! 行くしかないか!

 

 退路が無い以上、進むしかないので意を決して扉を開ける。そこには猫化した黒歌とレイナーレが待っていてくれた。多分、こちらの気配を黒歌が察したのだろう。

 

「お帰りな――」

 

「にゃ、おかえ――」

 

 二人共自分の姿を見た時は笑顔だったが、左腕に気付くと表情が固まった。そして次の瞬間、レイナーレは物凄い驚いた表情でこちらに詰め寄り、黒歌は――一瞬で人型になると今まで見たことのない般若のような形相を浮かべた。

 

「ちょっ!? あんた腕! 腕無くなってるじゃない!!」

 

「誰だわたしの婿を傷物にしたドグサレ悪魔はあああああ!! 万倍にして返して閻魔の飯にしてやろうかああああ!!」

 

「「ひぃいいいい!!」」

 

 あまりの二人の、というよりも黒歌の変わり様に一誠とアーシアが悲鳴を上げ、原因であるリアス先輩の顔から血の気が引く。あ、めっちゃ震えてる。でも気持ちは解かる。だって背後から立ち昇る殺気が悪鬼羅刹みたいな姿で視覚化されてるもん。正直怖いです。

 

 レイナーレはレイナーレで無くなった腕を掴んで『大丈夫なの! 痛くない!』とか物凄く心配そうにしてくれる。こんなに想われてたのかと、ちょっと、いや、かなり嬉しい。

 

「……く、黒歌姉さま」

 

「あ゛あ゛?! ――あえぇ……?」

 

 小猫ちゃんが怯えながら、それでも小さくはっきりと姉と呼ぶと、黒歌はメンチビームでも出かねないほどの勢いで睨みつけたあと、一瞬で呆けた表情になり、最後には殺気も消し飛んでしまう。

 

「あ、え? いや、なんで白音が……」

 

「……とりあえず事情を説明するから父さんと母さんも呼んで貰えるかな。レイナーレも大丈夫だよ。アーシアにも治癒して貰ったから、もう痛みも無いし傷も塞がってる」

 

「……分かったわ。おじ様とおば様を呼んでくる」

 

 こうして普通の人ならみんなが寝静まっている真夜中に、月野家で事情説明という名の家族会議が始まった。

 

 

 

 

『この度は申し訳ありませんでした』

 

 グレモリー眷属全員の深々としたお辞儀と謝罪の言葉から、話し合いは始まった。それと黒歌と小猫ちゃんだけは二人きりで自分の部屋で話し合いが行われてる。その方が良いだろうという自分の判断だ。

 

 ペアルックのパジャマを着た父さんと母さんは始めこそ自分が腕を無くしていることに動揺していたが、話が進むに連れて真剣な表情になり、自分が腕を無くした話に入った時には難しい顔をさせてしまった。

 

「白野……」

 

「はい」

 

 父さんがこちらに振り返る。そこにはいつもの優しい笑顔はなく。ただただまっすぐ自分を見据えていた。

 

「後悔は無いんだね?」

 

「――はい」

 

 短いその言葉に、自分もまたしっかりと答えて返す。

 

 悔いはある。

 

 大好きな四人にこんな顔をさせてしまったことに対して辛いとも感じてるし申し訳ないとも思っている

 

 それでも後悔があるかと問われれば、後悔はない。何故ならこの悔いも含めて、自分は戦う事を選んだのだから。

 

「なら僕からは何も無いよ。ただ……今後は危ない事に関わる時は一言欲しいかな」

 

「うん。ごめん父さん……ありがとう」

 

 困ったような笑顔をする父さんに頭を下げる。すると今度は母さんが立ち上がって自分の無くなった腕を優しく包むように握る。

 

「まったく。ハクちゃんは普段はそうでもないのに、たまに頑固なんだから。でも、大抵そう言う時は誰かの為なのよねぇ。だから悲しいけど、腕の事は許しちゃう」

 

「母さん……ごめん。それとありがとう」

 

 母さんにも父さんと同じように返す。そして母さんはにっこりと微笑み返してくれ。

 

「――それはそれとして」

 

 が、何故かその笑顔のまま握る手に物凄い力が篭る。

 

 ……あ、嫌な予感がする。

 

「私達に色々と嘘を付いたよねハクちゃん。そりゃあ私達が心配だったのかもしれないけど、黒歌ちゃんとレイナーレちゃんのことは詳しく教えてくれても良かったわよねぇ~?」

 

 目蓋を開いた母さんの目には――光が無かった。

 

「うふふ。嘘付いたりする悪い子にはお仕置きだよ。さすがにここじゃ可哀想だから、わたし達の寝室に行こうか」

 

 ……アア、アレカ。

 

「――イエス、マム」

 

 全員の前でアレをしないのは母さんの恩情だろう。下手に抵抗したらこの場でやられるので大人しく付いていく。

 

「お、おいどうした白野? 目から光が無くなったぞ」

 

「イッセイ、キニシナイデ」

 

「な、なんで急に日本語の不自由な人の片言なんだい!?」

 

 心配する一誠と祐斗に機械的な作り笑顔で別れを告げ、自分は母さんと父さんの寝室へと向かった。

 

 

 

 

 い、いったいどんなお仕置きをされるんだ!?

 

 俺は目から光を消し、全てを諦めたような表情で連れて行かれた幼馴染の後姿を目で追う。見れば俺だけじゃなくて部員全員が心配そうに見詰めている。レイナーレだけは哀れみの表情をしていた。彼女はどうやら内容を知っているらしい。

 

「――さて、グレモリーさん」

 

「は、はい!」

 

 白野が退室するのを見届けると、白野の親父さんが改めて、と言った感じに口を開いた。

 

「息子の勝手にやった事ですが、今回の一件の責任を償う気はある。そうでしたよね?」

 

「……はい」

 

 親父さんが真剣な表情でリアス部長に尋ねる。部長は初めから出来る限りの責任は取ると言っていた。が、改めて突きつけられるとすごく心配になる。一体どんな責任の取り方をさせられるのか。

 

「なら償いは一誠君の両親に真実を伝える事。それで許します」

 

「え? う、家の親父達に、ですか?」

 

「どうせ言ってないんじゃないかい?」

 

 うっ。と、オレと部長が言葉に詰まるのを見て、親父さんは『やっぱりな』と溜息を吐いた。

 

「子供の心配をしない親は居ない。少なくとも今回僕と妻が怒っているのは危険な事柄に関わっていながらそれを隠し、嘘を付いた事くらいです。一誠君、君のご両親だって君が寝込んだ時はすごく心配していたんだよ」

 

「……はい」

 

 親父さんの言葉に、初めて悪魔になって寝込んだ数日を思い出す。思えば妙にお袋は優しかった気がする。夕飯が自分の好物だったし、親父の帰宅も早かった様な気がする。

 

「いいかい。大人として、そして親として言わせて貰うね。正体を隠さなければならないのは分かる。だが君達はもっと心配してくれる人の気持ちを考えるべきだ。それこそ命のやり取りがあると言うのなら、なおさらその人達には真摯に向き合いなさい」

 

「……分かりました」

 

「……必ず伝えます」

 

 親父さんの言葉に、俺とリアス部長は険しい表情で頷き返すのが精一杯だった。

 

「なら今回の件はこれまで。いや~すまないね。僕自身、できた大人でもないのに説教なんてしてしまったよ。ははは!」

 

「おじ様もおば様も優しすぎるわ。白野にはもっと説教してもいいし、コイツらにももっと色々言っていいはずよ?」

 

 傍で話を聞いていたレイナーレが納得できないといった表情でそう白野の親父さんに問いかけた。

 

「……実を言うとね。僕ら夫婦は覚悟していたのさ。もしかしたらいつかこんな日が来るんじゃないかって」

 

「え?」

 

 ど、どいうことだ?

 

 俺達がみんな似たような表情で固まっていると、白野の親父さんが静かに語った。

 

「家の息子はどこかおかしい。普通の子供と違う。それは成長するにつれて明確になり、そして黒歌という妖怪を拾ってきた時に確信になり、この子には何か特別な運命でもあるのではと危惧するようになった」

 

 当時を懐かしむように白野の親父さんが語る。

 

「だから僕も妻も決めたのさ。親として、例えどんな事が白野に降りかかろうと傍で見守って行くと」

 

「ど、どうして白野君に問いたださないですか?」

 

 朱乃先輩がおずおずといった感じに尋ねると、白野の親父さんは優しげに笑い、そしてどこか自慢気に答えた。

 

「もちろん息子を愛しているからさ。そして息子も、自分達を両親として深く愛してくれている。だったら十分だよ。息子にどんな秘密があろうが、僕達家族の愛情の前では些細なことさ。あ、もちろん白野が話してくれるなら、ボクらにはいつでも受け止める準備はできているよ」

 

 白野の親父さんはそう締めくくり、幼い頃にいつも俺達に向けてくれた安心感を感じる笑顔で笑った。

 

 その笑顔に……俺は少しだけ救われ、同時にこんな優しい人の家族を傷つけてしまった事に。申し訳ないという罪悪感の気持ちが溢れた。

 

 白野は……もう関わらせない方がいい。

 

 見ればみんなも自分と似たような、罪悪感と後悔が入り混じったような表情をしていた。

 

 みんなも気付いている。今後も自分達に関われば、白野が己を顧みずに俺達を助けてくれる事を……。

 

 でも、それはこの人達を悲しませる事でもある。何より白野は俺達転生悪魔と違って人間だ。まだ引き返せる場所に居ると思う。

 

 だからこそ、深く関わってはいけないと強く思った。

 

「――どうやら上の二人の話し合いも終わったみたいよ」

 

 話を聞いていたレイナーレがばつの悪そうな表情のまま顔を上げる。

 

 確かに階段を降りて来る音が聞こえた。

 

 しばらくしてリビングに目元を赤くした小猫ちゃんとお姉さんの黒歌さんが戻って来た。きっと二人共泣いたんだろう。なにせずっと離れていて、どんな形とはいえ再開したんだから。

 

「すいません。お待たせしました」

 

「にゃ? 御主人様は?」

 

「ぜっさんお仕置き中」

 

「把握にゃん」

 

 レイナーレの言葉に黒歌さんが乾いた笑い声を上げる。どうやら黒歌さんも白野がどんなオシオキをされているのかを知っているらしい。

 

「それで小猫、あなたはこれからどうするの?」

 

 部長がこちらにやって来た小猫ちゃんにそう尋ねる。部長にとっては気になっている問題の一つだろう。部長と小猫ちゃんはずっと一緒に暮らしていたと教えて貰った。

 

 ここでお姉さんと一緒に暮らすことになったら、部長はきっと寂しがるだろうなぁ。

 

「わたしはこれからも部長に付いていきます。白野さんのお陰で姉さまとはこうしていつでも会えるようになりましたし」

 

「ううぅ、白音とも一緒に暮らせると思ったのに~」

 

 黒歌さんはしょぼんという効果音が聞こえそうな程、肩を落として落ち込んでいた。

 

「妹離れしてください」

 

「再開初日に言う言葉かにゃそれ!!」

 

「わたしはもう姉さんは死んだと思って心の整理をしてしまったんですよ! 姉さまもしてくれなきゃ不公平です!」

 

「理不尽過ぎるにゃ! それに、それは捜索した悪魔の根性が足らなかったせいにゃ! むしろ見付からないようにって毎日臭い消ししたり、外出は極力近場のみにしたりとかの面倒臭い事して頑張っていた私の数年間はなんだったにゃ!」

 

 いえ、むしろそのお陰で今こうして自由の身なんじゃないですかねぇ?

 

 そうツッコミを入れそうになったが、二人の時間を邪魔するのも悪いと思って口には出さずに見守る。喧嘩するほど仲が良いという言葉が有るとおり、あの二人には喧嘩してでもお互いに言葉を交わし合いたいのかもしれない。

 

「俺、兄弟がいないから少しだけ羨ましいな」

 

「そうだね。見ていて微笑ましいよ」

 

「そんなに羨むほどのモノではないと思うけど?」

 

「それはリアスに兄弟が居るからですわ」

 

 ついそんな言葉がこぼれる。木場や朱乃さんが俺の呟きに賛同して頷き、唯一兄弟の居る部長だけは首を傾げた。

 

 結局二人は最後まで喧嘩したまま『また来い!』『いわれなくても来ますよ!』と、よく分からない別れ方をした。小猫ちゃんてこんな性格だったかな? と一瞬思ったが、彼女もまだ混乱しているのかもしれない。因みにオシオキから戻って来た白野は真っ白に燃え尽きていた。白野のお袋さんだけは怒らせないようにしようと心に誓った。

 




月野家式OSIOKIはだいぶ前に書いたから割愛。

で、まあ償いとしてはかなりの温情処置です。
一応半分は白野本人が言うとおり自己責任ですし(断ろうと思えば断れた訳だし)
月野夫婦の性格的にも具体的な罰を提示するよりは、相手自身がどう償って行くのかに重点を置くかなと考えて、こういう結果になりました。


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