岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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と言うわけでサーゼクスさん視点。ちょっと色々手間取った。



【魔王の判断】

「まさか即決するとは思いませんでした」

 

 隣を歩く我が妻グレイフィアが視線だけをこちらに向ける。

 

「――むしろ即決すべきと判断したのさ」

 

 ボクの言葉にグレイフィアがどういう意味? といった視線を向けてくる。

 

「彼、月野白野君はどうやら運命に囚われた人間らしい」

 

「運命に囚われた?」

 

「ああ。今回は初めから対価が『素晴らしい戦いを演じた栄誉』と決まっていた。しかし一人の罪を無効にするとなれば、それ相応の対価が必要だ。とてもではないが『その程度』の栄誉では足りない」

 

 既に死亡が認定されているとは言え、それでも彼女が犯した事件の記録はある。それを完全に抹消して無かった事にするのだ。そうなれば例え殺された悪魔の一族が何を言おうと、もはや黒歌は裁けないし捉えることは出来ない。むしろ黒歌にそのような事をすれば逆に犯罪となってします。

 

 故に殺された一族や、転生悪魔を下に見ている上級悪魔達からすれば納得など出来ない無茶な願いだ。だが、その願いは簡単に叶えられてしまった。

 

「しかし彼の願いはその栄誉で足りた。それが関係しているのですか?」

 

「……その通り、はは、もし彼自身の何かを対価にしたらもっと小さい対価で願いを叶えられただろうね」

 

 それこそ血液やエネルギーを少々頂く程度で済んでしまった可能性がある。

 

「――ああ、だからルシファー様は先程の言葉を口にしたのですね」

 

 合点がいったグレイフィアが頷く。さすがはボクの嫁、聡明である。

 

「そう。人間には稀に彼のような『特別』な運命を背負った者が現れる。彼が数十年に一度の偉人となるのか、それとも数百年に一度の英雄となるのかは分からないが、彼はこの先も色々と苦労するだろうね。その点に関しては同情を禁じ得ない」

 

 運命に囚われた者と言うのは大抵は苦難を与えられるものだ。

 

「……彼はあのまま放って置いて良かったのですか? 見たことのない魔法も使っていましたが」

 

 グレイフィアが警戒心を隠さずにそう尋ねる。

 

「そうだね。彼の魔法、どこかアジュカの数式を用いた術式プログラムに似ていたね」

 

 しかしアジュカのそれとは起動の仕方や仕様が異なっていることから、独自に開発した術式なのだろう。それとも開発したのは黒歌かな? 彼女は魔法の才能もあったと聞くし。

 

「やはり監視すべきでは?」

 

「う~ん。たぶん大丈夫だよ。彼のように自分よりも他人を優先するタイプはむしろ敵対しない方が良い。それになによりボクは彼が気に入ったよ。できれば赤龍帝の兵藤一誠君と同じようにこちらの陣営に欲しいくらいだ」

 

 普通、大怪我した直後に自分よりも他人の為に行動するなんて出来るもんじゃない。

 

 しかし彼には一切の迷いが無かった。

 

 大切な者の為に己を賭けられる。そんな彼の在り方にボクは好感を覚えた。

 

 それにグレイフィアもそこまで彼を警戒しているわけではないようだしね。

 

 グレイフィアが本気なら、ボクに告げる前に監視をつける筈だし、何より。

 

 グレイフィアはどうでもいい相手や敵は公私共にフルネームで呼ぶけど、そうでない相手は苗字や名前で呼ぶという癖がある。まぁ、仕事中は状況に合わせて呼び方を変える徹底振りだけど。

 

 そういう意味では苗字を呼んでいる時点で彼女も白野をある程度は認めているし、信頼していると言うことになる。

 

 やれやれ、彼がこちらの陣営に来てくれれば冥界の改革も早まりそうなんだけどね。

 

 だが彼がこちらの陣営に、悪魔になることは無いだろう。運命に囚われるとはそういう事だ。

 

 何かが起きようとしているのかもしれないね。

 

「グレイフィア。これからはできるだけリーアを、リアスを気に掛けてあげてくれるかい。彼のような存在に、更にドラゴン、しかも赤龍帝だ。この土地で何かが起きようとしているのは間違いない」

 

「畏まりました……だからと言ってサボらないでくださいね?」

 

 あはは、バレたか。

 

 妹の心配と厳しい妻の監視を同時に解消できるかと思ったが、優秀な我が妻には一瞬で無抜かれてしまったようで、今は眉を攣り上げてこちらに冷やかな視線を向けてくる。

 

「さて、それじゃあフェニックス家と話し合いをしたあとぐすに、冥界で黒歌の手続きをしてしまおう」

 

「しかし今回の一件、フェニックス家はすぐに納得なされるでしょうか?」

 

「するとも。そもそも向こうはそれ程この婚姻を重要視していない。でなければライザー君がやられた時にもっと抗議してくるさ。むしろ負けて良かったと思っているみたいだね。それについてはボクも同意見だ」

 

 ライザー君には才能がある。それを誇るのは良い。だが、だからといって傲慢が許される訳ではない。

 

 まさかファッション感覚で妹を眷属にするとは、そりゃあ両家の親御さんも怒るよ。

 

 特にフェニックス氏は娘を溺愛していたからね。君がやられた時なんて『勝った!!』なんて言って大人気なくガッツポーズまでしちゃっていたよ。

 

 気持ちは分かるけどね!!

 

 まったく妹をなんだと思っているのか。そもそも妹というのは愛でるものだ。幸せを願い、その愛らしい眼差しに幸福を感じ、逆に我々は妹の幸福を見守る為に存在なのだ。

 

 決して縛って良いモノではないのだ!!

 

「……ふん!」

 

「ゴハっ――!?」

 

 お腹に衝撃を受けてその場に崩れ落ちる。

 

 こ、これはグレイフィアお得意のノーモーションからの腹パン……そうか、またボクは自分の世界に浸っていたか。

 

「まったく。あなたのシスコン、いえ家族全員だからファミコン? も重度よね」

 

「ハハハ、こればかりは仕方ないさ。グレモリーの血の性だね」

 

 周りを確認してから妻の顔で言葉を崩したグレイフィアに、ボクは苦笑しながら応える。

 

「ところでリアスの今後はどうするの?」

 

「どうやらリアスは赤龍帝君をいたく気に入っている様子だ。きっと彼の家に押しかけるだろうね。情熱的で一途なのもグレモリー家の特徴だよ」

 

 なんだかんだで今のところ父上と母上、ボクとグレイフィアも一目惚れで相手を口説き落とした恋愛結婚な訳だし。リーアもきっとそうなるだろう。

 

「……きっとリアスは一誠君を口説き落とすでしょうね。正直グレモリーのしつこさはストーカーと言っても過言ではないもの」

 

「ハハハ。ちょっと何言ってるか分からないなー」

 

「あら? では思い出させて上げましょうか? 戦場でいきなり告白したと思ったらその後戦闘中に恋文をこちらの武具に忍ばせたり、あまつさへ仲間に盗聴、盗視用の――」

 

「おっとそろそろ着いてしまうね! さあ夫婦の時間はここまでだよグレイフィア!」

 

 過去の黒歴史からの説教コンボを察したボクは、大きな声で彼女の言葉を遮り、早足で目的地へと向かう。

 

 そんなボクに呆れた表情を向けるが、グレイフィアはそれでも付いて来てくれる。うん、こういうところが可愛い。

 

「――あとでお話がありますからね」

 

「……はい」

 

 でもこういうところは怖い。

 

 結局説教は避けられないと悟り、肩を落として父上達が待つ部屋の扉を開けた。

 




グレイフィアさんの呼称の使い分け設定と、フェニックス家が簡単に今回の一軒を許した点は完全に独自設定です。
因みに妹を眷族にした理由は原作基準であり、原作でもその点は身内に怒られているライザー君……まぁそりゃそうだわ。


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