岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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ライザー戦終了後です。
さて……ようやく悪魔陣営のイケメン代表のサーゼクスさんが出てくるぞっと。



【栄誉という名の対価】

「……ん?」

 

「白野君!」

 

「よかった。気が付いたんだね白野君」

 

 目覚めると旧校舎の天井が視界に広がり、朱乃先輩と祐斗が自分を安堵した表情で覗き込んでいた。

 

 ……ああ、そう言えば二人もあの攻撃でリタイアしたんだっけ。よっ……んん?

 

 ゆっくり体を起こすと、違和感を感じてそちらに視線を向ける。

 

 ――ああそうか。

 

 違和感の正体に気付いて納得する。そこには本来あった筈の物が無くなっていた。

 

 具体的に言えば左腕が肘から少し上辺りから綺麗さっぱり、完全に、無くなっていた。治療はされたようで、痛みは殆ど無く、切断された部分には包帯が巻かれていた。

 

 視線を上げると二人は凄く申し訳なさそうな顔で項垂れていた。

 

「白野君すまない。僕達がもっとしっかり君を気にかけていれば……」

 

「本当にごめんなさい。眷族でもない無関係なあなたにこんな……」

 

 ……まぁ気にするなって言うのは酷だよな。

 

 二人の気持ちは痛いほど分かる。なんせ生前の自分はサーヴァントに命令を出して戦わせていた身なのだ。こちらの拙い指示のせいでどれだけ大切な相棒を傷つけただろうか。

 

 それでも、彼らがそれが役割だと言って決して自分を責めなかった。代わりに褒め、叱って自分を導いてくれた。

 

『これから先……誰を敵に迎えようとも、誰を敵として討つ事になろうとも……。

 必ず、その結果を受け入れてほしい。迷いも悔いも、消えないのなら消さずともいい。

 ただ、結果を拒む事だけはしてはならない。すべてを糧に進め。覚悟とは、そういう事だ。

 それを見失ったまま進めば、君は必ず未練を残す』

 

 脳裏にかつて自分が敵として戦ったもっとも気高く誇り高かった老騎士、ダン・ブラックモアの言葉が過ぎる。

 

 己が不利になるのも厭わずに行う彼の潔い行動と、出会う度に自分に語ってくれた人生の先達としての教え。それは間違い無く自分を支えてくれた一つの絆だ。彼の言葉があったからこそ、自分は道程の大切さと過程の苦悩を知った。

 

「――起きた結果を拒む事だけはしてはならない。それはそこに到るまでに得た物を否定することだ。少なくとも自分はこの結果に納得は出来なくても満足しているし後悔は無い。だから二人も、たとえ苦しくても、辛くても、目を背けずにこの結果を受け留めて己の糧として前に進んで欲しい。いつか納得も出来て満足もいく最良ではない最高の結果を手にする為に」

 

 残っている方の右腕で拳を握って二人に向ける。二人はしばらく互いを見詰めたあと、こちらに視線を移して力強く頷いた。

 

「うん。僕はもっと強くなって君を、仲間を護れる騎士になるよ」

 

「ええ。わたしも、もっと魔法や戦術の技術に磨きをかけますわ」

 

 ……うん。大丈夫そうだな。

 

 二人の強い意志の宿った瞳を見て、後悔に押し潰される事はないだろう判断して腕を下ろす。

 

「そういえば他のみんなは?」

 

 二人の問題が解決したので、他のみんなの現状について尋ねる。

 

「部長と小猫ちゃんは一度来ましたが白野君は寝ていたので、部長は御両親方に挨拶に行きましたわ。小猫ちゃんは護衛として付き添いました。兵藤君とアーシアちゃんは別室で治療を受けていますわ。もっとも、アーシアちゃんの神器のおかげで殆ど傷は塞がっているので、あとは白野君同様に、兵藤君が目覚めるのを待つだけです」

 

「そうか、なら良かった」

 

 朱乃先輩からの全員無事だという知らせに安堵していると、扉がノックされる。朱乃先輩が返事をすると、グレイフィアさんとリアス先輩と同じ朱色の長髪をした穏和な顔立ちの優しそうな男性がやって来た。

 

「失礼いたします」

 

「失礼するよ」

 

「グレイフィアさん……と?」

 

「ルシファー様!?」

 

 朱乃先輩と祐斗がその場に片膝を着き頭を下げる。

 

 ルシファー……確かリアス先輩のお兄さんの苗字……あ、ということはこの人が魔王か。

 

 改めてルシファーさんを観察する。う~ん全然魔王に見えない。

 

 間違い無く強いし、自分なんて一瞬で殺せるほどの相手なのは一目見て解かったけど、自分の中の魔王像とあまりにも逆なため、本当にこの人が魔王なのかと思ってしまう。むしろ神様陣営なんじゃないかってくらい優しい目をしている。これも一種の偏見になるのだろうか?

 

「ああ畏まらなくていいよ。今回の主役は君達なのだからね」

 

 ルシファーさんは困ったような笑顔を浮かべながら二人に立つよう促し、一度咳払いした後に自分達を真剣な表情で見据える。

 

「まずは魔王として、今回のゲーム見事だった。正直に言えば我々は君達ではライザー・フェニックスに勝てる可能性は殆ど無いと思っていたし、事実妹のあの一撃を耐えられた時点でわたしも勝敗は決したと思った。だが、そんな我々の予測を覆し、君達は見事勝利を収めた。おめでとう。今回の勝利、君達は胸を張って誇っていい勝負だった」

 

「……ありがとうございます」

 

「……光栄ですわ」

 

 自分の腕の件をまだ気にしているのか、二人は少しだけ悩んだ仕草をしたが、最終的にはサーゼクスさんの言葉を受け入れ返事を返した。

 

 返事を貰ったルシファーさんは、引き締めていた表情を緩め、魔王の顔から先程入室してきた時の物へと変化させる。

 

「で、ここからは兄として、ボクの妹の願いを叶えてくれてありがとう」

 

 そう言ってルシファーさんはその場で深々と頭を下げた。

 

「お、お止めくださいルシファー様!」

 

 朱乃先輩が恐縮そうにしながら慌てる。そりゃそうだ。自分の陣営のトップに頭を下げられたら、誰だって慌てる。

 

 しかし当の本人であるルシファーさんは苦笑しながら頭を上げるだけで、全然気にしている様子はなかった。

 

「ははは、気にしすぎだよ朱乃ちゃん。ちゃんと兄としてって前置きしただろう? 王としては無理だが、兄として今回の一件には本当に感謝しているんだ。特に、月野白野君にはね」

 

「自分ですか?」

 

 成り行きを見守っているとルシファーさんは優しく微笑みを浮かべて頷く。その仕草一つ一つが優雅だ。何このイケメンさん。というか自分の周りにはイケメンが多過ぎる気がする。父さんとか祐斗とか。

 

「グレイフィアから君が転生者だと言う事は聞き及んでいるよ。そして君のその生前の知恵と指導のお陰で、妹は人の上に立つ者として一皮向けたようだ。それにここに来る前にリアスに話を聞いたが、今回の作戦の要所要所、つまりリアスの作戦の穴を埋める作戦を考えたのは君だと教えて貰った。それに赤龍帝の少年が最後に戦えた事、そしてライザー君の被害を最小限に抑えられたのは、君の神器があったからこそだろう。君こそが今回の戦いの一番の功労者だ」

 

「いえ。作戦はみんなで考えました。実行し、実際に成せたのはみんなの努力の結果です。自分だけの成果じゃありません」

 

 褒められるのは嬉しくはあるが、サーゼクスさんの称賛に首を横に振って否定する。なぜなら自分がやった事と言えばライザーやその眷属の足止めのみ。誰一人倒しちゃいないからだ。

 

「ふふ、謙虚なんだね。さて、本来は一番素晴らしい戦いを演じた者に名誉を勲章という形として送るのだが、人間の君には意味が無い。ということでここは悪魔らしい贈り物を贈ろうと思う」

 

「悪魔らしい贈り物ですか?」

 

「ああ。君の願いを一つ、今回の功績を対価として叶えようと思う。今回の功績の対価内の願いであれば、どんな願いでも叶えさせて貰うよ」

 

「白野君! 左腕を治して貰いましょう!」

 

「悪魔の願いを叶える魔法なら、可能だろうね」

 

 二人が嬉しそうに笑うが、まだ左腕の再生が可能範囲内かどうかは判っていない為、まずはその辺りを確認する。

 

「自分の左腕を治すのは対価の範囲に納まるんでしょうか?」

 

「その程度なら問題ないよ。そもそも切られた左腕が残っていればフェニックスの涙でくっつける事も可能だったのだけどね」

 

 その程度、か。ということはもう少し大きな願いでも問題ない。ということだな。

 

「ふむ。では『罪を無かった事にして欲しい』と言う願いは可能ですか?」

 

「「……え?」」

 

 その場に居た全員が表情を固める。逸早く立ち直ったのはルシファーさんだった。流石は魔王と言った所だろうか。

 

「それはどういう意味かな?」

 

「――言葉通りです。正確にはある悪魔の罪を記録から消して欲しい、ですが……」

 

「え、ま、待って下さい白野君。その知り合いは悪魔なのですか? それも罪を犯すような?」

 

 朱乃先輩が戸惑った表情で尋ね、彼女の言葉に頷く。

 

「ええ。彼女は悪魔の住む冥界から、犯罪を犯してこの人間世界に逃げた転生悪魔です」

 

「ふむ。難しい問題だが、とりあえずその犯罪者の危険度にもよるね。名前を明かして貰えるかな?」

 

「彼女の名は……黒歌。既に冥界で死亡扱いとなった……小猫ちゃんのお姉さんです」

 

 意を決して黒歌の名を口にすると、ルシファーさんもグレイフィアさんも驚き目を見開く。更にその時ドアが開く音がしてそちらを見ると、小猫ちゃんが信じられない物を見たかのように目を見開き、呆然と立ち尽くしていた。

 

「お姉さまが……じゃあやっぱり白野先輩から香った匂いは……」

 

「これはまた、まさかここでその名を聞くとはね。運命とでも言うのかな」

 

「……一度お互いに情報の交換をした方が良さそうな状況ですね」

 

 ルシファーさんにそう尋ねると、彼は少し困った笑顔で『そうだね』と言って小猫ちゃんを室内に呼び、そして黒歌についての情報の交換が行われた。

 

 まず自分が黒歌との出会いと、数年間ずっと妹の事を心配していた事、そして主である悪魔を殺した本当の理由等を説明する。

 

 話の聴いている間、小猫ちゃんはずっと俯き握り拳を握っていた。

 

 こちらの事情説明が終わると、今度はサーザクスさん側で黒歌がどういう扱いになっていたのかを説明してくれた。

 

 小猫ちゃんの話し通り、冥界では既に黒歌は死亡扱いとなっているらしく、はぐれ悪魔の討伐リストからも、指名手配からも外れているらしい。なんでも討伐隊がいい加減報酬をよこせと上級悪魔と一悶着あり、結局当時の状況から討伐は成功と見なされ、討伐隊に報酬が支払われ、黒歌の事件は完全に幕を閉じた。

 

「……あの、もし今黒歌の生存が発覚した場合、どうなりますか?」

 

 問題は生きていた場合だ。それによっては、今回の自分の発言は逆に彼女の首を絞めた結果になる。

 

 ――その時は、彼女を連れて逃げるか。

 

 それくらいの責任は取るべきだろう。

 

「正直、こちらとしても扱いが難しいね。彼女の主の悪魔が酷い行いをしていたのは調査で判明してはいるけど、彼女が罪を犯したのは事実。だがその後は罪を悔いて生活し、悪事も働いていない。しかも我々が死亡と認めてしまっている。ははは、グレイフィア、どうすればいいかな?」

 

「わたしにはなんとも。月野の願いを叶えると言ったのはルシファー様なのですから」

 

 グレイフィアさんがいつものクールな表情で突き放す。

 

 だが、自分は見つけてしまった。彼女の額から僅かに流れる汗を! あれは絶対『話を振らないで下さい』って汗に違いない。

 

「う~ん……よし。とりあえずその願いを叶えられるかどうかを確かめてからにしよう。もし可能なら彼女の罪はここで全て清算。以降は自由の身とする事を魔王の名の下に契約しよう」

 

 おお、さすがは魔王、太っ腹である。

 

「そう言えば願いが叶うかどうかって、どうやって調べるんですか?」

 

「専用の機械を使いますわ。それで相手の存在価値を測定する事でその願いを叶えるのにどれだけの対価が必要なのかが解かります。言うなれば運命力を測るようなものですわ白野君」

 

 朱乃先輩がなんか蝙蝠形の丸いスマホのような機械を取り出して親切に教えてくれたが……何故だろう。物凄くモヤっとする。『そこは魔法じゃないんかい!』とツッコミたい気分だ。

 

「魔王様も持っているんですか?」

 

「まあね。いや~便利な時代になったよね。昔は一々手順踏まないと正確に測れなかったからねぇ。さて、それじゃあ月野君の願いは今回の対価で可能かなっと」

 

 ルシファーさんがしばらく機材を見詰めるとすぐにこちらに向き直った。

 

「うん。君の願いは対価で十分叶えられるよ。じゃあその願いでいいかな?」

 

「はい。お願いします」

 

 サーゼクスさんが笑顔で頷くと、後の事はこちらで処理して後日リアス先輩経由で知らせると言って、彼らは去っていた。

 

 さて、魔王の訪問には驚いたけど……こっちの問題も片付けないと。

 

「……ねえ小猫ちゃん。良かったら黒歌に会いに来る。今回の一件も伝えないといけないし」

 

 いまだ俯く小猫ちゃんに声を掛ける。彼女はしばらく悩んだあと、首を立てに振った。

 




と言うわけで黒歌の罪を消すが、白野の願いでした。
えっ左腕は治さないのかって?
少なくともエクスカリバー編まではそのままです。


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