岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
「ライザァァアアア!!」
俺は怒りのあまり叫んだ。よくも俺の仲間を! 俺の親友の腕を!!
「よくもわたしの仲間を! 一誠!!」
先輩も同じ気持ちなのか目を吊り上げ鋭い声でオレに指示を飛ばす。
「分かっています部長!!」
力は限界まで溜まってる。みんなが稼いだ時間を無駄になんかしない!
「
『Transfer』
神器から放たれた譲渡の合図の音声と共に、部長の滅びの魔力が強化される。
「ライザー、これが今のわたしの全力よ!!」
部長が鋭い眼光でライザーを一瞥し、そして、部長渾身の一撃が放たれた。ライザーは顔面を蒼白にさせながらしかしその場を動こうとしない。
いや、動けないんだ。白野が最後に放った一撃が効いてるんだ!
白野が使う仙術を用いた体術は、オーラによる身体強化とオーラを打ち込んで体内にダメージ与えたり、気脈という生命力が流れる脈、俺達悪魔なら魔力が流れるそれにダメージを与える事に特化していると教わった。その上白野は相手を麻痺させる魔術も使えると言っていたから、多分最後に右手に発動したあの数字と英字の魔方陣がそれだったのかもしれない。
「うっうあああああああああ!?」
ライザーは情けない声を挙げながら部長の滅びの魔力に飲み込まれる。
部長の滅びの魔弾の勢いは止まらずライザーを消し飛ばし、そのまま運動場、校舎と斜線上の全てを抉りながら突き進み、ついには異空間の結界の端にぶつかり、まるで地震のように空間その物が振動する。
こ、これ結界は大丈夫なのか?
内心で心配していると、しばらくして振動は収まった。多分魔弾が消滅したんだと思う。
「……アナウンス、流れませんね」
「復活するかどうかを待っているのかも。もしくは両家でもめているか。ふっ、それはそうよね。だって最悪、ライザーはもう……」
部長が目を伏せる。
同族殺し。それがいま、部長が新たに背負うかもしれない責任。だが、他に手段が無かったのも事実だ。少なくとも部長はそれを覚悟で放った。
「部長、俺にも――っ!?」
少しでも部長の重荷を軽くしようと、口を開きかけたその時、目の前で火柱が立ち上った。
「ぐっ。はあ、はあ、今の一撃の威力……リアス、お前!」
生きてやがったかライザー。
部長の一撃を受けたライザーはふらつきながらもなんとか立ち上がっていたが、体から汗を大量に流し、呼吸は荒く、どうみても満身創痍の様子だった。
「ええ。あなたを殺すつもりで撃ったわ。そのくらいしないと勝てない相手だというのは嫌と言うほど理解しているもの」
ライザーの殺気を帯びた鋭い視線に対して、部長は先程までの表情から一変して同じく決意の篭った強い瞳で睨み返す。そんな彼女を美しいと思った俺は、心底彼女が好きなんだなと改めて実感した。付いて行きます部長!
「ぐっ。だが今の一撃で俺を降せなかったということは、もうお前達に手はないということだ! 違うかリアス!!」
「ええ違うわ」
「――――っ!?」
絶句とはまさに今のライザーの状態を言うんだろうな。
ライザーは表情を固め、言葉を発することなく、ただこちらに突きつけた指を、身体を震わせた。
そりゃそうだ。今の部長の一撃。間違い無く俺達グレモリー眷属が放てる最強の一撃だ。
だが『決定打』は違う。さあ……仕上げだ。
「う、嘘だ!!」
「嘘ではないわ。確かに今の一撃で貴方を倒せる。少なくとも『わたし』はそう思っていたわ」
部長が時間を稼いでくれている間に俺は自身のすべき事を成す為に、白野に渡されたポシェットから全ての菓子を取り出し口に含む。
(ドライグ、どうだ?)
(ああ十分だ。対価分のエネルギーとしては申し分ない。ではそのエネルギーを対価に、一時的に至らせてやろう。『
心の中で問いかけるオレの声に、そう返す者がいた。
コイツの名はドライグ。赤龍帝の籠手に封印された二天龍と呼ばれ、かつて悪魔、天使、堕天使の三陣営に甚大な被害をもたらし、あの三陣営が共同戦線でようやく封印する事に成功したという赤の龍王。それがオレの相棒だ。もっとも、夢で会話するときは普通に龍の姿だが。
ドライグと会話できるようになったのはオレが『赤龍帝の贈り物』を習得したときだった。合宿で全員にドライグの事を説明したときに、ドライグからあるチート技を教えて貰った。
因みに相棒として扱うように言ってくれたのは白野だった。確かにこれから一生の付き合いになるのだから当然と思い。それ以来よく話すようにしている。
準備を進めながらドライグについて改めて考えている間にも部長の説明は続いて行く。いや、時間を稼いでくれているのだろう。俺の準備のために。
「でも白野は言ったわ『ライザーにも背負っている物がある。背負う物がある奴は強い。だから奴はきっと立ち上がる』とね。ライザー、白野はあなたを信頼したのよ。あなたなら必ず立ち上がると! だから更にその先、わたしの一撃で弱り、抵抗できなくなったそこを狙う一手を用意したの!」
部長の言葉にライザーが目を見開く。そりゃそうだろう。最初に聞いた俺達ですら驚き耳を疑ったもんだ。
『敵の強さを信頼し、立ち上がる事を想定して戦う』
敵を信頼するなんて発想、話を聞くまで俺の中には想像にすら無かった。
口の中のお菓子が一気に消えて体中に力が漲る。
「一誠。見せてあげなさい。わたし達の最後の作戦を! あなたの力を!!」
俺の変化に気付いた部長が、俺に背を向けたままライザーに叩きつけるように宣言する。
「はい! 行くぜぇぇええ! オーバーブーストォッ!!」
『Welsh Dragon Over Booster!!』
俺の全身を赤いオーラが包むと同時に身体に力が漲る。と同時に口に含んでいた物が一気に消滅する。
(今の対価じゃ五秒が限界だ。その間に決めろ)
(十分だ! 白野の置きみあげもあるしな!)
全身のオーラが徐々に形を成していき、そしてオーラが止んだ瞬間。俺は頭も含んだ文字通り全身に赤く鋭角で龍のような装飾の全身鎧を纏っていた。
籠手にあった宝玉は両手の甲、両腕、両肩、両膝、胴体中央にも現れ、背中にはロボットアニメよろしく独特な形状のロケットブースターのような推進装置がついている。
以前鏡で見た時はどこの特撮ロボットだとツッコミをいれたほどSFチックな外見だ。
「鎧!? まさか赤龍帝の力を具現化させたのか!?」
「ああそうだ。これがオレの奥の手、禁手『
赤龍帝の鎧の能力。それは十秒の間だけ全力全開で戦えるゲームで言うなら所謂無双モードだ。
ただし己の力で禁手に至れていない今のオレでは一時的にでも使用した場合三日は神器を使用できなくなる上に、対価を支払う必要があるというまさに諸刃の剣だ。
最初は腕を差し出すことになるとドライグに言われ皆難しい顔をしたが、白野がその対価分のエネルギーを自身の神器で賄えないかと訊くと、ドライグは可能だと答た。
感謝するぜドライグ、お前に出会えたお陰で、俺はあいつをぶっ飛ばせる力を手に出来た!
『Ⅴ』
籠手の宝玉からカウントが始まると同時に俺は背中のブースターからエネルギーを放出して一気に加速してライザーへと肉薄する。
「受け取れライザー! これがオレの! オレに託されたみんなの思いだぁぁあああああ!!」
「がはっ!?」
拳を振り上げ勢いのままライザーを殴り、軽く吹き跳ぶが、ブースターに倍化を連続掛けして瞬時に加速して追い付く。これでライザーが吹き飛ぶ速度よりも追い付く速度の方が上回った。そこからは時間が許す限りの連打をお見舞いする。
「ぐあっがっあがっあぶっ!?」
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
『Ⅱ』
カウントが二秒を告げる。
最初にライザーに向かって飛んだ時にもって来た白野のポシェットから聖水と十字架を取り出す。
ジュウ。という籠手ごと腕を焼くような痛みが走るが、無視する。
「これでぇぇえええええ!!」
『Transfer』
ライザーに肉薄した状態で残り時間分のエネルギーを聖水と十字架に譲渡する。纏っていた力が無くなり鎧が消滅し元の姿に戻る。そして倍加したことで更に左手への激痛が増す。
痛てぇ! でも退かねぇ! 退けねぇ! 白野はもっと、もっと痛かったはずだからよぉぉおおお!!
「ラストだぁぁぁあああ!!」
ライザーの鳩尾掛けて十字架と聖水が乗った掌底を叩きつけ、すぐに手を放す。
瞬間、聖水はまるで高濃度の硫酸のように激しく音を立てながら付着したライザーの肉を焼き、先端が突き刺さった十字架は、まるでライザーを消滅させんとばかりに激しく輝く。
「ぎゃああぁぁあああぁあああがあがあああ―――!?」
顔を歪ませ喉が裂けるんじゃないかと思うほどの悲鳴を上げたライザーがそのまま地面に崩れ落ちる。
ライザーが倒れたと同時に奴の体がその場から消えると、すぐにグレイフィアさんのアナウンスが響き渡った。
『ライザー・フェニックスの『王』の撃破を確認。よってこの勝負はグレモリー側の勝利とします』
……勝った? 勝ったんだ! やったぞみんな!!
「うおおおおおおおお!!」
俺は傷む左手を忘れ、拳を握ってその場で勝利の雄叫びを上げた。
フルコンボでフルボッコだドン!!
と言うわけでもはや何がトラウマになってもおかしくない程痛めつけられたライザー君でした……これは再起できるのか?