岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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という訳でリアス視点です。もっとも話の内容は朱乃さんがメインですが(苦笑)



【三年生達の恋バナ】

 白野と別れた私達は旧校舎に向かいながら彼について話し合う。

 

「ねえ朱乃。あなた白野のこと、本当はどう思っているの?」

 

「あら、どういう意味ですか部長?」

 

 学園内なのでリアスではなく部長と私を呼んで口調を崩さない親友のいつもの姿を見ると余計に白野に対する態度を面白いと思う反面、疑問を感じる。

 

「純粋な好奇心よ。本気で好きなのかなって?」

 

「異性としては一番気にいってはいますわ」

 

「あら、それは意外ね」

 

 隣で聞き耳を立てていたソーナが言葉通りに意外といった感じに目を少しだけ見開く。もちろん私も意外だ。

 

 月野白野。

 今年駒王学園二年に進級した優等生。故に祐斗と同じ成績が優秀な生徒が多いクラスに配属されている。

 容姿は個人的な見解になるが上の中で十分美男子と言える部類だと思う。

 

 それと彼自身はとても感情豊かな性格だが、どうやら表情は少し硬いようで表情から感情を読み取るのが難しい。

 

 その代わりに声と目元が特徴的なのよね。

 

 彼の声はとても良く通る澄んだ声をしている。そのため声色の違いがはっきりしている分、その言葉にどんな感情が乗っているのかが分かりやすい。

 

 他にも目元の変化でこちらをどう思っているのか判別できる。目は口ほどに物を言うという諺を地で行くような男の子だ。

 

 素直で分かりやすい子。それに気遣いもできる。小猫(こねこ)と祐斗を足したようなタイプね。

 

 親しい後輩二人に似たタイプなだけに、私も朱乃程ではないが彼を気に入っている。しかし。

 

「朱乃がそこまで気に入るような素敵イベントなんて、あったかしら?」

 

「ふふ、部長が読んでいる恋愛小説でも良く書かれているではありませんか。恋はタイミングだと」

 

「つまり姫島さんはそのタイミングで彼のことが気になり始めたと?」

 

 ソーナもなんだかんだでこういう話、好きよね。本人にはそういう浮ついた話は一切聞かないけど。

 

「ねえ朱乃。よかったらその切っ掛けを教えて貰えるかしら?」

 

 好奇心全開で私が尋ねると、朱乃は仕方ありませんわ。と言いつつ満更でもない顔で語り始めた。

 

「一年前の母の命日の事です。その日は部長が体調を崩してお休みしていた日でした」

 

 ああそう言えばあったわね。

 

 朱乃のお母様は既に他界している。父親は生きているが、今は疎遠だ。朱乃にとって父親の話はタブーなため、私からも話題に出すこともほとんど無い。

 

「その日はお弁当を持って行くのも忘れて食堂で食事を摂っていましたが……私のテーブルにだけ誰も座りませんでした」

 

「……まぁ、あなた達は憧れの的ですからね。恐れ多いと思ったのでしょう」

 

 朱乃の事情を知るソーナも、少しだけ表情を曇らせながら返答する。

 

「ええ。普段だったら気にしないのだけど……大勢の喧騒の中で久しぶりに一人きりだと思ったら、何故か急に寂しくなり、正直泣きそうになりましたわ」

 

 朱乃は自分の感情に素直だから、一回落ち込むと凄いのよねぇ。

 

 意外かもしれないが朱乃は自分自身の事になると感情の浮き沈みが激しい。普段まともな分、余計にそう見えてしまう。

 

「そんな時に、白野君に声を掛けて貰ったのですわ。笑いながら『相席いいですか』って」

 

 おお。なんというか、凄いわね白野。

 

 ド定番なシチュエーションに心が少し躍ると同時に白野の意外な度胸に驚く。

 

「当時は部長と一緒に挨拶した程度の知り合いでしたが、一人でいたくなかった私は了承し、食事が終わるまで一緒にお喋りして過ごしました。学園についてだったり木場君や部長についてだったり、勉強についてだったり、気付いたら昼休みも終わりに差し掛かっていて、彼との会話を楽しんでいた自分に気付かされました」

 

 思い出を語る朱乃の表情は完全に恋する乙女のそれだった。少し羨ましいわね。

 

「それで好きになったの?」

 

「あら部長、私はそんなちょろインではありませんわ」

 

 ちょろイン? え? 何それ?

 

 朱乃の言葉に首を傾げるが、彼女は気にせずに続きを語る。

 

「一緒にトレーを片付けている時に、たまたまドリンクを買いにやって来た兵藤君が白野君に向かって言ったのです『あれ? お前お弁当食べたのになんで空の食器なんて持ってるんだ?』って」

 

「……つまり」

 

「ええ。彼は私とお話しするためだけにわざわざ昼食を二度摂ったわけです」

 

 ……意外だわ。確かに気遣いの出来る男の子だとは思ったけど、まさかそこまでとは。なるほど。そこまでされたら好意を持たない訳が無い。

 

「なるほど。それで好意を寄せ、恋に発展したのね!」

 

「いいえ」

 

 あれ~?

 

 自信満々に答えた私に朱乃が首をまたしても横に振る。

 

「確かにそれで好意を持ったのは間違いありませんわ。重要なのはそのあとですわ」

 

 まだ何かあるの? いったい私が体調を崩している間にどれだけのイベントが起きたのよ! 

 

 そんな面白そうなイベントに関われなかったことを心底悔やみながら、朱乃の話に耳を傾ける。

 

「私は翌日に彼へのお礼をと思い――腕を組んで胸を押し付けましたわ」

 

「――ん?」

 

「――はい?」

 

 ソーナと共に首を傾げる。おかしい。さっきまで恋愛少女漫画ばりの展開だった筈なのに、急に漫画自体の趣向が迷子になった気がするわ。

 

「ごめんなさい朱乃。もう一回言って」

 

「腕を組んで胸を押し付けた。ですわ」

 

「あ、聞き間違いじゃなかったわ」

 

 なんで感謝のお礼がそれなのか、これは問い質さなければならないわね。

 

 ソーナも同じ思いなのか、険しい表情の彼女と視線が合う。お互いに頷き合い、まずはソーナが質問した。

 

「姫島さん。なぜそのようなお礼をしたのか、生徒会長としても詳しく聞かせてもらう必要があるわ」

 

「私、身体にはそこそこ自信がありますから男の子の白野君ならきっと喜ぶだろうと思いまして。生徒達の噂にも私や部長の胸に触れられるなら死んでもいいと言う噂がありましたし」

 

 ――待って朱乃。それは間違い無く極一部の者達の言葉だと思うの。ていうか、あなた今男子に限定しなかったわね。え? いるの? そういう趣味の子?

 

 ソーナが眼鏡を外して眉間を掴みながら、それで。と続きを尋ねる。

 

「それが逆に心配されてしまって。『大丈夫ですか? すぐに保健室に連れて行きます!』なんて言って所謂お姫様抱っこで保健室に運ばれました。そして保健室のベッドに強制的に寝かせられ……」

 

 そこで朱乃は一度言葉を切ると、更に恍惚とした表情で溜息を吐いた。

 

「『何かあったか知りませんが、偶には甘えるのも悪くないと思いますよ? 姫島先輩は色々背負い込みすぎなんですよきっと。自分なら気にしませんから、どんと甘えちゃってください。とりあえず落ち着くまで一緒に居ますから』なんて言ってきゃ~♪」

 

 朱乃!? キャラが、キャラが壊れてるわよ!?

 

 その場でくねくねと身体をくねらせる親友の姿を見ながら、白野の言葉と行動を客観的にもう一度改めて見直し……ある結論に至ってソーナに耳打ちする。

 

「ねぇソーナ。もしかして白野がその時執った行動って……」

 

「ええ。憶測だけど、姫島さんが普段から周りの期待による疲れで前後不覚になっていると思ったのでしょうね」

 

 やっぱりそうよね。

 

「じゃあ白野にその気は一切無い」

 

「でしょうね」

 

 二人で結論を出して朱乃の方へと視線を戻す。

 

「私、男の人にそんな事を言われたのは初めてでしたわ。その日以来、私は彼の言葉が本当かどうか色々試して来ました」

 

「あなたのしているセクハラってそういう意味だったの?」

 

「最近は趣味半分、役得半分ですわね。気に入った殿方を公然と触れるというのは、なかなかに良いものですわ」

 

 ……白野。親友として許可するから一度真剣に叱りなさい。でないとあなた、これからもセクハラされまくるわよ。

 

「――じゃ。私は仕事があるからこれで」

 

 あ! 面倒臭くなって逃げたわねソーナ!

 

 眼鏡を掛け直したソーナが元々用事のあった花壇のある中庭の方へと足早に去っていく。その背中が『話しかけるな』という無言の拒絶を語っていた。あれはきっと声を掛けても止まらないわね。

 

「はぁ。白野の言葉じゃないけど、他の子にまでそんなことしないで――」

 

「する訳無いでしょ」

 

 私が全部言い終える前に朱乃が底冷えするような冷たい声色で即答する。そんな彼女の瞳には……光が無くって無い!? 無いわよ朱乃! 目に光が無いわよ!!

 

「私がそういうことをするのは白野君だけよ。フフフ。私、見た目通り貞淑な淑女ですわよ部長」 

 

「ア、ハイ」

 

 朱乃は興奮するとドSな所はあったけど、こんな面もあったのね。正直怖いわ。

 

 親友の意外過ぎる一面に戸惑いながら、私はそんな親友に気に入られた白野に少しだけ同情した。

 




朱乃さんを完全に惚れさせるか迷いましたが、ちょっとここで完全に惚れて本編並みのアタックをされると今後の展開がキツイでの寸止め状態を維持することにしました。


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