岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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男二人の夜会話回です。



【かつて通った道】

 はぁ。黒歌になんて報告するか。

 

 まさか小猫ちゃんが黒歌の妹で、しかも冥界では黒歌は既に死亡扱いとは。

 

 小猫ちゃんの話に頭を悩ませながら、それでも日数は過ぎて合宿は五日目に突入していた。

 

 ここ最近の変化で言えば祐斗と朱乃さんはよく組み手をするようになった。

 

 二人は互いに魔法や剣の属性を変えながら瞬時に状況に合った攻撃を行う訓練をしている。

 

 小猫ちゃんはあの話以来、よく一緒に森で訓練している。そのお陰かよく話をするようになった。なんというか妹が出来た気分だ。

 

 訓練内容は仙術で気配を消したり感じたりができる自分が、小猫ちゃん目掛けて遠くから石を投擲し、それを避けるというものだ。もちろん組み手も行っている。

 

 最初の頃は小猫ちゃんも上手く避けられずによく石に当たっていたが、最近は五感をちゃんとフルに使って探るようになったのか、徐々に当たらなくなってきた。

 

 リアス先輩は個人練習の間は一人で黙々と滅びの魔力を練る練習をしている。

 

 山の彼方此方にクレーターが出来上がっている。そしてそれは日を追うごとに深く大きくなっている。さすがはリアス先輩、才能の塊だ。

 

 アーシアは魔法の才があったのか、基本の魔力操作は覚え、今は神器の訓練と同時に自身を守る為の魔法の練習をしている。

 

 そして最後に一誠。合宿開始時は燃えていた彼は……自信を喪失していた。

 

 一誠はけっして弱くない。が、やはり悪魔になり立てであり、実戦経験の少なさから、他のみんなに付いて行くのがやっとと言った感じだ。

 

 個人的にはそれでも十分凄いと思うが、一誠はそうは思えないらしく、悔しげに拳を握る姿を何度か見かけた。

 

 ……まぁ話すしかないよな。

 

 本当はリアス先輩あたりに慰めてもらった方が、一誠も喜ぶかもしれないが、彼女は彼女で今回のゲームへのプレッシャーを感じているせいか、少し気張り過ぎている気がする。

 

 なんとか上手い事二人っきりに出来ないものか。

 

 そんな事を考えながらリビングで本を読んでいるリアス先輩を横目に、男子が寝泊りする部屋に入ると、祐斗はもう眠っていたが、一誠が思い詰めた顔で天井を見ていた。

 

「あ、お帰り白野」

 

「ああ。なぁ一誠、少し話さないか?」

 

「え? ああ、まあいいけど」

 

「んじゃ、祐斗はもう寝てるし、バルコニーで話すか」

 

 各部屋に取り付けられたバルコニーに出て二人で空を見上げる。

 

「う~ん男二人で見ても悲しいだけだな」

 

「いや、そりゃそうだろ。何が悲しくて男と二人で夜景をみにゃならんのだ」

 

 こちらの言葉に一誠が盛大にツッコむ。さすがは一誠、落ち込んでいてもツッコミを忘れないのは素晴らしい。

 

「ははは、まったくだな。で? 随分悩んでるみたいだけど何を悩んでいるんだ? 話くらいなら聞くぞ?」

 

 バルコニーの手摺に腕を乗せて寄りかかってそう尋ねると、一誠はしばらく悩んだあと、バルコニーの手摺に背を預けてため息を吐いた。

 

「なあ白野。俺、本当にゲームで役に立つのかな?」

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

「決まってるだろ。今回の合宿に参加した中じゃ、俺が一番弱い」

 

 悔しそうに、いや実際に悔しいのだろう。一誠は拳を握って眉を寄せる。

 

「お前には凄い神器があるじゃないか」

 

「でも俺にはそれを活かせるだけの強さがない。強くなる前にやられたんじゃ意味が無い。祐斗や小猫ちゃんと戦って、そのことがよく分かった。俺には戦いの才能なんかない。朱乃さんや部長の指導で分かった。俺に魔法を使う才能はない。アーシアやお前のように回復なんていう役に立つ能力も無い」

 

 俯く一誠。その姿が……かつての自分に重なった。

 

「……なあ一誠。自分は生前、どんな存在だったと思う?」

 

「え、昔のお前? ん~そりゃ、今みたいにみんなに頼られる、頼り甲斐のある奴だったんじゃないか?」

 

 一誠のその言葉につい笑いが込み上げる。なんせ正反対なんだから。

 

 自分の笑い声に一誠が怪訝な表情をしたので謝罪してから正解を伝える。

 

「正解は、一人では何も出来ない落ちこぼれだ」

 

「……は?」

 

 ありえないといった表情をする一誠に、自分は懐かしい気持ちを感じながらゆっくりと語った。

 

「自分はただ『魔術師としての才』があった一般人で、巻き込まれる形で争いに関わった。しかも魔術師としての才能はもっとも低いランクでギリギリ魔術が扱える程度のレベル。知識も経験も無い訓練も受けていないまさに最弱な魔術師、それが生前の自分だ……どうだ一誠、誰かに似てないか?」

 

 そう言って一誠を見ると彼は少し驚いたように目を見開いていた。

 

「強く見えるのはそれなりの理由がある。大抵辛い経験をしている。お前だって、アーシアを失いかけて強くなろうとしているだろ? つまり……ここにいるみんなはお前と同じように思って、強くなろうと鍛えてきたって事さ。スタートラインは同じだ。だから、諦めるな」

 

 そこで言葉を切って自分の手を見詰める。

 

「少なくとも自分はそうやって『強くなった』。時に厳しく、時に優しく、こんな最弱な自分を見限る事無く傍で見守り、助けてくれた仲間が居たから、諦めずに頑張れた。だからこそ、今の『強く見える』だけの力を得られた自分が在る」

 

 この手に宿る力は彼らとの絆によって培われた物だ。そしてそれは同時に、初めて自分で手にした『力』でもある。

 

 だからこそ。貫きたいと思う。自分の信念を。こんな自分を頼もしいと、好きだと言ってくれた。彼らの為にも。

 

「一誠、どうか自分の弱さから逃げないでくれ。弱い事を知ることは同時に強くなる為にどうすればいいかを考えられるってことなんだから」

 

「白野……」

 

「それとな一誠、自分達はお前と同じで『生きているんだ』。だから表面は大丈夫に見えても、弱気になっている人もいる。お前以上にな」

 

 手摺から身体を放して月を見上げる。

 

「俺以上に? だ、誰だよ?」

 

「リビングにいるリアス先輩に会いに行くといい。そしてさっき自分に言った事を実践して、彼女にもその弱い部分を話してみな。きっと自分よりも明確に答えをくれるはずだ。そして出来れば、彼女の話も聞いてあげてくれ」

 

「リビング……分かった、行ってみる」

 

 一誠は頷きバルコニーと部屋を繋ぐ扉の取っ手に手をかけるが、ドアを開けずに一度こちらに振り返った。

 

「ありがとうな白野。なんか少しだけ、気持ちが楽になった」

 

 一誠は照れた様子でそれだけ言うと今度こそ部屋へと戻る。

 

 あとは一誠の王であるリアス先輩と、リアス先輩の兵士である一誠の仕事だ。

 

 いずれは一誠も他のみんなも、自分なんて置いて前を走るようになるだろう。それこそ物理的にも、精神的にも。だからこそ、彼ら自身が強さを手に入れて進んで行くしかない。悩みながら、傷つきながら。

 

 頑張れよ一誠。自分は所詮はただの人間だ、してやれることなんて高が知れている。でもお前の友達で居られる間は、全力で支えてやるからな。

 

 

 

 

 翌日。一誠とリアス先輩の表情が晴れやかになっていた。どうやら二人共お互いに色々と立ち直ったらしい。

 

 二人揃ってお礼を言われたから、多分一誠が自分と話し合ったことを伝えたのだろう。

 

 因みに快気祝いのように二人揃って全力で倍加した魔力の魔弾と、全力で溜めた滅びの魔力の魔弾を放って近場の山の半分以上を消し飛ばした……私有地だからいいが、お前らそれは人の居る町では空に向けて放つ以外では絶対に使わせないからな。絶対に!!

 

 




という訳でリアスと一誠の励ましに介入するハクノン。
リアスと一誠の会話は原作とほとんど変わらないので丸々カット。ごめんよ二人共。


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