岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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という訳で前回の続き。



【改めての協力関係】

 出会って初めて、グレイフィアさんが殺気を放った。その殺気に中てられたのか、全員が息を呑む。

 

 だが彼女の反応は当然だと自分は思う。グレイフィアさんからすれば身内に得体の知れないものが近付いているのだ。警戒するのは仕方が無いだろう。

 

 だがどうしたものか……。

 

 正直、自分の事をある程度話す分には問題ない。むしろみんなにはゲームの為にも自分の事情を少しは説明しておいた方がいいだろう。

 

 問題は目の前のグレイフィアさんだ。

 

 彼女はあくまでもグレモリー家に仕えている者であり、自分とはそれほど深い関係でもない。

 

 それに彼女がリアス先輩にとって味方かどうかも分からない。なんていうか、仕事とプライベートは別けそうな気がする。さっきもリアス先輩を助ける素振りすら見せなかったし。

 

「……分かりました。ただし、全てを話すつもりはありません。あなたから情報が漏れる可能性もある。だから漏れても問題の無い範囲でお答えします」

 

 グレイフィアさんとしばし睨み合う。少なくともこちらは譲るつもりは無い。その意志を込めて彼女の瞳を捉え続ける。

 

「……いいでしょう。ではまず、あなたのその年齢と精神の不一致から聞かせていただけますか?」

 

「そうですね。自分は所謂転生者と呼ばれる者です」

 

「「ええええ!?」」

 

 自分の言葉に大げさだろうと言えるほどの叫びを上げる一誠とアーシア。なんというか、仲がいいね君達。もう付き合っちゃえよ。

 

「お、お前、転生って!? マジか!?」

 

「そんなに驚くことか? 一誠だって自分と同じ立場だぞ。違うのはただ人間か悪魔かの違いくらいだぞ。自分も生前、寿命で死んだ訳じゃないし」

 

「え、それって」

 

 朱乃先輩が少し戸惑うように呟く。

 

「生前。自分はまぁ、戦いに身を投じていた身なんだよ。リアス先輩に偉そうに説教した大半は、自分が尊敬する人達の受け売りと、自分が体験して身に沁みてる経験談だ。うん、思い返すと正直恥ずかしいな」

 

 苦笑しながら答えるが、場の空気は少し重い。

 

「ふむ、戦に従事していた、ですか。内容は?」

 

「悪いが教える訳には行かない」

 

 グレイフィアさんが眉を吊り上げる。それを無視して理由を説明する。

 

「人を殺したことがあるってだけでも十分な情報だと思います。それに自分にとっては良くも悪くも大事な思い出です。その思い出を赤の他人の貴女に説明する道理は無い」

 

「………いいでしょう。その目を見る限り、殺されても話しそうにありませんし、折れましょう。次にあなたのその力量は独学で?」

 

「仙術や格闘術の基礎を教えてくれた師匠は居ますが、名を明かすつもりはありません。光力に関しては堕天使と主従契約してから使えるようになりました。これはリアス先輩達も知っている情報ですね」

 

「白野あなた仙術が使えるの!?」

 

「仙術を用いた基礎の格闘術だけです。それだってまだまだ」

 

 驚きながら目を見張るリアス先輩に別に仙術の全てが使えるわけではないので一応釘を刺しておく。自分には黒歌のような才能は無いから地道に努力するしかないのだ。

 

 それと黒歌の事は伏せる事にした。黒歌についてはリアス先輩達にも明かすことは無いだろう。少なくとも彼女の身の安全が保障されるまでは。

 

「……神器、仙術、光力。なるほど、確かにそれらを上手く使えば下級悪魔くらいなら戦えるかもしれませんね……ふむ」

 

 グレイフィアさんはまだ何か言いたそうだったが、顎に手を当てて思案する。

 

 その僅かな沈黙を狙っていたかのように、朱乃先輩が口を開いた。

 

「グレイフィア様。もうよろしいのではないでしょうか? 彼は一度、兵藤君とアーシアちゃんを危険を冒してまで助けてくれましたわ。今回も、わたし達の為に戦ってくれると言ってくれました。流石にこれ以上はこちらの陣営に要らぬ不和を生む事になります」

 

「そうですね。何より、僕は彼を信じます。少なくとも負けを望んでいるような者ならあそこまで真剣に、僕達の為に怒ったりはしませんから」

 

「そうだぜ! 白野は約束は守る奴だってことは幼馴染の俺が一番よく知ってる! 例え白野がどんな過去を持っていても、俺達の仲間です!」

 

 一誠が叫ぶと、それに同意するように小猫ちゃんとアーシアが頷く。

 

「……そうね。グレイフィア、あなたの立場を考えると彼を怪しむのは分かるわ。でも今回の一件、彼を巻き込んだのはこちらよ。そして彼の力は今のわたし達に必要だわ。悪いけど、尋問はそこまでにして頂戴」

 

 ……正直意外だ。まさかこのタイミングでみんなに庇って貰えるとは思わなかった。

 

 みんなやっぱり、さっきの一件には少しは思う所があったてことなのかな?

 

 オカ研のみんなから睨まれる形となったグレイフィアさんは、その視線を真っ向から受け止めると、溜息を一つ吐いた。

 

「分かりました。わたしも別に不和を狙っている訳ではございません。それでは皆様方、ゲームの方、頑張って――」

 

「ま、待った!!」

 

 尋問を止めて帰ろうとするグレイフィアさんを慌てて止める。

 

「なんでしょうか?」

 

 さっきまでのこちらへの疑念が嘘のように、落ち着いた表情のまま、こちらに振りかえる。やっぱり私情と仕事は別けるタイプなのかもしれない。

 

「グレイフィアさんと交渉したいことがあります」

 

「交渉、ですか? 内容によりますわ」

 

 だろうな。でもこの交渉だけは、とりあえずしておいて損は無い。

 

「できればレーティングゲームのルールが記載された資料。それとフェニックスがレーティングゲームで儲かっていると言っていたから、その情報も教えて欲しいです」

 

 自分だけではなく殆どのグレモリー眷属はレーティングゲームの事もフェニックスの事も知らない。これは正直まずい。戦う以前の問題だ。

 

「あっ! そうよフェニックスの涙!」

 

 リアス先輩が思い出したように机を叩く。

 

「グレイフィア、わたしの部屋にもしも用のがあったはずよ。それを持ってきて。それとできれば資料は全員分お願い」

 

「かしこまりました。そのくらいならば問題ないでしょう。ではフェニックスが何故財力が潤沢なのかはお嬢様にお聞きくださいませ」

 

 そう言って、今度こそグレイフィアさんは去っていた。

 

「……あ、あの部長、フェニックスの涙って?」

 

「フェニックス家が生成しているアイテムよ。振り掛けるか飲むかすればあらゆる傷を癒す霊薬。その効果があまりに強い為に、ゲームでは二つまでしか使用できないという規制までされた霊薬よ」

 

 なるほど、読めた。

 

「つまりその霊薬が、フェニックス家の財政を潤していると言う訳ですね」

 

 自分の言葉にリアス先輩が頷く。

 

「その通りよ。フェニックス家はこれを高値で売っているわ。もっとも、数が出回ると恩恵が少ないから本当に高価な上にある程度信頼の置ける相手や付き合いのある者にしか売らない。まぁそれでも闇ルートで数点出回っているという噂は聞くわ」

 

 そうかそうか。つまりリアス先輩は、そんなゲームの勝敗を左右しかねない存在を、今の今まで忘れていたというわけか……。

 

「……リアス先輩。それ、結構重要な情報ですよね? それをさっきまで忘れていたんですか?」

 

 流石にこれは許しちゃ駄目だと思い、責めるように見詰めると、リアス先輩がバツの悪そうな顔で視線を泳がせる。

 

「うっ。お、思い出したんだからいい――」

 

「さっき背負うって言いましたよね? ちゃんと自覚してます?」

 

「……ごめんなさい。わたしが悪かったです」

 

 涙目で項垂れるリアス先輩。さっき庇ってくれた時は格好良かったのに、もっとしっかりして貰おう。なんかこの人、地味にレイナーレに似ている。大事なところで大ポカするタイプだ絶対。

 

「お待たせしました……どうしてお嬢様が項垂れているので?」

 

 その手に資料らしき紙束と、液体の入った掌サイズの綺麗な細工が施された二本のカラス瓶の入った手提げのついた籠を持って戻ってきたグレイフィアさんが、わずかに眉を曲げ、怪訝な表情をする。

 

「フェニックスの涙について忘れていた事を説教しています」

 

「ああ。それはお嬢様が悪い」

 

 しかし理由を知ると表情を戻して庇うどころか止めを刺した。流石だ、容赦が無い。

 

「ちょっ、グレイフィア! 少しは擁護してくれもいいじゃない!」

 

「良い機会です。王として自覚してくださいませ。では月野。こちらが所望のレーティングゲームの資料と、フェイックスの涙です」

 

「なんで白野に渡すのよ! 一応それ、わたしのなんだからね!」

 

 グレイフィアさんがリアス先輩を無視して自分に向けて荷物を差し出す……あれ? この人さっきまで自分をフルネームで呼んでいなかったか?

 

 ……ま、いいか。

 

 些細な事なのでとりあえず気にせずにお礼を言って受け取る。

 

「ありがとうございます、グレイフィアさん」

 

「いいえ。それでは皆様、ゲーム当日に会いましょう」

 

 グレイフィアさんは最後まで態度を変えずに今度こそ冥界へと帰還し、リアス先輩は改めて座り直して宣言した。

 

「さて、白野に関しては色々訊きたいけど、とりあえず無視するわ。今は一分一秒も無駄には出来ないのだから。という訳で合宿を行おうと思うわ。もちろん白野、あなたも参加して貰うわよ。わたし達にあれだけ言ってのけたのだから、期待させて貰うわ」

 

「ああもちろん!」

 

 リアス先輩の期待の篭った視線に、力強く頷いて答えて見せる。

 

 こうして自分達は十日間の合宿を行う事になった。

 

 

 

 

「ふむ。妥協点といったところでしょうか」

 

 わたしは屋敷に戻ると先程のリアス達の行動を思い出してそう呟く。

 

 前半のライザーへの対応は正直落第点と言ってもいい対応だったが、その反省を活かして月野をちゃんと庇えた点は少しは評価できる。

 

 

 光力に仙術。どちらも悪魔にとっては脅威だ。彼が何処まで扱えるかは知らないが、少なくともマイナスにはならない。むしろ勝つことを考えた場合、あそこで月野を庇い仲間に引き入れるのは当然の選択でしょう。

 

 わたしとしてはもう少し情報を得てから止めて貰いたかったのですが、しかたありません。

 

「さて、御両家にゲームの事をお伝えしなければ」

 

 頑張りなさいリアス。

 

 わたしは心の中で愛しい義妹(いもうと)へと激励を送り、両家への説明へと向かった。

 

 




ようやく次回から合宿。まだまだ先は長いなぁ。


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