岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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かなり悩んだけどこのような形になりました。正直かなり書き直して、煮詰まりそうだったので一番良い出来のをさっさと上げる事にしました。色々言いたい事は後書きに~。




【メイドの危惧】

「……どういう意味かしら白野?」

 

「貴女には人の上に立つ資格が無い」

 

 人間。月野白野は先程と同じように、簡潔にはっきりと告げる。リアスはしばし唖然とした後、その目を不機嫌そうに歪めた。

 

 やれやれ、どうしたものかしらね。

 

 わたしは心の中で嘆息する。

 

 グレモリー家に仕えるメイドとしては、月野白野を止めるべきなのかもしれない。しかし彼の言葉は正しく。今のリアスには人の上に立つ資格は無い。

 

「待て待て待て! おい白野言い過ぎだ!」

 

 一触即発の雰囲気で睨み合う二人の間に、問題を起こした当人である兵藤一誠がリアスを庇うように割って入る。

 

「言い過ぎ? 自分の部下が怪我をするのが分かっていながら、それを止めずに見過ごしておいてか?」

 

 兵藤一誠とリアスが目を見開く。

 

 その通りね。力量を見誤るのは、まぁ経験不足として今は目を瞑るとしても、それまでのライザー・フェニックスへの暴言もまずい。本来ならあの時点でリアスは兵藤一誠を注意すべきだった。

 

 にしても、普通の人間が悪魔の動きを見切るか……月野白野の力量にも興味があるわね。

 

 そもそも彼には出会った当初からおかしな部分が多かった。

 

 わたしの気配を見抜く力量。

 

 ライザーが現れてからの彼に対しての対応。

 

 そしていざゲームの参加が決まった瞬間から、相手を測るかのような冷静な態度。

 

 彼の価値観はあまりに年齢とつり合っていない。少なくとも一般人が僅か数年で得るようなものではない。

 

 さて、その辺りの部分も気になるし、もう少し様子を見るとしましょう。

 

 わたしは月野白野の行動を止めず、あえて傍観に徹して彼を観察することにした。

 

「……リーダーの最低条件は、仲間の想いと未来を背負い立つこと。なのにリアス先輩はその事をまるで理解していない」

 

 面白い。今の言い方ではまるで月野白野はそれを理解しているかのような口ぶりだ。

 

 いや、事実理解しているのでしょうね。彼の目にはそれだけの力強さがある。

 

「わ、わたしはしっかりと覚悟を持ってこの場所に、彼らの主として立っているわ!」

 

「立っているだけで背負っていないだろう! 軽くないんだよ! あんたの眷属達の命や想いは!!」

 

「っ!?」

 

「リアス先輩だけじゃない! 他のみんなもだ! どうしてリアス先輩や一誠を落ち着かせなかった! 二人の性格は、お前らが一番よく知っているだろう! 仲間だからこそ、大事な時に暴走を止めてやるべきじゃないのか!」

 

 彼の言葉に三人は反論せずにただ悔しげに俯く。

 

 確かにあそこで朱乃がリアスを落ち着かせていれば、ここまで場は荒れなかったでしょう。そして祐斗や小猫の力量ならば兵藤一誠とミラの間に割って入り、彼を庇えたかもしれない。

 

 経験不足故に咄嗟に行動が起こせなかった。そんなところでしょう。

 

 もっとも、それ自体が問題だ。大事な時に適切な行動が取れないというのは、結局自分達の首を絞める結果に繋がる。彼らもまた、自分がいかに未熟であるのかを理解すべきだろう。

 

 ふむ……もしかしたら月野白野は、託された末にその立場になったのかもしれないわね。

 

 背負う側と託す側。そのどちらの視点も持っているかのような彼の言動に、わたしはそう結論付ける。

 

「もし今回のゲームに負けたら、お前達はずっと見続ける羽目になるんだぞ。辛そうにするリアスを、申し訳なさそうにする一誠達を。お前達はそれに耐えられるのか?」

 

 月野白野の言葉にリアスは再度言葉を失い、そして……周りを見渡す。

 

「……すんません。俺、部長が辛い顔でアイツと一緒に居たら……多分殴っちまうと思います。例えそのせいで殺されても」

 

「……僕も一誠君に同意です」

 

「そうね……わたしも、貴女の立場が良くなるなら、メイドの真似事や、身体くらいなら好きに触らせてしまうでしょうね。流石に本番は許さないけど」

 

「同じく」

 

「わ、わたしもです!」

 

「みんな…………」

 

 全員の言葉を聞き終えると、リアスはよろよろと力無く椅子に座り込んでしまう。その仕草はまるで重い物に圧されて立っていられなくなったかのような動きだった。

 

 ようやく気付いたようね。信頼という名の重圧、『責任』に。

 

 それは組織に属する者なら誰もが背負う物。ある意味このグループにもっとも欠落していた物と言ってもいい大事な物だ。

 

 なまじリアスと朱乃が優秀な上に財と権力があったのがいけなかったわね。そのせいで大抵の事がどうにかなってしまったから。

 

 もっとも、まだ十代のリアスをそんな立場にしてしまったわたしやサーゼクスにも責任がある。

 

 だからこそ、今回のゲームには勝って欲しいと思っている。その為にわたし達は現状で出来うる限りのサポートを行うつもりでいる。

 

「…………もし、もしも次のゲームに負けたら……わたしのせいで、みんなにそんな思いをさせてしまうの?」

 

 しばしの沈黙のあと、リアスは弱々しくそう尋ねた。

 

 誰もが沈黙する中で、やはり最初に答えたのは月野白野だった。

 

「その通りです」

 

 はっきりと。無慈悲に叩きつけるように放たれる。だがそれは誰かが言わなければならない言葉でもあった。

 

 損な性格をしているわね、彼は。

 

 少しだけ目の前の少年に同情すると共に、親近感が沸いた。思えば自分も似たような立場だ。

 

 少しでもいいから、あの人達もわたしの気苦労を背負ってくれないかしら。

 

 問題児だらけの友人達の行動に巻き込まれて後始末をしたり、そんな彼らを諌めるために厳しい言動が増えた。気付けば親しい者以外からはかなり恐れられてしまっている。

 

 わたしが自分自身の現状に内心で溜息を吐いていると、今度は月野が口を開く。

 

「でも戦わないという選択肢は無い。そんな事は自分達が許さない」

 

 確かにそうね。リアスが結婚を認めてしまえば回避できるけど、それは彼女の仲間が絶対に許さない。

 

「まだ十日ある。正直自分の情報分析だとマイナスからのスタートだと思う。でも同時に勝つ見込みもあると思う」

 

 月野はそう言って全員を見渡す。

 

 彼の言葉に、部員達は顔を上げる。誰もが疑問を感じている顔だった。もちろんわたしもだ。何を持って勝機があると思っているのか、実に興味深い。

 

「それはどうしてだい?」

 

「だってもう向こうは勝った気でいる。慢心してる。故にそこを突いて倒す」

 

 祐斗が尋ねると、月野は確信を持って頷き答えた。その答えにわたしは内心でなるほど。納得する。

 

 確かにライザー陣営に勝つには彼らの驕りを付くしかない。しかも先の一件で彼らはこの子達を完全に舐めきっている……中々どうして、よく視ている。

 

「慢心、するでしょうか?」

 

「するよ。だって負けた事が無いんだから。しかも相手から見ればこちらは格下も格下だ。慢心に慢心してゲームに挑むと思う。少なくとも彼らにとってはこの試合は『その程度』の重みしかないのさ」

 

「それはそれで腹立つな」

 

 小猫の言葉に月野は断言し、兵藤一誠がそれを聞いて憤る。

 

「それが、背負っている物、賭けている物への想いの差だよ一誠。それを自覚できているのと、できていないのとでは、戦いで大きな差が出る。みんなはもう自覚できたよな?」

 

 彼の言葉に、誰もが小さくではるが頷く。

 

「だったら大丈夫だ。それを自覚している限り、自分達は最後まで屈せずに戦える。諦めずに足掻ける!」

 

 熱が篭る月野の言葉。そしてその言葉の熱が伝播するかのように、彼らの顔に活力が戻って行く。

 

「勝つぞみんな!」

 

「当たり前だ! 絶対に負けねー!」

 

「はい! わたしも頑張ります!」

 

 拳を上げて高らかに宣言する月野の言葉に、まず兵藤一誠とアーシア・アルジェントが答えるように同じく拳を上げる。

 

「うん、勝とう。絶対に」

 

「はい」

 

「そうですわね」

 

 祐斗、小猫、朱乃もまた、先程での暗い表情から一変して決意の篭った力強い表情で頷き合う。

 

「みんな…………ええ、勝ちましょう。わたしだけの為じゃない。ここにいる『全員の未来』の為に!!」

 

 リアスは目尻に浮かんでいた涙を拭い、いつもの自信に満ちた表情と共に立ち上がり、全員を見据えて宣言した。

 

 ……凄いわね。

 

 純粋に感心する。経った数十分の叱咤激励。それだけで彼らの雰囲気はもはやライザーが現れた時のような学生気分など無くなり、今では絶対に負けられないと言う戦う者の顔をしている。

 

 だが、だからこそ危険だとも思う。

 

 今は月野が味方だからいいが、もし彼のその手腕が敵として振るわれる事になれば、間違いなく我々悪魔にとって脅威となるに違いない。

 

 故に、わたしは口を開く。今ここで、彼の正体を暴き、そして見定める為に。

 

「話は纏まったようですね。ではお嬢様……その者はいったい何者です」

 

 今まで無言を貫いていたわたしの声に、全員が注目し、リアスが僅かに戸惑う。

 

「何って、月野白野よ。貴女には言ったでしょう。神器を持った人間の男子生徒に正体を明かしたって」

 

「名前の件ではありません。この者は普通の人間ではない。神器が有る無しではなく、その精神構造があまりにも現在の年齢と釣り合っておりません。もう一度お尋ねいたします……あなたは何者です?」

 

 わたしは今度こそ明確な敵意を持って、月野を睨む。さあ、答えて貰いますよ。あなたの正体を。

 




ふふふ、実はこの話、五回も書き直してるんだぜ……orz。

いやね……正直原作読み返してもグレモリー側に突っ込み所が多過ぎるのよ、この場面。

そのせいで白野視点だと二話に跨ぎそうになったので、結局白野よりの第三者視点で描く事に。まあグレイフィアさんから見た白野の視点が書けたので嬉しい誤算ではありましたね。

あと全然関係ないけどこの話を読んでると白野がスキル:カリスマを持っているように思えて仕方が無い(実際一組織を率いたし、最低ランクのEくらいは所持してるかな?)



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