岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
「あのね一誠。流石に人間がゲームに参加する事は不可能よ」
「え? そうなんですか?」
一誠がグレイフェイアさんに視線を向けると、グレイフィアさんは、そうですね。と前置きしてから口を開いた。
「……正式なゲームではダメですが、今回のような非公式では人数や実力差に大きな差が出てしまう事もあるので、対戦者同士が認めた場合、助っ人の参加も認められております」
淡々と告げるグレイフィアさん。そして参加はどうやら可能みたいだ。
「ふん。俺はべつに構わないよリアス。この場所にいるんだ。そいつも神器くらいは持っているんだろう? まぁ、人間相手となると手加減が難しくて殺してしまうかもしれないが」
うわぁ侮られてるなぁ。ま、事実だけど。そもそも悪魔と自分では肉体のスペック、特に耐久面での差は歴然だ。まともに戦えば確実に殺される。
でも、このままだとリアス先輩側が不利な気がする。少なくとも不死対策は必要だ。そうなると仙術や光力が使える自分が居た方が、何かの役には立つかもしれない。
「リアス先輩。とりあえず今は一人でも戦力を得るべきだ。役割を終えた後は最悪安全な場所に退避でもしておくよ」
「けれど……いえ、そうね。悩んでいる程の余裕なんて無いわ。私も白野の参加を承諾するわ」
「かしこまりました。ではグレモリー陣営に助っ人として月野白野の参加をお認めいたします。この事もお二人の御両親およびリアスお嬢様の兄であるサーゼクス様にもお伝えいたします」
さて、提案した瞬間にレイナーレと黒歌によるダブルお説教の光景が脳裏を過ぎったが、まぁきっと現実のものとなるだろう。帰りたくない。
ま、言っちゃったもんはしょうがない! あとは全力で勝ちに行くだけだが、情報が不足しすぎているな。ライザーは余裕そうだし、慢心してさらに情報を漏らしてくれないかな?
「それにしてもリアス。君には同情するよ。こんな木っ端人間の力も借りなきゃいけないなんて」
そう言ってライザーがキザったらしく指をパチンと鳴らすと、彼の周りに魔方陣が浮かび、そこから十五名の様々な格好の女性が現れる。黒い半透明の悪魔の羽が見えるから、彼女達がライザーの眷属悪魔なのだろう。それにしても……。
「全員女性だね」
祐斗の言葉に頷く。しかも格好と態度でどの駒なのか判り易い。
魔法使いっぽいのは僧侶だろう。そして甲冑を着ているのが騎士。動きやすそうな武道家っぽいのは戦車かな。ライザーの一番傍で自信に満ちているのが女王。格好がまちまちなのは多分兵士だろう。武器を持っているものや杖やローブを着ているから得意なことが丸わかりだ。
格式を大事にしているということだろうか? まぁゲームなんだから別にいいんだろうけど、自分だったら同じ制服で誰がどの駒かを隠すかな。
とりあえず全員の容姿、衣装、武具を観察して頭に叩き込む。
「なんて奴だ……」
その最中にそんな囁きが聞こえてそちらに振り返ると、号泣している一誠がいた。その姿にライザー、ライザー眷属の女性達はドン引き。グレイフィアさんは若干引き気味。ちなみに部活のみんなは呆れている。もちろん自分も。
きっとハーレムの部分に感動しているのだろうが、流石にあれに憧れたら駄目だろう一誠、お前のキャラじゃないよ。
ライザーがリアス先輩に理由を尋ねると、リアス先輩が眉間を抑えながら一誠がハーレムに憧れていることを伝える。するとライザーは一誠の方を見て、心底馬鹿にしたような嫌らしい笑みを浮かべ、眷属の女達も一誠を馬鹿にするような笑い声を上げる。
ライザーはそんな彼女達止めるが、その顔は一誠を馬鹿にしたままであり、更に一誠に見せ付けるように、女王と思しき女性と所謂大人のキスを見せ付ける。まったく青少年になんてものを見せているんだ。
「ふぅ。どうだったかな下級悪魔君? ま、どうせ君にはこんな事、一生無理だろうけどな」
「う、うるせー! 俺が思っている事そのまま言うなー! ブーステッド・ギア!」
あ、一誠もそう見えてたかって、おい!?
一誠が悔しそうに叫んで神器を発動させる……おいおいこっちの情報の一つが洩れた。しかも間違い無く自分達のキーとなる神器の情報が。
「落ち着け一誠!」
「落ち着けるか! 大体こんな女誑しと部長は不釣合いだ!」
「おいおいお前だってハーレム目指してるんだろ? 俺は駄目でお前はいいのか? つうかそんな俺に憧れてるんだろ?」
一誠が痛いところを疲れたという顔をするが、すぐに頭を振る。
「う、うるせぇ! それと部長の事は別だ! 大体そんなんじゃ、先輩と結婚しても他の女の子とイチャイチャする気だろ!」
……いや一誠。そりゃそうだよ。だって眷属にした以上は主として面倒を見ないと駄目だろう。じゃないとはぐれになっちゃう。っていうか、何故止めないリアス先輩!?
リアス先輩に視線を向けるが、彼女は介入するそぶりが無い。それどころか口にはしていないが、一誠の態度を喜んでいるように見えた。まぁ個人的にその気持ちも解るが、上に立つ者なら、今は一誠を止めるべきだ。
「英雄、色を好む。確かお前ら人間界のことわざだったか? いい言葉だ」
「はっ。何が英雄だよ。お前なんてただエロいだけの種まき鳥じゃねえか! お、火の鳥だけに焼き鳥ってか!」
一誠が改心の出来とばかりの挑発的な笑みを浮かべる。
「焼き鳥!? こ、この下級悪魔がぁぁああ! リアス! 下僕悪魔の教育がなってねぇぜ!」
先程まで余裕の表情をしていたライザーだったが、流石に焼き鳥発言は許せなかったのか、顔を怒りに歪めてリアス先輩に注意するが、リアス先輩は鼻を鳴らしてそっぽを向いてライザーの言葉を無視する。
まずい。非常にまずい。このままでは最悪一誠が暴走してこの場で相手に攻撃しかねない。もしそれで一誠が怪我をする。もしくは相手がわざと怪我をしてこちらに何かしらのペナルティを科そうとするかもしれない。
まぁ後者は無いな。今のライザー陣営には強者としての余裕がる。現に主が馬鹿にされても眷属達は余裕の表情だ。そのくらいの暴言は許してやろうと言う寛大さが伺える。この辺が戦いに関する経験の差なのかもしれないな。
「ゲームなんて必要ない! 俺がここぜ全員ぶっ倒してやる!」
自分の予想通り、一誠が暴走して気合の入った叫びを上げて構えるが、ライザーは心底冷めた目で受け止め、嘆息した。
「……ミラ、やれ」
「はい。ライザー様」
ミラと呼ばれた棍を持った悪魔が一誠の前に出て構え、一誠も神器を構える。お互いに構えを取ったのを合図と判断したミラと呼ばれた少女の闘気が高まる。しかし一誠に動きが無い。
「備えろ一誠!!」
「……えっ?」
一瞬だった。
一誠はこちらの声に反応できないまま、呆けた表情のまま腹に一撃貰い、そのまま壁まで吹き飛び叩きつけられた。
ダメだ。一誠には今の動きが見えてない。
幸いアーシアがすぐに回復してくれたおかげで一誠の怪我もたいした事はなさそうだ。だがこれでアーシアの能力も割れてしまった。
情報をいっきに二つも失ったか。
「ミラはうちで一番弱い兵士だ。解かったか下級悪魔君? それが今のお前の実力だという事だ。もし俺が自分で手を下していれば腕一本くらいは消し飛んでしまっていただろうな。まぁ神器は左腕だし、右手は無くても発動するだろ?」
つまらなそうに嘆息しながらライザーが一誠に向かって言い放つ。
「だが、赤龍帝の籠手の力への興味もある。そうだな……十日、十日の猶予をやろう。どうかなリアス?」
「……私にハンデをくれるって言うの?」
「嫌か? 屈辱か? だがな、レーティングゲームはそんなに甘くない。個人の感情や力だけで勝てるもんじゃない。一番重要になるのは部下の力を引き出し活かせるかだ。才能がいくらあろうがそれが出来なければ敗北する。俺はそういう奴らを嫌というほど見てきた。それに修行の期間を与えて万全に準備した君を倒せば、君も、そして君の下僕達も納得は出来なくても、否は唱えられないだろう。で、どうする?」
ライザーが尋ねるが、リアス先輩は何も言わなかった。つまり、それが答えだ。
ライザーは呆れたような笑みを浮かべて肩を一度竦めると、眷属達の元に向かい、足元に魔方陣を展開した。
「俺は君の才能も買っている。君なら十日もあれば少しは下僕をましにできるだろ。それと下級悪魔君。リアスに恥をかかせるなよ。まがりなりにもお前もリアスの兵士。お前の一撃が、主の一撃だと言う事を忘れるな」
最後にそれだけ伝えてライザーは消えた。
……やっぱり自分はあいつが心底嫌いにはなれない。
才能ある者の驕りからくる事実を突きつける為の発言。だがそれは同時に今の自分達の現状を明確に伝えてくれてもいる。つまり、こちらの弱い部分を教えてくれてたということだ。
まぁ友好的じゃないし、高圧的だが、それは個性って事で我慢できるしね。
「さてっと」
問題はこっちだな。
立ち上がって溜息を吐くと、とりあえず一番最初に注意すべき相手の下へと向かう。
「リアス先輩」
「な、何かしら白野?」
急に立ち上がって目の前に来た自分を怪訝な表情で見上げるリアス先輩。そんな彼女に向かって……はっきりと言ってやった。
「あなたは……王失格です」
ゲームシステム(EXの方の)で言えば身内が自爆して情報を二つ対戦相手に開示したような物ですね。
二巻のリアス先輩はねぇ。正直誰かが言ってやれよってくらいの無能王状態だから『失格!』言われても仕方ないね!