岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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と言うわけで事件後の後編です。



【堕天使長からのプレゼント】

「で、これがその時の写真」

 

「ぷっ」

 

 小猫ちゃんが堪らず顔を逸らし噴出す。

 

「はわわ、あのレイナーレさんがこんな格好を!?」

 

 アーシアは心底意外そうな顔で写真を覗き込む。

 

「なんか複雑だ。初恋の女の子が辱めを受けている写真を見るなんて」

 

「強く生きろ一誠」

 

「お前が言うな! というか夕麻ちゃんが突然食に目覚めたのはお前が原因かよ!」

 

 複雑な表情の一誠の肩を叩いて慰めると泣きながら掴みかかってきた。

 

「いやだってタイヤキ渡さなかったら殺されてたし」

 

「タイヤキで助かる命もどうなんだろう?」

 

「それにしても人の有無をちゃんと確認せずに現れるなんて」

 

「しかも得意げな笑みを浮かべてドヤっていた」

 

「「ぷっ」」

 

 想像したのかついに祐斗と朱乃先輩も堪らず噴出す。

 

レイナーレの事情を説明し始めた当初は緊迫した空気だったが、彼女との出会いから語り始め、彼女の残念な行動を話す内に、いつの間にか空気はがらりと変わってしまった。

 

「にしても複雑だ。俺を殺したのも夕麻ちゃんなら、アーシアを救う手助けをしてくれたのも夕麻ちゃんだなんて」

 

「……まぁ、悪魔にも色々あるように、堕天使にも色々立場があるんだろうさ。いつかもし出会う事があったら、今度はしっかり話してみるのもいいんじゃないか」

 

 一誠が溜息を吐く。正直に言えばレイナーレの話をするか迷ったのは一誠が理由だ。

 

 一誠にとっては少なからず心に傷を負う出来事だったはずだ。多分、レイナーレが主犯として計画通りにアーシアを殺していたら……一誠にとっては恋そのものがかなりのトラウマになっていたかもしれない。

 

 幸いそこまで気にしている様子はない。少しは時間が掛かるかもしれないが、一誠もいずれはまた新しい恋をするだろう。なんせ切っ掛けはすぐ傍に沢山転がっているわけだし。

 

「そうだな。そうするよ」

 

 一誠の返事と共にこの話は終わり、それを見計らってリアス先輩が椅子から立ち上がって手をパンパンと打ち鳴らす。

 

「さて、それじゃあ話し合いはこんな所ね。ただ白野、今後はレイナーレのような事があったらちゃんと話して頂戴。『問題を起こした相手を逃がした』なんて、この地の領主としての管理能力を疑われてしまうわ」

 

「分かりました。気をつけます」

 

 すいませんリアス先輩。場合によっては隠すと思います。

 

 悪魔がはぐれを殺す事に躊躇いが無い以上は、黒歌の事もあるので素直に報告するのは避けた方がいいだろう。

 

 リアス先輩に対して罪悪感が浮かぶが、致し方ないと割り切る。

 

「よろしい。それと白野、今回の一件であなたはあなた自身で、自身の言葉に嘘が無いことを証明してくれたわ。だから私も改めて約束するわ。あなたは眷属ではないし人間だけど、私達の大切な仲間よ。だから私達があなたを守るし、何かあれば力になるわ。これらかもよろしくね」

 

「よろしくお願いしますわ白野君」

 

「よろしくお願いします白野先輩」

 

「よよ、よろしくお願いします白野さん!」

 

「これからもよろしく白野君」

 

「よろしくな白野!」

 

 リアス先輩の握手から始まり、みんなと握手し合う。嬉しさから自然と笑みがこぼれる。

 

「ああ。よろしくなみんな!」

 

 自分もまた、みんなを見据えて力強く答えを返した。

 

 

 

 

「あれ、黒歌?」

 

 帰宅する途中で散歩帰りの黒歌と出会った。黒歌は嬉しそうにこちらに駆け寄り、指定席である頭の上に上る。

 

 人がいないかを確認し、黒歌に小声で話しかける。

 

「黒歌は散歩?」

 

「ん~まぁそんなトコにゃ」

 

 堕天使がいると分かってから外出を控えていたのでそう尋ねると、彼女はなんと答えるべきか迷うように曖昧な返事を返した。何かあったのだろうか?

 

 家に帰ってから改めて尋ねてみようと思いながら帰宅し自室に戻る。

 

「は?」

 

「にゃ?」

 

 すると、そこには人一人余裕で入れそうな巨大なリボンが付いたプレゼント箱のような物が放置されていた――無断で誰かが家に入ったのだ。

 

 だ、誰だ!?

 

「黒歌!」

 

「ええ!」

 

 黒歌が元の姿に戻り、二人で周りを警戒する。

 

 ダメだ。自分の気配感知では何も感じない。ん?

 

 改めて部屋を見回すと、勉強机の上に朝には無かった便箋が置いてあった。オーラを目に集中させて便箋に何か仕掛けられていないかを探る。

 

 特に気配は何も感じないな。他に手掛かりもないし、仕方ないか。

 

「黒歌、何か感知出来た?」

 

「駄目ね。その箱も気配遮断が施されているのか、中の気配がイマイチ読めないわ。何か生き物がいるのは分かるのだけど」

 

 黒歌でもダメか。

 

 黒歌に周囲を警戒するように頼み、自分は慎重に手紙を開封し、中の手紙を取り出す。

 

「いっ!?」

 

「御主人様!?」

 

「大丈夫。ちょっと切っただけだ」

 

 手紙が新品だったのか、軽く指を切る。なんで紙とかで指を切ると思っている以上に痛いんだろう。しかも地味に。

 

 痛みを我慢し、切った親指を舐めて血を拭い、手紙に視線を向ける。

 

『はじめまして人間。俺は堕天使の総督をやっているアザゼルってもんだ。まぁ堅苦しい話は抜きにして、今回はウチのもんが世話になったな。シスターの嬢ちゃんにはいつか正式に謝りに行かせて貰うわ。それと単独行動だったとは言え、ウチの連中を悪魔から助けてくれた事には変わりない。と言うわけで、お前にお礼を贈らせて貰った。ま、せいぜい有効活用してやってくれや』

 

「――因みにその箱は誰かの血が触れる事で開封されるようになっている……か」

 

 ……つまりあれか? レイナーレ達を助けたお礼を堕天使のトップ自ら赴き、わざわざ置いていったってことか?

 

「胡散臭いわ」

 

「うん。胡散臭いね」

 

 絶対に裏がある。それだけは鈍感な自分でも理解できる。

 

 だが同時に、この大きな箱を家から出すのはかなり目立つし、何より危ない物だったら御近所に迷惑が掛かる。

 

 幸い母さん達は家にいない。開けるなら今か。

 

「私が開けるわ御主人様」

 

「……いや、自分が開ける。黒歌、自分に何かあったらすぐに助けてくれると嬉しい」

 

「任せて。全力で抱き抱えて逃げるわ!」

 

 何故か鼻息を荒くし、目を爛々と輝かせながら凄い勢いで頷く黒歌。正直不安の方が大きくなった。

 

 とりあえずその不安を無視し。血の出ている親指を箱に押し付ける。

 

 瞬間、箱から一枚の光る紙が現れる。すると自分の右手の甲と手紙に同じ紋章が浮かぶと同時に、箱に結ばれていたリボンに文字が浮かんで消滅する。

 

「にゃ!? それギアスロールじゃないの!!」

 

 ギアスロール。確か魔術師等が契約を厳守する際に用いる特殊なスクロールだったと記憶している。しまった。もしかしてこれが狙いか。

 

 黒歌と一緒に急いでギアスロールの内容を確認する。

 

『契約成立。契約者は以下の内容を厳守する。

 堕天使レイナーレは月野白野を主とし、彼の下僕となり心身共に奉仕する事。

 契約の解除は堕天使アザゼルの許可が必要。

 堕天使レイナーレが月野白野に反抗的な行動を行った場合、月野白野はレイナーレに対して主権を行使して行動及び光力の使用を封じる事が出来る。ただし言動は縛れない。

 この契約は月野白野が死亡するまで有効である』

 

 ……何この奴隷契約みたいな契約書!? それに、いや、まさか、そんな……。

 

 黒歌とお互いに目を合わせる。黒歌も戸惑った表情をしながら、頬を引くつかせていた。

 

「……とりあえず、開けるぞ」 

 

 意を決し、自分達の考えが外れてくれる事を祈りながら、ゆっくりと箱の蓋を開けた。

 

「……」

 

 そこには大きな旅行鞄と茫然自失といった感じで真っ白に燃え尽きたレイナーレが、膝を抱えて横たわっていた……縛られて。

 

「……ふっ。笑いなさいよ。どこかの馬鹿を真似て正直になった結果がこれよ……」

 

「いや笑えないし、むしろ同情で泣きそうだよこっちは」

 

「なんかごめんねレイナーレ。これからは優しくするわ」

 

 やさぐれて自虐的な笑みを浮かべて力無く呟くレイナーレに、ツッコミを入れつつ黒歌に縄を切るように頼む。

 

 とりあえずアザゼルとかいう堕天使には、会ったら文句の一つでも言おうと心に誓った。

 




いつからレイナーレが出ないと錯覚していた!

まぁお話の出番は今後はそんなに出ないんだけどね。ある意味白野の戦力アップの為と賑やかし要員って感じです。

あとギアスロールは色々設定変えてますがFate/Zeroで切嗣が使っていた奴が元ネタですね。いや~あれは酷かったね。

多分次のエピローグ回で一巻分は終了ですね。その後は一巻分での解説回を入れるかもしれない。(原作との違いの説明とか)まぁ読まなくても問題ないようにはするので、気になった人用ですね(あとは自分のためかな?)


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