岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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今回とくに前置きで書く事がない……。



【堕天使の決断とその結果】

「……行くの?」

 

「……っ!? あ、あなたねぇ、そうやって気配殺して現れないでよ。ビックリするでしょ!」

 

 御主人様が寝たあともずっと寝た振りで起きていた私は、彼女が行動を起こしたのを察知し、猫の姿で御主人様の部屋の窓の下の塀へと先回りし、堕天使を出迎える。彼女は私が声を掛けるまで気付かなかったのか、ビクっと肩を震わせ驚いた表情で振り返った。人の目があるせいか、服がスーツに変わっていた。

 

 にゃはは御主人様が殺すの躊躇うのも無理ないにゃ、こいつ面白い。弄る意味で。

 

 なんというか、自分に正直に生きてるって感じで、何故か憎めない。

 

「で、何よ? やっぱり私を殺しにきたの?」

 

 彼女は窓の縁に腰を下ろす。ふむ。一応認識を誤魔化す魔法は使っているみたいね。流石にその辺りはちゃんとしているみたい。

 

「御主人様が見逃すと言ったから見逃すにゃん」

 

「そう。――ねぇ、アイツって何者なの」

 

 堕天使はしばらく黙ると、視線を逸らしてそう訪ねてきた。

 

 まぁ、もう会う事もないだろうからいいか。

 

 私は餞別とばかりに御主人様の秘密を告げる。

 

「御主人様は転生者。それも記憶持ちなのよ」

 

「記憶を持った転生者、珍しいわね」

 

 そう珍しい。転生自体はこの世界では数多く存在するが、転生者が生前の記憶を持っているのは稀だ。

 

「私は詳しく知らないけど、以前『自分は女の子一人助けられない。それどころか逆に庇われる程弱かった』って言っていたにゃん」

 

 仙術を用いた組み手での訓練の時に御主人様が寂しげな表情で言っていた言葉を堕天使に伝えると、彼女は『そう』と呟いて、難しい表情をした後、覚悟を決めた表情をした。

 

「ま、アイツのことなんてどうでもいいわ。じゃあね化け猫。あんたが私にした屈辱、絶対忘れないからね」

 

 どうやらこの街から撤退する事を選んだようね。

 

 堕天使の言動からそう察した私は笑いながらその挑発に答える。

 

「にゃはは。私は天才の上に強くなることに貪欲だから、あんたが追いつくのはず~~~~~と先になるにゃん」

 

「ムキ~! 今に見てなさいよ!」

 

 渾身の余裕の笑みを浮かべ返すと、堕天使は顔を赤くして唸り、その場から離れ、一度だけ振り返った。

 

「あいつに、おせっかいも程々にしないと死ぬわよって言っておきなさい」

 

「……にゃ」

 

 彼女のその言葉には全面的に同意なのでしっかりと頷き返す。そして今度こそ堕天使、レイナーレは私達の元から飛び去った。

 

 私はそれを見届け、リビングへと戻る。そこには先程と同じ、敵かもしれない相手がいるというのに、平然と眠っている御主人様の姿があった。

 

 はぁ。呆れればいいのか。それとも豪胆だと頼もしく思えばいいのか。

 

 レイナーレが自分に危害を加えるとはこれっぽっちも思っていない御主人様の態度に、溜息を吐きつつ自分も彼の体に擦り寄り、懐で丸くなる。

 

 ま、これで事件は解決。あとはグレモリーの連中の問題だし、私には関係ない。と言うわけで私もさっさと眠るにゃん。

 

 昼の暖かい日差しが心地よく。私の意識はすぐに薄れ、眠りについた。

 

 

 

 

「じゃあレイナーレは街から出て行ったのか」

 

「断言しなかったけどね」

 

 眠りから目覚めると徹夜の影響もあってか、すでに日が傾き夕暮れ時を迎えていた。その後夕食の準備をしながら黒歌にレイナーレの事を教えてもらう。どうやら彼女は生きる選択をしたらしい。

 

「上手く説得できるといいけどね」

 

「ま、そこはアイツ次第にゃん」

 

 それもそうだなと黒歌に答える。

 

 そう言えば一誠は大丈夫だろうか。レイナーレが逃げたのならアーシアって娘も無事のはずだけど。

 

 昨日の一誠の事が気になったので電話を掛けるが、反応が無かった。

 

 どうしたんだ?

 

 気になって今度は祐斗に連絡する。

 

『白野君? 病気だって聞いたけど、もう大丈夫なのかい?』

 

「ああ。寝たら治ったよ。それより一誠が携帯に出ないんだ。何か知らないか?」

 

『……ゴメン。僕は知らないな。僕からも連絡を入れてみるよ』

 

「……そうか。すまないけど頼む。ところで、今日は部活はやるのか?」

 

『いや。今日はお休みだよ。白野君も今日は出歩かないでゆっくり休むんだよ』

 

「ああ。そうさせてもらうよ」

 

 携帯を切って溜息を吐く。

 

 祐斗は嘘が下手だな。

 

 電話での祐斗の言動から、間違いなく何かあったに違いない。そしてその出来事に一誠が深く関わっている。

 

 さて、どうするか。家から出るなって事はつまり危ないってことだよな。

 

 自分はただの人間だ。対して部活のみんなは悪魔だ。一誠だって本人は自覚していないが今では身体能力では自分よりも上だ。

 

 もしも荒事になったら人間の自分は足手纏いになるだろう。

 

 だが、もしかしたら、自分が行く事で何かしらの手助けはできるかもしれない。

 

 どちらに転ぶか分からない。ならば迷わず『行く』それが自分の信条だ。

 

「……学園。いや、学園にいる可能性は祐斗の反応を見る限り低いか。あと可能性が高そうなのは、シスターを送った教会か、レイナーレに殺された公園くらいか……」

 

 今の一誠が行きそうな場所を思い浮かべながら出かける準備をしようとしたその時、玄関から何かがぶつかる音が聞こえた。

 

「……黒歌」

 

「ええ」

 

 二人で気配を読む。すると、その気配には覚えがあり、弱っている感じを受けた。

 

「これはレイナーレか?」

 

「御主人様、私が見に行くわ」

 

 黒歌が人の姿のまま玄関へと向かう。その目は真剣そのもので、最悪その場でレイナーレを殺すつもりかもしれない。

 

「……分かった」

 

 もしもの場合に備えて術式を展開する。

 

 緊張しながらリビングで待っていると……傷付いたレイナーレを担いだ黒歌が戻って来た。

 

「レイナーレ!?」

 

 慌てて駆け寄って《code:heal(b)》で回復する。

 

「うぅ……あら白野。さっきぶりね……ていうか、回復魔法まで使えたのね」

 

「何があった」

 

 呻く彼女を浄眼で観察する。どうやら命に別状は無さそうだが、たった数時間でいったい何があったのだろう。

 

「ふ。結局私なんてこの程度だったって訳ね」

 

 回復を続けながら彼女は自虐的な笑みを浮かべる。

 

「……仲間にやられたのかしら?」

 

 黒歌が見下ろしながら問うと、レイナーレは小さく頷いた。

 

「ええ。この計画から加わった新参にね。まさか一日戻らなかっただけで死んだ事にされたていた挙句、説得中に後ろから攻撃されるとは流石に思わなかったわ。ま、他の二人は逃がせたから別にいいんだけどね」

 

「……以外だわ。私、てっきりあなたはぼっちかと……」

 

「誰がぼっちよ!っていたた」

 

「黒歌」

 

「う。ごめんなさい」

 

 ちょっと強めに睨むと黒歌がしゅんと耳を尻尾を下げる。くそ、可愛い。キャスターでケモナーにでも目覚めてしまったのだろうか。ああ、あのフサフサが少しだけ恋しい。

 

 っと、馬鹿なこと考えてないで今はレイナーレから話を聞かないと。

 

「そのあとどうしたんだ?」

 

「見ての通りよ。飛べるだけの力も無くなったから必至に逃げたのよ……ま、自分でもなんでここに戻ったのか、不思議でしょうがないんだけどね……」

 

 彼女はそう言って痛みで顔を顰めながらも、口には笑みを浮かべた。

 

「私を裏切った堕天使の名はドーナシーク。そいつはこの街の捨てられた教会にいるわ。そして既に儀式の準備を始めている」

 

「そうか。それじゃあ――」

 

 ――急いで行かないとな。

 

「また首を突っ込みに行くの?」

 

「ああ。事情が変わった。黒歌はレイナーレを頼む。何かあったら連絡をくれ」

 

「レイナーレ、あの伝言、直接言っていいわよ」

 

「おせっかいも過ぎると死ぬわよ。あんた」

 

 黒歌から責める様な視線を受け、レイナーレも似たような表情でこちらが気にしている事をはっきりと叩きつけてくる。だが、それで止まるならそもそも黒歌やレイナーレと接していない。

 

「耳に痛いが……諦めてくれ。何より……」

 

 そう何よりも、自分自身がそのドーナシークに落とし前を付けさせなければ気がすまない。

 

「レイナーレの悩んで出した答えを、卑怯なやり方で汚したそいつを、許す訳には行かない」

 

 二人に振り返ってそう答え、上着を羽織ながら家を出る。出る瞬間、二人共顔が少し赤かった気がするが、気のせいだろう。

 

 

 

 

「御主人様のイケメンタイムキターーーー!!」

 

 覚悟を完了した真剣な表情をした御主人様を直視した瞬間、胸がキュンと高鳴り、御主人様が出て行ったのを見計らってこの想いを高らかに叫んだ。

 

「ちょ、痛い痛いって! 傷口に手を添えたまま叫ぶんじゃないわよこの淫獣!」

 

 あ、しまった忘れてたわ。でもコイツ、今ちょっと女の顔をしたのよねぇ。

 

「はっ。御主人様のキメ顔で頬を赤くしといてよく言うわよ」

 

「なっ!? わ、私は別に赤くなってないわよ! これは怪我による熱よ! だいたい私のタイプはアザゼル様のようなワイルド系なの!」

 

 おやおや随分と焦っているわね。こりゃちょっと注意しないと。

 

 だが一応怪我人なのでこれ以上興奮させるのはまずいと思い、レイナーレに落ち着くように言って御主人様の部屋で仙術の気功医術でレイナーレの自然治癒力を高めてあげる。

 

「それじゃあ私は御主人様を追いかけるけど、あんたはしばらく休んでいなさいよ」

 

「……分かったわ」

 

 レイナーレをその場に残して窓から猫の姿飛び出し、御主人様の匂いを追跡する。やれやれ、私も大変な人を好きになったものだ。

 




と言うわけで短い家出でしたとさ(笑)
うん。まぁ二話に分けるか悩んだんだけど(レイナーレの説得シーン)
正直ドーナシーク以外の二人を登場させてもそれほど意味が無いのでカットする事に。
次回は一誠君の見せ場です。そしてこの作品ではアーシアが初登場します。


原作技・装備解説

装備名:『鳳凰のマフラー』『人魚の羽織り』『麒麟のマント』
効果:『heal サーヴァントのHPを回復(左から順に小・中・大)』
解説:『シルクのマフラーに鳳凰の羽をあしらったおしゃれマフラー』
   『人魚の鱗を縫いつけた古めかしい羽飾り』
   『千年生きた麒麟の皮を丁寧に処理して作られた匠の一品』

サーヴァントのHPを回復するスキルです。
原作ではサーヴァントのHPを小で三割、中で五割、大で七割回復します。



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