モンハン商人の日常   作:四十三

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第25話

『竜人族』

 

 

 容姿端麗であり長寿。

 美容や健康のいいものを好む傾向が強く、争いごとを好まない。 

 

 知能が高くオイラのような獣人族とは別で人間と共存している自然との一体化を重んじる種族。

 人間社会ではその長寿を生かし頭脳職や技能職を生業にし生活をしている者が多い。

 

 

 人間に比べて竜人族の数が少ないことも一つの特徴である。

 理由は争いを好まない性質と長寿であり寿命の心配がないことからくる繁殖能力の低さが原因とされている。

 

 そのため恋愛観も不明とされ異性関係が成立しづらくいまだ未知な部分が多い種族と言われている。

 

 

 

 それがオイラの知っている竜人族の特徴。

 

 

 

 

「って言っても私同性愛者だから!! 繁殖能力とか鼻で笑っちゃうけどね!!」

 

 

「聞きたくない……。聞きたくないにゃぁ……」

 

 

 オイラは耳を抑えかぶりを振った。

 

 

 恋愛観が不明という記録がある以上そういう竜人族がいても不思議ではないし、争いを好まない種族といってもやはり個人の差がある以上色眼鏡で見るのは失礼なのかもしれない。

 でもそうだとしても目の前にいるこの竜人族はあまりにもオイラと世間の伝聞の範疇を大いに凌駕していた。

 

 

 初対面で受けるインパクトとしてはもうお腹いっぱいというしかなかった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 そう。

 初対面のはずである。

 聞き間違い、でもないだろう。

 

 

 

「……なんで」

 

 

「ん?」

 

 

 

 

「なんで……オイラの名前が『タイラン』だって知ってるのにゃ」

 

 

 

 ご主人のお師匠さんは確かにオイラのことを『タイランちゃん』と呼んだ。

 ご主人のもとでオトモを始めてからは一度も名乗ったことないオイラの『本名』を。

 

 

「あらやだぁ、商人の情報網を甘く見ちゃいやよ。あなたがあの子の下で働き始めたと聞いた時からあなたのことは一通り調べさせてもらったわ。だからあなたの本名が『タイラン・マルクト』だってことも知っているわよ、アタチィ」

 

 

 お師匠さんは親指をしゃぶるようなしぐさを取りながらそう言ってきた。

 

 

 

『タイラン・マルクト』

 

 

 

 それがオイラの本名。

 おいら達のような人間に従属するアイルーは多くの場合が雇用時に主人との主従関係の証として名前をもらう。

 

 

 タイランの名は生みの親がつけてくれた名前。

 その真名のあとには雇用主がつけた名前が連なっていく。

 

 

 だからアイルー中には転職を繰り返すことで本当に冗談のような長い名前を持つ者もいるし、一人の主に永従し雇用名を本名として一生を終える者もいる。

 

 

 それを踏まえた上でのオイラの名前。

 それがタイラン・マルクト。

 

 

 いや、正確に言えばこれが本名というわけではないのだけれど……。

 その理由が。

 

 

「――で? あなたのご主人はあなたになんて言う名前を付けたのかしら? そこだけ情報が閉鎖的過ぎてわからなかったのよねぇ」

 

 

 

 

 そういいながらお師匠さんはニヤニヤと笑っていた。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 そう。

 ご主人が雇用時につけた名前が抜けているのだ。

『マルクト』はご主人よりも前の主人がつけた名前。

 

 だからオイラの本名はもう一節長いのである。

 

 

 

 

「い、言いたくないにゃ……」

 

 

 

「えぇ!! なんでぇ!! いいじゃない減るもんじゃないんだから!! ネーミングセンスの欠片もないあの子がどんな名前つけたのか興味あるのよぉ!!」

 

 

 

 ご主人はネーミングセンスが壊滅的にない。

 

 

 自分のことを「スーパー・ダンディズム公爵」と呼ぶように。

 ガーグァに「皇帝閣下」と名付けるように。

 ポポに、アプトノスに、ズワロポスにそれぞれ『ご隠居』『お嬢』『大将』と名付けていると昔言っていたことがあるように。

 

 

 センスという苗床がすべてが個性という業火によって焼け野原になっているのだ。

 当然そのセンスを焼け野原にした業火はオイラにも牙をむいた。

 

 

 

 

 オイラが言い渋っているとお師匠さんは「やれやれ……」と呟いた後、ネットの中のオイラの耳に甘く小さな声でこう囁いてきた。

 

 

 

 

「教えてくれないのなら……今日があなたの『雄として生を受けたことを後悔する』記念すべき日になるわよ」

 

 

 

 

 ――ペロリ。

 

 

 

 という舌なめずりする音が聞こえてきた。

 同時に全身の毛が逆立つのを感じた。

 

 

 

 

「わ、わかったにゃ!! 言う!! 言うから勘弁して欲しいにゃ!!」

 

 

 

 

 その返事に満足したのかご満悦そうに頷くお師匠さん。

 

 

 

 本音を言えば本当に言いたくない。

 名乗らないでいいのなら一生名乗ることのないと思っていた名前だったから。

 本名を名乗る覚悟をしたのは先ほどのお師匠さんの脅しが決め手ではあった。

 

 

 だけれど、実は脅迫の材料それだけではなかった。

 

 

 オイラの目には先ほどから、正確にはお師匠さんを認識したその時からずっと映し続けているものがある。

 

 

 それはオイラよりも先にこの飛行船に連れ去られたオイラの友達。

 

 

 

 ――皇帝閣下だった。

 

 

 

 皇帝閣下はまるでミノムシのように縄で全身をぐるぐる巻きにされ、マストから逆さ吊りにされていた。

 一緒に張り紙も張られておりそこには

 

 

『空の王者(笑)』

『閃光玉のカモwww』

『リア充爆発案件』

『いいから玉寄こせ』

『お前、影薄くね?』

 

 

 とどう考えてもガーグァに向けてではない誹謗中傷の数々が書かれていた。

 流れる風になびかれるたびに「グァ……グァ……」という声が聞こえてくるので元気ではあるっぽい。

 

 

 そんな視覚的情報から得られる結論は至極単純なこと。

 お師匠さんの満面の笑みを見てそれを確信した。

 

 

 

『この人は確実に実行する……!!』

 

 

 

 ただそれだけ。

 そしてオイラは腹をくくった。

 

 

 

 

 

 

「オ、オイラの名前は『タイラン・マルクト……』」

 

 

 

 

「うんうん」

 

 

 オイラは意を決して自身の本名を口にした。

 

 

 

 

「……サ」 

 

 

 

 

「サ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……『サノバビッチ三世』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

 

 

 

 

 

『タイラン・マルクト・サノバビッチ三世』

 

 

 

 

 

 

 略して『タマさん』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オイラは俯いた。

 お師匠さんはオイラを捕えているネットをナイフを用いて無言で切り、そしてオイラは解放された。

 

 

 

 解放された後もただ立ち呆ける二人。

 

 

 先に口を開いたのはお師匠さんだった。

 

 

 

 

 

「あの……興味本位で無理強いしちゃってごめんなさい。まさかそこまで酷い……あ、いや、個性的な名前だとは思わなくって……。その……なんか、ごめんなさい」

 

 

 

「いや、別にいいにゃ。別に減るもんじゃにゃいし……」

 

 

 

 何故か腹立たしいほど破顔させているご主人の顔が浮かんできた。

 

 

 

「あ……それじゃあ三回目になるけどよろしくね、サノバビッ……」

 

 

 

 

 

「――タマでよろしくお願いしますにゃ」

 

 

 

 

 こうしてオイラこと「タマ」とご主人のお師匠さん「カカリカ」とのファーストコンタクトは何事もなく無事終えたのだった。

 

 

 

 

「グワ……、グゥワ……」

 

 

 

 

 

 無事終えたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 唄が。

 唄が聞こえる。

 

 

 

「例えば君がぁぁぁ!! 傷ついてぇぇぇ!! 挫けそおぉぉぉになぁった時はぁぁぁ!!」

 

 

 

 唄と表現していいのかどうかもわからない声が。

 

 

 

「必ず『ボブ』がそばにいてぇぇぇ!! ささぁぁぁえてあげるよぉぉぉ!! そぉの肩をぉぉぉ」

 

 

 

『誰にゃよボブって……』と頭の中で突っ込みを入れた。

 

 

 

 

 そんなオイラの突込みなど知る由もなく、お師匠さんは今度は一人で寸劇をし始めた。

 

 

 

 

「HEY!! ボブ!!」「なんだぁい!? アンソニー!?」

 

「聞いてくれよぉ!! マイケルの野郎が俺のマミーのこと『お前の母ちゃんマジでヤマツカミみたいだよなぁwww』って言ってきて俺傷ついちゃったよぉ!!」

 

 

「Really? シット!! マイケルの野郎!! 血も涙もない奴だとは思っていたがたまにはマトモなこと言うじゃねぇか!! だが安心してくれアンソニー!! 君が傷ついたその時は必ず僕がそばにいてぇ!! 支えてあげるよぉ!! その肩をぉ!!」

 

 

 

 

「F00000!!」

 

 

 

 という奇声を上げるお師匠さん。

 

 

 

「ここで問題です」

 

 

 

 なんかいろいろと心配になってくる。

 そんなオイラの心労をよそに寸言はなお続く。

 

 

 

「先ほどのやり取りで最も酷いのは?」

 

 

 

 

 Aマイケル Bボブ Cアンソニーの母親の顔

 

 

 

 

「制限時間は50分。クエストを開始します。パーファァァwww」

 

 

 

 

 あまりの恐怖に耳を塞ぐも性能のいい己の聴力は現実から目を逸らさせてはくれなかった。

 

 

 

 これがあの竜人族である。

 聡明で優雅で麗しいあの竜人族なのである。

 

 

 竜人族の遺伝子が突然変異したとしか考えられない。

 

 

 

「――みたいなやり取りをあなたのご主人とはよくしていたのだけれど……。どう? 私たちもする? タマタマ?」

 

 

 

 ニューハーフの舵を取りながらそんな質問をしてくるお師匠さん。

 今現在はオイラと皇帝閣下を身代わりにして逃げて行ったご主人を追って渓流付近の森上空を探策中なのである。

 

 

 話を聞いてみると、どうやらお師匠さんはご主人に用事があったのだという。

 しかし、逃げられたためこうして上から探しているのだが、このままではらちが明かないということで数人の部下を地上へ探索に行かせたらしい。

 

 

 その部下たちにオイラ達の商品を回収してくれるとも言っていた。

 とりあえずは一安心と言ったところだろうか。

 

 

「因みにさっきの問題の答えは『こんなクソみたいな問題を作った人間』が最も酷いという結論になったわ。と言っても私は狭義的には竜人族で人間じゃないから、悪いのは全部あなたのご主人ってことにして成敗しといたわ」 

 

 

 

 

 え? 

 それご主人、ただのとばっちり……。

 

 

 

「って、皇帝閣下!! あなたいい加減降りてきなさい!! いつまでもそんな高いところにいると危ないわよ!!」

 

 

 

 そんな呼びかけを聞いてオイラは皇帝閣下の方を見る。

 皇帝閣下はマストの上の見張り台に登っていた。

 

 そして降りて来なくなってしまった。

 

 

 

 理由はまあ、口で説明する必要はないだろう。

 オイラが呼んでも降りてこないところを見るとよっぽどなのだと思う。

 言ってもこの人、出合頭にバリスタ弾で襲ってくるような人物なのだから当然といえば当然か。

 

 

 あんな武装をしている飛行船を所有しているということは、やはりお師匠さんは商人としては上流階級だと考えた方がいいのだろう。

 

 

 

『防具商店 アデル・アモレール』

 

 

 

 聞いたことのない名前。

 多分、ギルドの傘下商会ではない個人の商店なのだと思う。

 

 

 ギルドの防具や武器はハンターたちが狩猟したモンスターの素材を用いて作られている。

 だが、ギルドは素材のすべてをハンターのもとに渡すことはない。

 渡すのはあくまで一部しか渡さず、残りはギルドが管理する。

 

 その理由は『モンスターの乱獲防止』だとされている。

 

 

 もしも、ハンターが狩猟したモンスターの素材を独占した場合、その独占したモンスターの全体数が減り素材が手に入りにくくなる。

 

 そうなればその手に入りにくいモンスター素材の値段は当然高騰する。

 素材に値が付けばその素材を狙って狩りを行う輩が増え、さらにモンスターの数は減っていく。

 

 

 その繰り返しにより生態系は容易に壊れてしまう。

 そうならぬようギルドはモンスターの素材を管理し、時を見て流通させることで価格変動を抑えているのだという。

 

 だがそれでは、一部しか素材を手に入れることのできなかったハンターが防具、武器作成目的で乱獲する可能性があるためそうならぬようギルドはギルド傘下の防具、武器店に素材を卸し、ハンターにはその中で足らない素材を納めさせることで少量の素材で作成することができるプロセスを組んでいるのだという。

 

 

 つまり一人が狩猟したモンスター素材を全世界中のギルド所属のハンターたちでシェアしているということだそう。

 こうすることにより、文化も価値観も違う他地方とモンスター素材を金銭を用いずに取引することができる。

 

 

 

 

 ご主人はこの貿易を『バーター貿易』だと言っていたっけか。

 

 

 

 

 まあつまり、ギルドに所属していない商店というのはギルドの後ろ盾がないため素材を集めるのでも一苦労する。

 ようは、個人商店を営むということはそれだけの『社会的地位がなければ到底不可能』ということ。

 

 

 

「……」

 

 

 オイラはこの店の主「カカリカ=ティガレイ」の顔を見る。

 

 

 

「……? どうかしたの、タマタマ? この『超絶美少女』に何か御用?」

 

 

 

 

「いや……にゃんでも無いにゃ」

 

 

 

 

 だてに、竜人族で変態ではないということだろう。

 ご主人の師匠だというのもなんだか頷けた。

 

 

 様々なところを踏まえて。

 

 

 

「うーん。これからどうしようかしらねぇ。皇帝閣下がここにいる以上あの子は私に会いに来るしか方法はないのだけど。早くしないと『あの子』が返ってくるのよねぇ」

 

 

 

 と呟くお師匠さん。

 今少し意味深なことを口にした。

 

 

 二人の『あの子』という言葉。

 

 

 一人は当然ご主人のことだろう。

 ではもう一人は?

 

 

「そういえば、ご主人に用事って一体にゃんだたのにゃ?」

 

 

 そんな今更な質問。

 

 

「うん? 用事? いやちょっとあの子にね、会ってもらいたい人がいるのよ。私の『弟子』なんだけど」

 

 

「弟子? つまりご主人の弟弟子? あ、いや兄弟子っていう可能性もあるのかにゃ」

 

 

 

 

 ――うーん? ……どっちなのかしらねぇ?

 

 

 

 

 と煮え切らない態度。

 

 

「どっちって、早く弟子入りした方が兄じゃないのかにゃ?」

 

 

 

 という返しにさらに首をかしげる。

 

 

「そもそも、弟子のジャンルが違うのよ。あなたのご主人は私の『商人としての弟子』なのだけど今言った弟子は私の『ハンターとしての弟子』なのよ。だからどっちって明言しにくいのよねぇ」

 

 

 

 

「ハンターとしての弟子……」

 

 

 そういえばご主人、お師匠さんは元ハンターだって言っていた。

 その知識を活用して商人を始めた変わり者だとも。

 

 

 変わり者を通り過ぎて変人だったけど。

 

 

 

「名前は『トランジェ=ルフル』っていう子なんだけど。私に直接弟子入りを申し込みに来たのよ。結構面白い子だったから育てることにしたの。とりあえず手始めにこの森の中で『七日間生き延びろ』って武器を取り上げて放りだしてきたけど。HAHAHAHAHA!!」

 

 

 

「ヒクッ……」と口角が引くつくのを感じた。

 

 

 

「大丈夫なのかにゃ、それ?」

 

 

 

「死んじゃうかもね!! なんか今この渓流の森ゴア・マガラがいるらしくて生態系とか大分やばいらしいし!! 狂竜化モンスターもいっぱいいるって聞いてもう私笑っちゃった!! 『もう私クソ鬼畜やないかーい』って!!」

 

 

 

 クソ鬼畜!?

 

 

 

「――ってそれなら、今森にいるご主人も危ないってことじゃないかにゃ!?」

 

 

 

「あらヤダ本当ね。今日二人の弟子を亡くすかもしれないなんて私、今世界で一番不幸じゃない?」

 

 

 どう考えても不幸なのはあなたのお弟子さん達です。

 

 

「まあどちらにしろ、こんなところで死ぬような柔に育てた覚えはないし、こんなところで死ぬような子にハンターは務まらないわ」

 

 

 

 

「……ウゥゥ」

 

 

 

 そう言われると返す言葉がない。

 実際、この人はそういう道を歩んで今の地位にいるのだろうから。

 オイラのような若造が口出しできる領域の話ではないのかもしれない。

 

 

 

 

 まあ少なくともここは安全が保障されているというのが唯一の救い。

 

 

 

 

 ――――!!

 

 

 

 と思っていた。

 それは突然の出来事。

 

 

 

 

「にゃ!? にゃんにゃ!?」

 

 

 

 突如船体が激しく揺れた。

 その揺れはまるで何か物体がぶつかってきたかのような振動。 

 

 

 そう。

 この『空中』でである。

 

 

 

「一体何事なの!? 私は一体黒塗りの何にぶつかったの!?」

 

 

 

 そんな錯乱し奇妙奇天烈なことを口走るお師匠さん。

 だがその妄言は当たらずも遠からずの位置を射抜いていた。

 

 

 

 その『漆黒』と『黄金』の鱗を有する存在は船首へと飛行しその姿をあらわす。

 

 

 

 

『渾沌に呻くゴア・マガラ』

 

 

 

 

「ゴア・マガラ!? 噂をしたから影でも刺したっていうの!? 上等よぉ!! あんた誰の所有物にぶつかったかその身に教えてあげるわぁ!!」

 

 

 そんな叫び声と嬉々とした表情でお師匠さんは舵から飛び退き、船に備えられた一門の銃器に跨る。

 

 

 

 

『対試作古龍兵器 多連弾式バリスタ臨機動砲門』

 

 

 

 

「『ガチホ……!!』じゃなかった『バリホモ』の恐ろしさ教えてやるわぁ!! 往生せいやぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 そう叫び引き金を引いた。

 

 

 

 ――カラカラカラカラ。

 

 

 

 しかし、そん虚しい乾いた音が聞こえてきた。

 当然、弾など出なかった。

 

 

 

 

 

 

 無音。

 

 

 

 

 

 

「あっ!!」

 

 

 

 

 何かを思い出したようにそんな間抜けな声を上げるお師匠さん。

 

 

 

「……まさかとは思うけど、お師匠さん」

 

 

 

 

 

 

 

 オイラの目をまっすぐ見据えていけしゃあしゃあとこう口にした。

 

 

 

 

 

 

「ごめん!! 全弾あなたたち追い込むために打ち尽くしちゃったの忘れてた!!」

 

 

 

 

「肝心なところで役に立たないのは師弟共通なのかにゃぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 そんなやり取りなど当然意に介さずゴア・マガラはニューハーフへの攻撃を続ける。

 

 

 

 

 ――――!!

 

 

 

 

 船体が大きく傾いた。

 

 

 

 

「にゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 オイラの体は重力に導かれるまま吹き飛ばされ地上目掛け落ちていった。

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁ!! 私のタマタマぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 ここまでずっと我慢していたことがある。

 でも怖くて言えなかった。

 

 

 

 でもこんな時だからこそ言うことができる。

 

 そう。

 突っ込むことができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『付いてんだろうがぁぁぁぁぁ!!』 にゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛ばされたり、落とされたり今日は今まで生きてきた中で一番の厄日かもしれない、とオイラはそう思った。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 妙な振動を感じた。

 それと暖かな人肌な温もりも。

 

 

 オイラはどうなったんだっけ?

 確かゴア・マガラに襲われて船から落ちたような気がする。

 

 そこからの記憶がない。

 いやそもそもそこから意識がないのだから当然だ。

 

 

 まだ妙な振動を感じる。

 体中が痛い。

 

 

「にゃ……にゃ……」

 

 

 ついついそんな声が漏れる。

 その時、声が聞こえてきた。

 

 

 

「あ、意識戻った?」

 

 

 

 

 そんな声。

 振動も止まった。

 

 

 重い瞼を開ける。

 朧げなシルエットが浮かび上がる。

 

 輪郭もパッとしない。

 

 

 

「ご主……人?」

 

 

 

 ではなかった。

 一瞬ご主人かと見間違ったがよく見ると細部が違った。

 

 

 

「ごめんね、僕は君のご主人じゃないんだ。体、大丈夫?」

 

 

 

 ご主人ではなかった。

 でも、まるっきり見たことない顔でもなかった。

 

 

 

 どこかで見たことがある顔。

 

 

 

 それも結構最近。

 どこだっけか?

 

 

 

 靄がかった意識をつなげ記憶の引き出しを開けていく。

 

 

 

 

 そして思い出した。

 

 

 

 

 

「ああ……思い出したにゃ。お前……」

 

 

 

 

 

 

 オイラは目の前の人物の『名前』を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――『ギメイ』じゃにゃいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギメイは朗らかにほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やあ、おはよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エンカウント。



***



前回は短くてすみませんでした!!



というわけで!!
第四章!!



「偽りし者は欺き、赤星は地を駆る」



スタートです。

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