モンハン商人の日常   作:四十三

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ご主人とタマ~金・金・金~

 結局のところ、やはりと言うかまあ当然ではあるが俺たちの荷物もとい商品はすべてボロボロになっていた。

 

 ユクモ温泉から上がった後、俺たちはその惨劇ともいえる現状を目の当たりにしていた。

 

「いやぁぁぁぁぁ!! 俺が汗水たらしてようやく貯めて買った荷車がボロボロよぉぉぉぉぉ!!」

 

「ご主人、まだこやし玉の匂いが取れにゃいんだけど……」

 

「荷車がボロボロよぉぉぉぉぉ!!」

 

「おいらアイルーだから匂いに敏感なんだよにゃ。これじゃまだきついにゃ」

 

「ボロボロよぉぉぉぉぉ!!」

 

「ああ、はいはい。軽量化に成功してよかったじゃにゃいか、ご主人。それよりもこやし玉の匂いが……」

 

「ちゃんと聞いて!? ねえ!! タマさん、ちゃんと聞こう!? 今俺たち結構ピンチなんだよ!? このままじゃ俺たち温泉に入る金すらないってわかってる!?」

 

「にゃんと!? それは大変にゃ!! ご主人、今からハンターに転職するにゃ!! そうすれば金銭問題にゃんてすぐ解決にゃ!! ビバ!! モンスターハンターにゃ!!」 

 

「まじでか!? 俺にもできるかな!?」

 

「はっ!! 寝言は寝て言えにゃ」

 

「この野郎ぉ!!」

 

「に゛ゃぁぁぁぁぁ」

 

 

 あ。

 すみません。俺たち基本馬鹿です。

 

「と、お遊びはこれくらいにしてだ。タマ、金に換えられそうなのが残ってるかどうか探すぞ」

 

 とは言ったものの望みは薄いのが現状だろうけどな。

 

「にゃんかこうしてると、火事場泥棒みたいだにゃ」

 

「言うな言うな。何気にしょげる」

 

 あーあ。

 何が悲しくて、自分の荷物を物色せねばならんのだ。

 

 これも全部あのトサカ野郎のせいだ。

 お金がもったいなくてハンターに護衛依頼をしなかった俺じゃなくトサカが悪い。

 

 俺悪くない。

 悪いのはこの腐った社会です。

 

 

「でもなぁ、次の町や村に行くたびにハンター雇ってたらそれだけで出費がかさむんだよなぁ……どうにかならんもんかね」

 

「他の行商人はそこのところどうやっているのにゃ?」

 

「あん? あー、どうなんだろ? 俺もそんなに行商仲間がいるわけじゃないからなぁ。金がある奴は、毎回ハンター雇うだろうけど。ああ、あとはキャラバンに混ぜてもらうって感じだろうな」

 

「キャラバンにゃ?」

 

「商隊ってやつだよ。そういうとこには基本専属ハンターがいるし移動手段も豊富だから至れり尽くせり、らしい。俺も一度でいいからキャラバンに混ぜてもらいたいよ」

 

「金がない奴はどうしてるにゃ?」

 

「そういう奴らは、他の行商仲間と金出しあってハンターを雇うって感じかな?」

 

「にゃるほど、ご主人友達いにゃいのか……。にゃんか、嫌なこと聞いて悪いかったにゃ……」

 

「ば……!! いるし!! 友達たくさんいるし!! 売るほどいるし!!」

 

「ご主人。商人としてその手の冗談はアウトにゃ。笑はないから本当のこと言うにゃ」

 

「うぐ。いません……」

 

「え? にゃんてにゃ!? よく聞こえないにゃ!! ニャンモアプリーズ!!」

 

「いません!!」

 

 

「………………」

 

 

「笑えよ!! 今の笑って落とす流れだろうが!!」

 

「いや、まじめに憐れんだだけにゃ」

 

「やめて!! その反応が一番堪える!!」

 

 

 なんやかんやで作業を続けるも商品として扱えそうな物は出てくるはずもなく。結局手元にはガラクタばかりが集まった。

 

「どうなのにゃ、ご主人? 売れそうなのは残っていたのかにゃ?」

 

 ついつい、ため息が出る。

 

「駄目だな。装飾品位はとも思ったけど傷だらけでこれはだいぶ値を叩かれるだろうし、完全に足が出る。原石は多少傷ついても問題ないけど売ってもたかが知れてるしなぁ」

 

「じゃあ、取りあえずその原石売って温泉に行くにゃ」

 

「タマ、お前揺るがないな……。まあ、温泉は入った方がいいよな」

 

「にゃ? 冗談でいったんにゃけど、本当に行くのかにゃ?」

 

「当たり前だ、体中からこやしの匂いをまき散らしてる商人の商品を買う馬鹿がいるわけないだろ。俺は腐っても商人だぞ。商売第一だ」

 

「まあ、すでに腐ったようにゃ匂いを纏ってるけどにゃ」

 

「おっ。今の上手いな、タマ」

 

「そうと決まれば急いでいくにゃ!! 心にゃしかこやし臭さが強くなってきたようにゃ気がするにゃ!!」

 

 うん? こやし臭さが強くなった?

 時間が経ったのならば匂いは弱くなるはず。

 

 なぜ強くなる?

 

 その疑問の答は、すぐ俺たちの目の前に訪れることとなる。

 っていうかそいつは俺たちのすぐ近くにいた。

 

 いたというか寝ていた。

 

 生き物の体毛としてはただただ派手な極彩色。

 頭は毛先の黄色いトンガリヘアー。

 腕は筋骨隆々。発達した爪を有し。

 尻尾には器用に持たれた、かじった後のあるおキノコ様。

 

 そして俺たちと同じ禍々しい気(こやし臭)を身にまとったモンスター。

 

 俺はこのモンスターの名前を知っている……。

 

 

 

「ババァ!?」

 

 

 

「『コンガ』にゃ!!」

 

「違いますぅ~!! 『ババコンガ』ですぅ~!! 間違ってやんの!! ひゃっはっはっは!!」

 

 

 あ。すみません、俺基本馬鹿です。

 

 

 木々の陰になって隠れていたらしいババコンガは鼻提灯を作りながら幸せそうに眠っていた。

 匂いの原因は間違いなくこいつ。

 

 だが、今特質した問題はそこではなかった。

 

「な、なんだよこれ……」

 

「一、二、三……。六匹!? ババコンガが六匹もいるにゃ、ご主人!?」

 

 

 六匹のババコンガは皆同じく眠りこけていた。

 

「大量発生か……。まずいな、これは」

 

「大量発生にゃ?」

 

「時々起るんだよ、こういうことが。モンスターたちの世界は群雄割拠。まあ弱肉強食の世界だ。強いものが残り、弱い者は除かれる。つまり今この渓流付近の森カーストトップがババコンガなんだよ。ここまで大量に発生してたらそう自然にはトップは入れ替わらないな」

 

「そうなのかにゃ?」

 

「ああ、なんたって数が数だ。他のモンスターがやってきても数で圧倒される。とてもじゃないが他のモンスターが介入する余地がない。タマ、急いでユクモ村に戻るぞ!!」

 

「にゃ!! この事態をギルドに報告するわけだにゃご主人!!」

 

「あほか!! 俺たちは商人じゃボケ!! そんなもん調査隊に任せておけばいいだよ!!」

 

「ご主人何をするきだにゃ……」

 

「説明は後だ!! これは金儲けのビッグチャンス!! この機を逃すのは三流のやることだ!!」

 

 商業の神は俺を見捨ててはいなかったぜ。

 

 

 

 

***

 

 ユクモ村にとんぼ返りした俺たちは、早速回収した二束三文のガラクタどもを道具屋に売りとばし再び温泉で体を清めていた。

 

「それでご主人? さっき言ってた説明はいつしてくれるのかにゃ?」

 

「ああ、金儲けの話か。別に今してもいいんだが、でもここじゃあなぁ……。まあ、別にいっか。とりあえず、さっき温泉に入る前にギルドボードを確認してみたんだが。どうやら、もうすでにババコンガ大量発生による討伐依頼は正式な依頼としてハンターたちに出回っているらしい」

 

「そりゃそうだろうにゃ。あんなにババコンガいたら生態系に偏りが生まれるにゃ。ある程度間引くのは当然にゃ」

 

「それもあるが、一番は人民への被害が問題なんだ」

 

「被害にゃ?」

 

「まあ早い話、畑等が荒らされる。あいつらも数が増えすぎて食べるものがなくなり人里に下りて畑を荒らして帰るようになる。でそれを未然に防ぐために間引く、そしてここで問題。ここでまず一つ金儲けができるわけだがタマお前、それが何かわかるか?」

 

「そんなの決まってるにゃ。と言うかオイラ達はハンター専門の商人にゃんだからハンターへの物資供給で金儲けができるにゃ。今回で言えば、相手がババコンガだから『消臭玉』の需要が増えるにゃ」

 

「それとその素材になる『落葉草』と『素材玉』もだな。この三つの需要が上がる」

 

「じゃあ、今からそれらを集めて売れば金儲けができるわけだにゃ!? それじゃあさっさと……!!」

 

「それもそう上手くはいかないんだよ、タマ。」

 

「にゃんでにゃ?」

 

「もうすでに時間が経ちすぎてるからだ。その三つで利益を生みたいならハンターズ・ギルドがクエストを発注する前でないと意味がない。すでにその商品は、他の商人たちが買い集めているせいで値段が高騰しているし、あらかた採取されつくされてる。もう、今から買いに走っても赤字しかありません」

 

「にゃるほど……考えることは皆同じと言うわけかにゃ」

 

「さらに、ハンターたちには強い味方『ギルドストア』がある。ギルドストアは、ギルドが私営している店舗故に様々な流通ルートを持っているし、様々な商品が安定した値段でいつでも買える優れもの。ハンターたちもそこより高い値段の商品に手を出すわけがない」

 

「にゃ。つまり、今から買いに走ってもギルドストア以下の価格で売らにゃいと客が付かにゃいわけだにゃ」

 

「さらに半額セールなんてやられた日には俺たち商人には勝ち目がない。よって、今回に限って俺たちはこの方法での金儲けはできましぇん。了解?」

 

「了解だけど、それにゃら他に金儲けする方法があるのかにゃ?」

 

「二つ目の金儲け。はい、ここでさらに問題だタマ。ある程度までババコンガを間引いたとして、それまでにどれくらいの期間を有すると思う?」

 

「そんなの分かるわけにゃいにゃ。ババコンガが全体で何匹いるかもわからないし、ハンターも何人雇われているかわからにゃいんだからにゃ。まあ、一日二日で終わらないのは確かじゃにゃいかにゃ?」

 

「まあ、そうだな。で、その間絶対に人民に被害が出る。要はさっき言った畑荒らしだな。さて、ここで需要が出てくる商品があるんだけどそれはなーんだ?」

 

「いちいち問題形式にするにゃよ、ご主人。面倒くさいにゃ。ほれほれさっさと答え言うにゃ」

 

「おまっ!? ちょっ、お湯かけんな!! あーと。だからここで被害を被った民家の畑を再度作るために『肥料』の需要が上がるんだよ」

 

「肥料? にゃんにゃそれ?」

 

「『肥やし』だ。糞だよ糞」

 

「つまりは『モンスターの糞』のことかにゃ!? じゃあモンスターの糞を今から集めれば後々、買い手が付くと言うわけだにゃ!!」

 

「やーい!! 馬鹿が言う馬鹿の糞!! バーカバーカ!!」

 

「はいはい、馬鹿馬鹿。それでにゃんで駄目にゃのかにゃ?」

 

「えぇー……。タマさんが冷たい……。あーもう!! わかったからお湯かけるな!! ……だからタマ、今回の大量発生したモンスターはなんだった?」

 

「ババコンガにゃ」

 

「そうだ。で、ババコンガは何を落とす?」

 

「にゃ? あっ。『なわばりの糞』を落とすにゃ……」

 

「正解。そしてギルドはそのなわばりの糞をハンター達から安く買い取っている。つまり……?」

 

「ギルドストアは商人たちより安く肥料を民家に対して販売できるにゃ……。だからこれも今回に限ってはオイラ達に勝ち目がにゃいにゃ……」

 

「そういうことだな。よくできました~。褒めてやるぞタマ~」

 

「じゃあ、オイラ達が金儲けをする方法にゃんてにゃいんじゃにゃいか、ご主人?」

 

「だから俺たちは三つ目の方法で金儲けをするんだよ」

 

「三つ目? 何を集めるのかにゃ?」

 

「思い出してみろ。あの渓流付近の森は今ババコンガが仕切っているんだ。だけど今回の依頼でその数は減らされる。そうなると必然トップが入れ替わるわけ。要はモンスターの間でなわばりの取り合いが起こるんだ。その状態をギルドはなんて定義してるか当然知ってるよな、タマ?」

 

「にゃるほど。『狩猟環境不安定化』のことだにゃ!! ご主人!!」

 

「そうだ。あの森付近はこれから様々なモンスターがなわばり争いで集まってくる。だから俺たちはその狩猟環境不安定化で集まってくるであろうモンスターを絞り込み事前に需要が出るである商品を供給する。これに成功すれば一攫千金が可能だ!! わかったか、タマ!!」

 

「わかったにゃ、ご主人!! それで一体にゃにを集めるのにゃ!?」

 

 

「…………」

 

 

「ご主人?」

 

 

「温泉……気持ちいいなぁ」

 

 

「おい。役立たず」

 

「やめろ!! 標準語で罵るな!! だって、だってわかるわけないじゃん!! 俺ハンターじゃないし!! 次に集まるモンスターが何かなんてわかりっこないじゃん!!」

 

「さっきまであんだけ高説ぶってって一体にゃにを言うにゃ!! ハゲ!! ハーゲ!!」

 

「ハゲとらんわ!! ユルフワ愛されヘアーじゃボケェェェ!!」

 

 

 

「「キィィィィィ――!!」」

 

 

 

 

 俺たちのお真面目トークなんて所詮こんなもん。


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