モンハン商人の日常   作:四十三

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新章突入です。





天廻せず、汝蝕み、されど堕つ
ご主人とタマ~お婿に行けぬ者たちの恋歌~


 えてして後悔とは、大体がその時にはすでに手遅れだったりする場合が多い。

 まあ簡単に言えば後の祭りというやつだ。

 

 

「よーし、タマ。今の状況を分かりやすく説明しろ」

 

 

 このドスジャギィと数頭のジャギノスに囲まれた今の状況がまさしくそう。

 

 

「ご主人……おいらの気のせいなら別にいいんにゃけど。前にもこんなことにゃかったかにゃ?」

 

 

 

「過去にとらわれるということはとても愚かなことだぞ、タマ。そんなことよりもなんかこう、もっとあるだろう? この状況を説明するわかりやすい言い方が」

 

 

「わかりやすい言い方にゃ? ほう? 面白いことを言うにゃ。ほれ、おいらが聞いてあげるからご主人言ってみるにゃ」

 

 

 

 目を「カッ!!」と見開いた。

 

 

 

「また護衛依頼するのすっかり忘れてました!! 本当にごめんなさい!!」

 

 

 

 

 俺はいけしゃあしゃあと謝罪の言葉を口にした。

 

 

 

 

「またかにゃ!? またなのかにゃ!! 過去の得るべき教訓と後悔する点は一体なんだったのにゃ!! 恥を知るにゃ!! このハゲご主人がぁ!!」

 

 

 

「ハゲてないもん!! ご主人ハゲてないもん!! 世界が嫉妬でうらやむ髪だもん!!」

 

 

 

 毒テングダケを積みユクモ村までの帰還道中のこと、俺たちはいつか見たことあるような懐かしい既視感に襲われていたりいなかったりしていた。

 

 

 新しい商品を手に入れた俺たちであり現目的地がユクモ村ではあるのだが商品が商品であるがゆえに売れる場所が限られているこの現状。

 正直ユクモ村には毒テングダケをまとめて買ってくれるような研究機関は存在しない。

 

 にも関わらずユクモ村に向かっているのはユクモ村から出ている『飛行船便』が目的である。

 

 

 

『狂竜ウイルス研究所』

 

 

 

 モンスターの狂竜化を研究しており、その対抗手段、兵器、狂竜化を利用した薬品を数々生み出しハンターたちの狩猟の手助けをしている研究機関、それが次の取引先。

 

 

 つまり俺たちの目的地はそんな研究機関が設けられており幾重もの古龍戦闘街で有名な都市。

 

 

 

『大都市ドンドルマ』である。

 

 

 

 

 ではあるのだが……残念ながら現実はこれである。

 

 こんな馬鹿みたいないつも通りのやり取りをしている間にもドスジャギィの群れは俺たちとの距離をじりじりと詰め始めていた。

 

 

 

 だが俺も無策で行商をするほどの馬鹿ではない。

 今日の俺は一味違う。

 

 

 

「安心しろタマ。俺はなにも考えなしに護衛依頼をしなかったわけじゃない。策はきちんと用意してある」

 

 

 

 

「にゃんと!? それを先に言うにゃ!! 流石だにゃ、ご主人!! なんだかんだで頼りににゃるにゃ!!」

 

 

 

 

「だろぉ!! 流石のご主人だろぉ? もっと褒め称えていいんだぞぉ!! それではまず皇帝閣下を荷車から解き放ちます……」

 

 

 

 そういいながら皇帝閣下を荷車から解放した。

 

 

 

「そしてあとは皇帝閣下の背中に乗って逃げ……」

 

 

 

 

「グワッ!!」

 

 

 

 

 とだけ鳴いた皇帝閣下は砂埃を巻き上げた。

 目にもとまらぬ速さで颯爽と駆け出していく皇帝閣下。

 

 

 

 ――当然、俺たちを置いて。

 

 

 

 突然のことで予想外だったらしいドスジャギィ。

 彼らですらその立つ鳥の後の濁さずぶりをただただ眺めることしかできていなかった。

 

 

 

 ぽっかりと時間が空いてしまったかのように硬直する一同。

 

 

 

 

「それでとっても頼りになるご主人!! この状況打破するどんなすごい策があるのかにゃ!? きっとご主人のことだからあっと驚くようなすごい作戦があるんだろうにゃぁ。まさかまた『皇帝閣下に乗って逃げる』が作戦とかまさか!! そんなまさか言わないよにゃ? ね!! ご主人?」

 

 

 

 タマは小首をかしげながら微笑みかけてきた。

 

 笑っていた。

 そう一部を除いては……。

 

「やだぁ!! タマさん可愛いぃ!! でもぉ目が笑ってないのは可愛さポイントマイナスだぞ♡。目を笑わせるのを忘れるなんてぇ、タマさんたらおっちょこちょいなんだからぁ。もぉ、ダ・メ・だ・ぞ」

 

 

 

 そう言ってタマの額を軽くこずいた。 

 

 

 

「もう……メッ♡」

 

 

 

 

『ブチッ!!』という効果音が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

「――シャァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 そう言っていきなり飛び掛かってくるタマ。

 

 

 

「やっべ!! ふざけすぎた!! 落ち着けタマ!! 怒りに呑まれるな自我を強く保つんだ!!」 

 

 

 

 くんずほぐれつ。

 慌ただしく揺れ動く荷車。

 

 

 

 そして晴天へと轟く断末魔。

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 俺の声だった……。

 

 

 

「おい!! ドスジャギィども!! 何をぼさっと見てやがるんだ!! お前らの獲物が今まさに襲われてるんだぞ!! さっさと助けないか!! ひぃぃぃぃぃ!!」

 

 

 

 ――グ、グワッァァァァァ。

 

 

 

 不意に俺の情けない泣き声にかぶさるようなそんな叫び声が聞こえてきた。

 

 

 タマではない。

 当然俺でもない。

 だからと言ってどうやらドスジャギィたちの鳴き声でもない。

 

 

 となればあと残るは……。

 

 

 

「……ふぐっ? にゃ!? 皇帝閣下!?」

 

 

 

 俺の肩に嚙みついていたタマがその鳴き声の主の名を叫ぶ。

 タマの視線の先には逃げ出したはずの皇帝閣下が必死の形相で俺たちの方に走ってきていた。

 

 

 走ってきていたというよりあれは『逃げ出してきた』という表現の方がしっくり当てはまる。

 それはドスジャギィから逃げたはずの皇帝閣下がさらに『何か』から逃げてきたということ。

 

 

 

 ――――!!

 

 

 

 突如明るく照らされていたはずの大地に巨大な影が差す。

 俺たちは覆われた空を見上げ、その現れた存在を確認した。

 

 

 生物ではない。

 それは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

 

「にゃ!? 『飛行船』にゃ!?」

 

 

 

 そう、それはどこからどう見ても『飛行船』だった。

 しかし、その飛行船が『ただの飛行船』でないことを理解しているのはこの場では俺と皇帝閣下だけだろう。

 

 

 悪趣味としか言えないどぎついピンク色で着色され、どう考えても意味のない船体のいたるところに埋め込まれた色とりどりの煌びやかな鉱石。

 

 そして船首には自己主張の塊である持ち主のオブジェクト。

 

 

 一度見たら決して忘れることなどできないインパクトがあり、この世に二つとあったら製作者の頭がトチ狂っているのではないかと疑わずにはいられない飛行船。

 

 

 そして『あの皇帝閣下』をあそこまで怯えさせる存在。

 間違いない、あれは……。

 

 

 

 

「あれは――陸海空三様商業船『ニューハーフ』……」

 

 

 

 

 掠れた声で持ち主の名をつぶやく……。

 

 

 

「俺の……『師匠』の船だ」

 

 

 

 俺は荷台から飛び降りようと構える。

 ジャギノスどもの包囲網など関係ない。

 

 俺たちが真っ先にしなければならないこと……それは。

 

 

 

「逃げるぞぉ!! タマァ!!」

 

 

 

 状況が全く把握できていないタマを鷲掴みにする。

 転げ落ちるように荷台から飛び降りる。

 

 

「にゃ!?」

 

 

 ――――!!

 

 

 言うが早いか上空から乾いた発砲音が連なった。

 その音が脳に伝達されたことより遅れて俺たちがいた荷車周囲の地面が深く抉れ……。

 

 

 

 ――『消し飛んだ』

 

 

 

「に゛ゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 というタマの悲鳴をかき消すように発砲音と着弾音は止むことなく大地に着々とクレーターを作っていった。

 突然の乱入者からの襲撃にドスジャギィどもはまたしても散り散りに逃げ出していく姿が目の端に留まる。

 

 

 飛行船から放たれるバリスタの弾はなお止むことなく俺たちを狙って地形を変え続けていた。

 

 

 

「にゃんにゃ!? 一体にゃんにゃのにゃ!?」

 

 

 

 俺は前方を走る皇帝閣下を一心不乱に追いかけながら答える。

 

 

「あれは『対試作古龍兵器 多連弾式バリスタ臨機動砲門』!! 通称『ガチホ……』!! ……じゃなかった『バリホモ』だ!!」

 

 

 

「そんなこと聞いてるんじゃにゃいにゃ!! にゃんでおいらたちが狙われているのかを聞いているのにゃ!!」

 

 

 

「ごめんなさいタマ!! あの人そういう人だからとしか言えない!! たぶん特に理由とかないと思う……!!」

 

 

「っていうかご主人の師匠って商人じゃないのかにゃ!? にゃんであんな物騒なもの持ってるんだにゃ!!」

 

 

 

「ごめん!! 本当にごめん!! 本当にあの人そういう人だからとしか言えない……!!」

 

 

 

 正直あの人はそこら辺の飛竜より質が悪い。

 たぶん行動に対する思考回路に関してだけ言えば牙獣種と大差ないほどの衝動で動いているといっても間違いではないだろう。

 

 

 

「タマァ!! もしも師匠に捕まったら一巻の終わりだと思え!!」

 

 

 

 忠告する。

 俺の師匠を知らないタマにあの人の危険性を教えるために。

 

 

 

「……もしも捕まったらどうなるのにゃ?」

 

 

 

 下から見上げるような視線で恐る恐る質問を返すタマ。

 

 

「もしも捕まったら……」

 

 

 

「つ、捕まったら……?」

 

 

 

 生唾を飲み込む音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「――もう『お婿(むこ)』には行けなくなると思え……」

 

 

 

 

 

 

 後方でどデカい着弾音が轟いた。

 

 

 

 

 

「――嫌にゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

「グワァァァァァ!!」

 

 

 

 

 タマの悲鳴に呼応するかのように前方で皇帝閣下も恐怖で悲鳴を上げていた。

 その時皇帝閣下が隣地にあった雑木林に逃げ込もうと進行方向を変えた。

 

 

 その姿を見てとっさに叫ぶ。

 

 

 

 

「馬鹿野郎!! 皇帝閣下!! 列から離れるなぁ!!」

 

 

 

 

 だが時はすでに遅かった。

 目立った行動とった獲物は狙撃手からすればいい的でしかない。

 

 

 

 刹那。

 

 

 

 上空から放たれた凶弾が……。

 

 

 

 

 ――皇帝閣下を貫いた。

 

 

 

 

「にゃぁぁぁぁぁ!! 皇帝閣下ぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 皇帝閣下を射抜いた『束縛用バリスタ弾』につながれたワイヤーを巻き上げるような摩擦音とともに皇帝閣下は上空、飛行船へと吸い上げられていった。

 

 

 

「グッ、グッワァァァァァ!!」

 

 

 

 それが俺たちの聞いたあいつの……最後の言葉だった。

 

 

 

 皇帝閣下を捕獲したためか砲撃音は一時鳴り止む。

 その隙に俺はタマをつかんだ状態で先ほど皇帝閣下が逃げ込もうとした雑木林に飛び込んでいった。

 

 

「ご主人……!! 皇帝閣下が……!! 早く助けに行かにゃきゃ皇帝閣下が……!!」

 

 

 今にも泣きだしそうな声で俺にすがりつくタマ。

 

 

 

 

「諦めろタマァ!! あいつは……!! 皇帝閣下はもう……!!」

 

 

 

 

 俺はタマの肩を両手で制しながら絞り出すような声で辛い現実を口にした。

 

 

 

 

「もう……『お婿』には行けないんだ」

 

 

 

 

 それが現実である。

 

 

 

「い、嫌にゃ……。だ、だっておいら皇帝閣下と約束したのにゃ……。二人で玉の輿に乗って『こんなクソみてぇなご主人の元一刻も早く抜け出そう!!』って、おいら皇帝閣下と約束したのにゃ……!!」

 

 

 

「泣くなタマ!! 俺だって……俺だって涙を堪えてるんだ!!」

 

 

 

 

 いや、マジでで泣きそうなんだけど。

 え? なに?

 

 

 お前ら影で俺のことそんな風に言ってたの?

 

 

 

 

 ――――ドン。

 

 

 

 

 不意にそんな単発の発砲音が空気の振動とともに俺たちの肌と髭を揺らした。

 

 

 

「どっせぇぇぇい!!」

 

 

 

 そう雄たけびを上げタマを持ち上げ弾道射線上を防いだ。

 

 

 

「に゛ゃ!?」

 

 

 

 両手から伝わる衝撃。

 雑木林めがけて放たれた束縛用バリスタ弾がタマの背中に着弾した。

 

 

 

「……」

 

 

「……おい。ちょっと、ご主人」

 

 

 その時のタマの表情は苦笑いで口角が引くついていた。

 

 

 あのときと同じくワイヤーを巻き上げるキュルキュルという音が聞こえてくる。

 

 

 

「……いやまあ、あれだ」

 

 

 

 俺はタマの瞳をまっすぐに見据えながらこう言った。

 

 

 

 

 

 

「――俺も玉の輿諦めてないし」

 

 

 

 

 

 タマの額に怒りの筋が浮かんだ。

 そして、天空へと吸い上げられていく間際こう叫んでいった。

 

 

 

 

「このクソご主人がぁぁぁぁぁ!! 見損なったにゃぁぁぁぁぁ!! にゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 タマの恨み声は広い空へと溶けていった。

 

 

 

 

「今のうちじゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 雑木林をかき分け姿をくらます。

 

 

 

 

「うおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 こうして俺一人だけ無事に変態の魔手から逃れることができたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 渓流付近の森。

 師匠からの襲撃から無事逃げ出した俺はとりあえず空から追われぬようにこの森の中に身を隠していた。

 

 

 

「タマには悪いことをしちまったな……」

 

 

 

 俺はあの時のことを思い出しながらとぼとぼと歩いていた。

 正直な話、皇帝閣下を人質に取られた時点でもうあれは俺の負けだった。

 

 

 

 師匠はおそらく今回も俺に何かしら用事があったのだろう。

 

 

 

 俺が逃げるのをわかっていたからまず最初に皇帝閣下を人質に取ったのだろうな。

 皇帝閣下がいなければ俺は行商ができない。

 行商するためには皇帝閣下を迎えに行かなければならない、そして返す条件にまた無理難題を押し付けられるのだろう。

 

 

 そしてそのついでにお婿に行けない体にさせられるのだ。

 

 

 

 なのだが、今回はタマがいる。

 タマと師匠は初対面。

 

 

 師匠がタマを遊び道具として遊んでくれれば俺への遊びがもしかしたら軽くなるかもしれない。

 そんなことを考えた末、タマを師匠の下に送った。

 

 

 もう師匠に会いに行くのは決定事項。

 ならばあとはどれだけ被害を少なくするかに力を注ぐしかない。

 

 

 つまりタマはそのための猫柱である。

 

 

 いやぁ、本当にタマには悪いことをした。

 

 

 

「まあしょうがないよねwww だって俺クソみてぇなご主人だしぃwww」

 

 

 

 反省はしていない、そして後悔もしてない。

 はい私が人間の屑です。

 

 

 

「商品の毒テングダケは……まあ大丈夫だろうな」

 

 

 

 

 師匠はあれでも元凄腕のガンナーだ。

 今まで何度も襲撃されたことはあったが一度として商品をダメにされたことはない。

 きちんと回収してくれるだろう。

 

 

 そこに関しては本当に信用できる。

 ボウガン使いとネーミングセンス以外は本当に最悪だけども。

 

 

 

「とりあえず、どっかで時間つぶさないといけないのか。さて、どうしたもんかね……」

 

 

 

 

 そう何気なくつぶやいた。

 

 

 

 

 その時。

 

 

 

 

 皮膚がひりつくような空気が俺の周りを取り囲んだのを感じた。

 気温が急激に下がったかのように空気が重い。

 

 

 この感じ、どこかで感じた雰囲気に似ているな。

 

 

 

「ここは……危険か」 

 

 

 

 何かモンスターが近くにいるのかもしれない。

 ジンオウガがまだこの渓流付近の森に残っているのかもしれない。

 

 

 

 とりあえず、今は情報が少なすぎる。

 むやみやたらに動くのは危険か。

 

 

 

 どこか身を隠せる場所があればいいのだけれど。

 

 

 そう思案を巡らせふと周りに視線を広げた。

 その視界の中にあるものが飛び込んできた。

 

 

 

「これは……」

 

  

 

 そこには地面から生えた緑を赤く染める液体が点々と一つの道を作り出していた。

 

 

 

「はあ……」

 

 

 

 堪らず、大きなため息をついた。

 

 

 

「どうして俺の周りにこういろいろなトラブルが舞い込んでくるのかねぇ」

 

 

 

 無視すればいいものを。

 と考えたりもする。

 

 

 血が示す先に一体何があるのか。

 それはもしかしたらただの好奇心だったのかもしれない。

 

 

 

「まあ、あれだ。俺って基本馬鹿だし?」

 

 

 

 それが理由ってことで。

 

 

 

 

 血の道しるべをたどる。

 注意深く地面を調べる。

 

 

 

 

 

 ――モンスターではないな。

 

 

 

 

 

 そう確信した

 

 

 

 

 地面を調べても足跡は見つけられなかった。

 足跡があれば一発でそれが何の生物かがわかるのだが残念ながらその手の情報は全く得られなかった。

 だがそれでもなぜモンスターではないと確信したのかというと。

 

 

 地面に不自然な小さな穴が等間隔で存在していたためだ。

 

 

 

 小さな穴。

 大きさ的には五センチほどの縦長の穴。

 

 

 これが何を意味しているのかというとこいつは何か棒のようなものを『杖のように支えにして歩いていた』という証拠だ。

 

 

 多種多様なモンスターがいれど今のところそんな生物は一種類しか確認されていない。

 

 

 

 ということはこの血の主であり先にいる存在は。

 

 

 

「――『人間』か」  

 

 

 

 その杖の代わりにしていたという物は形状的に……。

 

 

 

 

 ――太刀。

 

 

 

 つまりこの先にいるのは『手負いのハンター』か。

 

 

 

「はぁ……。はぁ」

 

 

 

 無意識に進む足が速くなる。

 道とは言えないような生い茂った草木の先を慎重に突き進む。

 

 

 

 目の前にそり立つ絶壁が姿を見せる。

 その一角に大きくあいた洞窟が顔をのぞかせた。

 

 

 

 風がない。

 この洞窟の先は行き止まりか。  

 

 

 ただ血はこの先まで続いている。

 

 

 

「ふぅ。よし……」

 

 

 

 洞窟を進んだ先には死体があった。

 なんて展開だけは勘弁してほしいものだ。

 

 そう思いながら洞窟へと足を踏み入れた。

 

 

 やはりどう考えても自分が馬鹿なことをしているような気がしてならない。

 自己満足も甚だしいのだろう。

 

 

 まあそれでも構わない。

 

 

 

 

『君の正義は――生温い』

 

 

 

 

 これが正義なのかどうかはわからない。

 

 

 

 だが……。

 

 

 

 そう。

 俺はそれでも構わない。

 

 

 

 

 洞窟の奥に血の主がいた。

 

 

 

 

 暗くてよく見えない。

 しかしその見える情報だけでも理解できた。

 

 

 

「……あんたは」

 

 

 

 暗くてもわかるほどボロボロになっている女性用『デスギアシリーズ』

 閉じてはいるものの見覚えのある復讐に満ちた目。

 

 

 そして決定的となったのが『見たことのある』あの『見たことのない太刀』

 

 

 

「……あの時の」

 

 

 

 渓流の森で出会った『女筆頭ハンター』の痛々しい姿がそこにはあった。

 

 

 

 

「……誰だっけ?」

 

 

 

 ツッコミがいないのにふざけても仕方がないと俺はこの時虚しくそう――思ったのだった。




はい。
というわけでお待たせしました。


……かどうかは知りませんが、まあとりあえず『モンハン商人の日常』第三章にしてようやくの……。




――『メインヒロイン回』です。

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