SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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ようやくクラーグ様戦です。
クラーグ様は敵対する理由がいろいろとしょうがないとはいえ、戦うのが忍びないボスの筆頭です。
本作でも立ち位置は妹の為という意味で同じですが、ボスとしての性能は魔強化してあります。




Episode11-9 混沌の魔女クラーグ

 変な話だが、DBOでオレはまともなボス戦をかれこれ1度として体験した覚えが無い。

 記念すべき初ボス、腐敗コボルド王。まさかの復活強化の上、ザ・スカル・リーパー付き。オマケに『命』があるAIである。

 2戦目、苦痛のアルフェリアとシャドウ・イーター。シャドウ・イーターも『命』あるAIだったが、それ以前にあんなイレギュラーな形で引き起こされたボス戦も珍しいのではないだろうか。

 3戦目、成り損ないの苗床。もう以下略と付けたいくらいに、既にダンジョンの時点でお察し状態のカオス具合。

 そして、今回で4戦目。オレの前に現れたボスは異形だった。

 それは赤い体表をした巨大な蜘蛛。複眼は緋色で蠢き、縦割りの顎は餌を求めるように開閉する。8本の脚は地を叩く度に火の粉と熱を撒き散らし、体毛は揺らぐ火の中で踊る。

 およそ生理的嫌悪感をもたらす巨大蜘蛛。だが、その背には対極的な美が君臨する。

 妙齢の美女。切れ長の眼と桃色の唇、瞳では炎が渦巻き、一切の混じりがない黒の髪は結われて高熱で歪む大気と共に靡く。

 美女の下半身は大蜘蛛と一体化していた。裸体の美女は自らが魔性の者である事を主張するような鋭く伸びた黒の爪で飢えて咆える大蜘蛛の頭をあやすように撫で、右手に持つ蜘蛛の脚を加工したような歪な曲剣を振るう。ただそれだけで斬撃は火炎となり、鞭となり、地を焼き尽くす。

 

『闇の血を持つ者よ、何故この地を血で汚す? ここは記憶の世界。留められた世界の欠片。時で病は癒える事も無く、ひたすらに連続した事象の中に囚われる。それでも生ある者も死に満たされた者も世界に記憶と記録としてあり続ける。まるで火の影のように』

 

 HPバーが表示される。その数は3本。決して多い部類ではない。だが、感覚で分かる。彼女は生きている。『命』を持つAIであり、オレ達を理解しようとする知性があり、戦いに意義を問う感情がある。

 人間と何ら変わらない、ただボスというだけで斃すべき敵である女性。

 たじろぎが伝わる。ラジードも、ミスティアも、ノイジエルも、他の面々も、ここまでハッキリと人の言葉を操り、知性と感情を示した相手と『殺し合い』をした事など無いのだろう。

 だから、オレは成すべき事成すだけだ。皆に思い出させるだけだ。

 

「殺してるんだ。殺されもするだろ? 今日の晩飯はオレ達か、それともデザートでアンタが平らげられるか。理屈なんかそれ以上も要らねーよ」

 

 誰よりも先にオレは踏み込む。それを美女は……〈混沌の魔女クラーグ〉と名を頂くボスは、魂すら魅了するような麗しい笑みでオレを迎える。

 炎の斬撃。それが頬を撫で、熱風が地面を削る。曲剣自体のリーチは長くないが、纏う炎が荒れ狂う刃となって、鞭の如くしなりながら襲いかかる。外観で間合いは測れない。最悪リーチは無限である前提で動く。

 狙うはクラーグの上半身、ヘアヌードの裸体だ。試しに茨の投擲短剣を投げ付けるが柔肌に到達するより先に発せられた炎に阻まれ、焼き尽くされ、消し炭となる。

 シャドウ・イーターと同じ、炎による自動防御だ。逆に言えば、クラーグ本体とも言うべき人体部分こそが弱点であるという証明でもある。オレはカタナを抜いて、まずは蜘蛛の胴体に斬りかかるが、その手応えは分厚い鎧に斬りかかっているかのようだ。

 

「美人は世界遺産だから斬るのは忍びねーんだけど、な!」

  

 背筋が焼かれるように熱い。オレは本能の警告に従い、バックステップを踏む。刹那の遅れで地面から炎が噴き出し、蛇の如く牙を剥いて襲い掛かる。

 成り損ないの苗床と同じ物質的な炎だ。そう判断したオレは炎の蛇の首を切断する。HPは大した量ではないらしく、それだけで炎の蛇は失せる。

 炎の刃が地面を抉りながら突進する。回避しようとするが、枝分かれした1本が横腹を抉る。赤黒い光が飛び散り、焼かれるような感覚が腹まで染み渡る。

 だが、止まらない。次々と枝分かれする炎の刃の中を潜り抜け、再度斬撃を決める。それと同時に煌めく銀の一閃がオレとは反対側の側面からクラーグを襲う。

 ようやくか。DEXを活かしたミスティアの槍の突き。それが蜘蛛の胴体を貫く。大蜘蛛はマグマのような体液を口内から撒き散らして咆える。炎の蛇が地を這いながら彼女に喰らいつこうとするが、それより先に退却した彼女と入れ替わる様にラジードが双剣を振るって炎の蛇を細切れにする。

 クラーグが謡う。それは古き時代、人の世が始まった頃があるような魂を揺さぶる、歌詞も何もない、純然たる歌声。それと同時に周囲に10を超える、まるで太陽のような炎の塊が生まれる。呪術【大火球】に似たそれはクラーグの周囲を回転し、まるで索敵しているかのようだった。

 飛来する。炎の塊は次々とプレイヤーへと迫り、大爆発を引き起こす。火炎壺で誘爆して逃れたオレだが、逃げ遅れたラジードに3つの炎の塊が迫る。しかし、間に入ったノイジエルが銀の円盾で爆発を受け止めた。その衝撃は凄まじく、ガードごと盾を爆砕する勢いなのだが、ノイジエルの盾は亀裂1つ入っておらず、また彼のHPも僅かしか減少していない。

 あれがノイジエルの勇名と共に名が知られる【反魔の円盾】か。銀色に赤熱した赤みを帯びた銀の盾はあらゆる属性に対して高い防御力を持つ優れた盾だ。ガード性能も高いレアアイテムである。高性能と引き換えの高重量であり、またデバフに対する防御性能が皆無であるが、それでもなお前線で戦う接近戦プレイヤーからすれば垂涎の1品である。

 兜割の大斧を横振りしてノイジエルは大蜘蛛を横殴りにする。もはや刃よりも鈍器に近しい、まさしく戦斧らしい攻撃である。だが、大蜘蛛はまるで怯むことなく、むしろ口内からマグマを吐き出してノイジエルをガードごと押し退けさせる。たとえ盾が優れていようとも、放出され続けるマグマで押し込まれれば踏み止まることはできない。

 だが、他のプレイヤー達も1人1人がオレの士気破壊の説明を受けてなおボスに挑む事を決意した猛者たちだ。クラーグに気圧されこそしたが、1度戦いともなればいずれも澱むことなく自らの役割を果たす。弓矢装備の男プレイヤーが正確にクラーグ本体へと矢を放つ。いずれも炎に弾かれ、溶かされるも、その正確な射撃は少しずつではあるが、炎の防御壁を削り続けている事が分かる。

 シノン程の連射速度とは言い難いが、彼女に匹敵する偏差射撃は動き回るクラーグ本体を狙い続ける。あの弓矢野郎、良い腕だな。

 

「臆するな! ヤツの炎の結界は有限だ! 攻撃をとにかく浴びせるんだ!」

 

 斧を振り回してクラーグを牽制しながらノイジエルは士気を高めるべく声を張り上げる。

 槍による一撃離脱戦法を繰り返すミスティアはリーチを活かして側面から大蜘蛛の外皮を貫き、その穂先を押し込む。彼女の持つ明星の槍はMYSボーナスが大きい、高い光属性が魅力の武器だ。大蜘蛛の部分は物理属性が利き辛いため、彼女の明星の槍は突き刺さる度に確実にクラーグのHPを削ることができる貴重な武器だ。

 

「曲剣の軌道に惑わされては駄目よ! 炎の動きを注視して!」

 

 左手の【白のタリスマン】にミスティアは黄色の光を収束させる。奇跡【雷の槍】だ。雷撃の一撃はどうやらクラーグにも有効らしく、横腹に雷の槍を浴びた大蜘蛛はバランスを崩す。その瞬間を待っていたと言わんばかりにツヴァイヘンダーで地面を抉りながら駆けたラジードが特大剣らしい、豪快な斬り上げでクラーグを僅かに浮かび上がらせる。

 

「全員離れろ!」

 

 太陽の狩猟団の魔法特化プレイヤーがそう叫ぶと同時にソウルの槍を杖から放つ。ソウルの矢とは比べ物にならない程に巨大な、先端が尖った青い光の塊は完全に足が止まったクラーグ本体に突き刺さる。高火力のソウルの槍は貫通効果を持つ魔法である為に仲間を巻き込みかねない。恐らくあの魔法特化プレイヤーは最初からこのタイミングを待ってソウルの槍をいつでも撃てる準備を整えていたのだろう。

 いかに炎の結界で身を守っているとはいえ、ソウルの槍を完全に無力化はできなかったのだろう。クラーグがたじろぐ。その瞬間を逃さずにオレは強化スナイパークロスを構え、その美貌の象徴である顔を狙い撃つ。鋼のボルトは真っ直ぐにクラーグの額へと飛来し、薄くなった炎の結界を突き破った。

 

『ぐうぅ!?』

 

 炎の結界が霧散し、大蜘蛛が足をもつれさせて倒れる。どうやら下半身の大蜘蛛の制御を担っているのはクラーグ本体である。この隙にノイジエルが振り上げた兜割の大斧を橙色に輝かせる。≪戦斧≫の連撃系ソードスキル【タイタン・グレイヴ】だ。4連続で叩き付けられた戦斧がクラーグ本体を襲い、その艶やかな人肌から赤黒い光を噴き出させる。

 大型モンスターすらスタンさせる程の強力な連撃ソードスキルだ。弱点に正面からソードスキルを受けたクラーグのHPは大幅に減少する。曲剣を振るってソードスキル後の硬直状態にあるノイジエルを振り払うも、炎の刃による追撃は弓矢装備のプレイヤーが放った≪弓矢≫の連撃系ソードスキル【サイレント・スリー】によって阻まれる。同時に3本の矢を放つこのソードスキルは、緑の光を帯びた3本の矢を曲剣を持つクラーグの右腕に命中し、その炎の刃の動きを止める。

 更に攻撃を狙って両手剣装備の太陽の狩猟団のプレイヤーがクラーグ本体へと斬りかかる。その両手剣は青光を浴びている。どうやら彼は魔法剣士のようだ。あの光から察するに【魔法の武器】だろう。武器に魔法属性のエンチャントを施す、名前通りの魔法だ。

 クラーグは曲剣でエンチャントが施された両手剣と斬り合うが、その動きは重ねられたダメージのせいか鈍く、数度目の剣戟で袈裟斬りを浴びる。だが、ここで復活を果たした大蜘蛛はその身を煌々と輝かせた。

 瞬間、クラーグを中心に爆発が引き起こされる。欲張って離脱が遅れた両手剣のプレイヤーはまともにその爆発を浴び、一気にHPを失う。跳ね飛ばされ、地面を転がった彼は急速に失われていく自身のHPを見て、何か叫んだ。それは言葉にならぬ恐怖そのものであり、誰にも理解されぬままに彼は赤黒い光となって消し飛んだ。

 残存戦力はこれで6名。火傷を負うのではないかと思う程に熱気が満ちたボス部屋で、プレイヤー達の空気が凍てつく。クラーグのHPバーは1本目がようやく残り2割といったところだ。HPバーの減少と共に能力を解放する事が多いボスからすれば、まだ本気を出していない状態である。

 最初から死者は出ると分かっていたが、まさか一撃とは思わなかった。再びクラーグ本体は火のオーラを纏っている。恐らく結界を張り直す際にあの爆発を引き起こすのだろう。あるいは、元々周囲を薙ぎ払う爆発攻撃を持っていたのか。何にしてもHPがフルだった鎧装備の近接プレイヤーが即死だ。オレなど掠っただけで良くて瀕死だろう。

 だから何だ? いつもと同じだ。耐えられずとも良い。要は喰らわなければ良いのだ。

 クラーグの炎の攻撃は確かに凄まじい。だが、一方で彼女の剣捌きはお粗末なものだ。恐らく、彼女は本来炎の攻撃を主体とした名前通りの『魔女』なのだろう。曲剣から生み出された炎は物質化する事もできるが、それよりも厄介なのは彼女の下半身の大蜘蛛だ。

 カタナの斬撃にも耐え、ノイジエルの大斧をまともに受けてもたじろぎもしない。恐らく高い物理防御力を持ち、斬撃属性と打撃属性がほとんど通じないのだろう。だが、ミスティアの槍には貫かれたところを見ると刺突属性には弱い。そして、1度怯ませればラジードがしたように高火力武器を叩き込んで大きな隙を生み出すことができる。

 オレに残された近接武器はカタナと爪撃の籠手、それにサブウェポンの鉄刀のみ。いずれも斬撃属性だ。魔法属性を帯びた銀光の斧さえ残っていれば戦う術もあったのだが、現状では強化スナイパークロスでクラーグ本体を守る炎の結界を減衰させる程度しか方法が無い。

 そうなると、太陽の狩猟団の魔法使いとミスティアは生存に必須だ。隙を生み出す為にもラジードの特大剣は欠かせない。聖剣騎士団の弓矢使いは炎の結界を迅速に剥がすのに不可欠だ。そうなると、実質的にオレとノイジエルだけでクラーグを引き付けねばならない。

 クラーグの間合いに入る。左目を潰されている為に視界は半分。クラーグもそれを分かってはいるが、炎という特性上か、攻撃は大雑把だ。周囲を薙ぎ払うのには適しているが、死角を取り続けるには下半身の大蜘蛛が巨大すぎるのも影響して叶っていない。

 ノイジエルもまたオレの意図を察知してか、盾を構えながら側面に回り込む。クラーグは蜘蛛の脚で地面を叩いて炎を立ち上げさせてオレ達を弾き飛ばそうとするが、オレもノイジエルもその程度で張り付く事を止めなどしない。

 そうしている間にもミスティアは確実にヒット&アウェイで槍を突き刺し、クラーグのHPを削り続ける。クラーグもまた彼女を敵視して攻撃を仕掛けるが、まるで傍付きの騎士のようにラジードが常に間に入って双剣で物質化された炎を薙ぎ払う。

 そうしている間に絶え間なく放たれ続ける矢がクラーグの炎の結界を削る。そして、ある程度薄くなったところでソウルの槍を加えてスタンさせる。

 ひたすらにそれの繰り返しだ。3度も繰り返した頃には、クラーグのHPバーは2本目の半分にまで至っていた。だが、クラーグの顔にはまだ余裕がある。それも当然だろう。

 4度目のスタンのチャンス。だが、放たれたのはソウルの槍ではなく、ソウルの矢の上位互換である【ソウルの太矢】だ。

 

『強力な魔法には相応の制限がかかるもの。やはり使えて数度だったか』

 

 悠然とクラーグは炎の爆発を引き起こす。幸いにも予兆として炎が凝縮する為にオレとノイジエルは何とか回避することができたが、炎の結界が再度張り直される。

 そして、炎の結界を破るはずだった矢の援護も無くなった。見れば、弓矢装備のプレイヤーが悔しげに歯を食いしばっている。彼の矢筒には既に矢が残されていない。在庫が尽きたのだ。

 

「ヤベェな。半分って見積もりは甘かったか?」

 

 一方のオレも唯一のダメージソースに成り得る強化スナイパークロスボウはオートリロード分を使い果たした。手動ではオレのSTRでは1発装填に3分はかかるだろう。それ程の時間を再装填だけに費やすなどクラーグが許すはずが無い。

 こうなるとミスティアの槍だけが頼みなのだが、元よりカーク戦の時点で疲労で弱っていた彼女だ。既に戦いに精細さが欠けている。ラジードのツヴァイヘンダーも元より破損していたのだ。特大剣という耐久値が高い武器であるとはいえ、攻撃面での劣化は著しい。

 そして、今度は弓矢装備のプレイヤーが、突如として跳ねた大蜘蛛の下敷きとなり、そのまま頭を蜘蛛の顎に食い千切られた。赤黒い光となって弓矢装備のプレイヤーは悲鳴を上げる事も許されないままにこの世からもゲームからも退場する。

 

『残り5人』

 

 クラーグが静かに宣言する。それから数十秒と経たぬ間に、魔法使いプレイヤーが伸ばされた炎の刃に串刺しにされ、振り回され、壁と天井に叩き付けられ、砕けた。赤黒い光が雨のようにオレ達に降り注ぐ。

 

『残り4人』

 

 クラーグの炎の刃が踊る。どうやらノイジエルはそろそろ疲労が限界らしく、動きが鈍く、反応が遅れ始めている。炎の刃をガードしようとするも、上手く踏ん張れずに転倒してしまう。先程までの彼ではあり得なかったミスだ。

 炎の刃を直撃し、ノイジエルのHPが大きく削れる。イエローゾーンに突入した彼は追撃を何とか盾で防ぐも、大蜘蛛が吐き出したマグマによってじわじわと削られ続ける。

 

「まだだ! まだ俺は倒れる訳にはいかん!」

 

 何とかマグマ攻撃を耐えきったノイジエルは大斧で大蜘蛛の頭部を叩く。だが、怯む事が無い大蜘蛛は逆に体当たりでノイジエルを大きく吹き飛ばした。

 もはやノイジエルに接近戦は期待できない。オレはカタナを逆手に、クラーグの側面に回り込みながら斬りかかる。せめてクラーグ本体に刃が届けばいいのだが、彼女の裸体の上半身を斬ろうとする度に炎の結界に阻まれ、カタナは赤熱して刃は柔肌に触れることができない。だが、確実に炎の結界が消耗している。

 踊る炎の刃は鞭のようであり、周囲を焼き焦がしながらオレを巻き取らんとする。その隙間を潜り抜けてオレは逆に大蜘蛛の脚の1本の関節へと斬りかかる。それは僅かにクラーグの体勢を崩したが、隙らしい隙にはならずに逆に彼女の左手から放たれた発火の上位版の【大発火】が左耳を掠めた。

 やはり左半分の視界が無いせいか、上手く立ち回りができない。連続で立ち上がった火柱を転がりながら回避し、残り少ない茨の投擲短剣を投げつける。炎の結界は随分と薄くなったが、それでもなお届かない。

 足りない。圧倒的に火力が足りない。だが、不思議とオレの中で絶望と呼べるようなものは生まれていなかった。

 まだ武器は残っている。大蜘蛛の部分を攻撃してダメージが皆無というわけでもない。炎の結界も確実に削り続けることが出来ている。だとするならば、勝機は十分だ。

 クラーグの炎の刃による連撃。それを身を屈めて回避し、更なる突きをカタナでいなす。大蜘蛛が口を開けてマグマを吐き出そうとした瞬間にカタナを捻じ込み、体内へと深く突き刺して捩じる。

 

『どうやら晩餐に並ぶのはお前たちの様ね』

 

 クラーグは先程のオレの言葉を引用する。だが、オレは女神とも思える美貌を持つ彼女に、強気に笑む。

 

「それはどうだろうな? オレを殺すのはゴキブリ退治よりも大変だと思うんだが、な!」

 

 炎の結界がようやく攻撃が届く程に薄くなる。オレの斬撃がクラーグのヘソの辺りを裂く。その隙を狙ってミスティアが槍を突き出すも、クラーグの左手で槍は捕まえられ、逆に投げ飛ばされる。

 劣勢の戦いは続く。そして、更なる駄目押しがオレ達の前に現れる。

 足音を鳴らし、クラーグが登場した塔のような遺跡から1人のプレイヤーが姿を現した。

 

「ようやくだな、【渡り鳥】。貴様との戦い、決着を付けよう」

 

 カーク。右腕の再生を完全に終了した【棘の騎士】が、オレに最後の戦いを挑んだ。




クラーグ様無双&カーク参戦。
久々に思いっきり勝ち目のない状況を作り上げてみました。

希望? そんなもの、やっぱり本作には似合いません。


それでは、77話でまた会いましょう。

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