SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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引き続きお読みいただきありがとうございます。

これからは前書きにて、本作にて登場した、あるいは予定の、もしくは登場すらしないかもしれないスキルやアイテムを紹介していきたいと思います。


スキル
≪片手剣≫:片手剣にボーナスが付く。片手剣のソードスキルが使えるようになる。
≪両手剣≫:両手剣にボーナスが付く。両手剣のソードスキルが使えるようになる。
≪刺剣≫:刺剣にボーナスが付く。刺剣のソードスキルが使えるようになる。

アイテム
【燐光草】:仄かに光る薬草。傷を癒す力があるが、その効力は薄い。HPを10秒かけて1割回復する。ハッキリ言って貴重な品ではない。
【レッドローズ】:片手剣。闇の騎手が所有していた剣。その赤薔薇の紋章から、高名な騎士の所有物である事が窺える。熟練度を上げる事で真価を発揮する。
【ウォーピック】:戦槌。刺突と打撃の2つの属性を持つ。戦闘用に製造されたピッケル。シンプル故にその威力は高く、十分に信頼できる武器である。



Episode1-5 墓標

 1万人以上のプレイヤーで阿鼻叫喚の混迷を極める広場を離れ、オレ達3人は終わりつつある街の酒場【首なし牛】の2階に設けられた宿の1室に集まっていた。

 今にも脚が折れそうな木製の椅子に腰かける青髪のイケメン……現実と同じ容姿になったディアベルは額に手を当て、力なく項垂れている。

 次に硬そうなベッドに腰かけ、芯の硬さ故の脆さを抱えてそうな女……というよりはまだ少女と称しても問題ない姿をした、これまた整った顔立ちをしたシノンは、現実逃避するような無表情だ。

 

「クゥリ君、俺達は本当に……」

 

 否定して欲しい。そんな意思を臭わせるディアベルの言葉に、オレは即座に肯定しようとする口を強引に紡ぐ。

 普通に考えろ。いきなりデスゲームに放り込まれて、まともに頭が働いている方が異常だ。オレは単に慣れているだけだ。ディアベルやシノンは違う。

 現実を受け入れるのには時間がかかる。適応するにはそれ以上の時間を必要とする。かつてSAOでは、ベータテスターが情報のアドバンテージを利用したスタートダッシュを敢行し、決して少なくない犠牲者が出た。今回も似たような連中が一定数出るだろうが、知った事か。SAOの前例がありながら同じ轍を踏む馬鹿は死んでも仕方がない。そう割り切らなければ、このデスゲームは生き残れない。レベルも低く、情報もなく、スキルも揃っていない初期は特にそうだ。

 

「シノン。大丈夫か?」

 

「そういう貴方は平気そうね」

 

「……これでもSAO生還者だからな。デスゲームには慣れてんだよ」

 

 途端にディアベルは眉間に皴を寄せ、シノンは口をぽかんと開く。まあ、そういう反応になるよな。オレだって同じ立場だったら似たような反応しかできないに違いない。

 

「今はゆっくり休めよ。明日からの事は考えるんじゃねーぞ。この部屋からも1歩も出るな」

 

 2人は無言で頷く。ディアベルはともかく、シノンは反抗してくると思ってただけに意外だ。まあ、精神が擦り切れてて反発する元気も無いのだろう。

 DBOの仕様なのか、それとも終わりつつある街限定なのか、この街には安全圏は存在しないが、窓には鍵をかけたし、保険でオレが見張りになれば2人は今晩ゆっくりと心を休める事ができる。

 

「下の階でなんかメシ買って来る。ノックを3回するから、それ以外の合図の時は絶対に開けるなよ。頭がイカれてPKに走る連中がいないとも限らないからな」

 

 まさかPoHみたいな最初から殺人思考全開の奴が世の中にゴロゴロといるとは思えないが、念には念だ。

 

「すまない、クゥリ君。キミも大変なのに、面倒まで見てもらって」

 

「気にすんなよ。オレはオレでお前らに頼らなくちゃいけない事が腐るほどあるからな。特にシノン。隠し事なしでベータテスターとして得た情報を全部吐いてもらうぞ。変なゲーマー魂持ってるなら今の内に捨てておけ」

 

「相応の対価が貰えるならね。情報を簡単に渡す気がない事は憶えておいて」

 

 強気な声音のつもりだろうが、声が震えてるから迫力がない。シノンの精神ダメージはオレが思ってるよりも大きいようだ。オレにメンタルケアなんて無理だし、ディアベルに立ち直ってもらって彼女のケアを頼む他ないだろう。

 他力本願と笑いたきゃ笑え。あの悪の帝王も適材適所を説いてたんだ。王には王の役割。コックにはコックの役割。オレにはオレの役割がある。そして、今のオレの役割はコイツらを立ち直らせて、デスゲームを生き残るいろはを最低限作り出す事だ。

 部屋を出たオレは【気配遮断】のスキルを発動させる。まだ成長していないスキルだが、それでもこの状況で少しでもステルスできるのは大きなアドバンテージだ。

 幸いにも1階には他のプレイヤーはいない。ホッともするが、同時に『彼女』がいない事に胸苦しさを覚える。

 デスゲームに参加していないならばそれに越した事はない。だが、仮にこの世界に囚われているならば合流し、『彼女』の身の安全を守らねばならない。オレにはそうするだけの恩がある。

 カウンターでパンと牛乳、それに厚切りベーコンを買う。オレの金がついに1桁になったが、背に腹は代えられない。

 部屋のドアを3回ノックし、中に入ると警戒して剣を抜いたディアベルと弓矢を構えたシノンが迎える。悪くない対応だ。たとえ合図が正しくとも疑うに越したことはないからな。

 

「ほらよ。パンにベーコン挟んで食えば美味いぜ」

 

「貴方の分は?」

 

「要らねーよ。もとい買えなかった。安心しろ。1日くらいメシを抜いてもペナルティはないと思うからな」

 

 ダンジョンに籠ってる時は3日間飲まず食わず眠らずがデフォだったし、別に辛くはない。

 だが、やはりオレの対人コミュ能力の無さだろう。あんな発言をしてこの2人が『はいそうですか』と素直にメシを食えるはずがない。

 

「半分あげる。こんな人間の顔のサイズもあるベーコン食べきれないだろうし」

 

 素っ気ない優しさだな。オレはシノンから即席サンドイッチを貰い、ありがたく齧る。シノンに出遅れたディアベルは自分もとサンドイッチを半分に割ろうとしたが、丁重に断る。

 おんにゃのこの優しさが身に染みる。この優しさ、しっかり味わって食べないとな!

 数分後、完食したシノンはベッドに横になり、ディアベルはテーブルに顔を伏せて眠りにつく。2人は遠慮したが、今晩はオレが寝ずの番をする事になった。

 ……ったく、まさかオレが他人の面倒を見る事になるなんてな。

 思えば、SAOではいつも1人で突っ走っていた。はじまりの街を飛び出した時もそうだし、その後のソロ生活でもそうだ。だからだろう。どんなパーティやギルドに身を置いても、上手く足並みを揃えることができなかった。

 だが、オレはデスゲームの先輩だ。ルーキーのコイツらがどの程度理解しているのか知らないが、『現実』を早めに教えておく必要がある。

 だったら連れて行く場所は1つだ。明日の予定地は決まったな。十中八九『アレ』はあるはずだ。

 

「本当に眠らないのね。さすがはSAO生還者」

 

 蝋燭の灯り1つの部屋は薄暗い。その中でシノンの目はまるで猫のように光っているかのようだった。

 さっさと寝ろ。そう言いたいが、眠れないだろうなとも同時に思う。心が整理を付けないと、人間というのはなかなか眠れない。それこそ心の耐久値が限界にでも達していない限り。

 そういう意味ではシノンはオレが想定していたよりタフなようだ。それが喜ばしいかどうかは別だけどな。

 

「道理でダークライダーと初見で戦りあえるわけね。貴方には『強さ』がある。生と死の間でつかみ取った、仮初めじゃない、本物の『強さ』が」

 

「そりゃどうも。でも、オレなんかより強い奴は幾らでもいるから基準にするなよ。【竜の聖女】のシリカとか鬼だからな、鬼」

 

 ヒースクリフを初めとしたトッププレイヤーの喪失で瓦解した血盟騎士団。その波紋は攻略組を呑み込み、次々とアインクラッドに喰われた。

 多くのプレイヤーにとって希望の光が必要だった。その1つが【黒の剣士】であり、攻略組に追いついたシリカもそうだった。彼女の相棒である青竜ピナは、シリカを乗せられるだけの巨体を持ち、多彩な攻撃手段と強力無比のブレス、そして周囲のプレイヤー全員のHP回復させる能力を持つ、まさに規格外の存在だった。

 シリカが堕ちない限り攻略組に負けはない。たとえ犠牲が出たとしても必ずボスを倒せる。心が折れかけた多くの攻略組がその身を最期の日まで最前線に立たす事ができたのは、シリカというアイドルの枠を超えた、まさに『聖女』の如き勝利の象徴がいたからだ。

 故に【竜の聖女】とシリカは呼ばれた。そして、彼女は多くのプレイヤーを先導し、最前線に送り込んだ死神でもある。

 1人、また1人と自分の名を叫びながら光の破片となって砕けるプレイヤーが現れる度に、シリカは苦しみ、心を擦り減らし、病んでいった。それでも彼女は最後まで戦い続け、魔王ヒースクリフ戦に参加して勝利に貢献した。

 ふと、オレは思い出す。シリカが最後の戦いで光となったならば、最初の光となったのは誰だっただろうか? オレは『アイツ』だと思うが、本人は確か『最高のナイトがいたから希望が見えたんだ』って言ってたしな。

 

「なら期待しないでおく。でも、今日はありがとう。貴方がいなかったら、きっと私は……」

 

 それ以上の言葉は聞こえなかった。眠ったのか、それとも言葉にする程の事でもなかったのか。どちらでも構わない。

 ……本当に、慣れないことはするものではない。女の子に感謝なんかされたら、耳まで真っ赤になっちまうじゃねーか。どうしてくれるんだよ!?

 

 

 

Δ  Δ  Δ

 

 

 

 朝、オレは2人を伴って『アレ』がある場所に赴いた。

 それはかつての黒鉄宮があった場所だ。そこにはデスゲームの犠牲者の墓石があり、死亡したプレイヤーの名前には線が引かれ、死亡理由が刻まれる。

 オレの想像通り、廃墟と化した黒鉄宮にはあの時と同じように、全プレイヤーの名前が刻まれた墓石があった。

 そして、既に軽く100や200を超える数の名前に線が引いてある。

 

「こ、これは……」

 

「たった1晩でこんなに」

 

 言葉を失うディアベルとシノン。当然だろう。デスゲームの開始から24時間と経たずして100人以上の死者が出たのだ。絶句して当然だ。

 墓石に触れると冷たさがオレに彼らの死を実感させてくれる。今この瞬間にも、また1つの名前に線が引かれた。死因は『転落死』だ。自殺か、あるいは何かのトラップに引っかかったのか、はたまたPKか。

 死者はここに眠らない。だが、生者に警告はしてくれる。『俺たちのようになるな』と応援してくれている。

 

「別に説教する気はねーが、これからこの糞ゲーと『戦う』つもりならここに刻まれる覚悟をしとけよ。程々にして『生き延びる』つもりならここに刻まれない信念を持て」

 

 オレはDBOを攻略するつもりだ。茅場の後継者は必ずラスボスとして立ちはだかり、全力で挑んでくるはずだ。その時、あの糞野郎に引導を渡すのはオレだと決めている。その為ならば無理も無茶も無謀も厭わない。その果てがこの無機質な墓標でも、オレが立ち止まる事はない。

 だが、それにディアベルやシノンを巻き込むつもりはない。デスゲーム内でも安全な立ち回りはあるはずだ。無力のまま部屋の隅で震えるのは愚策だが、十二分の安全マージンを取って、安全圏がある街で誰かがクリアしてくるのを待つのも立派な生存戦略だ。

 

「俺は……俺は……」

 

 ディアベルはまだ踏ん切りが付いていないようだ。それも仕方がない。1晩で決心が付くはずもないし、まだデスゲームを受け入れてもいないだろう。

 

「私は戦うわ。でも、貴方たちと群れるつもりはない。私は私のやり方で『強さ』を得る」

 

 そしてシノンは危うい。覚悟が早いのは結構だが、今のシノンはランダムでタイマーセットされた時限爆弾のようなものだ。遅かれ早かれ墓標に名前が刻まれるだろう。そうならないようにフォローしようにもオレ達……というよりもオレとは組まないつもりのようだ。

 それなら別に良い。我ながら冷たいが、彼女が選んだ道だ。それに今が危ういからと言って未来もそうなのかと言えば違うだろう。オレの素知らぬ場所でシノンは『強さ』を得て、それこそオレが死んだ後でも茅場の後継者を倒しに行ってくれるはずだ。

 

「分かった。だがシノン。最低限でも次の拠点となる街に着くまではオレ達と組んでくれ。昨日も約束したようにベータテスターとしての情報は全部渡してもらう。もちろんオレもデスゲーム体験者としての生き残り方のいろはを教える。貸し借り無しのイーヴンだ。悪くねーだろ?」

 

「ええ。私も同じ提案をしようと思ってたから構わない。でも、ディアベルも同席するなら彼からも対価を貰う」

 

「ざけんな。あの指輪はレアアイテムなんだろ? 昨日の講座だけならお釣りが来るはずだ」

 

「…………」

 

 不満そうなシノンだが知った事か。ディアベルには何が何でも同席してもらう。理由? 簡単だ。オレの猪突猛進型脳細胞よりもディアベルのイケメン脳の方が上手く情報を精査し、効率的に運用できるはずだからだ。

 その後、オレ達は再び場所を昨夜泊まった宿に移す。幸いにも酒場にはまだ他のプレイヤーが立ち寄った形跡がない。まあ、デスゲームが始まって2日目にこんないかにもヤバそうな雰囲気の店に入ろうとは思わないよな。

 

「DBOの最終目的は不明よ。恐らく目的を探すところからゲームは始まってると思う」

 

 シノンがベータテスターとして得た情報を開示し始めたが、その主な内容は以下の通りだ。

 

1.ベータテストは60日間。攻略が許されたのは【終わりつつある街】の周囲にある草原と2つのダンジョンだけ。

2.北に行くと古代文明の地下道迷宮がある。サイバーパンクの世界が滅びたような場所で、その先には新しいエリアがある。

3.南に行くと巨大な橋がある。橋の内部が迷宮となっていて、これを攻略しながら北と同様に新エリアを目指す。

4.終わりつつある街の周囲には小さな村落があるが、いずれも排外的でまともなイベントはない。むしろ寝首を掻かれるトラップが目白押し。

5.DBOの最終目的は不明。だが、この廃退的な世界観が何かしらのヒントになっているのかもしれない。

 

「北か南か。東西には何があるんだい?」

 

「深い霧よ。進んでも果てがないからエリアの区切りだと思う」

 

「どちらのダンジョンが攻略容易か分かるかな?」 

 

「私はベータテスターの時も同じ戦闘スタイルでソロだったけど、どちらも難易度は高い。北の地下道はロボット系のMobがたくさんいるから、生半可な攻撃力じゃ歯が立たない。南の橋の内部は人型のMobが中心だけど、AIが優秀で下手な人間より攻防巧みで厄介よ」

 

 さすがはディアベルだ。覚悟が決まってないとはいえ、シノンから情報を引き出し、方針を決定しようとしている。こうなるとオレはお払い箱だな。置き物になってるのが安定だ。

 しかし、ダンジョンが南北に2つか。妙だな。幾らあの狂人がプロデュースしただろうゲームでも、茅場の後継者と名乗っている以上は茅場のやり方……つまりゲームの作りに対しては妥協や手抜きなどないはずだ。何か意味を持って2つのダンジョンが存在していると考えるべきだろう。霧も妙だ。

 

「私の情報は以上よ。他にもイベントに関する情報も持ってるけど、それは今全部話さなくても良いでしょう?」

 

「ああ。参考になったよ。ありがとう」

 

「お礼なんて要らない。これは取引よ。それよりもクゥリ、次は貴方のデスゲームの生き抜き方を教えて頂戴」

 

 椅子に腰かけ、足を組んでるシノンの様子を見るに、随分と精神は落ち着いたようだ。危うさはともかく、デスゲームのビギナー特有の恐慌は完全に抜けたようだ。

 さてと、次はオレの番か。とはいえ、オレのやり方は正直滅茶苦茶だから、真似されないように問題ない部分だけに語ろう。

 

「それじゃあ話すぞ。まあ、いきなり生き方うんぬんよりもデスゲームがどんな風に始まったのかから話すな。SAOも始まり方はDBOと似たようなものさ。茅場はあそこまで悪趣味じゃなかったけどな。あの自称後継者が真似てたように、手鏡を渡されて……」

 

「ちょっと待って。そういえば、貴方って何でアバターが変わってないの?」

 

 話の腰を折ったシノンさん。おい、何で今の話でその疑問に行きつく。それはどう考えても忘れてて良い事だろうが。

 

「確かに。クゥリ君、まさか手鏡を使ってないのかい?」

 

 そしてイケメン騎士。アンタもアンタで鋭過ぎなんだよ。そんな直感は戦闘で発揮しろよ。

 

「あー、べ、別にオレの事は良いだろ! このアバター気に入ってんだよ!」

 

「だから? 私たちはこれから短い間とは言え運命共同体よ。私もディアベルも素顔を明かしてる。だったらクゥリ、貴方も同じ立ち位置に来るのがフェアというものよ」

 

 正論ですね、はい。だけどオレはオレの道を行く。ゴーマイウェイ。

 一瞬の目配り。それがシノンとディアベルの間で交わされた。その意図をオレが理解するより先に、シノンがDEXに任せてオレに飛びかかる。

 

「ディアベル、押さえつけて! 私がこの卑怯者の指を動かしてウインドウを開く!」

 

「任せてくれ!」

 

 オレの時とは比べ物にならないコンビネーションでディアベルとシノンはあっという間にオレの身動きを封じる。ディアベルはSTRに物を言わせてオレを背後から捕らえ、シノンは抵抗するオレの指を強引に動かしてウインドウを開かせようとする。

 つーか、何だよコイツらの情熱は!? そんなにオレの素顔に興味があるのかよ!? デスゲーム開始2日目の割に余裕だな、おい!?

 

「やめろやめろやめろやめろぉおおおおおおお! オレはディアベルみたいにイケメンじゃねーんだよ! チビのキモ男なんだよ!」

 

「シ、シノンさん、まだか? クゥリの肘で俺のHPが……」

 

「もう少しよ! アイテムストレージ……あった!【手鏡】使用!」

 

 実体化された手鏡がオレの手元に現れる。それと同時にディアベルはオレを解放した。

 ああ……ああっ……ああぁああああああああああ! コイツらなんてことしやがる!?

 オレは光に包まれた。転送とは違う、自分の体が作り変えられる感覚が走る。

 光が消え去った時、オレの視界には変化が……当然の変化が現れていた。

 10センチ以上視界が下に移動したのだ。

 

「お前ら……お前ら、マジで、マジで……なんてことを……」

 

 顔を覆い、オレは膝をついて泣き崩れる。こんなのあんまりだ。オレの精神はガラスよりも脆いんだよ!

 

「その、なんていうか……ごめんなさい」

 

「すまない。ま、まさかこんな事になるとは思わなかったんだ」

 

 2人とも謝罪の言葉を述べるが、明らかに顔が笑っている。ああそうだろうな。そりゃそうだろうな。

 壁にかけれた等身大の鏡。本来なら武装や防具をチェックする為に備えられた製作者側の細やかな気配りだろう。だが、今のオレにとってはあの狂人野郎の悪辣なトラップにしか思えない。

 鏡に映っているのは、あの盗賊風の目付きが悪い青年ではなく、身長151センチのチビで、『アイツ』以上の童顔で女顔をした、この世でオレが最も嫌いなオレの姿だ。

 

「お前ら、これがデスゲームじゃなかったらマジでぶっ殺してたからな」

 

「別に卑下する程悪い顔じゃないと思うけど? むしろ可愛いくらい。後で髪型のプラグイン買わない? ロングヘアーがきっと似合うわよ」

 

「そうだよ、クゥリ『ちゃん』。身長も顔も関係ない。大事なのはココ! ハートだ」

 

 悪気はあるよな? 絶対にコイツら悪気100パーセントあるよな!?

 思わず鉤爪を起動させるが、デスゲーム中にも関わらず、まるで2人は怯まない。どういう神経してるんだよ、お前ら!?

 

「ああ、マジで糞だ。イケメンになりたい。男らしいイケメンになりたい。ムキムキマッチョマンになりたい。お前らには分からねーだろうがな!」

 

「なるほど。貴方の口が悪かったのは、そのコンプレックスを隠す為だったわけね。確かに口調だけ見れば男っぽいわね。口調だけはね」

 

「声も高めだから、そんな態度を取られたら子供が拗ねて背伸びしているようにしか見えないと思うけどね、クゥリ『ちゃん』」

 

 

 

 

 コイツら、いつか泣かす。絶対に泣かす。

 

 そうオレは固く復讐を決心したのだった。オレは蛇並みにしつこいから覚悟しとけ。糞野郎と糞アマが。




主人公(アバターじゃない)の容姿が公開処刑されました。
トロフィー『コンプレックス』を獲得します。

主人公の容姿は第1話を書いている時にサイコロで決定しました。
ちなみに以下の通りの可能性がありました。

①イケメン
②フツメン
③厳つい
④童顔
⑤醜悪
⑥男の娘

サイコロを振って⑥が出た時、思わずにっこりしてしまいました。
いろいろと弄りやすいキャラになってくれて助かります。


登場して欲しいスキル、アイテムがありましたら感想にどうぞ。
名前だけでも、バックストーリーをにおわせる濃い説明付きでもOKです。
なるべく採用したいと思いますが、保証は致しませんのでご容赦のほどをよろしくお願いします。

では第6話でお会いしましょう。

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