SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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3日3晩吊るされ、干し肉になって加工されて出荷される夢を見ました。我ながら酷い夢だと思いつつ、ネタ帳に詳細を書き残す事にしました。


スキル
≪狩猟≫:このスキルをオンにしてモンスターを撃破すると、素材系や食材系のアイテムのドロップ率が上昇する。
≪ピッキング≫:鍵を開ける為のスキル。熟練度が高まるほど開錠までの速度や難度の高い鍵を開錠する事が出来る。
≪毒抵抗≫:毒に対しての抵抗力が上昇する。

アイテム
【燐光紅草】:燐光草よりも回復力が高い薬草。燐光草を時間をかけて乾燥させたものであり、これの生産を生業にする者も多い。本来ならば安価に入手できる大量生産品である。
【銀霊水】:水銀のようにどろりとした銀色の液体。飲めば万病を治癒させる力がある錬金術の賜物。賢者の石の研究の過程で生み出されたと言われている。
【嘲笑の魔本】:表紙に大きな口が付いた本。書かれている内容を要約して話してくれるが、その声は他者の無知を嘲笑うものであり、正気の者ならば数年を要してでも自らの目で文字を追うだろう。


Episode3-4 闇の騎手、再び

 ロボット実験場を縦横無尽に駆けるダークライダーは、苛烈に、かつ的確に銃撃し、こちらのHPを削り取る。

 幸いと言うべきか、ダークライダーの持つ広範囲に散弾をばら撒くショットガンの威力は低く、至近距離で全弾命中でもしない限りに大幅にHPを失う危険性はない。また、銃弾の距離減衰は矢以上らしく、距離を十分に取れば1発1発のダメージは最低で抑えられる。

 もう1つの武器であるビームマシンガンも距離減衰は激しいが、その連射性能は驚異的であり、また魔法属性らしく、射線から即座に逃れなければHPは恐ろしい勢いで減少する。だが、その分リロード時間とも言うべき間が必要らしく、連用してくる事はない。

 だが、バイクの前フレームに装着された2門のビームキャノン砲は射程も威力も馬鹿げており、掠っただけでVITの低いオレのHPは1割削られる程だった。

 

「本当に……何なのよ、コイツはぁあああああ!」

 

 胸部に大穴が開いたロボットのオブジェクトを踏み台にし、宙に舞いながらダークライダーにシノンは果敢に矢を放つ。だが、ダークライダーは巧みにバイクを操り、矢の1発すら掠らせない。

 シノンの着地の瞬間を狙ってダークライダーは左手のビームマシンガンを乱射する。瞬時に射線に割って入ったディアベルが魔法防御性能が高いブルーシールドを掲げ、オレに次いでHPが低く、また高速戦闘に特化する余り防具の防御力も薄いシノンを庇う。

 そのまま2人を轢こうとするダークライダーの左側からオレは物陰からウォーピックで奇襲をかける。だが、奴はオレの存在に初めから気づいていたのか、左手のビームマシンガンをホルスターに差し、右手のショットガンをオレに向けて放つ。

 

「糞が! 卑怯じゃねーのか、今のは!」

 

 半数命中といったところか。瞬時にラビットダッシュで強引に回避したお陰で至近距離での全弾命中は避けたが、オレの8割以上残っていたはずのオレのHPは一気に4割程度まで減り、イエローゾーンに突入する。

 瞬時に燐光草を食し、HPを回復させるが、10秒かけて1割しか回復しないこのアイテムでは、あと6枚連続、最低でも60秒かけねばHPはフルまで回復しない計算になる。

 

「シノン! クー! まずは足を止めさせるんだ! 俺が光学兵器は全部防ぐ! だからバイクを破壊してくれ!」

 

 ディアベルがいなければオレ達2人は3回以上殺されているだろう。視界が悪いロボット実験場でありながら、ディアベルは常に全体を見て、最高のタイミングで庇いに来てくれる。だが、それは同時にディアベルは確実に削られ続けている事を意味する。

 盾で防御した場合、ダメージは大幅に減少させる事が出来る。盾の性能が高ければ、弱い攻撃ならば完全に遮断する事も可能だ。そして、ディアベルのブルーシールドは現状で入手できる盾でも間違いなく最高峰の1品だ。

 物理防御と魔法防御に長け、尚かつ軽量。まさに理想的だが、同時に弱点も存在する。盾としては耐久度が低めである事と防御におけるスタミナ消費が多い事だ。

 

「ディアベル! スタミナは!?」

 

 シノンもオレと同じ危険を想像して問う。明確な数値として表示されないスタミナは、気づけば危険域にある、このゲームにおける至上の生命線だ。

 だが、ディアベルは答えずに強気に笑むだけだ。それが既にディアベルのスタミナが危険域に入り、例の涙マークのアイコンが表示されているだろう事を予想させる。

 当たり前か。オレとシノンはなるべくローテーションを組むように、物陰に隠れながらダークライダーに攻撃を仕掛けているが、ディアベルは走り続け、防ぎ続け、あわよくばを狙って攻撃を続けているのだ。ソードスキルを使わずともスタミナの消耗は3人の内で誰よりも激しい。

 

「オレが40秒稼ぐ! その間にお前らはHPとスタミナを回復させろ!」

 

 3人の内でCONを最も成長させ、尚かつ軽装のオレは3人の中で最もスタミナに余裕がある。

 ダークライダーが新たな攻撃手段、バイクの後方フレームに格納したミサイルを射出する。小型かつ多数の、1度上空に飛んで地上に降り注ぐそれらは、着弾と同時に小規模の爆発を起こす。明らかにオレ狙いのそれらをラビットダッシュでまたも逃れ、そのまま廃墟ロボットのオブジェクトを蹴り、また蹴り、またまた蹴って、一気にダークライダーとの間合いを詰める。

 急速に迫ったオレに対し、ダークライダーは左手のビームマシンガンを撃つ。何発か命中するが、オレは廃墟ロボットのオブジェクトを蹴り跳んだ勢いのままに、ウォーピックを振るい抜く。

 

『ホウ。悪クナイ』

 

 だが、余裕たっぷりにダークライダーはウォーピックの側面を左手のビームマシンガンで叩き、オレの攻撃の軌道を歪めた。

 本当に何なんだ、コイツは。AIの次元を超えつつあった前回とは違い、今回は完璧に凌駕している。まるでプレイヤーを相手にしているかのようだ。

 プレイヤーのようなAI。オレはそんな恐ろしい考えを振り払う。仮にコイツが知性と知能がある、確固たる自我を持つAIならば、それはもはやゲームに存在している事が許される存在ではない。

 

「考えるな。考えるな考えるな考えるな考えるな! 集中しろ!」

 

 余計な雑念は死を招く。コイツの正体などどうでも良い。コイツに勝つ……いや、殺す。

 PKKだ。コイツはオレ達を奇襲してきた、高レベルのプレイヤー。そう想定しろ。そうすれば戦い方が見えるはずだ。

 攻撃手段は全部で5つ。バイクに搭載されたビームキャノン砲とミサイル、所持武装であるショットガンとビームマシンガン、そして後はバイク自体での轢き攻撃。

 背後だ。どう足掻いても、コイツの攻撃は背後には行えない。手で持ってるショットガンとビームマシンガンならば可能かもしれないが、高速移動するバイクの上からならば、咄嗟ならば対応できないはずだ。

 だが、どうやって背後を取る? 高速で移動する奴の背後は取っても無意味だ。

 と、そこでオレに1つの作戦が思い浮かぶ。コレならば、確実に奴にダメージを与える事が出来る!

 

「シノン! 1発で構わない! 奴に攻撃を当てろ! オレに策がある!」

 

「言われなくても! 私がコイツを斃す!」

 

 ロボットの残骸の影から飛び出し、オレがやったようにロボットの残骸を蹴って三次元的な動きでシノンはダークライダーに迫る。これ以外にダークライダーのビームキャノン砲を確実に避けながら迫る手段はない。

 

『……ナカナカ面白イ曲芸ダガ、些カソレモ飽キタナ』

 

 だが、ダークライダーはオレの想像を遥かに上回る規格外だった。

 ビームキャノン砲を発射し、そのままその場でドリフト回転したのだ。薙ぎ払いで放たれた太いビームは、1周、2周、3周と放出され、周囲のロボットの残骸をポリゴンの欠片にして消し飛ばす。

 周囲を更地にされ、シノンが足場を失って宙を漂う。その瞬間を見逃さないダークライダーはビームマシンガンを乱射し、シノンのHPを一気に奪い取った。

 

「シノン!」

 

「ぐぅ……ま、まだ……まだよ! まだ、私は……っ!」

 

 激しく転倒したシノンのHPは既にレッドゾーンだ。オレは残されたロボットの残骸の影から飛び出し、ダークライダーが作った半径15メートルはあるだろう更地に踏み込んだ。

 いつの間に放ったのか、ミサイルの雨がオレに着弾する。回復しつつあったオレのHPが3割を切る上、衝撃がオレの動きを強制的に止める。スタンだ。

 DBOでは、自身のスタン耐久値を受けた衝撃値が上回ると、上回った衝撃値に応じた長さのスタン状態になる。スタン耐久値は防具によって上昇する他、CONでプレイヤー自身のスタン耐久値を高める事ができる。CONを高く成長させているオレだが、その上昇値は微々たるものだ。所詮軽装のオレではスタン耐久値は低い。

 1秒……いや、2秒はオレの動きが止まっただろう。それはダークライダーがオレに向かってショットガンで狙いをつけ、連射するには十分すぎる時間だった。

 距離があった為にダメージは小さいが、狙いを付けられた3連射はオレのHPをレッドゾーンし、更にスタン状態を継続させるには十分だった。

 

「2人から離れろぉおおおおおおお!」

 

 オレに遅れて、ディアベルが盾を構えながらダークライダーに特攻した。

 ダークライダーはショットガンとビームマシンガンを同時に乱射するが、優秀な盾を持つディアベルの足を止める事はできない。

 何故ビームキャノン砲を使わない? そんな事を一瞬考えたオレはディアベルのお陰でスタンから解放されると同時に、燐光草を食べながらシノンの元に向かって彼女を抱えてロボットの残骸の影に滑り込む。

 

「おい、大丈夫かよ?」

 

「ぐっ……酷いわね、コレ。神経が……ぐちゃぐちゃになったみたいな、不快感が……っ!」

 

 シノンの左足は膝から先がなく、赤黒い光が血のように流出して漂っていた。オレは止血包帯をアイテムストレージから出し、包帯を傷口に押し付ける。すると自動で膝に巻かれ、シノンのHP減少はなくなった。

 歯を食いしばり、シノンは必死に叫びと涙を堪えていた。それが彼女の矜持なのだろう。

 

「ハッ! ようやくオレの気持ちが分かったか?」

 

「薄々思ってたけど、貴方って、イカれてるんじゃない? こんな、状態で、戦ってたなんて……っ! ぐぅぁああ、うぅ……!」

 

「……少しジッとしてろ。オレとディアベルで始末をつける」

 

 燐光草を取り出すとシノンの口に押し込み、オレはディアベルの救援に向かう。

 さすがのダークライダーもレアアイテムの盾を持ち、なおかつ堅実な立ち回りをするディアベルのHPは思うように削れていないようだ。まだディアベルのHPは半分以上も残っている。

 だが、やはりおかしい。ディアベルが射線上に入ってもビームキャノン砲を使う気配がない。もしかしたら、あの薙ぎ払い攻撃はビームキャノン砲のクールタイムが長いのかもしれない。ならばこれはチャンスだ。

 

「ディアベル! オレは右から攻める! お前は左から攻めろ!」

 

「分かった! でも無理はしないでくれ……って言っても無駄だろうけどね!」

 

 燐光草を歯で磨り潰し、オレはHPがようやく3割になるのを見届ける。そうだ。ディアベルは良くオレの事を分かっている。無理も無茶も無謀もオレはする。それ以外に手段がないならば、オレは迷わない。

 オレは新たな武器を装備する。あのPK野郎から奪い取った骸骨戦士の槍だ。思った通り、+6まで強化された、名も知れないプレイヤーの遺品だ。

 武器強化は、威力を大幅増加させる『重量(H)』、威力とクリティカル率を引き上げる代わりに耐久度が下がる『鋭利(S)』、耐久度を上げる『耐久(D)』、威力を下げる代わりにSTR条件を緩和して重量を減らす『軽量(L)』の4つがある。

 正確に言えば、現状では4つしか強化項目がない。終わりつつある街の鍛冶屋のNPC曰く『かつてあった鍛冶の技術の多くが途切れ、今では4つしか残っておらず、もしかしたら何処かで他の強化技術を継いだ鍛冶屋がいるかもしれない』という発言があったのだ。

 この骸骨戦士の槍はD6だ。つまり、極限の耐久特化だ。その理由は骸骨戦士の槍は元の耐久値が低く、その威力とリーチを活かしきれないからである。

 

「使わせてもらうぜ」

 

 名も知れないプレイヤーにオレは祈りを捧げ、ダークライダーの右側に回ろうとする。だが、奴は高速移動する存在だ。簡単に望んだポジションを取らせてくれない。

 

 

 そして、それこそがオレの狙いだ。

 

 

 オレが真に欲してるポジションは1つだけだ。その為にダークライダーを上手く誘導する必要がある。オレはディアベルが果敢に左側に回る中、じっくりと、わざと、奴の視界に映るように動く。

 赤い光に満ちたダークライダーと目が合った気がした。奴には、オレが狙いの右側に何とか移動しよう足掻きながら、じわじわと回復作業を行っている様が映ったはずだ。

 ディアベルと視線を交わす。それだけで彼はオレの真の作戦に勘付いたのだろう。唇を吊り上げ、その瞬間の為に、わざとダークライダーを追うスピードを落とし始める。

 

「来い……来い……来い」

 

 小声でオレは呟く。まるで呪いをかけるかのように。

 ダークライダー。今のお前に遠距離攻撃であるビームキャノン砲は使えない。ディアベルが必死に絡んできてたから、ミサイルを放つ暇もない。ならば、お前の攻撃手段は限られているはずだ。

 来い。オレに攻撃して来い。その距離では十分にショットガンもビームマシンガンも活かせないはずだ。

 エンジンが唸り声を上げ、ダークライダーがオレに向かって加速する。凄まじい速度であり、奴が消し飛ばした廃墟ロボットの障害がないお陰で最高速度に上るのもあっという間だった。

 今までの奴の攻撃スタイルは一撃離脱。常に高速である奴はコチラがカウンターする暇もなく攻撃を仕掛け、距離を離す。ならばどうする?

 

「簡単じゃねーか。こっちから向かっていけば良いんだろーが!」

 

 ラビットダッシュ。使い勝手の良い≪歩法≫のソードスキルを発動させ、オレはあえてダークライダーに突進した。奴は動揺する事無く、その両手の銃器を乱射する。それは交差する瞬間までにオレのHPを再度レッドゾーンにする。

 だが、逆に言えばそれだけだった。もはや1ドットあるか無いかだったが、オレのHPは確かに残った。

 

「うらぁあああああああ!」

 

 そして、オレは全身で地面を滑りながら長槍のリーチを活かし、ダークライダーにではなく、バイクにでもなく、バイクの前輪……その隙間に槍を押し通した。

 1度だけの賭け。弾かれてしまえば終わりの奇策。だが、それは見事に成功し、槍はホイールの隙間に入り込んで回転を阻害される。

 骸骨戦士の槍が砕ける音がした。名も知れぬプレイヤーがこの世界に残した、生きた証が砕ける音がした。だが、それよりも先にバイクは派手に転倒し、土煙を上げる。

 

『見事ダ! ダガ!』

 

 しかし、ダークライダーは健在だった。バイクが前転して振り落とされたかと思ったが、どうやらその瞬間に跳んだらしく、宙で地に転がるオレにショットガンとビームマシンガンの狙いを付けている。

 どうする? ラビットダッシュで避けるか? いや、転倒中の今は無理だ。出来たとしても、ビームマシンガンはともかく、ショットガンの広範囲攻撃はどう足掻いても命中する。たとえ距離減衰で威力は低下しているとしても、今のオレでは間違いなく致命になる。

 ならば何か盾にするか? いや、ここはダークライダーに消し飛ばされた更地だ。何も遮蔽物がない。

 どうする? どうする? どうする!? そうだ! 鉤爪だ! 鉤爪でタイミングを合わせて弾丸を弾いて……いや、駄目だ! ショットガンの散弾は運が良ければできるかもしれないが、ビームマシンガンは弾けない!

 銃声が鳴り響く。激しい命中音がオレの耳を揺らす。

 だが、それは金属によって弾かれた……オレを守る人影から響いた音だった。

 

「仲間は……殺させない! 俺の前では絶対に! 絶対に殺させない!」

 

 ディアベルだ。オレに着弾するギリギリで間に入り、見事にブルーシールドと自身を盾にしてオレを守ってくれたのだ。

 走る。決してDEXは高くないディアベルだが、それでもダークライダーが着地するまでにその距離を詰めるには十分だった。

 

「これで終わりだ!」

 

 ディアベルの横薙ぎを寸前で体を捻って回避したダークライダーだが、そこから彼の膝蹴りまでは対応できず、ついにそのHPを減らす。ほんの僅かな微量だが、それでもダークライダーの1本しかないHPバーの減り具合から、決してそのHPが多い訳ではない事を暴き出す。

 だが、ダークライダーも負けていない。瞬時に体勢を立て直し、至近距離でショットガンを放とうとする。いかにブルーシールドが優秀でも、至近距離全弾命中ならば盾越しでもダメージは十分与えられるだろう。

 

「私を忘れないで頂戴。これで、ジ・エンドよ」

 

 オレ達の優秀な狙撃主さえいなければ、という大前提が必須だけどな。ロボットの残骸の上に腰かけ、見事にディアベルの首筋を撫でるようにしてダークライダーの額を撃ち抜いたシノンに、オレは拍手を送る。

 クリティカルとなり、また頭部命中でスタンのオマケも貰ったダークライダーに向かって、ディアベルはVの軌跡を描くバーチカル・アークを叩き込んだ。

 赤黒い光を傷口から散らし、ダークライダーはフラ付きながらも戦意を捨てず、衝撃を堪えて両手の銃を構える。もう奴のHPは4割を切っていた。

 

「上手く決めろよ、ディアベル」

 

 だが、そうはさせない。オレはラビット・ダッシュでダークライダーとすれ違いざまに鉤爪を振るい、奴の持つ2丁の銃器を弾き上げる。その手から奪う事はできなかったが、その銃口はディアベルではなく彼の頭上へと向く。

 

「言ったはずだ! これで終わりだと!」

 

 腰溜めからの青の光を放つ回転斬り。≪片手剣≫の回転系ソードスキル【リンク・スピナー】が炸裂し、ディアベルのレッドローズはダークライダーのがら空きの胴を切断した。

 胴体を切り離され、土煙を上げてダークライダーは地面に倒れる。そのHPは一気に失われ、ついにゼロになった。

 

『……素晴ラシイ。ナルホド。ヤハリ【可能性】カ。ソレニ、オ前タチモドウヤラ単ナル玩具トイウワケデモナサソウダナ』

 

 パワードスーツの兜の向こうで、ダークライダーは楽しげに笑った。それはオレの思い違いではないはずだ。そして、その笑いはオレとシノンに向けたものとディアベルに向けたものとでは、まるで質が異なっているように思えてならなかった。

 問わねばならない。オレは1歩ダークライダーに近づくが、その瞬間に彼の体は赤黒い光となる。

 

『次ハ本体デ挑マセテモラウトシヨウ。アア、楽シミダ。実ニ楽シミダ』

 

 そう言い残して、ダークライダーは消え去った。

 数秒遅れで、ノイズが走った『congratulations!』というシステムウインドウが表示され、多量の経験値とコルがオレ達に分配される。だが、多量と言ってもそれは中ボスクラスのものであり、とてもではないがダークライダーの規格外の強さに見合ったものではないようだった。

 恐らく、これはダークライダーが撃破したあのロボットの経験値とコルだろう。あのダークライダーは……中ボス戦に強引に割り込んで来た、言うなればイレギュラーだ。

 それを証明するように、『Sorry.You are nice fighter!』という謎のメッセージが送られてくる。十中八九、茅場の後継者からの謝罪文と賛美といったところか。メッセージにはアイテムが添付されており、中身は【黄金の福引券】なるものが30枚あった。どんな用途か知れないが、ゲームバランスを崩壊させない程度の、普通のゲームで配られるプレイヤーへのお詫び用アイテム程度のものだろう。

 後で終わりつつある街で使い道を探らねばならない。黄金の福引券をアイテムストレージに仕舞い、オレは片膝をつくディアベルの肩を叩く。息が荒くて顔色も悪い事からスタミナ切れだろう。

 

「ナイスファイト。お陰で助かったぜ」

 

 だが、初のスタミナ切れらしいディアベルは弱々しく笑うだけだが、嬉しがっているみたいだ。ディアベルからすれば初の大物食いだろうからな。

 俺はロボットの残骸から転げ落ち、地面に這いつくばっているシノンに歩み寄る。

 

「手、貸してやろうか?」

 

「屈辱ね。でも……お願い」

 

 左足がないシノンの手を引っ張り、肩を貸す。辛そうなシノンは忌々しげにオレを横目で睨んだ。

 

「何笑ってるのよ。私が苦しがってるのがそんなに面白くて堪らない?」

 

「んー。別に。ただこれからディアベルにお姫様抱っこして侵入禁止エリアまで戻るシノンを想像してるだけだって」

 

「か、肩を貸してもらうに決まってるでしょう!? だ、誰がお姫様抱っこなんか……!」

 

「無理じゃねーの? ほら、ディアベルが騎士スマイルで待ってくれてるぜ?」

 

 恐る恐ると言った感じでシノンがディアベルの方を見ると、そこにはスタミナ切れから回復したディアベルが両手を広げて待ち構えていた。

 顔を真っ赤にして、暴れるシノンをオレは押し付けると、長く息を吐く。

 茅場の後継者がオレ達に謝罪文を送るなど、屈辱の極みのはずだ。にも関わらず、奴は律儀にアイテムを添えて送って来た。つまり、今回の乱入は奴の意図するところではなかったという事だ。

 オレは燐光草を喰らい、HPを回復させながら思う。

 あの闇の騎手は再戦を望んでいる。そして、次は『本体』で挑むと言っていた。普通に考えれば、今回は奴にとって偽物で挑んだ……言うなれば自分によく似せたレプリカで戦っていた事になるだろう。

 お決まりとして、レプリカよりもオリジナルの方があらゆる意味で性能が上のはずだ。

 だとするならば、オレ達は勝てるのだろうか? 今回はオレの奇策、シノンの戦意、ディアベルの防御力の3つが揃った勝利だ。それもかなりギリギリの。

 

「……しばらくは来んなよ。ったく」

 

 オレは荒れ果てたロボット実験場を最後に見回し、シノンをお姫様抱っこするディアベルの後に続いた。

 




ようやく強敵らしい強敵を登場させる事が出来ました。
これから、どんどんプレイヤー側を追い詰める強敵を登場させたいです。

それでは、15話でお会いしましょう。

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