という訳で幕間その二です。遅れましたがどうぞ。
※今回、菊月は出ません。菊月は『出ません』。
『或る鎮守府の遠征部隊』
時刻はマルキュウマルマル、私達『鎮守府第三艦隊』に本日の任務が通達される頃だ。私は執務室の前で第三艦隊旗艦が出てくるのを待っている。
「マルキュウマルマル、平時より遅い通達だな。私が呼ばれたところを見るに、おそらく……」
言いかけたその時がちゃりと扉が開き、任務を受けた旗艦……軽巡洋艦「神通」が姿を現した。
「少し長かったな、神通。今回の任務も遠征か?」
「ええ、『トラック泊地』方面の海域へ。中継地点までは第四艦隊と一緒よ」
おや、珍しい。ウチの艦隊の練度なら、各海域に一艦隊で充分な筈なのだが。
「合同艦隊とは珍しい。何かあるのか?」
「提督も噂だとは仰っていたけれど……どうやら、深海棲艦が多くなっているようなの。この前、北方海域へ遠征に出た電ちゃんも言っていたでしょう?『いつもより多くの深海棲艦に襲われたのです』って」
「確かに、私も聞いたが……。単なる偶然と思っていたよ。電が嘘を言うとは思わないが、泊地海域に多数の深海棲艦とは考えにくいだろう?」
「提督にも、何かお考えがあるのでしょう。……それよりも、まずは慢心なく遠征を終えませんと」
「ああ、全くその通りだ。それで?編成は神通と、私と……」
「電なのです!」
どの艦が来るのかと聞こうとした出端、後ろから声をかけられた。……この喋り口と声、と言うか名前を言っているな。振り向いて確認する必要も無いが、背を向けたまま話すのはあまり良い態度ではない為振り向いて目を合わせる。
「なんだ、電か。お前、いつもの第六駆逐隊と一緒じゃないのか?」
暁、響、雷。何れも名高い武勲艦であり、それはこの眼前の電も同じ。その彼女ら四人を纏めた『第六駆逐隊』は、彼女らの仲の良さ・コンビネーションもあってよく一緒に行動しているはず、なのだが。
「今回の遠征では、電だけが第三艦隊に編入されるのです。……でも、暁ちゃんと響ちゃんが第四艦隊で遠征に参加するのです」
成る程、やはり第六駆逐隊が……ん?一人いないようだが……
「なあ、電。雷はどうしたんだ?名前がないようだが……」
「雷ちゃんは改装中なのです。改装が終わったら第一艦隊で演習をするので来れない、と言っていました」
わかった、と返事を返してから神通へ向き直る。その横に電も並んで来て、二人して姿勢を正す。
「……はい、それでは遠征の内容を通達します。私達第三艦隊は、トラック泊地方面へ出撃。資源の確保も勿論なのだけれど、今回は電ちゃんの言っていたことの確認――偵察任務も兼ねています」
こほん、と咳払いをして神通が続ける。
「そのため、平時の遠征よりも多くの深海棲艦との戦闘が予想されています。各員は艤装・体調を万全にして遠征へ臨むこと。……任務内容は以上よ」
「「了解(なのです)!!」」
「……それと、編成なのだけれど。ここにいる三人と、残り三人の計六人で編隊します。私があと一人軽巡洋艦を呼んで来ますので、貴女達はそれぞれ一人、駆逐艦に声をかけて下さい。良いでしょうか、電ちゃん、長月ちゃん?」
「分かりました、電に任せてください!」
……言うや否や、電は走り去ってしまった。それよりも、私はちゃん付けで呼ばれたことが気になるのだが。
「まあ良いか。睦月型八番艦、長月。任務了解した」
――――――――――――――――――――――――
第四艦隊と別れてから少し。我々第三艦隊は真昼の海上を航行していた。
「しかし、統一性の無い艦隊だな。睦月型が二艦、川内型が二艦、暁型が一艦に、秋月型が一艦か」
深海棲艦の脅威を想定して出てきたは良いが、今まで遭遇は皆無。任務中とはいえ何も喋ってはいけないということも無い、道中の慰みに声を発する。すると、同じように退屈していたのか如月が乗ってきた。
「そうねぇ〜。でも、みんな強い人ばかりで心強いわ。勿論、私達だって負けてないけれど……ね?」
先の三人に加え、軽巡洋艦「那珂」、防空駆逐艦「秋月」、そして我が姉艦である「如月」。遠征らしい編成ではあるが、頼もしい味方ばかりだ。
「そうだな、駆逐艦と言えど我々睦月型を侮って貰っては困る……、ぅん?……なんだ、歌?」
不意に聴こえた気がした旋律に首を傾げる。
「……?あら、どうされました長月さん?」
「ああ、秋月。……いや、何か歌が聴こえたような……」
「歌、ですか。……どうでしょう、私には聞こえませんでしたが……電さんは?」
「ごめんなさい、電にも聞こえていないのです」
「……あら〜?私には長月ちゃんの言ってた歌、微かだけれど聴こえたような気がするのだけど……」
如月と顔を合わせて首を傾げ合う。やはり幻聴だろうか?
……が、どうやらそんな事を考えている暇は無くなったようだ。
「やれやれ、漸くのお出ましか」
「あぁん、来ないで良いのに〜。髪が傷んじゃうじゃない」
「この秋月、艦隊の防空を果たします!」
「電の本気を見るのです!」
「那珂ちゃん、現場入りま〜す!」
それぞれが気声を上げれば、此方をちらりと見ていた神通が頷き、大きく息を吸い込んだ。
「―――全艦、撃ち方……始めぇーっ!!」
――――――――――――――――――――――――
……航戦は予想外に時間を取られ、夜戦にまで突入した。途中、敵空母が夜にも関わらず艦載機を飛ばしてきたときには肝が冷えたが、秋月が全て撃ち落とした……流石は防空駆逐艦か。
あとは中継基地まで帰還するだけなのだが、やはり気になって歌が聴こえた方向へ振り返る。……明かりは星だけ、見えるものは月明かりに照らされたごく小さな島一つ。何もおかしなところは無い。
「……長月ちゃん、歌のことが気になっているの?」
「……ああ、如月。だが、もう帰投だ。どうせ風の音が何かだったのだろう」
そう言って、如月と共に皆へ続く。明日からもこの海域を調査するのだ、気に留めても仕方ないだろうとは思うのだが。
何故か後ろ髪を引かれる思いで、私はその海を後にした。
聞こえてきた歌ってのは、勿論幕間一で菊月が歌ってた鼻歌の「吹●」です。睦月型だけに聞こえたのもなんかそんな感じです。残念菊月ちゃん、実は遠征部隊、近くにいたのだ。ニアミスだね。
あ、この小説では如月は沈みませんから!(雪風っぽく)
今回のフラグである夜戦艦載機は秋月が華麗に撃ち落としてくれました。
あとがき追記
つまり、菊月ちゃんは現在冬イベント海域ど真ん中にいるのです。
具体的にはE3の一番右上のマスの近くの島に。