私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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私、この話が終わったら硝煙の匂いのしないほのぼの話書くんです……


菊月(偽)修行する、その三

今、俺は波立つ水面の上に居る。

 

「艦隊のみんなーっ、お仕事だよーっ!!」

 

旗艦は軽巡『那珂』、残りは我々睦月型姉妹五人の艦隊として遠征に出ている。どうやら南方海域に深海棲艦の残りが居るらしい、とのことで繰り返し遠征隊が派遣されているこの海域だが、かく言う俺も何度か訪れている。

しかし前回と今回で違うことは、前回姿を見せなかった深海棲艦の艦隊と接敵した、ということと―――

 

―――教官達の訓練を、完遂したということだ。

 

「お仕事なのは良いけど、髪が傷んじゃうわ……」

 

「ほらっ、如月お姉ちゃんっ!集中して、行きますよ!」

 

如月と三日月のやり取りを尻目に、遠くの黒く塗り潰された艦隊を見る。戦艦級は居ないようだが、あの特徴的なシルエットは見間違える筈もない。軽母ヌ級、巻き上げる気焔の色から旗艦(flagship)だろう。

 

「ぷっぷくぷぅ〜っ!」

 

「全員、敵艦載機が近付くまでに陣形を整えろっ!」

 

卯月が気勢を上げ、長月が姉妹達に指示を飛ばす。それに従い旗艦を中心に陣形を変える。軽空母とはいえ空母なのだ、採用するのは輪形陣。無論俺も直ぐさま動き、飛び立った艦載機を睨みながら陣を構成する。

 

「近づくまでに、か……了解だ、長月」

 

艦載機を近付けるなど『菊月』には許せないことだ。駆逐艦菊月が沈められたのも、艦載機からの魚雷が原因。

―――しかし、『菊月』はただの駆逐艦でしか無いのだ。空全てを薙ぎ払う兵器を持っている訳では無い、姉妹達を危険に晒してしまうことに歯噛みする。

 

「どうしたの、菊月ちゃん?」

 

如月の問いに頭を振って答え、心を研ぎ澄ませる。輪形陣の片端として、軽く身を屈め静かに機を待つ。ちらりと横を見れば如月が、長月が、卯月が、三日月がそこに居てくれている。そうだ、菊月()は独りで戦っているのではない。姉妹達と助け合い、補い合う。

 

菊月()』が教官達に教わったのは、そうして姉妹達と肩をならべる為の術なのだから。

 

「今だーっ!艦隊のみんな、いっくよーっ!!」

 

那珂の号令で一斉に、海面を『滑り』突撃する。姉妹達と同じように砲を空の憎き艦載機へ向け、発砲する。一発、二発、三発、四発。幾つかは撃ち落とすも、幾つかは撃ち漏らす。しかし、それで問題はない。

 

「……危ないぞ、如月っ……!」

 

「そう言う菊月こそ、自分の頭上に気をつけるぴょん!」

 

菊月()が逃した敵を、長月が撃ち落とす。如月を狙う艦載機を菊月()が撃ち抜き、そうして隙を晒した菊月()を卯月がフォローしてくれる。

 

一丸となって艦載機を掻い潜り、敵艦隊へ接近する。ここまで来れば、あとは菊月()の本領だ。教官達から教わった雷撃、ここで見せてくれる……!

 

「よく……狙って。……砲雷撃戦、開始する……っ!!」

 

教官、神通が砲雷撃戦を始める際の掛け声を使わせて貰う。その彼女から教わった通り、敵駆逐艦の雷撃を丁寧に回避し軽母ヌ級へ肉薄する。

 

「……軽母ヌ級。……運が、悪かったな……!」

 

気合一閃。平べったい頭へ向けた砲撃と、全身をくまなく狙った雷撃の全てが命中する。跡形も無く沈んで行く残骸に、駄目押しとばかりに砲を撃ち込む。これで、討ち漏らしていたということも無くなっただろう。

 

「うわーっ、さっすがお姉ちゃん達の教え子!やるねえっ!さあ、みんな突撃するよーっ!」

 

那珂の言葉に、戦列を乱されたイ級共を見遣る。俺の脇をすり抜けて行く姉妹達の後を追うように、俺も敵の撃滅へ乗り出した。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

最後の駆逐イ級の脳天に単装砲を突き付け、そのまま撃ち抜く。

残りのイ級は如月達が片付け終わっているし、唯一混ざっていた『後期型』は那珂ちゃんが沈めてくれた。沈み行くイ級が完全に海中に没するまでを見届け、振り返る。途端、卯月が抱きついてきた。

 

「菊月〜っ!すごいぴょん、かっこいいぴょん!あれが特訓の成果ぴょんっ?」

 

興奮気味に卯月が話し掛けてくる。卯月以外の姉妹達もわいわいと賑わっていて、那珂ちゃんはというと満足そうに頷いている。

 

「…当然だ……。が、また強くなってしまったな……」

 

『俺』もそうだが、『菊月』がとても喜んでいるのが手に取るように分かる。沈み、寂しく朽ちるだけだった菊月にとって、姉妹達と海を駆けられることは何より嬉しいことなのだ。

 

そうやって、騒ぎながらも警戒して鎮守府へ帰投する。いつものように艤装を片付け、食堂へ入った俺を待っていたのは神通教官だった。

 

「那珂から聞きましたよ、菊月。今日の遠征あなたがとても活躍したって。実戦でそれだけ出来れば、訓練を受け持った私達もその甲斐があるというもの。―――よく頑張りましたね」

 

神通の手が、菊月()の頭に添えられる。ゆっくりと撫でられると、一日中の遠征で溜まった疲労も抜けるようだ。

 

「はい、それでも言葉だけで済ませてはいけないわよね。今日は訓練じゃないけれど、いつもみたいに間宮さんのアイスをご馳走してあげるわ。もちろん、後ろのみなさんも一緒にね」

 

神通教官の言葉に、再度沸き立つ姉妹達。思い思いのアイスを頬張り、一様に顔を蕩けさせる。勿論『菊月』だって同様に、少し高級な『すとろべりぃ&ばにら』の前に目をキラキラとさせているのがスプーンに良く映っている。

 

―――しかし。そんな中でも何故か『俺』の目には、三日月の表情に翳りが見えた様に感じた。

 




本日の如月の死亡フラグ:軽母ヌ級。艦載機を睦月型全員が落とし、本体は菊月が完封する。←成功!

菊月って、微妙に二水戦にいたことあるんですよね。一年に満たないですけど。その上その間海戦もありませんでしたけど。

ついでに、菊月って睦月型の中で二番目に早く沈んでるんですよね。一番は如月。そりゃ、姉妹と共に戦えるのは嬉しいだろーって書いてたら『菊月』がなんか戦闘大好きに。もっと上手く、可愛く、凛々しく菊月を描写したいです。


追記。
感想でご指摘頂いたことをもとに、戦闘シーンを改訂しました。以前のものよりは菊月らしい戦闘になったかと思います。重ねて此処でも感謝を申し上げます。

追追記。
戦闘後の描写を訂正漏れしていました。
訂正致しました。

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