私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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『菊月を活躍させる』、『菊月を無双させない』、『文章力を鍛える』、『感想も糧にする』、『ついでに提督にフォローも入れる』、『その他諸々』。全部やらなきゃいけないことが、菊月好きの辛いところですね。やったー、菊月に頼られてる(錯覚)!

覚悟は良いですか?私は出来てます。


放浪艦菊月(偽)、その十

風を切り、海上を駆ける。海を行くのは久し振りだが、感覚は鈍っていないようだ。艦隊と戦う深海棲艦へ、回り込むように接近する。

 

 

「あれはっ、まさか菊月っ!?何してるの、下がってっ!!」

 

戦いながらも周囲に気を配っていたのは流石と言うべきか、指揮を執っていた比叡が此方へ声を掛けてくる。しかし、深海棲艦もちょうど今俺に気付いたばかり。ならば、このまま奇襲を諦める気はない。あわよくば一隻でも沈めてみせようという気概で放たれる砲撃を掻い潜り、戦艦ル級へ肉薄する。

 

「……うぅっ!!」

 

自然と漏れる声と共に、ル級の腹へ右手に持った単装砲の砲口を押し付ける。俺はそのまま引き金を引こうとし、単装砲へ左手を添える。

 

その瞬間、全身が総毛立つ感覚が、何か大きな過ちを犯しているような感覚が菊月()の小さな身体へ走った。

 

「ぁあっ、なんだと……っ!?」

 

身体へ感じる怖気のままに戦艦ル級より距離を取り、腹部から砲口を離す。少し距離が空いたその瞬間にすかさず一発、単装砲から砲弾を放つ。接射でなくともこれだけの至近距離、少なくないダメージを与えられる筈。しかし、そんな俺の考えは全て甘かったことを思い知る。

 

「効カヌワ、ソノヨウナ豆鉄砲ハ!!」

 

放った砲弾は確かに直撃(critical)した。にも関わらず、戦艦ル級へ大きな損害は見られない。此方を嘲笑うル級から急いで距離を取り、背後へ迫っていた重巡ネ級へも砲撃を放つ。しかし、今度の攻撃も殆ど効果を成さないまま。戦艦ル級へよりは多く損害を与えたものの、それもほんの少しでしか無い。

 

「菊月っ!一旦、此方まで下がって!!」

 

掛けられる比叡からの声に、追い縋って来る重巡ネ級へ砲撃をしながら後退する。息を整えて見れば、比叡は呆れとも安堵ともつかない表情をしている。

 

「全くっ!今までずっと単艦で戦っていたんでしたか?その度胸はさっすがですけど、無茶が過ぎます!いくら戦い慣れていても、駆逐艦の砲で無傷の戦艦や重巡を沈められる訳無いですっ!」

 

比叡に言われて、初めて気が付く。『12cm単装砲の一発で、無傷の戦艦を沈められる筈が無い』、考えれば当たり前だ。慢心、いや自惚れか、今まで一人で生き抜いてきたからこそ、どこか思い上がっていたのかも知れない。

 

「……その通りだ。済まない、比叡さん……」

 

「無事だったから別に構いません。その勇気自体は頼りになりますから!それで、なんですけどね。今見せて貰ったガッツを見込んで、あなたに頼みたいことがあるんです」

 

比叡の言葉に艦隊を省みる。闘志が些かも衰えていない駆逐艦達は流石だが、やはりそれだけで勝てる戦いではない。この艦隊の面子と今見せた菊月()の性能を鑑みれば、俺に頼みたいことというのは自然と限られてくる。

 

「……陽動、撹乱か……?」

 

「はいっ、その通り!本当なら、私が先頭に立つべきなんですけど。まだ、以前の損害が完治して出てきた訳では無いですから」

 

そう言って比叡は頭を掻く。俺も、頼みたいことの内容を当てられて良かった。間違えて『俺』が恥を掻くならまだ良いが、それで菊月に泥を塗る訳にはいかない。

 

「あなたが入渠から出たばかり、回復したてだというのは知っています。そんなあなたに危ない事を頼むのは、金剛型の戦艦として不甲斐無いんですけれど、すみません、お願いしますっ!」

 

「……構わない。それが、駆逐艦の役目だからな……」

 

少なくとも、単騎で戦艦に殴りかかるよりはずっと駆逐艦らしいだろう。そんな事を考えながら比叡に了承を伝えると、彼女は短く感謝を述べてから艦隊に檄を飛ばす。それを見終えてから、俺も突っ込む準備をする。

―――そうだな、構わないと言っても暫くはゆっくりできると思っていたんだ。比叡が悪い訳では無いが、少し意趣返しをさせて貰おう。

 

「終わったか……?ならば、私も突撃するぞ……」

 

「はいっ、頼みます菊月っ!」

 

大きく息を吸い込み、比叡と艦隊へ向けてニヤリと笑って見せる。

 

「了解……、駆逐艦『菊月』。気合い、入れて、行くぞ……っ!」

 

「あぁーっ!それ、私の決め台詞ーっ!」

 

比叡の叫び声を聞きながら、もう一度戦艦ル級達へ突貫する。そうだな、戦闘後に被弾していたら今度は『ひえーっ』とでも言ってやろうか。

 

―――――――――――――――――――――――

 

戦闘は終わり、夕日の沈む海の上に俺は立っていた。此方の被害は皆無、比叡の的確かつ高威力の砲撃と駆逐艦達の援護のお陰で、俺も傷を負うこと無く深海棲艦を海へ還すことが出来た。

しかし、今日の俺には課題が多い。いや、多いというようなものじゃない。『俺』は俺を、菊月()を真に理解出来ていなかった。どれだけ死線を潜ろうと、独りで生き延びようと、『菊月』は―――

 

―――俺の愛する菊月は、戦艦でも何でも無いのだ。

 

今までは、運が良かったに過ぎない。最初のイ級との戦闘、軽巡棲鬼から逃げ切ったこと、戦艦タ級から助けてもらったこと。どれも、何か一つ違っていれば菊月()は容易く沈んでいた。そして、それをこうして今日理解出来たことも、菊月()だけではどうしようもない敵を倒すための仲間を得られたことも、また運が良かったに過ぎないのだ。

 

「―――威張れるものじゃない、か……本当に、その通りだ」

 

頭を振り、歩き出す。もう一度比叡には感謝を述べておかなければならないな。

 

 

帰投早々俺や比叡達を出迎えたのは、港に土下座する提督の姿だった。流石に港に土下座は足が辛いだろう、小さな手で襟首を掴み、適当な一室へ引きずり込む。

彼の言うことには、今夜トラック泊地海戦で迎えた『天城』と俺を皆にお披露目するらしい。その歓迎会用の資材を大急ぎで集めに行こうと企画すれば艦娘達も乗りに乗り、結果として鎮守府がガラ空きになってしまったようだ。

 

「……甘い者が、多いのだな……」

 

提督以下、艦娘達も皆『いい奴』揃いなのだろう。それは嬉しいことなのだが、それだけではいけないのは自明の理。幸いこの提督はフランクだ、もしも何か疑問に思った時は直接かけ合うとしよう。

 

そんな事を考えていると、提督から声を掛けられる。歓迎会の準備も整ったようで、会場へ入り自己紹介でもして欲しい、とのこと。無口な『菊月』には不得手なことだが、幸い何を言えばいいかは『俺』が知っている。

一つ、大きく深呼吸すれば会場の扉を開く。先に自己紹介を終えた天城、そして鎮守府の艦娘達の目が一斉に此方を向く。それらへ向けて少し笑い、口を開き凛々しい声で菊月()は言う。

 

「―――私が菊月だ、共に行こう……」

 

 

この日、雲龍型二番艦『天城』、そして睦月型九番艦『菊月』が鎮守府に着任した。




普通に考えて、駆逐艦ソロで昼戦、しかも周囲に気を張ってる戦艦と重巡を沈めるとか至難の技です。深海棲艦だって何も考えてない訳ではないですからね。

目覚ましい活躍をしているような菊月でさえ、この小説でソロで沈めたのは駆逐イロハ級のみなんですよ。ヲ級は戦艦タ級とのツープラトンキックでダウンさせましたが沈んでませんし、軽巡棲鬼も傷を与えただけ。

例えば夜戦だとか、完全な奇襲だとかそんなちゃんとした理由があるなら無双しても良いとは思うんですよ。でも、今回はそうじゃない。理由が無いのなら、無双なんて出来ない、させない。駆逐艦の辛いところです。だからこその今回の結果です。誰かを危険に晒す前に気付けて良かった、とそんな感じにしてます。

まあ、そんな低火力の菊月に惚れ込んでるんですけどね!!

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