私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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はーい、三日も更新サボったクソ提督です。菊月に罵って欲しいですね。菊月に罵られる為だけに更新サボりました。

心配されたので頑張って書こうと思います。


如月の意地、その七

天龍さんに抱っこされたまま、鎮守府の廊下をゆっくり進む。窓からちらりと見た空はもう真っ暗で、気がつけば夜になっていることがわかる。

散々にやられた私だったが、背部艤装も砲も、魚雷発射管も爆雷も、そして半ば以上砕けひしゃげた盾も全て他人の手で剥がされたのは初めての経験だった。まあ、身体を動かすと痛くてしょうがないのだから仕方ないのだけれど。

 

「よし、着いたぜ。――っと、中には先客か。入るが、良いな?」

 

言うや否や、返事も聞かずに引き戸を開ける天龍さん。どちらにせよ入れてもらうつもりだったから私は良いけれど、それよりも中の人に許可は取った方が良いと思う。連れられるまま中に入り、見える範囲で部屋の中を見渡す。ベッドに腰掛けていたのは川内さんと大和さん、赤城さんと青葉さんだった。

 

「ありゃ、如月と天龍。その様子だとまた入渠だね?……っと。そんなことより先に言わなきゃいけない事があったよね。如月、天龍、ありがとう。飛行場姫に一矢報いてくれたんでしょ?霧島経由の通信で報せて貰ったよ」

 

此方へ気付いた川内さんが、朗らかに笑いかけてくる。少しだけ照れて俯けば、更に川内さんは浮かべた笑みを深くした。

 

「いやいや、それにしても驚いたわよ。まさかあの如月が、盾みたいな頭の悪い手を使うなんて。――いや、ちゃんと褒めてるわよ?けど、なんと言うかやっぱり如月も睦月型なんだなあってね。ね、青葉?」

 

「そうですね、やはりこの妹にしてあの姉あり、と言ったところでしょうか。何度もなんども盾を構えて立ち上がる様など随分と貫禄があったと聞いていますよ!」

 

「お二人とも言い過ぎです。それに川内さん、『やっぱり睦月型』って、どういうことですか。如月さん、気にしないでくださいね?」

 

赤城さんの言葉に、あははと空笑いを返してベッドに横たえられる。そんな私と対照的に、今までベッドに腰掛けていた青葉さんは軽い声をあげて立ち上がった。

 

「あら?青葉さん、どうされました」

 

「はい?ああいえ、私達ももう身体はほとんど完璧ですから。如月さんと川内さんの邪魔をしてはいけませんし、出ようかと話しをしていたところなので」

 

「身体が……でも、明石さんの見立てでは完全な復調まではあと三日ほど掛かる筈じゃなかったでしょうか」

 

「あー、それは艤装のチェックと同期、照準の調整諸々も含めての話ですね。私達の身体は九割がた治癒仕切ってますし、それはここにいる赤城と大和……第一艦隊も同じです。私達より後に運ばれてきた川内さんは身体がまだですが、現に私達と同時に入渠していた第一艦隊の残り半分は既に医務室からは出て艤装の点検に入ってますし」

 

言われて、成る程と納得する。確かに、艤装を大規模にメンテナンスした際は自分に合わせての再調整が必要になる。二三日かけての修復作業を経た艤装なら言わずもがなだ。明石さんの目算は、これを見越してのことだったのだろう。

 

「と言うわけで、私達は実は自室に戻れるんですよ。身体の状態的には。まあ、艤装の状態を含めて考えれば私と赤城さんは小破、大和さんは中破レベルにまでしか回復していないのですが」

 

「そうそう、まだ中破小破で艤装の調整なんて自分で出来ないのに。それなのにこいつらは、暇だからって理由でさっさと外に出ようとしてるんだよ。私を置いて!くそー、暇なんだよー!やーせーんー!――いっ!?」

 

明らかに不満そうな川内さんがベッドの上で暴れ、自分の傷の痛みに呻く。大人しくしておいてくださいね、と赤城さんに窘められた川内さんは、しかしそれでも不満そうだった。

 

「まあ、私達もすぐに戦場へ出ることはありません。病み上がりですから身体を慣らすところから始めなければなりませんし、何より目下倒すべき敵深海棲艦は如月さん達がどうにかしてくれましたから」

 

「そりゃまあ、そうだけどさー。はぁーあ、飛行場姫も面倒臭いことしてくれたわよね、逃げたくせしてさ。ちくしょー、もう一回出てきたらその時は私が直接魚雷を――」

 

頬を赤らめて息巻く川内さん。その言葉を遮るように――室内に突如、けたたましい警報が鳴り響いた。

 

「――っ!?」

 

『待機中の全戦闘可能艦娘に通達します!現在、我が鎮守府に敵深海棲艦の脅威が接近中!本日出撃した艤装の温まっている艦娘は出撃待機、それ以外の艦娘は艤装のチェックと迎撃の準備に入って下さい!』

 

次いで、天井に取り付けられたスピーカーから流れ出る霧島さんの声。その声音は切迫し、ここからでもその顔がありありと見て取れる。不意に、いつの間にか手を握りしめていたことに気がついた。

 

『――っ、次いで連絡!敵深海棲艦は夜間哨戒の艦娘を突っ切って我が鎮守府へ特攻をかけていると連絡が入りました!数は――はあっ!?か、数は一!敵艦種――飛行場姫!!』

 

告げられる言葉に驚愕する感情と、やはりとどこか納得してしまう感情とが鬩ぎ合う。その時、私のそばでがたりと音がした。

 

「――青葉さん、赤城さん。行きましょう」

 

大和さんが立ち上がり、その優しげな顔に凛々しい表情を宿す。従うように二人も立ち上がり、駆け出す三人の姿はあっという間に部屋の外へと消えてしまった。

 

「――済まん、如月。俺も出撃だ。いいか?お前は必ずじっとしていろ。出撃可能艦じゃねぇんだからな。川内、こいつ頼んだぜ」

 

「な、天龍さんっ!」

 

「じゃーな。怪我人はゆっくり寝てろよ」

 

手をひらひらと動かしながら、振り返ることなく部屋を後にした天龍さん。その背に伸ばそうとした手は、ぐっと痛みに鈍った。

 

「止めときなよ、如月?」

 

「…………」

 

言葉少なに告げられる静止、それに抗うことも出来ずに私はベッドに倒れこむ。気を抜かずとも薄れ消えそうだった意識が眠気と闇に沈んで行き、その最後にふと白いあの子の影が過ぎり――

 

「嫌です」

 

気づけば私は、そう零していた。




如月。

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