最近は真っ向から菊月愛を叫ぶ事が減っていたのでね。
つい本気を出してしまった。
ぎらぎらと照りつける太陽が灼熱の光を落とし、それを反射した青い海がきらきらと輝く。海はいつも見ているものよりも遥かに澄んでいて、吹き付ける甘い潮風がテントを軍旗を撫で――
「うーー!!」
「みぃーーーっ!!!」
「だぁぁぁぁぁぁぁあっぴょん!!」
――絶叫に近い歓声を上げた水着姿の艦娘達が、砂浜の白い砂を蹴り立て。パーカーやTシャツ、日除けに被っていた衣服を全て乱雑に脱ぎ捨て。我先に、一目散に海へと駆け出した。
「……ふぅ」
見渡す限り人、人、人。いや、正確には提督を除いた全てが艦娘なのだが、ともかく何処もかしこも全て水着姿の艦娘で溢れたプライベートビーチ。右を見れば、艶かしい肢体を小さな布切れに押し込んだ戦艦や空母がビーチバレーに熱中し、左を見れば健やかで可愛らしい駆逐艦達が水際を走り回り、水を掛け合っている。
――そう。
「…………それにしても。誰も彼も元気なものだ……」
朝早い時分から全員でバスに乗り、海へと出てきて早数時間。日は既に高く、ちょうど日差しが一番強くなる時間だ。午前中は一人釣りを楽しんでいた
「……しかし、ふむ……」
そして、楽園と言うならばそれに相応しいものが一つ。そう、
――そう、今の
ともかく、
まず、水着の上に着ているのは半袖・ヘソ出しの小さな白い薄手のパーカー、それの前ジッパーを閉じている。ジッパーを閉じることで水着と肌を隠し、秘めた妖しさを演出し、腕はお腹の前のポケットに突っ込み、気だるさを醸し出す。そして何より、腕をポケットに突っ込んでパーカーを伸びさせることで菊月の小ぶりな、それでいて形の良い
フードはパーカーについているが、それとは別に黒い野球帽のようなキャップを被る。キャップには、『睦月型九番艦』と刺繍がしてある特製だ。白いパーカーと髪色、それと黒いキャップのコントラストがさっぱりとした印象を与えてくれるだろう。キャップ自体が、『菊月』のボーイッシュな見た目にばっちりだという理由もある。
そしてボトムスは、デニム生地のホットパンツ。そう、ホットパンツだ。菊月のすらりとした、透き通るような白い脚を惜しげもなく晒し、なおかつ小振りな尻の可愛らしさをこれでもかと強調している。極彩色のビーチサンダルと合わせれば、下半身だけで菊月の魅力と魔力を十二分に伝えられるだろう。
インナーとして着ている水着こそ三日月が選んだものだが、今ではそれすらも一つの要素。『菊月』を輝かせるための要因となった。
「…………ふむ」
何度も繰り返した動作をもう一度。
「……っ!?ぐ、がふっ……」
轟沈。あっけなく『俺』は参ってしまい、シートの上にへたり込んだ。そのまま呆然。女の子座りでへたり込む菊月の姿に、更に追い討ちを受ける。
「お〜〜〜い、菊月ぃ〜〜っ!!なにしてるっぴょぉ〜〜ん!!」
声に振り向く。
視線の先、全身から塩水を滴らせながら此方に手を振るのは卯月。髪色と同じ鮮やかなピンクのビキニに肢体を押し込んでいる。本人の笑顔と快活さも相まって、健康美を真っ先に感じさせる出で立ちだ。そして、その卯月は
「……見れば分かるだろう。休憩だ……」
「休憩って、菊月ずっと遊んでないぴょん!ほら、そんなんじゃ駄目っぴょん!!」
「ええい、別に構わないだろう……!」
「――あら、卯月ちゃん?無理やり引っ張っちゃ駄目よ。服が伸びちゃうわ?」
そんな
「えー。そうは言っても、うーちゃんはみんなで遊びたいぴょん!ほら、あっちで三日月と長月も待ってるぴょん」
指を指す卯月、その先に視線を遣ると――確かに、ビーチボールを抱えながら此方へ歩いてくる二人の姿。片方は三日月、片方は長月。どちらも、自分の髪色と同じ色をしたフリル付きチューブトップの水着を着ている。
「ほら。菊月もみんなで遊ぶっぴょん。次の変則ビーチバレーは敵が一航戦と大和武蔵だから、ちょっとでも戦力が要るっぴょん、ほらっ!」
そう言って、ぐいぐいと
「……はぁ、仕方がない。私が加わったところで、どうなるとも知れぬがな……」
「おお、やってくれるぴょん?なら、準備するっぴょん!」
「……出来れば、脱ぎたくは無かったのだがな……」
小さくつぶやき、『俺』厳選の短いパーカーとホットパンツを――泣く泣く――脱ぎ捨てる。そこから現れたのは、
「……っ、恥ずかしい……!」
ビキニタイプの水着。しかし、卯月や如月のそれとは違い
「大丈夫よ、菊月ちゃん。よく似合っているわ?ほら、行きましょう」
「そうぴょん。だいたい、菊月はアイドルとかやってるのに今更ぴょん。菊月が可愛いのは、うーちゃんが保証するぴょん」
如月と卯月に手を引かれ、日差しの下へ。照りつける強い日差しが、何故だか心地よく思えたのだった。
海の日特別編がまさかの続くという事態に。