私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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昨日の分。今日の分はすぐに投稿します。


戦い終わって

『まだいける』という俺の抗議も虚しく、応急処置ののち神通におぶられて鎮守府へ帰投する。傷を負って帰ってきた菊月()を見た明石は、安堵と諦念が入り混じったような不思議な表情をしていた。おぶられた体勢のまま最早定位置となりつつある医務室のベッドへ直行し、再び戦場へ向かう姉妹達を見送り意識を落とす。目を覚ましたのは数日後で、何もかもが終わった後だった。

 

「……で?」

 

「――で、じゃありませんっ!!」

 

そして、現在に至る。医務室で目を覚ました菊月()の側には、優しい顔で此方を見守る三日月。礼と謝罪をし、現場確認を終え、明石が体調のチェックを済ませ――そうしてその後、菊月()は入院着のままベッドの上で正座させられているのである。

 

「全く、本当に全くっ!お姉ちゃんは!」

 

「……む。しかし、今回受けた傷はこの胴の一撃だけだ。爆発傷も、弾痕も無いぞ……」

 

「だけ?胴の一撃『だけ』?即刻医務室行きの傷を『だけ』と言いましたか、お姉ちゃんは?」

 

言わずもがな、ベッドで正座する菊月()の前に仁王立ちする三日月。その顔は可愛らしくも怒りに染まっており、また傷を負った故に後ろめたさを感じてしまう。結果、俺はおとなしく正座を続けているのだ。

 

「だいたい、お姉ちゃんが最初に受けた傷を忘れたんですか!手足とお腹で弾薬が誘爆して、眼と髪を思い切り焼かれたんですよ!?長月お姉ちゃんを庇ったのは分かります、けれどだからと言って菊月お姉ちゃんが傷ついていい訳じゃないのは分かってますか!」

 

「……む、済まない……」

 

「本当ですよ!全身傷だらけ、昏睡で運ばれていったお姉ちゃんを、私達がどれだけ心配したか――うう、ううう!本当に、本当に恐かったんですからね!?」

 

顔を歪め、菊月()の胴に抱き着いて顔を埋める三日月。斬り裂かれた傷が軽く痛むが、だからと言ってこの妹を無下にする訳にもいかない。頭を撫で、感情を落ち着かせながら話しかける。

 

「……そうだな、三日月。私も悪かった。……だが、もう安心してくれ。私も、私自身の思い上がりに気付いた。そして、本当に目指したいことも。だから――むぐ」

 

言葉の途中で、両頬をぐいんと掴まれ引っ張られる。菊月()の頬を引っ張る三日月は、眉尻を下げてはいるものの頬をぶすっと膨らませている。俺の予想していた反応では決してない。

 

「だから、じゃありません!目指したいことが、なんて言っておきながら結局お腹に傷を受けて、その上全身の骨が軋んで筋肉が痛んでるんですよ?どの口が!そんなこと!!言ってるんですかっ!!」

 

いひゃい(痛い)いひゃい(痛い)三日月!」

 

「私の心はその十倍痛かったんですっ!!」

 

「うぅ、なんなのさ……!ぐ、済まなかったとは思っている!どうしたら許してくれるのだ……!」

 

ひりひりする頬を摩りつつ、恐らく憮然とした顔で三日月へと問いかける暫く黙考した後、三日月は徐に口を開いた。

 

「そうですね、当分は許してあげません。けれど――うん。今度、みんなで遊びに行きましょう。そうしたら、少しだけ考えてあげます」

 

膨らませた頬から空気を抜き、小さくはにかみながらそう言う三日月。その表情につられるように、自然と菊月()も微笑んでしまう。

 

「……仕方ないな、三日月は。分かった、また今度遊びに行こう……」

 

喜色を顔に浮かべてはしゃぐ三日月と、暫くの間取り留めもない話に花を咲かせる。E6海域での激戦の内容にまで話が及んだ時、医務室の扉を開けて明石が姿を現した。

 

「あ、明石さん。お姉ちゃんのお薬の時間ですか?」

 

「はい。それと、傷の具合も見なければいけませんからね。どうですか、菊月さん?傷口が熱を持ったりしてませんか?」

 

「……熱、か。確かに少し怠いな……」

 

「なら、少し休んだ方が良いでしょう。安静にしなければ、治るものも治りませんよ?特に菊月さんの場合は、余計に体力を使っていると思われますから」

 

「……分かった。済まないな、三日月……」

 

「いいえ、私こそお邪魔しました。丁度ご飯どきですし、昼食にしますね。お姉ちゃんこそしっかり治して下さいね?」

 

静かな手つきで扉を閉めて、三日月が医務室から出て行く。正座を解こうとすれば、足が痺れて思うように動けなかった。仕方なくそのまま背後に倒れこみ、怠い身体を投げ出す。ちらりと見れば、脇机には三日月のものと思われる鞄が置いてあった。忘れ物、だろうか。

 

「じゃあ、まずは塗り薬を塗ります。その後点眼薬、最後に飲み薬の順番で行います」

 

「……分かった、頼む……」

 

忘れ物なら、取りに来るだろう。鞄はその時に渡せば良い。俺はそこで思考を放棄する。明石の言葉に一つ頷き、俺ははらりと入院着をはだけた。

 




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