私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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前話で拠点の島が占領された段階前後で、冬イベントが始まった感じです。

今回はほぼ戦闘だったので、進展はほとんどなし。かわりに損耗がアップ。まあ、勇ましく戦闘する菊月はすごく凛々しいから良いよね!


放浪艦菊月(偽)、その二

「―――っぁぁあああああ!!!」

 

勢い良く、逆手に握ったナイフを振り下ろす。硬い肉を突き破り、柄元まで突き刺さる感触を感じる。……しかし、俺が跨るコイツは未だ堪えた様子も無い、それどころか一層暴れ出し―――

 

「っ……ぅあぁっ!?」

 

思い切り振り飛ばされる。これも慣れたもので、なんとか空中で態勢を立て直し海面に着地する。力を使い過ぎて握力が弱くなっているところを、ぐっと堪えて両手の得物を握り締める。……ぞくり、と本能が警鐘を鳴らす。目線を上げることもせず、再び相対する敵へ駆ける。他の艦娘とは違い、海上を滑ることが出来ない俺だけれど、こんな戦い方をする分にはちょうど良かったりする。

 

「……そんな砲撃が、当たるものかっ……!」

 

此方へ向けられた砲口から放たれる、当たればひとたまりも無いであろう凶悪な砲弾を横っ跳びに回避する。こうして、走りながらでも鋭角的な軌道を採れることが滑航出来ないことのメリットだ。頬に風を感じる距離を弾が通り過ぎて行き、置き去りにされた長い菊月()の髪を揺らす。

 

「……そろそろ、深海へ沈むが良いっ……!」

 

何度も繰り返せば嫌でも慣れるもので、当たり前のように俺は敵へ接近しようとする。早く終わらせて少しでも休みたい、などと考えながら。

……疲労と慣れ、あとは恐らく少しの慢心か。眼前の深海棲艦が何を載せているのか、俺は失念していたのだ。

 

「……っ!?飛沫……海中、だとっ!?まさか、魚雷……し、しまっ……!?」

 

咄嗟に、腰に付けた袋ごと弾薬を海中へ投げ入れる。袋に入った弾薬と魚雷が俺の直ぐ前で接触、膨れ上がり―――

 

「……ぐぅうっ、ぁぁぁあああああっ!!?!」

 

俺の身体は吹き上がる膨大な水飛沫と、軽々と菊月()を吹き飛ばす程の衝撃に飲み込まれた。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

………どうやら、あれでもまだ俺は沈んでいなかったようだ。正確には、沈み切る前に気がついた、という感じだが。

 

「……ぐぅうっ、これは……っ。直撃弾ではなかった事が幸いしたか……」

 

半身を海中から引き抜く。俺は悪運だけは強いらしく、ナイフも手斧も喪失してはいないようだ。また、服の袖口や襟、スカート、そしてその下に履いているズボンも所々破けてはいるが健在である。小破と中破の中間、と言ったところか。

 

「………奴、は……?……っ!」

 

気を飛ばしていたのは一瞬だったらしい。俺が沈んでいないと見るや、奴は金色のオーラを猛々しく震わせて此方へ突っ込んでくる。どいつもこいつも考えることは同じ、噛み砕いて呑み込もうという腹だろう。……結局最後はこうなるのか。

 

「どいつもこいつも……馬鹿の一つ覚えか……!」

 

脳天を幾ら突き刺そうと、コイツに効果は無かった。刃の長さが足りないのか、威力不足か……だが、それも今となってはどうでもいい。何故なら、そんなものは関係のないところを攻撃すれば良いだけの話だからだ。

 

「いい加減に……眠れ、『駆逐ハ級』……っ!」

 

奴の突進へそのまま突っ込む。ハ級が深海棲艦―――駆逐艦に限るが―――特有の大きな顎を開くのに合わせ、海面を蹴り跳躍する。無論、それだけで届く筈もない。左手に握ったナイフを奴の唇に当たる部分へ叩き付け、歯を肉にねじ込む。奴が悶えるが構わず、もう片手の手斧を振り上げ―――

 

「………はぁぁあっ!!」

 

全体重を乗せ、『駆逐ハ級・旗艦(flagship)』の大きな単眼へ手斧を振り下ろした。

 

―――――――――――――――――――――――

 

戦闘を終え、帰路に着く。帰り着く先は海から突き出た唯の岩なのだが、それでも帰る場所と定めた以上、何か安心感を感じるのだ。

 

「疲労故に昼まで寝過ごし、残る疲れを我慢して海へ出ればこうして日が暮れるまでflagship級と格闘、か……。我ながら、良くやっているよ……」

 

重い身体を引きずり、足を動かす。いや、菊月のボディーが重いなんてそんなことは無いのだが。そう、俺が菊月をおんぶしていると考えればこんな疲れ程度……!

 

 

――――――ドォォーン……!

 

 

「―――砲撃音……?」

 

日はとっくに落ち、加えて菊月()の服は黒い。こうしていれば遠目には分からない筈だ。咄嗟に海面近くまで身を屈め、辺りを見回す。……すると、遠くにちかちかと不規則に明滅する光を見つけた。

 

「……間違いない、砲火の光だ……。……だが、どうする?」

 

目立った負傷こそ無いが、俺は疲労困憊。加えて、あそこまで行って見つけたのが沈んだ艦娘と深海棲艦の艦隊だったりしたら目も当てられない。良く目を凝らしてみれば、真紅や黄金の光……上級深海棲艦の纏う光も見える気がする。どんな艦娘が居るか知らないが、今の菊月()が行く意味は無いだろう。仮にあそこにいる艦娘艦隊が全滅寸前であったとしても、だ。

 

―――しかし。

 

「……独り、岩礁で隠れ震えている?ふざけるな、この菊月の望みはそんなものではない……!」

 

『菊月』が『俺』を奮い立たせ、『俺』が『菊月』として吼える。

 

「『あんなに寂しいのは、もう御免だ……!!』」

 

駆逐艦だというのに、情け無い程に遅い。それでも、菊月()は出せる全速力で光の元へ向かって走り出した。




菊月、まさかの単艦(ほぼ)艤装無しでフラグシップ討伐。
装甲?耐久?そんなもん急所を一突きすれば関係ないやろ(ニンジャ理論)

菊月……というか皐月以下の睦月型ってニンジャっぽく無いですかね、服。

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