Fate/EXTRA BLACK   作:ゼクス

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1-5 宣戦布告

旧校舎/校庭

 

全速力で階段を駆け抜けた私は、サクラ迷宮に来る時と同じ酩酊感を感じると共に校舎に戻っていた。

ブラックの姿は無い。どうやら再び霊体化して姿を隠したようだ。取りあえずサクラ迷宮から無事に脱出出来た事に安堵していると、生徒会室から通信が届く。

 

『ああ、やっと通信が繋がった。無事ですか、白野さん?』

 

無事だとレオに答えた。

 

『それは良かった。先ほど、通信が途切れたのは妙なジャミング……いえ、歌声のような干渉波で通信音声が妨害されたようです』

 

歌声……?

そんなモノで通信が妨害出来たと言うのか? 

 

『しかし、其方からの映像は届いていました。ミス遠坂とサーヴァントの姿は確認しました。此方は至急、防壁についての解析とジャミングの対策を考えます。ですので、白野さんは休んでいて下さい』

 

『報告します。お疲れ様でした、岸波さん。管理者権限で『マイルーム』を作りましたので、其方で休んで下さい。場所は校舎の二階奥です。外部からのモニターをカットする様に調整しました。完全なプライベートルームです。呼び出し通信は入ってしまいますけど、それ以外は幾らでも寝坊しちゃってOKです』

 

『マイルーム』。それは助かる。

ブラックと直接一対一で話す場所として助かる。

先ほどの迷宮内での事といい、そろそろブラックには聞かねばならない事が多い。絶対に問いただそうと決意を固めると、校舎の入り口からユリウスが出来て来た。

 

「……戻ったか。これが『マイルーム』の鍵だ。無くさないようにしろ」

 

「ありがとう、ユリウス」

 

感謝の言葉を伝えると共に、ユリウスが差し出した『マイルーム』の鍵を受け取って校舎の中に私は入って行った。

 

 

 

旧校舎/マイルーム(白野side)

 

桜が用意してくれたマイルームはそれなりの大きさで、箪笥や大きなベットが置かれていた。

この部屋完全に私とサーヴァントだけの空間。窓の外は夕暮れでは無く、夜になっていた。

恐らくは校舎と繋がって居ない事を示しているのだろう。

 

私が部屋を見回していると、人間の姿に戻ったブラックが実体化し、壁に背を預けて座り込んだ。

 

「……此処ならば問題は無いか……聞きたい事が在るのだろう?」

 

どうやらブラックも質問される事を分かっていたようだ。

当然だ。何しろ此方の命も関わる問題なのだ。

 

……すぅ、と深呼吸して気合を総動員し、ブラックに顔を向けて口を開く。

 

「ちゃんと説明して下さい?」

 

「分かっている。大体の状況も分かった……先ずは何が聞きたい?」

 

「…貴方は何者なの?」

 

これは一番最初に聞かねばならない事だ。

ブラックには謎が多過ぎる。本当の姿は今の人間の姿では無く、迷宮内で見せた『竜人』の方。

更には他のサーヴァントとは明らかに違う異質な気配。一体どのような逸話を持つ存在なのか気になって仕方が無い。

 

「…最初に言っておくが、俺はムーンセルが記録したモノではない。寧ろムーンセルに送り込まれたウィルスの類だと言えるだろう。故に、ムーンセルの端から端まで調べても俺の記録など一切無い」

 

…………はっ?

 

「俺は完全に異世界の存在だと言っているんだ。例えムーンセルが過去、現在、未来、果ては平行世界の地球の記録を持っていたとして、俺の記録など見つかりはしないだろう……いや、もしかしたら何処かの平行世界には暴れた記録ぐらいは残っているかもしれんが、自らを滅ぼす可能性を持った〝俺”の記録など、流石に記録はしないだろう」

 

いや、いや、待ってほしい。

話がよく分からない。ムーンセルを滅ぼす可能性を持っている? 送り込まれたウィルスの類?

一体どういう事なのだろうか?

 

「順を追って話そう。先ず俺の本当の名は『ブラックウォーグレイモン』。電子生命体。ダークタワーと言う暗黒物質で造られた塔を百本、合成、合体を行なった結果、〝デジタルモンスター”を模倣し、誕生したのが〝俺”だ。因みに〝デジタルモンスター”とは、『デジタルワールド』と言う世界に住む生物の通称だ」

 

いきなり壮大な話になった!?

えっ? 電子生命体? デジタルモンスター? デジタルワールド? 何それ?

 

「言っておくが冗談でも嘘でも無いぞ。元々このムーンセルとて異文明の遺産なのだからな。第一、貴様が電子生命体を否定するのか?」

 

……言われてみれば、今の私は電子生命体と言われても可笑しくは無い。

此処は霊子虚構世界。其処に居る私達は、霊子生命体と言われても可笑しくは無い。

つまり、ブラックはムーンセルが創り上げた霊子虚構世界とは違う世界、『デジタルワールド』なる世界の出身らしい。

 

「まぁ、俺の場合は『デジタルワールド』を崩壊させる為に建てられたダークタワーが百本集まって誕生したせいで、ただ居るだけで世界に悪影響を及ぼしてしまうのでな。『デジタルワールド』から離れて他世界に行っても危険視されていた……色々と在ったが、千年近く戦い続けて中々に楽しい日々だった」

 

……はっ?

懐かしそうに遠い目をするブラックを見つめながら、私は言葉を失った。

世界に悪影響? 千年近く戦い続けた? いやいや、冗談では無いのだろうか?

 

「最終的には多くの世界が暴れ過ぎた俺を滅ぼそうと、大戦力を送って来た。流石に惑星を滅ぼせるレベルの大戦力が相手では、引き分けに持ち込むのが精一杯で惑星の大爆発に巻き込まれて消滅してしまったが……あの戦いは良かった。思い出すだけでも心が震える」

 

……もう言葉が本当に無かった。

だけど、ちょっと待って欲しい? 今ブラックは正直信じられないが、惑星の爆発に巻き込まれて消滅したと言った。では、此処に居るブラックは何なのだろう?

 

「此処からが重要な話だ。確かに〝俺”は消滅した。だが、消滅する少し前に知り合いの研究狂と別れの挨拶をした時、〝俺”の因子を奴は持って行った。元々俺は悪性に寄って創り上げられた暗黒物質の塊のような存在だ。この悪性に満たされた月の裏側との相性はこれ以上に無いほどだ。其処を〝奴”は利用したのだろう」

 

「……〝奴”?」

 

「貴様らに聞いただろう? 『フリート・アルード』。奴こそが俺を月の裏側に送り込んだ張本人だ」

 

そしてブラックは語り出した。

今回の事件に匹敵するほどにとんでもない計画の内容を。

 

 

 

旧校舎/マイルーム

 

「俺を送り込んだフリートの奴は研究狂でな。ありとあらゆる事が奴にとって研究対象でしかない。奴の事だ。俺が居なくなった後も、研究や探究したりと好き勝手やっていたんだろう」

 

「ちょっと待って? ブラックが居なくなったのが何時なのか分からないけれど……そのフリートって人は何なの? と言うか人間なの?」

 

「……奴は人間ではない。伝説として語られるほどの異文明の技術の結集として生み出された存在であり、同時に最後の生き残りだ。生き残った奴は長い年月過ごした結果、研究狂になったらしい。会った当初はとある場所に引き篭もっていたが、俺が持ち込んで来た代物の数々を調べている内に、直接調べたい衝動に駆られて引き篭もりを止めたんだ」

 

 昔のフリートは、それこそ今旧校舎の用務員室に引き篭もっているジナコよりも遥かに引き篭もりだった。

 だが、ブラックと付き合っている内に引き篭もるのを止め、フリートは外の世界で自ら研究に乗り出すようになった。

 

「俺が良く知っている女から言わせれば、引き篭もっていてくれた方が世界の為と言わせるほどに危険な奴だ」

 

「……そんな人が、どうして『聖杯戦争』に?」

 

 震えながら白野はブラックに質問した。

 引き篭もっていてくれた世界の為だと言われた人物が、『聖杯戦争』に参加している。それだけでも不味過ぎる上に、その目的は不明ときている。

 もしもそんな人物に万能の器である『聖杯』が渡ったりすればと、白野は顔を蒼白にさせる。

 

「あぁ、言っておくが恐らく奴には『聖杯』に願う願いなど無いぞ」

 

「へっ?」

 

「奴の目的はあくまで『聖杯』の原理を調べる事に違いないからな。『杯』ごときに願うのなら、その原理や過程を調べ上げて自分で実行しようと考える奴だ……話は戻すが、俺が居なくなった後も奴は研究対象を求めて飛び回っていたんだろう。その中で奴は見つけた。この世界の月に隠されていた『ムーンセル』を」

 

 ブラックの言う通り、フリートはこの世界に訪れると共に月に在った『ムーンセル』を発見。

 即座に調査に乗り出した。この世界の地球は宇宙開発を止めていたので、誰にも邪魔されずに月で『ムーンセル』を調べ続けた。その中で、月の裏側に悪性に満ちた領域が『ムーンセル』には在る事を発見し、それを利用してブラックを復活させようと企んだのだ。

 無論ただ悪性に満ちた領域が在るだけでは、ブラックを復活させる事など出来ない。だが、フリートは『ムーンセル』を調べている中で、表側の領域で英霊と言う超越した存在同士を争わせる『聖杯戦争』が行なわれている事を知った。

 その『聖杯戦争』が幾度も行なわれている事を知り、更なる計画を練った。そう、『復活したブラックをサーヴァントして召喚し、『聖杯戦争』に参加する』と言う計画を。

 

「俺が貴様とサーヴァントとしての契約が出来たのもそのせいだ。奴は時間を掛けて月の裏側の大地から送り込んだ因子を操作し、サーヴァントとして俺を召喚する準備を整えた。因子は月の裏側で力を吸収し、俺と言う形を創り上げた。だが、此処で問題が在った。『聖杯戦争』に参加するサーヴァントは、マスターとなる人間の声に応じて召喚される。意識の無い俺では幾ら準備を入念に行なっても、召喚に応じる訳がない。だから、奴は待った。俺と言う意識が目覚めるその時をな」

 

「……話は分かったけれど…ブラックが居たのは月の裏側なんだよね? 桜の話だと、月の裏側は『ムーンセル』が封印した情報倉庫で、絶対禁断領域。其処からブラックを呼び出すなんて出来るの?」

 

「普通ならば無理だろう。だが、奴は何らかの方法で月の裏側から表側へと続く道を見つけたに違いない。実際、現状で裏側から表側に出る道が在るんだ。奴はその通路を用いて俺を呼び出そうとした。無論、『ムーンセル』が張った防壁が在るかもしれんが、フリートが召喚する時の俺は月の裏側の力を吸収し終えていただろうから、その力と『ムーンセル』のぶつかり合いになって居た筈だ」

 

 とんでもない計画だと白野は心の底から思った。

 言うなればフリートは、月の表側とブラックと言う意志を持った月の裏側との激闘を引き起こそうとしたのだ。もしも成功していれば、『聖杯戦争』どころの騒ぎでは無い。月の裏側から表側にやって来たブラックは、好き勝手に暴れていただろう。

 無論、失敗していたら事態を引き起こそうとしたフリートは『ムーンセル』に排除されていたかもしれないが、ソレはフリートにとって問題では無い。自らが消滅する事など、フリートには何の恐怖も無いのだから。

 

「だが、フリートの計画は失敗した。召喚される筈だった俺が月の裏側から消失し、虚無空間に封印されたばかりか、吸収した力を殆ど奪われてしまったのだからな」

 

 『聖杯戦争』の参加者達には幸運な事に、フリートと同じように月の裏側を利用しようと企んだ者が他にも居たのだ。

 その相手は意識が目覚めたばかりのブラックを強襲し、その身に宿っていた月の裏側の力を奪い取った。更に虚無空間に封印して二度と出て来れないようしたのだが、岸波白野がやって来た事でブラックは脱出する機会を得たのだ。

 

「奪われた? 一体誰に?」

 

「正体は分からん。だが、その姿はハッキリと憶えている」

 

「どんな相手!?」

 

 白野は思わずブラックに詰め寄った。

 先ず間違いなくブラックを虚無空間に封印した相手こそが、今回の事件の犯人。それが迷宮内で会った凛なのか気になった白野は厳しい眼差しを向けるが、ブラックは首を横に振るう。

 

「悪いが今は言えん」

 

「何で!?」

 

「……言えば、貴様は安心して迷宮を歩けなくなるぞ?」

 

「……えっ?」

 

 ブラックが告げた事実に白野は怒りも忘れて呆然となった。

 

 

 

旧校舎/マイルーム(白野side)

 

「事件の犯人を知っているのは俺だけでは無い。もう一人、貴様が良く知っている相手が犯人を知っている」

 

言われて思い出した。

そう、確かに私はブラック以外に今回の事件の犯人を知っているであろう者の顔を思い出した。

サクラ迷宮に入る前に私に忠告しに来てくれた相手。間桐桜を。

 

「迷宮に入る前に奴は忠告して来た。間違いなく犯人を知っていると見て間違いない。何よりも奴は……いや、とにかく此処で俺が語るのと、奴自身の口から語られる事のどちらを貴様は選ぶ?」

 

試すようにブラックは私に質問して来た。

いや、実際に試しているのだろう。色々と事情が重なったせいで忘れていたが、このサーヴァントは私の意志に興味が在るから力を貸している過ぎない。

私の行動。私の選択。それらの中で僅かでも意志の強さに弱まりが見られれば、即座に見限る『竜人』なのだ。

 

「言っておくが、俺は既に力を取り戻す方法を見つけたぞ。どうやらあのサクラ迷宮は元々俺が月の裏側で吸収していた力で構成されているようだ。流石にアリーナは破壊出来んが、内部に現れるエネミーとかいう人形を破壊すれば微量では在るが、力が戻って来る」

 

確かに桜が言っていた。

エネミーを倒した後に、微妙では在るがブラックに変化が起きたと。

アレはエネミーを構成していた月の裏側の力を吸収、いや、取り戻した事による変化!? つまり、このサーヴァントはエネミーを倒せば倒すほど力を取り戻して行く。

 

既にこの『竜人』にとって岸波白野は、興味対象だから一緒に居るに過ぎないのだ。

とんでもないサーヴァント、いや邪竜と契約してしまったと改めて感じる。

 

……一つ気になる事が在った。それを先ずは聞かねばならない。

 

「…サクラ迷宮を出て、表に出たら何をする気なの?」

 

「決まっている。何回戦まで進んでいるか分からんが、先ずは召喚されて生き残っているサーヴァントどもと戦う。ルールなんぞ知らん。そもそも俺は『聖杯戦争』とは全く関係ない存在だ。ムーンセルが邪魔をしてくるだろうが、それも構わん。絶対的な存在と戦うのはそれなりに楽しめるだろうからな。もしかしたら俺を排除する為に強力なエネミーやサーヴァントを送り込んで来るかもしれん。どんな結果になるとしても、戦いが楽しめるならやるだけだ」

 

……愕然とした。

ブラックは私達の味方などではないとハッキリと分かった。

目の前に居るブラックもまた、今回の事件の犯人同様に、『聖杯戦争』を破壊する存在なのだ。今回の事件の犯人を倒したとしても、今度はブラックが敵となる。しかもその時は月の裏側の力を取り込んだ強大な敵となって。

 

だけど、表側を目指して先に進む為にブラックの力は必要だ。

旧校舎に居るサーヴァントはブラックを除いて、ガウェイン、アンデルセン、そしてまだその姿を見ていないジナコのサーヴァント。

 

敵の正体はハッキリと分からないが、少なくとも凛とそのサーヴァントであるランサーだけは間違いなく敵だ。

……此処で今知ったブラックの事をレオ達に伝えるべきか?

 

「…………」

 

いや、伝えない方が良い。

そもそも伝える前に私はブラックに殺される。この邪竜が私に自分に不利になる事を説明したのも試す為に違いない。

 

「ふん、賢明な判断だ」

 

……どうやら正解だったようだ。

やっぱり、常にブラックは私を試している。ならば、先ほどの敵の正体に関しても聞かない方が良い。

確かに敵の情報は重要だが、それで背後に不安が出来てしまえば、常に脅えが出てしまう。それにブラックはともかく、桜が話せないのは何か事情が在るに決まっているのだから。

 

「……貴様、本当に記憶が無いか? いや、それとも」

 

? 何故だろうか?

私が告げた答えに、ブラックは訝しげに見つめて来た。

 

「……まぁ、構わん。どうせ貴様との関係は、最後まで続いても表側に出れば関係は無い。何せお前は表側に出れば、ムーンセルに排除されるのだからな」

 

……排除される? 私がムーンセルに?

 

意味が分からない。

表側への帰還が唯一の希望なのに、何故それが私の排除に繋がるのか?

 

「まだ思い出せないのか? 貴様はあの虚無の中から脱出する為に全ての『令呪』を使用した。『令呪』を全て使用し切ったマスターは敗北者としてムーンセルにみなされる。加えて言えば、貴様は俺と契約出来た事から見て、表で共に戦っていたであろうサーヴァントとの契約も切れている。マスターが契約出来るサーヴァントは一体だけと決められているからな。『令呪』もなく、サーヴァントも居ない貴様は表に戻れば死ぬ定めしかない」

 

……気が付けば、『令呪』が無くなった左手を握りしめていた。

伝えられたのは、どうする事も出来ない現実だった。

 

何と言う事だ。

今になって事の重大さを思い知った。無我夢中だったとは言え、あの虚無空間から脱出する時に自分の命を私は使い切ってしまっていたのだ!!!

 

「まぁ、希望が無い訳でもない。幾つか貴様が生き延びる方法は在る。表側に戻る前に『令呪』を新たに手に入れ、新たなサーヴァントと契約し直せばいい。最もそれは限りなく難しい事だがな。『令呪』を持つマスターは敗退者と確定していないマスターだけ。また、新たなサーヴァントを得られる可能性も低い。それとも……俺との契約を解消せず、『聖杯戦争』を破壊するであろう俺の行動を黙って見ているか?」

 

………冗談では無い。

この邪竜を解き放ったのは私だ。解き放った責任は果たさなければならない!

 

そう、今ハッキリと分かった。此れは戦いなのだ。

このサーヴァント、ブラックは戦いを望んでいたのだ。私、岸波白野との戦いを。

今までは認識出来ずにいたが、私は知らず知らずの内にブラックに戦いを挑んでいた。

意志と意志のぶつかりあい。どちらが食うか食われるか。それを今、ハッキリと理解した!

 

「ほう……良い目だ。覚悟を決めたようだな。これで貴様との戦いもそれなりに愉しめそうだ。そうだ。忘れるな。貴様と俺は戦っている。だから、俺に下手に出る必要などない。貴様が望むままに、貴様の戦いをしろ。俺はそれを楽しみながら、その時が来るまで力を貸してやろう。無論、俺も楽しませて貰うがな」

 

……何故だろうか?

宣戦布告としか思えないブラックの言葉なのに、それでも胸の支えはいくぶん楽になった。

 

自分の戦い。それは転じて、自分の思うままにしていい、と言う意味でもある。

……まぁ、絶対に此方を案じての言葉でなく、寄り私との戦いを愉しむ為に告げたのだろうが。

 

同時に理解する。

ブラックは邪悪だ。何処までも己の欲求の為に動く邪悪な存在。だが、それだけではない何かが在る。

取りあえず、今日は此処までにして明日に備えて休もう。ブラックとの戦いだけでは無く、サクラ迷宮に居る凛とランサーとの戦いも在るのだから。

 

用意されたベットに横になって目を閉じ、私は眠りの内に落ちて行った。

 

 

 

……ピピッと目覚まし時計のような呼び出し音で目が覚めた。

ベットの横に置いてあった端末を手に取ってみると、生徒会室からの呼び出しだった。

 

十分な睡眠から目覚めて、窓の外に目を向けてみると、夕焼けが見えた。

やはり、この校舎には日付の概念は無いらしい。

 

「目が覚めたか?」

 

聞こえて来た声に目を向けてみると、ブラックが眠る前に見た時と同じように壁に寄りかかりながら座っていた。

 

「で、どうする? 月の裏側から脱出する、と言う目的に変更は無いのか? 自らの死への歩みに?」

 

……確かに表側に戻る事は、死ぬ為に帰るようなもの。

 

それは承知している。

怖気づいていないと言えば嘘になる。

 

――――けれど、やっぱり目的は変わらないし、ブラックにも『聖杯戦争』を破壊させはしない。

虚無の闇の中で私は〝諦めない”と言う選択を選び、ブラックに興味を抱かせて虚無空間から脱出した。

 

なら、此処で足を止めるのは間違っている。

 

それに人間は必ず死ぬ。

なら、大事なのは何処まで生きるかでは無く、何を残すかで――――頭痛がした。

何か、今。曖昧な記憶の一部が、見えたような気がする。

 

「ほう……中々に面白い考えだ。なるほど、長い生よりも、短くしても何を残せるかか? やはり貴様は面白い。ならば、端末を見て見ろ」

 

? 言われて端末に目を向けてみると、ブラックのサーヴァントデータが表示された。

そのデータの中でスキルの欄に『念話』と表示されている。これは一体?

 

「昨日の迷宮内での戦闘の中で取り戻した力だ。簡単に言えば、頭の中で会話する技能だ……(こんな風にな)」

 

ッ!? た、確かにブラックの声が頭の中で聞こえた。

しかし、これは助かる。一々ブラックが実体化する事なく、会話する事が出来るのだから。

 

「しかし、この技能。通常のマスターとサーヴァントならば、俺がスキルとして使わずに使用出来る筈なのだが……貴様、本当に魔術師(ウィザード)なのか? もしや偶然に紛れ込んだ一般人では無いのか? いや、流石にそれは無いか」

 

……ブラックの疑問に答える事が出来ず、恥ずかしげに顔を俯かせながら生徒会室に私は向かった。




ゲームで白野がサーヴァントとラインで会話した事が無いので、ブラックに念話をスキルで追加しました。

そして明かされたフリートの計画。失敗に終わってしまいましたが、成功していたら『聖杯戦争』どころの騒ぎでなくなっていました。
因みに成功して『聖杯戦争』と言う形でブラックが参加した場合、戦闘は全部ブラックに任せてフリートは研究に勤しむつもりでした。

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