ES_001_IS学園
二〇二一年四月五日月曜日、入学式。
IS学園。超兵器ISの操縦者を育成するための世界唯一の学校。
「久しぶりだな、一夏。よもやこんなところで再会するなど、思ってもいなかったぞ」
それの屋上。
ポニーテールに
颯爽と脇を通り抜けていく春風。日なたの匂いをたっぷりと含んだ暖かい感触。小春日和ならではともいえる、春の一芸。桃にほころぶ桜と早くも萌える緑の息吹、世はまさに春真っ盛り、って表現はあんましこの暖かさには似つかわしくないか。ともあれ春、なのに。
そんななか、反するように俺こと織斑一夏の心情は、それはもう暗澹としていた。
「……そうだな、箒。俺もお前に会えて嬉しいよ」
「その割にはまったく表情が芳しくないな」
「そりゃなぁ。こんな女子ばっかの場所、息が詰まってしかたないよ。顔ぐらいくもるって……わざと言ってないか、箒?」
「失礼な。私とて驚いている側なんだぞ? 男のなのにISが動かせるだなどと……多少の浅慮はしかたあるまい」
そりゃあそうかもしれないけどさ、しかしやはりとうの本人、つまり俺自身としてはこう、どうにも憤懣やるかたないというか。いや怒ってるわけじゃないけれど。
それでも不満というか、愚痴というか、とにかく言いたいことが一つばかし。
「どうして、こうなったんだ?」
俺は世界で唯一、ISを動かせる男である。
◆◆◆◆◆
「たとえば、始めから負けるように定められている者がいたとしたらどうだろう。
勉学、芸能、戦闘、お題目はなんでもよいが、少なくとも勝利という概念から爪弾きにされた人間がいたらどうだろうか。
そのような人間は、果たして無能という劣等種と同義であるだろうか?
勉学であるならば自身の知恵を高め、知識を集積し、なにかしらの研究発表等を用いて自身が生涯探究してきたものを世間に認めさせる。徳のある人間であれば、人類の進化を助長させるような空前絶後の現代魔法。星の開拓すらを可能とする英知の極み──それに至ることこそが勉学の勝利だと、仮に定義しよう。芸能では他者を魅了するカリスマを、美貌を、清冽精緻極まる絶技と永久持て囃される名声を。戦闘であるならば己に立ちはだかる外敵のそのすべてを踏破すること、あるいは決して認められぬ至大の怨敵の討伐、はたまた国家間にすらおよぶ闘争の時代において生き残り続けること。
それらを端的に勝利と呼称するとして、なあ。それら一切から除外された人間は、なにもできない無能な凡百匹夫そのものであると、思うかね?
ああ、確かに。勝利を結果と見るならば、それに辿り着けぬ過程ばかりを歩んでいる人間など、量販品を生産する機械となんの違いはないだろう。もっとも量販される製品と違い、残念ながら彼らは人間だ。気づかぬ内は花だがね、なにかを渇望して邁進する人間でありながらそれに甘んじることがあるなら、そら。無能ではないが無力だよ。
だが、過程として見るならば? 至高の頂に君臨する極大の栄誉ではなく、その道中で敗れようとも幸せを感じることができたのならば? 無力と散り逝くかもしれないが、底知れぬ心力でただでは終わらない人間がいたのなら?」
「……無力だけど、無能じゃない?」
「然りだ。頂には、力なくしては上れない。筋力、精神、殺意、美貌、運命、宿星、善意、愛情、運勢、お題目はなんでも良いし、どうとでも良い。努力も才能も血筋も思想も頓着せぬ。
ただ、己以外の全他者を劣等以下にかすめさせるなにがしかがあること。己にしか成しえない奇跡を持っていること。
それでいて、力に寛容であること。運気は間違いなく己の力であり、暴力は正当な力であり、親の七光りを得られる宿星は見紛うことなき力だと認めること。他者を圧倒できるその成分を認めること。
必ずそうしろというわけではないがね。そうしたものがなくば、勝利なんてとてもとても。諸君ら、そんなことをせずにまさか勝利の頂にあやかれるとでも考えているのではあるまいな? 可愛いな、ときめくよ……おや、少年。そんな顔されるとさすがに照れるぞ? ああ、すまない、迂遠だったと、言いたいんだろう?
とかくとしてだ。無力と無能は同じ意味ではない。
力なくば勝利に辿り着けぬが、決して得られないものがないわけじゃあない」
「過程にも、結果に負けない価値があるって?」
「左様。よく言うだろう? 若い内の苦労は金を出しても買えと。
迷い、戸惑い、そうして頂上に辿り着かずとも──」
「その道には意味がある、かもしれない」
「ふふ。断言せぬ当たり、格好がつかないな。
良いさ。迷え、悩め。ともに本日の迷宮楽土を混沌しよう!」
「……つまり、お前も迷子ってことか?」
「如何にも」
……俺は今までこんなに図々しくふてぶてしい迷子を見たことがない。
どうにも問いかけらしいのだが、あまりにも多くて小難しいので話していた内容の半分も覚えてない。『小生』とか使うんだぜ? そんなに話すのが好きならもっとわかりやすい日本語を使ってほしい。という以前に話が長い。
「……で、ここはどこなんだ?」
「愚問であるよ少年。君も同じ穴の狢ではないかな?」
「素直に『わからない』って言ってくれよ……」
……そう。
俺達は今、迷子なのである。
◆
「……
二月の真ん中、真冬である。そりゃあ寒くて当然だ。
俺は高校入試の会場である施設の前に立ち、体をさすっていた。
替え玉対策やらカンニング防止だかは知らないが、そのために合同受験となった高校入試。複数の高校の受験日を統一し、かつ校外で実施するそうで、俺は電車で四駅かかるその会場とやらにまできていた。しかし受験とはいえ、近所の高校のためにわざわざ電車に乗らなければいけないというのは少々不満が──滅茶苦茶不満がある。
現在中学三年生。愚痴の一つくらい言いたくなるさ。
(まぁこれも俺のため、延いては千冬姉のためだ)
千冬姉。織斑千冬。俺の姉の名前だ。
俺には両親がいない。だから長年、歳の離れている姉が養ってくれている。ともなれば健全健康な男児である俺として、その状況は非常に引け目を感じてしまうわけで。そんな姉を安心させるべく、学校法人関係企業への就職率が高い学校、藍越学園に入学すべくこんなクソ寒い日にこんなバカ寒いところにきたのだ。
ともあれ。いつまでもこんなところにいる必要はない。俺はほかの受験生を見やりながら会場である施設二階を目指した。
そして五分。
「……どうやって、二階に?」
開始五分で迷子になった自分に本当にびっくりだ。
「いやだってさ、この建物……階段どこにあるんだよ」
現代建築だかなんだか知らないが、なんだここ、構造複雑すぎだよ。
まず入口が降り階段。そうして地下フロアに入ると大きなエントランスで、正面に再び階段。ここまではいい。それを上がって再度一階に出るっていう手間はまだ認めよう。でもなんでその階段二階に続いてないんだ? オマケに案内もないし……そのまま階段探してたら今の状況、迷子。
「ったく、天井だってヤケに高いし。ホント、なんなんだこの建物」
「いやいや、この天井は高いからこそ開放感が得られるのだよ。低い天井、狭い空間というのは否が応でも窮屈に感じてしまうからね。国立西洋美術館を例に上げればわかりやすいかもしれないな──とはいえ、ここと比べるのなんて
「美術館? 上野の? まぁあれも変な造りだと思うけど、あっちは美術館、こっちは複合施設だろ。仮にも受験会場に使われるわけだから、もっとわかりやすい構造にするべきだと思うぜ」
「そう言ってやるなよ少年。コルビュジェに影響された建築は世界各地、至る所に存在する。なにもここだけを取り上げて責めるのは可愛そうだ」
「そーかい。……で、お前は誰だ?」
迷子になった先、そこで俺はソイツに会った。
◆
とまぁ、そうして今に至るわけだ。
俺は改めてかたわらに立つソイツへと目をやる。
身長は俺より高く、スラリとスレンダーな体型。服は真っ黒いトレンチコートで、丈が膝ぐらいまである。もちろん、そこから覗くズボンも黒。しかし特筆すべきは恐ろしいほどに伸びた髪の毛だろう。真っ直ぐな黒髪がくるぶしあたりまで伸びており、前髪も顔の半分以上をしっかりと覆うくらい長い。そのため顔が判らず、男なのか女なのか判別が難しい。
しかしそれでもいえることは、キチンとすればかっこいいだろう、ということだ。
というのも、コイツは上半身がやや前屈みな、平たくいうなら猫背なのだ。非常にもったいない気がする。
──しかし、そんな視覚的なことよりも。
「ん? どうかしたかな少年。小生の顔になにか、なんて決まり文句を言うつもりはないが、どうかしたかね?」
うん、やっぱり隠れた顔じゃ性別判んないな。身長だけなら男なんだけど、今の女性って背も高いしな。体型……胸は、失礼だがない。でもない人はないのが人の世で、声を聞いても中性的にしか感じない。というかこれ、意図的に声色変えてないか? なににしろ、結局どっちなんだか。
──しかし、そんな聴覚的なことよりも。
「まったく、心
「女の漢?!」
「おや、聞こえているじゃないか」
「待てい! 女の漢ってなんだよ!?」
さっきからこんな感じだ。コイツがボケて、俺がつっこむ。……なぁ俺ら初対面だよね? なんでこんな親しげなんだ? いやさコイツがすごく話しやすくておもしろいってのもあるけど、見も聞きもしない人と馴れ馴れしく口をきく中学生って、いかがなものか。
──しかし、そんな内面的なことよりも。
視覚でも聴覚でもましてや触覚などという五感に類するものじゃなく、ありもしない六感を刺激するような違和の波。
男か女か判別が難しい? 声が中性的? 初対面で馴れ馴れしい? なんだそれ。そんなの全部表面かぎりの塗り固めたカモフラージュにしか思えない。偽装するための一芸にしか感じとれない。そんなとてもまっとうな感情感想なんかよりも、脳みその裏側でひたすら踊る違和感が拭えない。
不自然。そして不条理。
こんなのはありえないと。よもや天啓じみた、思惟の不可侵領域からの伝達。
ひたすらに鏡と話し続けているという錯覚をごまかすための、希釈液にしかすぎないと。
「知らないのかい、女の漢」
「あいにく、目の前にいるあんたが最初だよ。俺の世界はせまいんだ」
どうして俺は、そんなよくわからないことを思ったのか。
◆
「──お?」
「ん?」
そうして雑談しながら歩いていれば、ついに上へと続く階段を見つけた。
「やっと見つけたよ、階段」
「階段の壁面もガラス張りか。ふむ、これに関しては『カッコいい』と素直に言わせてもらおうか」
近代建築だかを意識しているのかは知らないが、この施設はどうにもガラス張りの、大きな開口・採光をとっている部分が多い。俺はそうした建築技術や歴史には疎いけれど、単純に考えれば大きな窓なりガラスなりを入れれば、それは構造的に弱くなってしまうはずだ。ともなればこうやってふんだんに大開口を採用しているここは、それでも十分な強度が、強い構造が成り立っていることの証左だろう。現代の技術力だからこそ建設し得た点を鑑みるなら、『ならでは』の醍醐味なのかもしれない。
やっとのことたどり着いた階段は、黒づくめの言葉の通り、壁一面が道中散々見てきたガラス張り。
しかしそれのおかげか、階段の高い天井と合わさり素晴らしい開放感を演出していた。
「へぇ。これはなかなか」
俺には芸術的なセンスなんてこれっぽっちもあると思わないけど。
少しばかりの関心を抱けるほどには、なかなかどうして、洒落てる造りだ。
感嘆の欠片を少しばかりともにして、現代建築の階段を上って行く。機能美のみを追求したような真っ白い梁と柱とそれから名称も定かではない無機質な白亜が入り組む色彩を抜けて、ガラス面が大々的に外空間から採光しようと無表情を晒す。塩の柱に囲まれている、というのはさすがに大仰がすぎる言い方だろうか。視界から常にガラスの切れない大空間。
そのガラスから見える広大な景色──無限の空は、しかしあいにく、くもりだった。
いや、無限とはいうけど、地球の大気層が空と考えれば有限か。どちらにせよ、できれば青空を拝みたかったかな……それにしても。
「────空は、狭いな」
「……え?」
でも、実にその通りだという気持ちが満腔だった。
「なんでもないよ。では少年、そろそろお別れのようだ」
「あ? ああ、もう二階か」
気づいたら二階に着いていた。
ここでお別れ、ということは、コイツは三階に用があるのだろう。
「いやはやもうお別れだなんて、まったく心残りでならないよ」
「それは俺もだ。が、あいにくこちとら受験でさ、別れを悲しむ暇すら惜しいんだ」
「つれないね」
「……一期一会はきらいだよ。じゃあまたな」
もう会えないかもしれないから最高の今を。
……その理屈もわかるけど、だからこそこの瞬間は呆気なくていい。次があると信じたいから、なにげなく。
言うが早く、そうして俺は背を向けて走り出した。急ぐに越したことはない。
「ふふ。小生も君と再び逢えることを、心から、願うよ。ごきげんよう──一夏」
「え?」
二回目の間抜け声で振り返れば、ソイツの姿はすでになかった。
「まぁ、いいか」
なんで名前を? という言葉を飲み込んで、俺は再び前を向く。疑問は残るが……それは受験を差し置いてまで追求するものじゃない。
なんとも、変わったやつだったな。悪くいえば変なやつでしかないんだが、言ってることは結構まともなことだったし。そりゃあ確かに、遠まわしで長ったらしい難解なことばっか宣っていたが、根は悪い人間じゃないんだろう。……なんだか不良を弁護する常套句みたいで申しわけないけど。
過程にも価値がある。──あいつ風に言葉遊びするなら『
ただ、あえて、思うなら。
俺はおそらく、結果派の人種なんだろう。
負け続ける人間は無能……とまで過激に断言こそしないんだが、先の話に乗っかって、あえての強いてで意見をするならば、そちら側に分類されるだろうな。過程を勇猛邁進するみんなの在り方は尊いけど、俺にはあんまりわからないし。
(負け続ける人間……って、あれ?)
そこで、そういえばと、気づく。
そういえば、あいつは始めになんて言ってた? 確か、そうだ。『たとえば、始めから負けるように定められている者がいたとしたらどうだろう』……そう切り出してたはず。気づいたら結果と過程の話になっていたが、そうだよ。もともとは『負けるようにできている人間』の話が始まりじゃなかったか? 婉曲すぎてわからなかったが、どうにも論点が妙にズレていたみたいだ。
そういう風に定められている、っていうからには、運命だ運勢だの話がしたかったのだろうか。今になってはわからないが、少なくとも。話題の始点と終点が微妙に食い違っているみたいである。凝った表現にばっか力入れすぎて、話題の着地点見失ってたんじゃないだろうな? 勝利が絶対にできない人間は無能であるか……そのあとの言だと過程に得られる幸せの可能性を説いていたから、真意はもっと別のものかも検討がつかないが。
勝利から除外される。だったら深く掘り下げるためには、その勝利がどういうものかを知らないといけないんだろうか。ただそれは、どういった内容を勝利と定義するのか、ということじゃなく、もっと根幹的に、個人依存の傲慢な部分。たとえば、そうだ。そもそもその人にとって、勝利がどの程度の価値を持っているのか、とか。どうしようもなく無意味で無関係なとこを指してこれぞ我が勝利! だなどと謳うやつもいないだろうが、しかし必ずしも、勝利がイコールの己が最大値になるわけでもない。いや、うん。だからどうしたってなるんだけれど。うう、なんだ、こんがらがってきたぞ……でも。
でも、だ。
始めから負けることが確定している存在がいるのなら。
そいつが歩む過程というやつは。
なにをしても。なにをやっても。
なにもせずとも。なにもしなくても。
本当になんの意味のない、無価値なものになってしまうんじゃないだろうか。
己の選択に意味などなく、無形の未来だなどとは妄言につき。成功を約束されたレールの脱線は確実で、生まれが墓場までをエスコートする。どのような交友でもゲームのNPCに同じく、あらゆる危機は鋭い鈍器のように痛みの過程をすっ飛ばして撲殺に至る。
勝利を剥奪された人間。
それはなんとも、機械みたいで、生きてはいない。
……なお、ここまで、根拠なし。
結局はただの推論だし、というか俺は勝敗とは無関係だし。そもそもとうに議題を定義した本人も、対象となり得る輩もわからない。
うん。だったら、なんだ。
結論して。
織斑一夏は、大分無能な存在だ。
なんて一本道の思考にぼやぼや時間を費やして、思い出したかのように腕時計を覗く。
いやほら、本懐は受験だ。それこそこんな貧困とは幾分無縁で日々の食料に困り辛い日本の中高生にしかできないような青春の浪費思考は、今日にかぎってははなはだ不要。第一もとより俺には無意味。……とは思いつつも少なくない時間をかけるあたり、やっぱりあんまり頭よくないんだろうな、俺は。それが高校受験の致命傷にならないことを願いたい。
ともあれ。
とりあえずと袖をついっと巻くって、腕時計を確認する。
試験開始まで、あと一五分。
(な、ぉおおおお?!)
なんでだ! どういうことだよ!? かなり余裕を持って来たのになんてザマだ! 楽しい時間ほど早く過ぎるってのは本当なんだな。──っと、納得してる場合じゃない、早く会場を見つけないと!
俺は焦りに駆られて走り出す。
走って走って走って、そういえば待てよ。会場ってどの部屋だ?
ずらりと廊下に並ぶ幾多のドア。おそらくどれかが正解なんだろうけど、ああもう洒落臭い。片っ端から開けてけばその内正解だろ。
決心胸にまず一枚目。失礼しますと内心で一礼。勢いまかせにドアを開いて踏み
「……誰も、いないのか」
足の踏み入った先。なにもない部屋だった。
勢い従順に勇んだ手前、これは少々拍子抜け。そのせいか、時間に余裕がないのについついその部屋に意識を広げてしまう。
広さは十分というほどあるが、机や椅子はおろか、インテリア、窓のようなものもない。加えなかは薄暗く、照明も部屋中央にぽつんと一つ。
その真下に、それがあった。
「こいつは」
この部屋唯一の光源に照らされ続けるそれ。
騎士の鎧。それが第一印象。
鈍く照明を反射する脚甲、胸に重ねるように曲げられた手甲、翼を思わせる重装甲──まるで跪いた騎士のような甲冑が、孤独な照明下で黙していた。よく見れば細部が甲冑とはまったく別のものであることや、近代的すぎることに気付くだろうけど……俺には騎士のそれに見えた。
さながら、主を待つ騎士のような──。
──なに言ってる。これは鎧じゃない、『IS』だ。
正式名称『
なにせ登場するや否や、既存の兵器を鉄クズ同然に破壊したのだ。宇宙進出とはまさに名ばかりだったと言っていい。ゆえにISの宇宙進出は、現在全プロジェクトが凍結状態。兵器としての開発が始まる。しかし兵器としても、あまりにも強力すぎるため、今はもっぱら『スポーツ』として活躍している……無論、そういう建前であるが。ちなみに空を飛べるしビームも撃てたりする、子供の夢の体現機──っていうのは俺の持論。
しかし、それほどのスペックを持ったISだが、唯一の欠点が、未完成である部分がある。
(男には乗れないんだよな)
そう、ISは男性に反応しない。
逆にいえば、女にしか使えないし、仕えない。
なぜ女性だけ、と訊かれても困る。ISとはそういうものなのだ。
────空は、狭いな。
唐突に、アイツの言葉がよみがえる。
空、か。
有限に広がる大気層。インフィニット・ストラトス、有限を
だけども、思う。
「俺も、飛べたらいいのに」
空。無限でも有限でもいい。それでも広がり、そこに確かに存在する空へと。
俺は.
至ってみたいと。
超えていきたいと。
羨望のため息で、うずくまるISに手を置いた。
その日その時その瞬間
◆◆◆◆◆
ようはそこでISを動かしてしまったんだ、俺は。
受験会場でたまたま迷子になり、偶然部屋を間違え、奇跡的にISを起動させてしまったために、俺は今、
はぁ、とため息。
ISは女にしか使えない。それの操縦者を育てる学校……おわかりだろうか? つまりだ。
この学校には俺しか男子がいないんだよ!
喫驚し天を仰ぐ、とは少し大仰で、事前に聞かされてたことだから今さら驚かないけどさ。やっぱね? 聞くのと体験するのとでは違うわけなんだ。それはもう、雲泥というか、天地というか、言葉にできないくらいに大きな差があったんだよ。
なにせ男子が一人だけである。言わずもがな、視線がすごい。人間は他人の視線に敏感だったりするとかいうけど、これはどんなニブチンでも気づかずにはいられないだろうて。授業が頭に入ってこないよ。
ああちなみ、今は一時間目と二時間目の間の休み時間だ。箒に呼ばれて屋上で一息って感じ。
それに加えて先生も……これは教室に行けばいやでもわかるから割愛ってことで。はぁ。
「ため息が多いぞ。日本男児ならば、もっとしゃんとしたらどうだ?」
と、全国屈指の剣道猛者(全国大会優勝)が宣っておりますが、少しぐらい休ませてくれたっていいじゃないか。授業中はずっと背筋をまっすぐ真面目にしてただろ。そりゃあさすがにお前と比べられたらぐうの音も出ないけど。さすがサムライガール。姿勢よすぎだよ。
というかそうだ、一応呼び出したのは箒だよな。
「なぁ箒。こうやって屋上に来たわけだけど、用って挨拶だけか?」
教室の雰囲気を見かねて連れ出してくれたんだろうけど、そもそも俺達の再開は六年ぶり。積もる話もありましょうて。
「ん。まぁ気分転換に誘ったということもあるが、そうだな。一つだけ。一つだけ訊いておきたいことがある」
「大したことではないのだがな」と、なにやらもったいぶるように言っては視線を切る箒。なんだろう。久しぶりに会っていえることじゃないかもしれないけど、その態度に変な違和感を感じた。そんなに訊くのが躊躇われる内容なんだろうか?
箒は俯きがちだった視線を俺へと戻し、ひと呼吸置いてから口を開いた。
「
キーンコーンカーンコーン。
箒が言葉を口にした途端、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴った。話そうとしていた箒も、いきなりのチャイムに思わず口を閉ざす。
くろ……黒? クロがどうした、猫か?
「くろが、どうしたって?」
「……いや。なんでもないさ、なんでも」
顔を背けるように、それ以上なにも言わない箒。その顔はどこかホッとしたような、そしてなにか悲しそうな色を帯びて──見えた。
気になるけど、授業が優先か。
「ん、そうか。なら教室戻ろうぜ。これ以上、千冬姉に叩かれたくないしな」
「……そうだな」
「あ、あと」
「?」
俺は屋上の出入口に向かいながら振り返り気味に言った。
「改めて、久しぶり、箒。六年ぶりだけど、すぐにお前だって判ったぞ」
「それは私もだ」
ニカッと笑って言ってやれば、箒も微笑むように返してくれた。
◆
IS学園は入学式当日から授業がある。コマ限界まで使ってISの教育をするためだ。それだけインフィニット・ストラトスに必要な知識・技術量が並外れているということだろう。
ちなみこのIS学園、女子校ってわけじゃなかったりする。あくまでISの操縦者を育てるための学校であって、別に女子しか入学できないわけではない……なんていうが、俺以外が全員女子、というのもまた事実。このことは学校全体に
「あれが噂の男の子?」
「うっそ、イケメンじゃん!?」
「おまけに千冬様の弟!」
「マジで?!」
「ああ、同じクラスの人が羨ましい!」
早いもので、すでに次の休み時間。
女三人寄れば姦しい、とはよくいったもの。この時間もこの時間とて、教室の外に溢れかえる女子、女子、女子の群れ。他のクラスの一年生から三年生まで、まるで死肉群がるハイエナのようにクラス前でたむろしていた。そりゃもう品定めというか、眼がキラキラギラギラしてる。そんでもってその視線が俺に突き刺さる。一息
そういえば我が友、五反田弾が『おいおいハーレムじゃん。代われよ馬鹿野郎』とか羨ましがってたな。お前には『隣の柿は美味しそう』という言葉を送ってやりたい。
「少々、お時間をよろしいかしら?」
「……ん、なにかな?」
急に、というほどいきなりじゃないけどかけられた言葉。
なぜかいやな気配を受信したので、俺はなるたけ柔らかい口調を意識して、その声に答えた。
相手は外人の女の子、地毛であるだろう金髪が眩しい。ヨーロッパの生まれなのだろうか、白人特有の綺麗なブルーの瞳と、これまた綺麗な肌。わずかにカールがかかった髪──これも髪質だろう、それが肩を越え腰辺りまで伸びている。それは派手さを感じさせるものではなく高い気品に満ちて。身長は箒より低いか。しかし一番に語るべきは、ぶっちゃければすごい美人です。
IS学園は条件さえクリアすれば入学自由。そのため外国人は珍しくはない。外国人だけを集めれば全生徒の三割ぐらいにはなるんじゃないか?
「改めて初めまして。わたくしはセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生ですわ」
「候補生? 君ってすごいんだな、っと失礼。俺は織斑一夏だ。よろしく」
代表候補生。それは、ISの国家代表の候補生だ。なんだかんだ、一応ISはスポーツだ。ともなれば世界大会があったりする。それの、代表の、候補生。
俺は素直に感心。そして握手でもしようかと手を伸ばす。初対面、外国人、友好の証として握手を求めるのは、国は違えど同じだよね?
そうして手を差し出す、が、オルコットはそれをちらりと見やって……見ただけだった。
……そーかい。お前は
「──それで、オルコットさんは、俺になんのようなんだい?」
不快な内心をお首にもださず、改めてオルコットに問いを投げる。
伸ばした手は、引っ込めた。
「いえ……世界唯一のISを動かせる男、という方がどのような人かと、見定めに来ただけですわ」
「見定め、ね」
どこまでも上から目線の口調。まるで自分は特別だとでも思っているかのような、自身が中心だとでも言いたげな態度……みなまで言わなくてもわかると思うが、俺はこの手の女の子、牽いては相手が苦手だ。そりゃあ好きなやつのほうが少ないかもしれないけど。
ISの弊害である事柄の一つに、女尊男卑への偏向、というものがある。
なにせすべての兵器をはるかと凌駕するIS。しかもそれが女性にしかあつかえないとなれば、なるほど。お国としてもパイロット獲得のために優遇したりするかもしれない。
そういった理屈はわかる。そうした事態を引き起こしてしまうくらいにISが桁外れというのは事実であるのだから、しかたない。
けれど、でも、なぁ。
君達は、女性が矢面に立たなければいけない現状に納得しているのか──?
「──それで、俺の評価はどのくらいなのかな?」
「そうですわね。可もなく不可もなく不合格ですわ」
え、なんだそれ。
俺、わりかし真面目にしてたと思うけど。
「悪いね、オルコットさん。君のお眼鏡にかなわない男でさ」
「……そのわりには、まったく気にしてなさそうですけれど」
「そんなことはないよ」
そんなことあったりする。
不合格? なんだそれは。どうして俺が
恥じたくないから、がんばってる。
「それでしたら、ええ。わたくしが色々と教えて差し上げないこともありませんわ──泣いて頼まれれば、ですけど」
なんだろう。この娘、俺に喧嘩でも売ってるのか?
しかし残念、織斑一夏は売られた喧嘩をホイホイと買うほど才気煥発でもアクティブ全開でも血の気が多いわけでもない。
だからそういう言葉は気にしないにかぎる。逐一相手にしていたらキリがない。決してびびってるわけじゃない。
「ありがとう、オルコットさん。でも大丈夫、自分のことぐらい自分でするさ。気持ちだけいただいておくよ」
「そう。でしたら精々精進なさって。では、失礼」
すらっと制服のスカートをひるがえし、淑女然とした体面で背を向けるオルコットさん。しかしその背中からは、あふれ出んばかりの自信が透けて見えた。尊大な態度。言いたいことはいったのか、満足そうに、それこそ堂々と自分の席に戻っていく。
少し訂正するよ。そう尊大に言うだけはあるのかもしれない。その言葉を嘘にしない程度には、どうして君は走っている。
なんとも上から目線で申しわけないけど、そう思った。
◆
「それでは諸君、この時間は実戦で使用する各種装備・武装の特性について説明する。実戦に関することなので私、織斑が教鞭を執る」
三時間目。
凛とした声で授業説明を行う一人の女性。
黒いスーツ、同じ色のタイトスカート。スラリと無駄のない長身。よく鍛えられ、なおかつ筋肉質でないことが分かる曲線美。野狼のごとき鋭いつり目は、きりっとした口元と相まって一層冷たく。組んだ腕は彼女のトレードマーク。いや、狼なんて形容では物足りない。いうなればそれは獅子。たてがみを持ったメスのライオンだ。
彼女、織斑千冬。我が実姉がそこにいた。
そう、千冬姉はこの学校の先生で、オマケに俺のクラスの担任なのだ。さっき先生がどうたらいったろ? こういうこと。だって自分の肉親が先生勤めてる学校って、なんというか、アレだろう。それは口をにごしたくもなるさ。
「早速授業、の前に。来月行われる『クラス対抗戦』に出場する代表者を、この時間中に決めようと思う」
授業より優先することがあるそうだ。ところでクラス対抗戦ってなんだろう。
「クラス代表者は言葉の通り、このクラスの代表だ。
そしてクラス対抗戦だが、これは入学時点での各クラスの実力を測るためのものだ。競争は向上心を、抗争は団結力を生む。この代表者は一年間変わらない。諸君等には是非とも心して
ようするにクラスの委員長決めるってんだろ? とりあえず俺はごめんだ。俺の後ろの岸原さんとかどうだろう? 眼鏡かけてて委員長っぽい。ぽいというのは勝手な想像だが、正直俺はやりたくない。
そんな暇、ないと思うから。
「自薦他薦は問わんぞ。誰か、立候補する者はいないか?」
「はいっ!」
ズビシッ! と起立と同時に真っ直ぐに挙手する女の子。おお、やる気あるな。
「織斑君を推薦しますっ!」
「え?」
「私もそれがいいと思います!」
「はい?!」
私も私も、と次々に口にするクラスメイト達。あれよあれよという
「他には居ないのか? 居なければ、このまま無投票当選になるが──」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ織斑先生! 俺はそんなんなりたくな、」
「口を慎め織斑。自他薦問わないと私は言った、つまりその段階で拒否権なんて無い訳だ。ならば選ばれた以上、期待を背負って立つ位の気概を見せてみろ。
尤も、己以上に職務を全う出来る輩に心当たりが有るのならば別だがな」
それはもっともな言いようだが、実際なんていう理不尽だ。それじゃあこれ、俺に断りようがないじゃないか! 素晴らしくアンフェア。不平等ここに極まれり、とは口が裂けても言えないが。
しかしやはり、そんな代表者はごめん被りたい。ならば逃れる
「だったら──俺は、セシリア・オルコットさんを推薦します」
おお、と俺の言葉にクラスから感心の声が聞こえる。
「ほう。して織斑、その理由は?」
やはり急場凌ぎに聞こえたのか、すかさず理由を求める千冬姉。
……俺が推薦されたときはなにも訊かなかったんだけどな。だが、もちろん口まかせの理由じゃない。
「理由は単純、彼女が代表候補生だからです。ISに関して素人の俺なんかより、よっぽど適任かと。いえ、どころか彼女こそ相応しいというのが俺の意見です」
「ふふ、一理だな。ではオルコット、お前はどうだ?」
「もちろんのこと、異論なんてあるはずありません。……わたくしを一番に推薦したのが男性というのは若干気に入りませんが、いいでしょう。わたくし、セシリア・オルコットが代表を務めさせていただきます」
凜と宣言するはオルコットさん。自信満々、立ち上がって千冬姉に目を合わせる──途中俺をさも見下すようにしてから──と、あたかも当然とばかりの自信の笑み。……ほんっと、お前、男を見下してるよな。『IS世代女子』のまさに典型例。男にトラウマでもあるのか?
そうしてなんとかクラス代表を免れた、と思ったら、オルコットさんはまだまだ言葉を
「自ら語るのも馬鹿らしいですが、実力で考えればわたくしがクラス代表になるのは当然の結論。候補生をかさに着るつもりなんて毛頭ございません。ですが、それに見合う力があるとは自負しています」
それは自信に満ち満ちた声だったか、言葉だったか。
今までの己を誇っているからこそこうも胸を張れるのだと、力強い言の葉は誇張のない真実そのもの。女性優位に傾きつつある社会、しかしてこうも強い女性がいるだろうか。それほどに堂々、どこまでも悠々。
しかし、口調に険が混ざる。
「……ですのにその代表を、世界唯一という肩書きがあるからといって、蒙昧無垢な男性の一人に任せるなどと、正直呆れを隠せません。いくら織斑先生の実弟なれど、こればかりは覆せないはず。
端的に、男は馬鹿です。
とはいえ、織斑さん。あなた、男のくせになかなかわかっているではありませんこと? 褒めて差し上げますわ」
ある種の真剣味と一部の愉悦を帯させて自分の胸の内を吐露するオルコットさん。どうにも俺が、『男である自分の情けなさを憂いて代表を辞退した』と思ったらしい。……なんて誇大解釈。ここまでくると、いっそ清々しく感じるよ。感じるけどよ。
「世界唯一の男性操縦者、それがあなたのような方で光栄に思いますわ。いくら愚かしい男性なれど、領分くらいは弁えていだだきませんと。本当、ほかの男性があなたのように聞き分けがよければいいですのに──」
「なぁおい
だけどさ。俺がお前に媚びているなど、誰が言った?
「……聞き間違え、かしら。今しがた、どこぞの阿呆がわたくしを呼び捨てた気がしたのですけれど」
「そーかい、悪かった。ならオルコットさん。一つ、言わせてくれ」
不審げな目を向けるオルコット。その目には歓喜から一転、再び侮蔑の色がありありと。
クラスメイト達ははてな顔。頭の上に『?』を浮かべるたらすごい似合う。彼女達にもわからないんだろう。
が、それがどうした。わかってもらうために言うんじゃない。納得してもらうためでもない。
「俺を馬鹿にするのはいい。無知だと罵るのもいい。俺を馬鹿にすることに関してはなにも言わねぇし、言えねぇよ。だけどさ」
オルコットの双眸から視線を外さず、言い放つ。
「俺以外も一緒に、馬鹿にしてるんじゃねぇよ」
静かに、しかし強く。俺は自分の思いを言葉に変えた。
俺は馬鹿にされたってしかたない。無知なのは本当だし、技術がないのも事実だ。それこそ黄色い猿なんて揶揄されるのがお似合いなんだろうさ。けど、それは俺だけの話だ。俺以外を批難する理由にはならない。俺だけをとり上げてすべての男は愚かである、とは、言えないよ。
男がすごい女は愚か、なんて別に優劣がどうのと、白黒つけたいわけじゃない。男の沽券だなどとはばかりもしないさ。でも、お前の論点がおかしいのは事実で。道理が通らないのが現実で。すべての男性が愚かだなんて……少なくとも、今この場においては理屈が通らないよ、オルコット。
「……なにを言うかと思えばそんなこと、ですか。これだから男性は気に入りませんわ。ええ、ええ、多少なりともわたくしの言葉があなたのなけなしのプライドを傷付けてしまったようですし、よろしいでしょう。それでしたら──」
呆れたような瞳が、キッと攻撃的に変わる。そうして胸を張った毅然とした態度で。
「────決闘、ですわ」
手元に手袋がないのがもどかしい。あったら遠慮なく躊躇いなく投げつけてたよ。
つまりもちろん、答えなんて決まってる。
「いいぜ、乗った」
「威勢のよろしいことで。まさに典型的ですわね」
「そうかい。その威勢通り、全霊でやってやるから期待しろよ」
「ふん。……ああそう、ところであなた、ハンデはどうなさるの?」
「なんだ、ハンデつけて欲しいのか? 随分弱気じゃないか」
「あらやだ、あなたにハンデが必要か訊いてるのですわ」
安い挑発だよ。お前は人を煽ることでも生きがいにしているのか?
しかし残念、その程度の煽りと発破、俺には全然かすりもしない。
──おあいにくと、他人をおちょくることに関しては天才的なやつを知ってるんだ。
「いらないよハンデなんて。そんなもの真剣勝負に必要ないだろ」
「よろしい、ですが勝負になると思ってるのかしら。あとで懇願しても知りませんわよ?」
「オーケー。そっちこそ」
ハンデをともなう勝負を、俺は真剣勝負だとは思えない。確かに両者真剣に、かつ了承のもとであるならばありかもしれない。真剣であるのだから、第三者がとやかくいうことじゃないだろう。
けれど、今回は違う。
わざわざハンデもらって俺が勝ったとしてもコイツは堪えないだろう。それじゃ意味がない。
「ではわたくしが勝ったら、まぁそれが必然でしょうが、そうしたらわたくしがクラス代表。そしてあなたは三年間、わたくしの──奴隷になってもらいますわ」
うんそうだな、って奴隷!? なんで? なんでそんなことになってるんだ!? 英国では負けたやつを奴隷にするのが流行ってるのか? ……まぁいいよ。
──だから、お前にも相当のものを賭けてもらうぞ。
「それじゃあ俺が勝ったら──君に
「、……よいでしょう」
一瞬言葉に詰まったセシリア。しかしすぐにその条件を呑み、改めて目をつり上げる。
思った通りだ。お前、今まで一度だってまともに謝ったことないだろ?
そういうやつは気に食わない。納得も得心もないくせに、意味のない正解を確信しているやつは認められない。
「「…………ッ!」」
バチバチと、視線で火花を散らす俺とセシリア。その
「──さて、話は決まったな。それではこの勝負、今日から一週間後の月曜日の放課後に行う。場所は第三アリーナ。織斑とオルコットは各自準備をしておくように。
この話はここまでだ、授業を始める」
頃合いか、それまで黙していた千冬姉が口を開き、鋭い口調で話をまとめ上げた。ほとんど口論に近い話し合いだったのに千冬姉は口を一切はさまなかったが……もしかしてはなからこれが目的だったのか? いや確かに実の弟が小馬鹿にされてるのをにやけながら眺めてる姉の心境なんぞ、俺ごとき若輩にはわからないけどさ。
『抗争は団結力を生む』。俺とセシリアに絆が芽生えるかはわからないけど、やるからには全力だ。
俺は、負けない。
年代が二〇二一年になってるけど、これはアニメから。友人が発見してくれました。
アニメ一話のモンドグロッソ回想シーン。
そこで千冬姉が持ってた金メダルの表面に『2016』ってあったんだ。
で、逆算したら織斑君の入学年が二〇二一年と発覚したんです。
よかったら確認してみてください。
2013_12/14
一話タイトルを【織斑一夏】→【IS学園】に変更。