転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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さてはて、どうなるやら…。


98 困惑

翌日 レキシントンの部屋

 

 

 

「ウィスキーのボトルに…少し水の入ったグラスか…」

 

 

「氷だけのストレートなウィスキーを飲んでたんだろうな。しかも、度数が高いキツイ物をな」

 

昨夜の一件があり、レキシントンの部屋を見に来た高塚と滝崎は卓のウィスキーのボトルとグラスを見ながら話していた。

 

 

「…本人は?」

 

 

「何杯か忘れたが、部屋で酒を飲んで、頭痛がしたから病室に行ったらエンタープライズとヴェスタルの話声が聞こえて聞き耳立ててたら…ああなったんだと」

 

 

「……そうか」

 

そう言って部屋から出るとあきつ丸とアトランタ、フレッチャーがウィスキーのボトルとグラスを片付ける。

 

 

「で、どうする? 前の暁とは断然わけが違うぞ」

 

 

「わかってるよ…しかも、今回は目撃者と被害者、しかも2人もいるからな」

 

 

「憲兵として言わせてもらうなら、とりあえず、謹慎と出撃禁止、艤装装着禁止だな。期間やら何やらはそっちに任せる」

 

酔っ払って仲間を傷つけた…洒落にも何にもならない話である。

 

 

「ヴェスタルさんとエンタープライズは?」

 

 

「まあ、とりあえずは軽傷。ヴェスタルさんは通常業務してるし、エンタープライズは首を絞められただけだからな…まあ、本人はそれほど気にしてないみたい」

 

 

「無事でトラウマにならなかったのはよかったが……やっぱり、話すべきかな」

 

 

「変な話だが、いい機会かもな。まあ、不知火が酸素魚雷ぶち込みそうだから、早く判決を出す事だな」

 

 

「やれやれ…不知火はいい奴なんだがな」

 

 

 

暫くして 滝崎執務室

 

 

 

「レキシントン、今回の一件でおこした事は重大だ。ヴェスタルもエンタープライズも君の事を考えてくれたんだろう、余り重くしないでくれ、と言っていたが、やった事はやった事だ。よって、1ヶ月の謹慎と出撃停止、緊急・メンテナンス以外での艤装装着禁止。以上が罰になる」

 

高塚と暴れた時の取り押さえ要員として加賀、秘書艦の不知火と羽黒がいる中、滝崎はレキシントンに今回の判決を下した。

 

 

「…ふん」

 

 

「貴女ね!」

 

 

「やめろ、不知火」

 

素っ気ない反応に不知火が四連装魚雷発射管を構えようとするのを滝崎は止める。

そして、滝崎は高塚と加賀の方に視線を向ける。

向けられた高塚と加賀はそれぞれ頷いた。

 

 

「……あと、レキシントン。エンタープライズが知ってる事だが、俺が話そう」

 

そう言った時、ピクリとレキシントンが反応した。

 

 

「今から言う事は少々キツイが…事実だから、受け入れてほしい」

 

 

 

 

暫くして

 

 

「ほら、レキシントン、歩けるだろう? ちゃんと歩け」

 

高塚と加賀に連れられて退出したレキシントンの背中を執務室に残った滝崎、羽黒、不知火は見ていた。

 

 

「……あれ程ショックを受けているのを見ると同情します」

 

羽黒の言葉に滝崎は無言で頷く。

 

 

「ですが、副官もよくいま話す気になれましたね」

 

 

「何処かの誰かさんが魚雷発射管を構えるからだよ。話が進まん」

 

不知火を嗜めつつ、滝崎は溜め息を吐く。

レキシントンには最低限…つまり、妹サラトガの最後までを語っただけだった。

 

 

「まあ、あの方の妹さんの話をすると、我々は長門さんや酒匂さんがもっと酷い目に遭ってるんですがね」

 

 

「不幸自慢をしても意味はないぞ、不知火。そもそも、それならレキシントンだってそうだ。自分と違い、開戦からエンタープライズと同様に終戦まで支えた妹をなんで実験体に使ったのか、祖国に誓った忠誠とはそんな物なのか…そう聞かれてもおかしくないんだからな」

 

滝崎も高塚も思う…理由はわかる、が、なぜ、アメリカはそこまで物を割り切れるのか?

艦艇の実験と言い、アトミック・アーミーと言い、広島・長崎の一件でわかりそうな事を実験できる精神にある意味、感心はすれど、寒気する程だ。

やはり……生きた人間が恐ろしい…これがいきつく先なのだろう。

 

 

「……やっぱり、深海棲艦が過去の因縁云々って説を信じちゃうな、俺は」

 

遠くを見ながら滝崎は呟いた。

 

 

 

暫くして レキシントンの部屋

 

 

 

「………」

 

部屋に連れて来られ、外から鍵が掛けられ、高塚と加賀が部屋から離れた後、レキシントンは崩れ落ちる様にドアの前で三角座りになった。

そして、直ぐに意識は繙読していた言葉と共に思考の海に沈む。

『妹サラトガは終戦後、接収艦や廃棄・処分艦と共に原爆実験の標的艦となった』…この最初の一言を心中で繰り返していた。

 

 

(おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、何故? どうして? 私ではなくて妹の…最後まで戦い抜いたサラトガが…なんでそんな事になるの? 祖国に忠誠を誓い、エンタープライズ同様、姉妹や仲間が沈み、自らも傷付くなか、必死に戦い抜いた艦の末路が…なぜ、そんな最期を迎え無ければいけないの? 記念艦は無理でも、解体や標的処分ならまだわかる。漁礁になると言うのもわかる…でも、何故? レディ・レックス、シスター・サラと言われた私達…可愛い妹が何故…?)

 

最初こそ、心中だったものがいつの間にか口に出ている事も気付かずにレキシントンは自問自答を繰り返す。

そして、その自問自答は密かにドアで聞き耳を立てていた高塚、加賀にも聞かれていた。

 

 

 

暫くして 食堂

 

 

 

「……重症だな」

 

昼食中、高塚きらレキシントンの様子を聞いた滝崎は溜め息を吐いた。

 

 

「仕方ないだろう。しかも、それは予想出来てたからな」

 

 

「部屋の中で発狂するかもしれないと思って加賀さんと羽黒に居てもらったからな…しかし、今後の様子はしっかり観ておかないとな」

 

 

「自殺でもされたらヤバイしな。その前にお前さんが海に飛ぶ可能性も否定できんしな」

 

 

「自分自身でも、否定出来ないな、それは」

 

 

「「あはは……はあ……」」

 

2人は乾いた笑いを浮かべ、溜め息を吐いた。

 

 

 

 

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