そして、題名がダサい。
夕方 マルタ島鎮守府
「くそ、まさか、ここまで多いとは思わなかった」
次々に収容されてくる重傷な深海棲艦を見ながら高塚は苦い顔をする。
既に大勢は決しており、逃げた残存戦力もイタリア・フランス両空海軍が追尾・警戒しており、代わりに掃討してくれている。
そして、瑞鶴と例のヲ級をエンタープライズと共に背負って帰ってきた高塚はあきつ丸からの報告を聞いていた。
それは負傷して回収された深海棲艦の数が多く、工廠妖精だけでは対応が追いつかないと言う事だった。
「幸いにも高塚殿の指揮で我が方の負傷者は少なく、軽傷者しかいないであります。ですが、これでは…」
「いっその事、重傷な深海棲艦は介錯すると……冗談よ。その人を殺せる視線は止めて」
「はあ、なに地雷踏んでるのよ、バカE」
エンタープライズの言葉に高塚は若干キレ気味の視線を送り、意外に元気な瑞鶴がエンタープライズにツッコミをいれる。
「とりあえず、軽傷者は何とかなるが…問題はレ級が半殺しにしたタ級達を始めとした重傷者だな」
「私ハ何モ悪ク無イカラナ」
高塚の言葉にレ級は何時もの調子で言った。
それを聞いて高塚は苦笑を浮かべる…が直ぐに表情を戻す。
いや、その表情に苦さ具合が増えていた。
「……様子を見るしかないか」
その言葉に珍しく覇気はなかった。
暫くして
「くそ…」
自ら見回っていた時、潮の声を聞きつけた高塚が駆け付けてみると、潮が担当している区画に収容されている重巡リ級の息が荒かった。
試しに頭と傷口に手を宛ててみると発熱していた。
「さっきまではなんともなかったんですが…突然…」
「うむ、高熱を出してる。多分、負傷が原因だろうが…」
では対処法は…と聞かれると高塚も答えられない。
一応、応急処置等は知っているが、本格的な話になると衛生隊員や軍医達の方が遥かに上だからだ。
そして、本来なら入渠させれば終わりだが、現状は数多い重傷者に回すだけで手一杯の状況だからだ。
「(くそ、万能でない事はわかっていたが、事前に工作艦の追加配備申請しとけばよかった…このクズ野郎が)とりあえず、綺麗な水とタオルで…」
心中で自らを罵倒しつつ、潮に指示を出そうとした時、誰かが来た。
「傷口からの発熱…中で砲弾片が残っていて、それが発熱の原因かもしれません。緊急処置をします。すみませんが、人手を借りてもよろしいでしょうか?」
見るとまるでクリミア戦争時代の看護婦の格好にクレーンなどの工作艦艤装を付けた艦娘がリ級を観ながら訊いてきた。
「えぇ、構いません。潮、さっき言った物と司令部に寄って人手を連れて来てくれ。瑞鶴達が居る筈だから、出来る限り多めにな」
「わかりました!」
返事と共に走り去っていく潮を背中を眺める。
「誰ともわからない艦娘の言葉をすんなりと信じてしまう貴方はお人好しですね」
隣で準備をする『看護婦さん』が微笑みながら言った。
「猫の手も借りたい状況なので」
そう言った時、バタバタと瑞鶴を先頭に数人がやって来た。
「憲兵さん、人手がいるって!?」
「あぁ、すまないが手伝ってくれ。まずは…」
「……ヴェスタルなの?」
瑞鶴の後ろに居たエンタープライズが『看護婦さん』を見ながら言った。
「エンタープライズ…お久しぶりです」
先程と変わらない微笑みでエンタープライズに頭を下げる『看護婦さん』ことヴェスタル。
そして、タオルと水を持って潮が帰ってきた。
「エンタープライズ、話は後だ。みんな、聞いてくれ、リ級の中にある熱の原因の砲弾片を摘出する。麻酔は打つが時間が無い。すまないが頼む」
そう言って摘出が始まった。
翌日 朝
「ん、ぐぅ…朝か…」
リ級から砲弾片を摘出し、更に『看護婦さん』ヴェスタルと共に容態が怪しい者や急変した者の対処を瑞鶴達…彼女達は手空きと交代しながらだが…と共に回っていた。
そして、気付いた時には朝日が昇っている時だった。
「結局…ほぼ一夜動きぱなし…か」
周りには手伝ってくれた艦娘や手空き人員、工廠妖精達が雑魚寝状態で寝ていた。
そして、エンタープライズはヴェスタルに胸を貸す形で添い寝させ、互いに眠っている。
「お疲れ様でした…そして、ありがとうございます」
そう言って立ち上がると朝日の眩しさに目を瞑りつつ、鎮守府に向かって歩き始める。
「とりあえず、朝飯の確認…負傷者の分も…負傷の具合を見て決めないとな…滝崎達が帰って来るまでに色々と決めとかないと…」
寝ぼけ頭をスッキリさせ、業務に思考を向ける高塚。
すると、鎮守府からあきつ丸がやって来た。
「高塚殿、松島宮殿達から連絡であります。艦隊は深海棲艦を排除。我が方の勝利であります!」
「…そうか、あっちも勝ってくれたか…いや、よかったよ…いや、ホントによかったよ」
そう言って高塚はフラッとあきつ丸に向かって倒れる。
「高塚殿……いえ、憲兵司令殿、終始お疲れ様でありました。暫くお休みして下さいであります。出来る限り、迷惑を掛けない様にするであります」
そう言ってあきつ丸は眠る高塚に静かに声を掛けた。
しかし、この後、高塚はお昼頃には起きて、スッキリした頭で指揮を執る事になるのだが。
次号へ
ご意見ご感想をお待ちしております。