暫くして 深海棲艦マルタ島鎮守府侵攻艦隊 後衛 艦隊司令部
「…バカナ…マルタノ戦力ハ我々ノ3分ノ1程度ダッタ筈…」
各所から入る報告に旗艦のタ級は苦々しく呟く。
既に戦線はズタボロの状況だった。
「アーア、何ヲヤッテンダカ」
その声にタ級達が振り向くと件のレ級が呆れ顔で居た。
「貴様、何ヲシニ来タ?」
「ナニッテ…私ノ縄張リニ入ッテ来タ無粋ナ奴ラヲトッチメニナ」
「オォ、レ級ガ加ワルナラ逆転ハ可能ダ!」
重巡ネ級はそう言って歓喜するがタ級は疑うような表情でレ級を見続け、レ級はそれを聞いて溜め息を吐く。
「アノナ…ソノ無粋ナ奴ラッテオ前達ノ事ナンダガ」
レ級の言葉を聞いた深海棲艦…特に旗艦タ級…はレ級に敵意を向ける。
「ドウ言ウ事ダ、貴様! イツモハフラフラシテイルクセニ、我々ヲ敵ダト言ウノカ!?」
「私ハハグレダカラナ〜。ソレニコンナ風ニ自由ニ出来ルノハ『上』ガ認メテルカラナ」
タ級の言葉にレ級は何時もの調子で答える。
「フン、ソシテ、勝手ニ作ッタ縄張リニ侵入シタカラ、ト我々ヲトッチメニ来タト? フザケルナ! アンナ下ラナイ者達ノ味方ヲスルツモリカ!?」
「下ラナイ…ハァ、ツマラナイ奴ダナ。アノ鎮守府ノ飯ヲ食ッテカラ言エ。アト、人モ良イ奴ガ多イゾ」
「黙レ!!」
そう言ってタ級以下、司令部要員の深海棲艦が一斉にレ級へ武装を向ける。
「……アトヒトツ、オ前ラノ様ニ『上ノ方針』ヲ邪魔スル奴ラヲ排除スル命令ヲ受ケテルカラナ」
そう言ってレ級はニヤリと笑った。
太陽が真上から下がり気味になった頃……既に趨勢は決していた。
民兵隊・海兵隊のカチューシャ・自走砲による広域制圧攻撃と航空攻撃、それに乗じた攻勢に深海棲艦側は戦線が崩壊・各個撃破された事から組織的反撃能力も徐々に失った。
そして、通信傍受から敵艦隊司令部を割り出した天龍・龍田、潮・朧・漣・曙の第七駆逐隊が発進位置までやって来たのだが……。
「俺でもここまではやらないな…」
「うふふ、天龍ちゃんは優しいからね〜」
レ級にボコられた深海棲艦達を見ながら天龍が呟き、龍田が微笑みながら言う。
そして、暫く進むと……タ級の首根っこを掴み、半殺しにしているレ級がいた。
「ン? アァ、鎮守府ノ天龍カ」
「あー…高塚少佐から伝言なんだが、『手遅れかもしれないが、無駄に血を流さないでくれ』だとさ」
半殺しなタ級に同情しながら天龍はレ級に言った。
「ソウカ…マア、アノ憲兵ノ頼ミダカラナ…命拾イシタナ。会ッタラ感謝シテオケヨ」
そう言ってタ級の首から手を離すと、タ級はそのまま倒れる。
「見テノ通リ、司令部ハ壊滅シタ。周リノ奴ラモ重傷カモシレナイガ生キテルゾ」
「了解…龍田、済まないが…」
「はいはい、わかってるわ、天龍ちゃん。鎮守府、こちら龍田です。敵艦隊司令部ですが…」
レ級の言葉に天龍は苦笑いを浮かべながら龍田に報告する様に頼む。
暫くして
『こちら、あきつ丸から全部隊へ。敵艦隊司令部はレ級によって壊滅したであります。今より残敵の掃討、並びに降伏勧告を…』
無線からあきつ丸の指示が流れてきた。
それを瑞鶴は何気なく聞いていた。
久々に再会したマリアナ・レイテ組と姉の翔鶴と共に数度の攻撃隊を出して、敵艦隊を徹底的に打ち砕いた。
この無線は勝利の証…と言っていいだろう。
「さて、お姉達と…」
振り向いて少し離れた皆と合流しようとした時、突如、腹に衝撃を感じ、意識と視界が暗転した。
暫くして
「なに? 瑞鶴が行方不明に?」
浜辺で手空きの艦娘・民兵隊・海兵隊・カラビニエリ隊と共に戦後処理をしていた時にあきつ丸が報告してきた。
「はい、空母組がふと気付いた時には…」
「……山本大佐達に伝えてくれ。あと、手空きと検索中の部隊に周囲の捜索も実施してくれ。俺もちょっと探してくる。何かあったら、ケータイに電話してくれ。戻るまではエーディットから指示を受けてくれ」
「わかりました、高塚殿」
そう言ってあきつ丸は去っていく。
高塚は64式小銃改の弾倉を確認すると、装弾し、ある場所に向かって歩き始めた。
マルタ島鎮守府付近の海岸線
艤装も何もかもボロボロなヲ級が1人…正確には瑞鶴を担ぎながら歩いていた。
海上からの撤退は無理と見たこのヲ級は海岸線を歩き、ある程度離れてから海上へ出て撤退するつもりだった。
そして、瑞鶴を捕らえたのは偶然だった…しかし、せっかくの『獲物』なのでここまで担いでやって来た……だが……
「動くな!」
背後からの声にヲ級は振り向く、すると、そこには64式小銃改を構える高塚、そして……
「その担いでる娘…瑞鶴を離して貰おうかしら。その娘とこのビックEとは浅からぬ因縁があるの。その娘を倒すのが私の因縁なんだからね。例え身内であろうと邪魔するなら容赦はしない」
そう言ってウィンチェスターライフル型の航空艤装を構えるビックEことエンタープライズが居た。
「黙レ!! 因縁ダト!? 私モコノ娘ニ因縁ハアル!!」
「聞いてなかったの? 例え身内でも邪魔するなら容赦はしない、と言った筈よ…瑞鶴、今よ!!」
「うっさいわね、バカE!!」
いつの間にか目を覚ましていた瑞鶴がそう悪態を吐きながら脚で思いっきりヲ級の腹を蹴る。
怯んで担いでいた手が緩んだ隙に瑞鶴は身体を転がし砂浜に落ちる。
そして、がら空きになったヲ級に向けて高塚とエンタープライズは構わず撃った。
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