暫くして マルタ島鎮守府近辺
『こちら、民兵隊斥候。敵艦隊接近。但し、報告と違い、戦艦・巡洋艦クラスの艦艇数が増えています』
「了解。撤収して下さい……いよいよか」
ポツポツと見え始めた黒い点々…深海棲艦を見ながら高塚は呟いた。
高塚の横ではあきつ丸が62式機関銃(改)の最後の点検をしていた。
「…にしましても、これを出すでありますか?」
「……仕方ないでしょう」
苦笑いを浮かべ、共に並べてある94式75㎜山砲(ゴムタイヤ)を見る。
とりあえず、即応弾薬と共に置いてある。
「高塚殿、要らぬ心配とは思いますが戦死にかこつけた自刃をしようなどと考えてはおりますまいな?」
「あのな……それだったら、指揮継承権やら何やら処置してるわ、先にな」
「まあ、そうでありますな…ん、でも、それはそれで…」
「いや、しないから。いや、ホントに」
そもそもナンセンスである為にやらない。
自殺願望なんぞ高塚にはこれっぽっちも無いし、それはそれで滝崎や松島宮達への裏切り行為だからだ。
そして、高塚は深呼吸をすると手元の無線に普段通りながらも鋭く言った。
「…状況開始」
その始まりは極単純だった。
マルタ島鎮守府攻略部隊は何もして来ない敵(高塚達)を不気味に思いながらマルタ島鎮守府へと接近した。
そして、ある程度まで近付いた時、鎮守府方向から砲撃音が鳴り響いた。
咄嗟に散開・各個回避に移るが砲撃は海面に着弾し、盛大な水柱と煙を巻き起こす。
そして、ふと、深海棲艦達が気付いた時には陸上からも煙…煙幕が漂っていた。
これに視界が悪くなった…が、関係は無いし、それどころか有利である。
何故なら、既に鎮守府の方角は掌握しており、更にこの煙幕により、敵からは砲撃する自分達を把握する事は出来ない。
馬鹿な奴らだ…確かにここを護る人間は有能だったが『防衛』を意識し過ぎて最後に躓いたな…と戦隊指揮艦級以上の深海棲艦は心中で笑った。
しかし、これも罠だった……駆逐艦イ級が何の前触れも無しに轟沈し、四方八方から撃たれるまでは深海棲艦達は誰も気が付かなかった。
「81番機雷爆破! 次に110番と36番も爆破消滅!」
「よし、手近な者は110、81、36番機雷周辺に射撃!」
iPadの画面と速吸の報告に高塚はインカムに向かって叫ぶ。
何の事は無い。確かに煙幕の使用は互いの視界を遮る。しかし、それは第二次大戦の話で、21世紀の技術ならば『視る』事は出来なくとも『把握する』事は出来るのだ。
そして、その答えの1つがこれだった。
敷設機能を持っていたエミール・ベルタンの機雷は作戦上のリスク削減の為に外され、機雷は信管を外す等の安全処置をして格納されていた。
それを高塚が見つけ、工廠妖精や各国各個武器関連科員を集め、後付けながらもGPS付き機雷に改造していたのだ。
そして、その機雷は爆発と共に反応し、iPadや各種情報端末に表示される。
これを陸上部隊と鎮守府付近の海上に展開する艦娘達が銃砲撃するだけだ。
無論、これは気象・海洋観測ブイなどの技術の応用で簡単な話である……現代戦ならば。
「やれやれ、これで退いてくれる……訳ないか」
高塚も徐々に一直線で消滅していく機雷をiPadで見ながら呟く。
当然かもしれない…向こうはその為に来たのだから。
「……問題は戦場の摩擦だな」
膝撃ち体勢でいるあきつ丸の返事を聞くまでも無く、高塚は走り出した。
敵では無く…自分の左隣に展開していた舞風達の所に。
「きゃっ!」
「舞風!!」
舞風・野分は事前に取り決められていた様に射撃→移動を繰り返していたが、煙幕が徐々に晴れていた事が災いし、舞風の艤装に駆逐艦イ級の主砲弾が命中した。
被害は其処まで深刻では無い、が……
「しまった…距離が…」
一直線に機雷群を突破した部隊は煙幕による視界不良により皮肉にも中央正面からズレて野分・舞風の正面に来ていた。
そして、野分が舞風を助けている間に距離を詰められていた。
「まったく、馬鹿ップルは滝崎だけで充分だっての」
やれやれ…と言いたげに高塚が先頭に居る重巡リ級達に64改を撃つ。
「け、憲兵さん!?」
「ほら、グズグズするな。背後の味方が助けたくても撃てない」
誤射・誘爆を気にして上めに撃っている味方をチラ見しながら言う高塚。
「……ホントに、あのレ級が言った通りね。貴女達、我がロイヤル・ネイビーの力、見せてやりなさい!」
「「サー!」」
第三者の声が何処からか聞こえた後、ソードフィッシュの二個編隊がリ級達に爆雷撃を浴びせ、更に94式山砲と別の2つの砲声が鳴り響く。
これにより、先頭のリ級以外は撃沈された。
そして、怒るリ級に対し……
「何もかも劣るわ。技術、経験、装備、気合い、根性、意志、覚悟…私と戦った者達が、私と共に戦った者達が持っていた物全てに劣るわね!」
正面から受けた大口径に爆沈するリ級。その爆発に巻き込まれまいと舞風・野分を伏せさす高塚。
そして、正面に立つ貴賓に溢れた麗女…金剛に似た艤装、艤装に書かれた愛称を高塚は呟いた。
「マイティ…フッド」
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