転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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(題名は気分だけです)


90 さあ、ピクニックだ!

2時間後 マルタ島鎮守府臨時野外指揮場(天幕)

 

 

 

「鎮守府施設への被害は…『ほぼ』皆無。損失機数機が出たものの、パイロットは全員無事脱出・収容。対空火器については破損・修理可能のみ……なあ、この『ほぼ』ってなに?」

 

被害を集計した結果を読んだ高塚があきつ丸に聞いた。

 

 

「それが…最大の被害が少佐殿の前に着弾した機銃弾との事でありまして…」

 

 

「…………はぁ??」

 

いや、それ、いらなくないか?……と思いつつ、高塚は報告書をクリアファイルに入れた。

 

 

「さて、敵さんの航空兵力は大打撃を受けた。まあ、母数が不明だから何とも言えんが…しかし、向こうさんも此方の防備を知ったからには空襲には慎重になる」

 

集まる面々に顔を向けて高塚は言った。

 

 

「なら、いよいよ、艦隊が押し上げてくる訳だ」

 

 

「そう言えば大佐は黒海ではこれが日常茶飯事だったな?」

 

 

「あはは…慣れは恐ろしい物だ」

 

 

「兎にも角にも…地上部隊の出番は少し先だ。あきつ丸、戦闘配食の準備。今の内に食べとかないと戦闘中に腹が空く事になるかもしれんしな」

 

 

「了解であります」

 

敬礼の後、あきつ丸が走り去って行く後ろ姿を見てから視線を元に戻す。

 

 

「……さて、上手い事、敵さんが近付いてくれればいいがね」

 

 

「『敵にわざと接近させ、不意急襲的に陸上火器と艦娘の挟み撃ちで敵を叩く』。敵戦力を一網打尽にするなら、今の状況だとそれしか無いだろう。そうしないとバラバラされて面倒だからな」

 

高塚の言葉に山本大佐が言った。

 

 

「空襲が地上からの対空砲火で無理と思わせ、対地艦砲射撃を誘う為に事前迎撃もせずに艦娘達を待機させている訳だからな」

 

 

「まあ、そうなんだけど…なにせな…」

 

エーディトの言葉に額に手をやりながら高塚が答える。

 

 

「まさか、自信が無いとか?」

 

 

「ある意味で言えばそうだ。この鎮守府…ホテルは傷付けたくないし、どんな完璧な作戦も『戦場の摩擦』って物の具合で崩壊する可能性があるからな」

 

イメルダの言葉に高塚は正直に答える。

 

 

「……だが、それなら『あの子達』を出した意味無くない?」

 

 

「『あの子達』は運は高い。敗れた…いや、滝崎の奴が心身削って戦い抜かせたんだ。それに他の子達だって精一杯やるだろう。指揮官として、そこは信頼している。だが…」

 

苦い顔をする高塚に山本大佐は言いたい事を察したのか、口を開いた。

 

 

「『あの時』の事か?」

 

 

「えぇ、人型とは言え、向こうはそれなりの火力があります。下手をすればその火力を地上に向けられればどうなるか、わからない。何故なら、15センチ砲弾なら数トンの物を破壊することなど造作ありませんからね」

 

経験者2人…特に高塚はその身で嫌と言う程味わった人間であるだけにその重みは尋常ではない。

 

 

「ですから……無理はいけません。危険と思えば一時退避も認めます。まあ、難しいですがね」

 

苦笑いを浮かべながら高塚は言った。

 

 

 

 

その頃 マルタ島近海

 

 

 

「……不思議な物ね」

 

 

「何ガダ?」

 

件のレ級の隣で麗女が呟いた。

 

 

「貴女は敵の、しかも、あの『レ級』のflagship。敵である筈の『私達』をマルタまで案内した挙句、鎮守府が攻撃を受ける事まで教える……これ程、おかしくて不思議、かつ、利敵行為な事があるかしら?」

 

麗女の言葉にレ級は初めはキョトンとしていたが暫くしてケタケタと笑い出した。

 

 

「確カニ、アンタノ言ウ通リダナ。私ハ敵、オ前達ハ倒ス相手デ、ナノニ、私カラマルタノ話ヲ聞イテ、今コウシテ向カッテイルカラナ」

 

 

「まあ、そんな事もわからないなら、flagshipの衣は纏えないわね」

 

 

「アハハハ〜、ソンナノ簡単ダヨ〜、私ガハグレデ好キ勝手ニヤッテルダケ。私ノ縄張リニ入ッテ来タ奴ガマルタニ向カウカラ、ツイデニ案内シテルダケ」

 

 

「マルタが貴女の縄張り…よく、マルタの提督が許したものね」

 

 

「ソノ口振リダト、提督ヲ知ッテソウダガ、今ハ東ノ方ニ行ッテイテ居ナイゾ。今ハ、ソノ提督ノ副官ノ親戚ノ憲兵ガ指揮ヲシテルヨ」

 

 

「……まあ、あの2人…いえ、副官君ならやりそうね」

 

 

「言ットクガ、提督ヤ副官ト会ッタ事ハナイガ、アノ憲兵モ中々骨ガアルゾ。私ト対峙シテ退カナイ人間ダカラナ。ソレニ話モ解ル、飯モ美味イシナ。ダカラ、ココハ私ノ縄張リダ」

 

 

「……あの副官君の親戚なら、納得出来てしまうわね。そもそも、貴女が強過ぎなのよ」

 

 

「ソレハ仕方ナイ事ダ。マア、私モマルタノ鎮守府ガ無クナルノハ困ル。マダ、一回シカ彼処ノ美味イ飯ヲ食ッテナイカラナ」

 

 

「皮肉な利害の一致ね…まあ、この際、四の五の言っていられないわね」

 

 

呆れながら鎮守府の方に行こうとする麗女にレ級は何かを思い出したかの様に言った。

 

 

「アッ、アノ憲兵ニ会ッタラ『近々行クカラヨロシクナ〜』ッテ伝エテクレヨ〜」

 

 

「あら、貴女の事だから、縄張りに進入した無粋者達を締めに行くのでなくて? まあ、貴女の事ですから、ご自由に、としか言えませんが」

 

 

「ナンダ、解ッテタノ」

 

 

「まあ、私も昔、同じ事をしましたから…その時の『傷』は永遠に消えませんが…件の憲兵君には『早くしないと、惨状が出来る』と付け加えておきましょう」

 

そう言って麗女達はマルタへ向かっていった。

 

 

 

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