では、どうぞ!
その頃……スペイン海軍イージス・フリゲート艦内
スペイン海軍アルバロ・デ・バサン型イージス・フリゲート六番艦バレアレスはマルタ島に向かっていた。
反攻作戦前、アルバロ・デ・バサン型イージス・フリゲートは5隻あったのだが3隻が戦没、1隻が大破、1隻が中破しており、これを補充する為に六番艦バレアレスが建造された。
そんな数少ないスペイン海軍主力艦艇であるバレアレスが何故ここに居るかと言うと………艦内を見ていこう。
「航海長、マルタまであと、何時間だ?」
「順調なら……後6時間です。艦長」
航海長から艦長と呼ばれた若年女性士官…バトル・カルメン少佐である。
スペイン有数の貴族バトル家の長女にして、現スペイン海軍の出世頭であった。
「しかし、沿岸航路をとったために深海棲艦との遭遇も少なかったですな」
「えぇ…まあ、それでも大変だったけれど…彼女も居てくれて助かったわ」
そう言ってカルメンは視線を艦首の先にある海……正確にはその海を走る少女に向けた。
「皮肉ですな…スペイン内戦で沈んだ名前を継承したこの艦がその沈んだ生まれ代わりとも言えれる艦娘と共にいるなど……神は悪戯好きですな」
「そうかしら? 私は運命だと思うけど…周囲に異常は?」
そう言ってカルメンはレーダー画面を眺めている担当士官に訊いた。
「今のところは……いえ、後方、6時より小反応複数、深海棲艦の駆逐隊です!」
「やはり、捕捉されましたか…やむを得ないわ。総員戦闘配置に就け!」
カルメンの指示に乗組員達が素早く戦闘配置に就いていく。
「聞こえるバレアレス?」
『はい、戦闘ですね』
前を行く艦娘…重巡洋艦バレアレス…と通信を接続し会話を始めるカルメン。
「えぇ…今のところ、敵は駆逐艦のみだけど…油断は出来ないわ」
『わかりました。これより、戦闘に入ります』
そう言ってバレアレスは方向転換すると後方へと回り込む。
「艦長、戦闘配置、並びに戦闘用意完了です」
「了解、副長…前方警戒を厳に。ハープーン2発発射!」
発射指示と同時に左右の四連装発射筒から1発づつ対艦ミサイルが発射された。
今までの戦訓から速射砲・対艦ミサイルでも駆逐艦・軽巡クラスの深海棲艦を撃沈する事が出来る。
故に発射されたミサイルは後方の駆逐艦へと向かい、2つの反応がレーダー上から消えた。
「駆逐艦2隻撃沈! バレアレス、残敵に攻撃開始します」
「……おかしいわ。今までの単体遭遇でもあるまいし、数の優位を活かしてない……前方に敵は!?」
「え、あっ! 前方に軽巡2、駆逐艦4出現! 更に4時と8時の方向より反応多数! 4時方向には戦艦、8時には複数の重巡クラスの反応あり!!」
カルメンの予想…挟み撃ち…より不味い状況で事態は進行していた。
「……正面突破するわ。砲戦用意! バレアレスに通信をまわして!」
「繋いであります! どうぞ!」
「バレアレス! そっちを素早く終わらせて、前へ! 正面突破でマルタに向かうわ!」
『了解で…「4時方向の戦艦と思われる反応より砲撃!!」…えっ、きゃあ!?』
バレアレスの通話に割り込む形で入ってきた報告の直後、バレアレスの周囲に水柱が乱立する。
「後ろの駆逐艦は戦艦砲撃の為の噛ませ犬だったって事ね…バレアレス! 大丈夫!?」
『は、はい…至近弾の破片で小破しましたが、戦闘に影響はありません…ですが…』
「ですが…なに!?」
「艦長! バレアレスの周囲に新たな駆逐艦複数! バレアレスは分断・包囲されました!」
『……聞いた通りです…艦長、いえ、カルメン提督、私が囮になりますから、ここは逃げて下さい』
「何を言ってるの! こっちも前を一個水雷戦隊に阻まれてるのよ! 貴女が必要なの!!」
『それは何とかします…あはは…まさか、また同じ最期になっちゃうなんて…』
「バレアレス!」
カルメンがそう叫んだ時、背後で爆発音が響いた。
「艦長! 前の水雷戦隊が被雷しています!」
「えっ……被雷!?」
この時点でバレアレスの乗組員は何がおきたのかわからなかった。
「夜戦じゃあないけど…今日の私は調子がいいよ!」
「徹夜の早朝ライブなんて、那珂ちゃん聞いてないよ〜」
「姉さん、那珂、ちゃんとやって下さい」
川内、那珂、神通の3人が次々に砲撃を開始する。
狙う先は先程雷撃した敵水雷戦隊。
既に雷撃によりズタズタとなっている水雷戦隊に対し、川内達は砲撃による痛打を浴びせる。
更に……彼女達の後ろから扶桑達が最大速で近付いていた。
バレアレス艦橋
「あれが…日本の艦娘達…」
航海長達が目の前の光景に釘付けになっていた。
雷撃の直後、3人の艦娘が前を塞いでいた深海棲艦の水雷戦隊に襲い掛かった。
しかも、その正確な砲撃は次々に命中し、敵艦を沈黙させていく。
「か、艦長! 前方より航空機反応と…砲撃です!」
その瞬間、横をレプシロ機、上を砲弾が通過した。
「弾着…いま!」
扶桑の声と共に12本の水柱が乱立し、スペインの艦娘(と思われる)を包囲していた駆逐艦の周囲に着弾する。
これを龍驤の艦攻が着弾観測を行い、そのデータが扶桑に送られてくる。
そのデータを基に修正を加え、再度砲撃を行う手順だ。
しかし、二射目の必要はなかった。
扶桑の砲弾は包囲していた駆逐艦には致命的過ぎた。
装甲の薄い駆逐艦に36㎝砲弾12発は直撃弾では無くても、その効力を発揮した。
着弾による水中爆発と衝撃波、あるいは弾片が駆逐艦に襲い掛かったからだ。
結果、一撃で2隻撃沈、4隻大破…包囲の為に密集していたのが仇になったのだ。
この隙を突き、スペイン艦娘は大破した駆逐艦を素早く撃沈するとフリゲートと合流した。
「スペイン艦とスペインの艦娘は大丈夫やな。で、どないする、扶桑?」
「目標を敵戦艦部隊に変更します。龍驤、航空隊は?」
「巡洋艦艦隊の足止め攻撃中や。どないする?」
「川内達と共に敵を牽制し、スペイン艦が離脱した時点で後退します」
「了解や。さあ、第二次攻撃隊、発艦!」
「最上、時雨、前進します。雪風はスペイン艦と接触して」
「「「了解!」」」
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