転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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さて、こんな事になりました。


87 敵の反撃

イタリア南部 イオニア海

 

 

イタリア海軍所属のアトランティック対潜哨戒機が定期哨戒に出ていた。

 

 

「この辺はウチとマルタ鎮守府が抑えているとは言え、油断出来ないな」

 

 

「あぁ、アドリア海に押し込んだ奴らの潜水艦が来るとも限らないしな」

 

機長と副機長は神妙そうに話す。

実際、後方になりつつあるイタリア南部であるが海と言う環境ゆえに完全な後方化にはまだ時間が掛かる。

 

 

「機長、10時の方向、反応多数」

 

 

「反応多数? アドリア海の抑えにいるのは…フランス・スペイン・ドイツ艦隊だったか?」

 

 

「はい。ですが、帰還するとの通知は聞いていませんがね」

 

クルーの報告に機長と副機長は不審に思う。

そして、その反応を確認すると……

 

 

「あ、あれは、海上型の深海棲艦の艦隊です!」

 

 

「アドリア海に押し込んだ奴らが南下してきたのか…いや、待て、なんでここに深海棲艦の艦隊がいる? ウチらやマルタ鎮守府所属隊からの報告はなかった。あとは…ギリシャ側を通って大回りしたのか!!」

 

 

「くそ! ギリシャの奴らめ! サボってやがったのか!?」

 

 

「文句は後だ! 早く本部とマルタに連絡だ! ここにいるなら、襲うのは前線の艦隊じゃあなくて、イタリア本土かマルタだ!!」

 

 

 

 

暫くして マルタ島鎮守府

 

 

 

「す、すみません! 遅れました!」

 

 

「いや、いいよ、潮。まだ時間はあるしね。よし、始めよう、あきつ丸」

 

 

「わかりましたであります」

 

最後に来た潮に確認し、高塚を中心としたブリーフィングが始まる。

なお、メンバーはエーディト、山本大佐、アレッシア、艦娘からはレナウン、香取、速吸、潜水艦ズ、空母・水母組は飛鷹、重巡洋艦は高雄、軽巡洋艦は那珂、駆逐艦からは潮、とそれぞれの代表者が集まり、あきつ丸が説明役に就いていた。

 

 

「つい先程、イタリア軍より哨戒機が南下中の深海棲艦艦隊を発見したであります。どうやら、フランス・スペイン・ドイツ艦隊のアドリア海封鎖線を抜けてきたようであります」

 

 

「現在、イタリア政府は本土襲撃の可能性有りとみて、カラビニエリ隊を含めた四軍動員と付近住民の避難を行なっている。また、ここマルタも政府が避難と漁船団への退避・帰還命令を出した。これに付属しているウチの護衛隊も護衛しながら急いで戻ってきている」

 

あきつ丸、そして、高塚の説明に誰もが頷く。

しかし、釈然としないのは……

 

 

「イタリア軍や三ヶ国部隊が捕捉出来なかったと言う事は、イタリア軍が言う様にギリシャ沿岸部を通り大回りコースでこちらの哨戒線を抜けてきたと言う事だな。まったく、ギリシャめ、自分から頼んだ癖にロクに哨戒も出来んのか」

 

エーディトの愚痴にアレッシアと山本大佐が頷く。

 

 

「いくら国家破綻したからって何も出来なさ過ぎね」

 

 

「ロシア人として言わせてもらえば、ギリシャより仮想敵のトルコの方がやる気満々だし、背を預けるに値する」

 

 

「あー、ゴホン、ギリシャの話は後にしましょう…さて、今回、我々は非常に危うい常態にある。何故なら、主力はごっそり前線で戦闘中で後詰めの戦力しかない。アトランティックの報告では敵は戦艦ル級6、タ級3、ヲ級6、ヌ級6、これに重軽巡洋艦・駆逐艦。そして、敵の狙いは間違い無くこのマルタ島鎮守府だ。皮肉にも敵は『3倍の法則』に従い、圧倒的戦力で向かってきている……が、あえて松島宮・滝崎に援軍は要請しない」

 

……多分、普通の人間ならば気が狂ったと思うだろうが、ここには普通な人間が珍しい方だった。

 

 

「あっはっは、さすが同志! こんな最悪とも取れる状況下に同志は勝利の光明があるようだ」

 

 

「まったく、滝崎みたいな奴だ…で、何があるんだ?」

 

 

「まず、前線の状況。今から引き返すとなれば最前線の崩壊。退却の殿は難しいのは戦史を見れば当然の事な上に今までの疲労もあり、焦りも出てくる。だが、逆に援軍に行かず前線に張り付けば敵は逆に焦り、隙を見せる。多分、今まで敵が粘ったのはアドリア艦隊が南下、鎮守府を襲撃するのを待っていたんだろう。ならば向こうの思惑を利用してやる。また、時間は俺達に味方している。南下するアドリア艦隊は時間が掛かれば掛かる程、背後から前線部隊が救援の為やって来て背後を突かれる、との焦りも出てくるだろう。なら、これも利用するしかない。そして、俺達は決して不利でも戦力的劣勢下でもない」

 

 

「ちょっと待てほしい、不利でないのはわかったわ。でも、戦力的劣勢下は…」

 

アレッシアが疑問を示すが高塚はニヤリとしながら答える。

 

 

「いや、そうは思えない。敵はこのマルタ島鎮守府を襲撃する為に向かっている。分散されては面倒だが、集中しているなら叩きやすい。無論、戦術的分散は行なっても、戦略的広域分散はしない。ならば、イタリア空軍の支援も貰える。また、イタリア海軍も指を咥えて見ている訳はない…それに『3倍の法則』はあくまで『原則』であって、此方の策次第でどうにでも出来るからね」

 

 

「やれやれ、同志は無茶を言うが…無理ではないな。付き合うよ」

 

 

「まったく、無茶ぶりなら滝崎で経験済みだ。我々も出来る事をやろう」

 

 

「カラビニエリ派遣隊も出来る限りの事をやります」

 

居残りである地上部隊指揮官は全員が賛意を示す。

 

 

「さて、そうなると…」

 

 

「我がロイヤル・ネイビーの一命に掛けて…と言いたいが、あの子に気に入られて引っ込んでいたのでは、面目もたつまい。喜んでこの一命を任せよう」

 

酒匂のお陰でいつの間にやら元の姿に戻っていたレナウン。

 

 

「ありがとうございます。先程述べた通り、敵は数多ではあるが絶望はない。留守番部隊と侮ってやって来る敵を倒すぞ。いいな!」

 

 

「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」

 

 

 

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