転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

84 / 131
高塚がまったく出てこない3人の会話です。


84 それは彼の経験が理由

翌日 昼間 マルタ島鎮守府 甘味処間宮

 

 

 

「…同志の事?」

 

 

「はい、そうであります」

 

そう言ってあきつ丸は高塚の事を話してほしいとせがむ。

昼間の甘味処間宮に山本大佐とあきつ丸と言う珍しい組み合わせで、更にあきつ丸は言葉こそ普段通りであるが表情は真剣そのものだった。

 

 

「うーん、私も別中隊の人間だったから、詳しくはないが…」

 

 

「ほう、それは私も興味がある」

 

そう言ってエーディトも話の席に入って来た。

 

 

「……まあ、私が知ってる事でいいなら話すが……何を話してほしいかね?」

 

 

「ズバリ! 高塚殿は自衛隊ではどうだったのでありますか!?」

 

 

「私と似て、自衛隊にはかなり不満をもっていたな。まあ、入って暫く経ってから会ったから、そう思えるのかもしれないがね」

 

 

「なんだ、余り変わらんな」

 

 

「だが、今よりは行動派ではなかったな。まあ、階級が兵士と士官では違いがあり過ぎる所以だろうがね」

 

 

「陸式とは言え、後方支援業務や娯楽などを一括で統括しておりますからな」

 

 

「下に居た時の苦労を知ってから士官になったから、その気持ちがわかるんだろう。さて、今の日本の陸軍に同じ事が出来る人間がどれだけいるか」

 

 

「ホントに揃って自衛隊と今の陸軍をディスるな」

 

 

「現実を知る者ならね…機甲戦術の先駆者であるドイツのエーディト中佐に質問だ。日本の様な土地を攻める場合、どう挑む?」

 

 

「日本の様な島国、しかも平地が少なく、同盟国軍の介入確実な土地を攻めるなら、高機動で真っ直ぐ首都を突くのが定石だな。しかも、下手に時間を与えずに、だ」

 

 

「なら、侵攻作戦で着上陸した敵機甲軍団が2週間も動かないなんてのはおかしいよな?」

 

 

「当然だ。1週間…いや、数日で在日米軍が介入してくる。更に自衛隊も各所で防御を固めるだろう。なんでわざとリスクが増える事が確実なのに時間を与える必要があるんだ? ソ連軍のドクトリンであれば多数の戦車、自走砲にロケット砲、航空戦力を投入し、短時間でカタをつける…まあ、滝崎みたいな奴が秘策を持って事にあたるなら別だが」

 

 

「確かに、短時間で地形防御を築けても多数の火砲で制圧射撃を受ければ何の役にも立たないであります。これは太平洋の島嶼戦、ヨーロッパの要塞攻略戦の結果を見れば当然ありますな」

 

 

「さすが同志の副官だけある。きっちり育ているね。今からなら、陸軍の平凡な士官達と交代してほしい程だ」

 

 

「だが、自衛隊・陸軍ならば対抗策を…」

 

 

「その対抗策の練習である演習設定が『着上陸した敵機甲軍団が2週間も動かない』だ。まあ、先鋒の一個機甲旅団も動くまで1週間もある、と言う設定だがね」

 

 

「…………高塚がディスる理由がわかる」

 

そう言ってエーディトが苦笑いを浮かべる。

 

 

「他にもある。中に入ったからこそ見えた現状。満たされぬ定数、ギリギリの人員で動かす愚策、減らす部隊と正規人員、分野が違うだけで人が潰れる様になる体制、改善されない環境、名誉も示せないのにルールを守れと言い、海外や先人のやり方に目を向けない上層部……同じ立場にいたから、お互いに色々と話したね」

 

 

「高塚殿は物知りでありますからね」

 

 

「あぁ、大学を出ただけはあって、世間を知ってる。軍事以外にある程度なら経済、世界情勢、法律…それらも話せる。私は離隊前に同志を誘ったからな」

 

 

「民兵隊に、でありますか?」

 

 

「いや、『講師』にね」

 

 

「……まさか、ロシア極東方面軍兵への教育係へ?」

 

 

「おっと、エーディト中佐、青筋は場違いだ。友好するにしろ、敵対するにしろ、近隣諸国を知ると言うのは間違っていないだろう? しかも、同志は学はあるし、講師役にはいいと思ったんだがね…断られてしまった」

 

 

「まあ、滝崎もそうだが、高塚も『愛国者』だからな。興味はあっても、そう言うだろうな」

 

 

「だが、あの敗戦から学ばんのが今の陸軍らしい…まあ、左遷も兼ねて同志をマルタに送った様だが、馬鹿な事をしたと言べきか、ステップアップに手を貸したと言べきか」

 

 

「左遷はわかるが、なんでステップアップなんだ?」

 

 

「今まで抑圧された環境下にあったが、今は鎮守府の派遣憲兵将校。今までやれなかった事をやるには充分過ぎる環境だからだよ」

 

 

「……確かに、現状はそうなってるわね」

 

 

「まあ、そうなると陸軍も同志を無視は出来ん様になるな。だが、帰国後に変な事をすれば自分達の首を締める事になるがな」

 

 

「それはどう言った意味かね、山本大佐?」

 

 

「簡単さ。今度はバックに色んな方々がついているからね」

 

 

「「な、なるほど」」

 

それは貴方の事ですか?…と言いたくもなったが、流石に思い留まるエーディトとあきつ丸。

 

 

「ところで、その同志の姿が見えない様だが…」

 

 

「そう言えば執務室で会ってから姿を見ないな」

 

 

「それなら、建造を行なっているであります。今のままでは戦力的に厳しいとの事で建造をすると言っていたであります」

 

 

「「あぁ、わかった」」

 

あきつ丸の言葉に納得する2人。

実際、戦果はあげているとは言え、後方待機である為に潤沢とは言い辛い。

また、何時、レ級の様な敵が現れるかわからないからだ。

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。