翌日 マルタ島鎮守府浜辺
「もう! あのクソ憲兵!!」
「はいはい、正当な命令なんだから、ちゃっちゃっとやる」
「そうそう。憲兵さんは間違ってないから」
曙、朧、漣の3人は砂浜にいた。
理由は簡単、定期の砂浜掃除である。
そして、これに曙が文句を言い、漣が軽く流し、朧が真面目に答えると言う、何時もの光景である。
「で、潮はどうしたの!?」
「潮は私達より先に着任してるから、憲兵さん達の手伝い」
「もう、あのクソ憲兵! 絶対差別ね!」
「いや、違うと思う」
漣の答えに曙は怒鳴るが朧の軽く流す。
「だいたい、なんで憲兵が代行で指揮執ってるの!? 普通はエーディトさんとかでしょう! 間違い過ぎよ!」
「憲兵さん、陸軍の将校だから」
「私達より戦い方知ってるから」
「なんでそこで冷静なのよ?」
「「何時も見てたらわかるから」」
「…もう、あんた達…」
何時もの面々の冷静過ぎる返しに呆れる曙。
だが、作業に戻ろうとした瞬間、『それ』を見てしまった。
「「「ピ、ピャァァァァァァ!!!!!」」」
「な、なんでありますか!?」
「あれは…曙達か!」
朝の一回りをしていたあきつ丸と高塚は3人分の悲鳴を聞いて足を止めた。
そして、悲鳴の主に気付いた高塚は走りながら肩に掛けていた64式小銃改を肩から外し、弾倉を装着、初弾を装填する。
また、後ろから付いて来るあきつ丸も62式機関銃改に初弾を装填する。
「曙! 朧! 漣! どうした!?」
高塚の問いに何時もなら皮肉れ言のひとつでも言いそうな曙が震えながら前を指差す。
それに従い視線を前に向けると、そこには……
「戦艦レ級! しかも、フラグシップ!?」
64改を構えながら高塚でさえ思わず叫ぶ。
本土に居た時から高塚も深海棲艦の種類については調べており、レ級の存在は知っている。
しかし、レ級は『élite』の存在は確認されていたが、『flagship』の存在は本土でさえも確認されていなかった。
「不味いな…レ級は…荷が重過ぎる」
深海棲艦チートキャラ相手に高々人間の兵士は流石に重い。
と言って駆逐艦やあきつ丸がどうこう出来る相手でもないが。
「……オマエ、人間カ?」
高塚に気付いたレ級がそう言いながら近付いてくる。
この時点で高塚もどう時間を稼ぐかを思案していた……ほぼ、自分が囮になって逃げ回るぐらいが関の山であるが。
そして、ほぼ目と鼻の先にレ級が来た時……
ググ〜〜〜
「……へぇ??」
場違いすぎる腹の虫の音……その主は明らかに目の前のレ級。
「…腹減ッタ、何カ食ワセロ」
何故か偉そうにも聞こえるが、高塚にとってはそれより腹の虫の事の方が先だった。
「うーむ、まあ、少し待ってくれたら準備はするが…」
「金ハ無イゾ。代ワリニコレガアルケドナ」
そう言って背後のレ級の尻尾が上に勢いよく跳ねた。
そして、それにつられて上を向いた高塚は…慌て何かを受け止める姿勢を作り、それが出来たと同時にその両腕に何が落ちてきた。
両腕には目を回す少女が乗っかっていた。
「ワタシヲ見テ逃ゲ出シタカラ尻尾デ少シ締メタラ気絶シタ」
「いや、逃げるよ…てか、締めるなよ」
取り敢えずツッコミを入れたが、高塚は「こりゃ、飯を与えるしかないな」と思った。
暫くして 鎮守府内食堂
ムシャムシャムシャ…パクパクパク…カラン
「美味イ! オカワリ!」
「お、おう」
よほど腹が減っていたのか、既にレ級の両脇には皿が丘の様に積まれている。
しかも、あの尻尾の口も器用に食べている……てか、そっちの口も食べるのである。
「……なんだかな〜」
目の前のレ級の状況に高塚は呆れながら呟く。
そりゃそうである。数居る提督達に1番面倒な深海棲艦は、と聞けば名を上げる筆頭とも言えるのがレ級である。
しかも、相手は確認されていなかったflagship…厄介さで言えばとてつもない彼女が目の前で無防備に出される飯を次々に平らげていくのだから当然である。
「ナンダ? 深海棲艦ガ大食ライナノガソンナニ珍シイノカ?」
「いや、無防備に食べてる事が珍しいから…つーか、敵地で飯くれなんて、どんだけ恐いもの知らずなんだか…まあ、実際、君は強いしね」
レ級の問いに自然に答る高塚。
なお、山本大佐やエーディトら残りの残留首脳陣と艦娘達は食堂の外に居て様子を伺っている。
「私ハ流レダカラナ。好キナ時ニ好キナ事ヲヤルダケ」
「流れ? つまり、君は指揮系統から外れているのか?」
「アァ、彼処ニ居タラ腐ル。規則ダナンダデ縛ラレタ場所ハ嫌イダシ、ソモソモ、私ハ無用ナ争イハモット嫌イダ」
そう言ってフォークに刺したハンバーグを大口を開けて食べる。
人間臭いレ級だな…なんて事を思い、思わず微笑む。
「まあ、堅苦しいのは嫌い、ってのは居るな。俺もその1人だし」
「オッ、ソウナノカ? ナラ、話ガ合イソウダナ」
ホントに人間臭い…と思う高塚だった。
暫くして
「アー、食ッタ食ッタ。美味カッタ!」
「それは良かった」
まあ、後で食った食材量の計算しなきゃいけないと思うと気が重いけどな……なんて事を高塚は思っていた。
「マタ腹ガ減ッタラ来ルゾ!」
「……連絡してから来るならな」
「面倒ダナ、マッタク」
お前が原因で食糧無くなったらどうすんだ、と言いたいが今は言わない。
「ジャア、予約ツイデニイイ事ヲ教エテヤルヨ」
「いい事? なんだ?」
「アト数日シタラ、コノ近辺二潜水艦部隊ガ通商破壊二ヤッテ来ル。ソレナリノ数ダカラナ、気ヲ付ケトケヨ〜。ジャアナ〜」
ひらひらと手を振りながら外海へと向かうレ級。
それを見送った高塚は回れ右をすると全速力で鎮守府へと戻った。
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