転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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77 夜に

数日後 夜 マルタ島鎮守府 滝崎執務室

 

 

 

「糧食状況は改善された。装備も整った、訓練も戦力も充分……やるか」

 

報告を集計し、全て目を通した滝崎は決断した。

 

 

「まあ、エンタープライズ達がまだ目を覚ましてないが……なんとかなるか」

 

 

「その判断はどうかと思うよ、副官」

 

呆れた調子で呟く声に滝崎が振り向くと窓淵に寄り掛かかる川内がいた。

 

 

「くノ一は部屋に不法侵入か?」

 

 

「だって、副官の部屋って入りやすいから」

 

 

「さよか」

 

もう勝手にしてくれと言いたげに滝崎は椅子を回す。

 

 

「で、いよいよ強行偵察をやるだね。もちろん、夜戦もやるよね!?」

 

 

「戦闘は結果論だから夜戦になるとは限らんぞ」

 

 

「いいの、いいの。それは私達の仕事。副官の仕事は別だよ」

 

 

「まあ、そうだな」

 

 

「それより、レナータさん推薦の料理人、結構人気だよね」

 

 

「ん、あぁ、確かにな。まあ、料理の腕はいいし、人は良いからな」

 

 

「六駆を含めて駆逐艦の子達には人気だしね」

 

 

「ホント、良い人を呼んできてくれたよ。お陰で糧食状況・士気向上に繋がった」

 

 

「そこは副官の人徳だと思うよ? あっ、仁徳かな?」

 

 

「まあ…そう思っておくか」

 

人徳・仁徳なんて自分にあるかな…と思いながらだが。

 

 

「……前々から気になってたけど、副官って一歩退いてない?」

 

 

「一歩退いてない、ってどう言う意味だ?」

 

 

「ほら、レキシントンの件と言い、今回の件と言い、副官ってなんか引け目を感じてない?」

 

 

「むぅ、ま、まあな…」

 

歴史変えたんで……なんて言えないので、とりあえず肯定する。

 

 

「頼むよ〜、同情の挙句、自殺か殺されたら色んな人が悲しむんだからね?」

 

 

「自殺は置いとくとして、殺されたら松島宮あたりが犯人殺しにかかるんだがな、それは…」

 

 

「わかってるんなら、そうならない様にしてよ? 私も困るんだし?」

 

 

「逃げる場所がなくなるからか?」

 

 

「それは何気にひどく無い? 事実だけど」

 

 

「否定しないのかよ」

 

 

「兎にも角にも、無理しないでよ、副官」

 

 

「はいはい」

 

 

 

その頃 鎮守府外柵沿い

 

 

「……眠い…」

 

軽く欠伸をしながら懐中電灯で行き先を照らして見回りを行う高塚、その後ろから続くあきつ丸。

 

 

「ならば、ここは自分に任せて高塚殿はお休みになっては?」

 

 

「それはダメ。絶対にダメ」

 

先程とは打って変わって真剣な表情になる高塚。

 

 

「これは憲兵としての仕事だからね。ちゃんとやっておかないとね」

 

 

「それについては堅物でありますな」

 

呆れた様子で呟くあきつ丸。

 

 

「任せられた仕事は責任を持ってやらないとな」

 

 

「自分から首を突っ込んだ仕事の方が多い様な気がしますが…まあ、それが高塚殿であります」

 

 

「それ、褒めてるのか? それとも貶してる?」

 

 

「自分は褒めているつもりであります」

 

 

「…まあ、いいか」

 

これ以上、なんだかんだと言っても意味も無いと思い高塚はこの話をやめる事にした。

 

 

「……にしても、月と夜空は余り変わらないな」

 

 

「確かに。星座は変わっても、空は変わらないであります」

 

 

「夜空を見ると、なんか、ホント人間の存在の矮小性に気付くんだよな〜。なんでこんな小さいのに問題一つ解決しないんだと」

 

呆れとも、自問ともとれる呟きを呟き、高塚は夜空に視線を向ける。

 

 

 

「おっと、さっさと終わらせて早く寝よう」

 

 

「そうでありますな」

 

そう言うと2人は決められたルートを再び歩き始めた。

 

 

 

とある一室

 

 

「『彼を決して敵にするな。その獰猛さ、執拗さ、恐怖はケルベロスの如く』」

 

 

「どうしたんですか、ウォー姉さん?」

 

ティーカップを片手に窓から夜空を見上げながら呟くのウォースパイトとその様子に声をかけるヴァリアント。

 

 

「貴女はどう思うの、ヴァリアント? アドミラル・タキザキの事は?」

 

 

「彼は副官ですよ、姉さん。でも、私はどうもあの副官が姉さんやモーバラル公の言う方には見えないのですが…」

 

 

「人は誰でも仮面を被っている…誰が言っていたわね」

 

 

「それを言うなら、アドミラル・マツシマノミヤ殿下では? レキシントンがあの副官に何か変な事をすれば間違い無く、もう一度深海棲艦に戻して、もう一度殺すぐらいはいたしますよ?」

 

 

「………確かにそうね。あの方ならやりそうね。そもそも、なんであんなに副官ラブ勢が多いのかしら?」

 

 

「それは……あの副官だからでは?」

 

 

「…そうなのかもね。まあ、確かに理想な殿方ね、あの副官は」

 

天然である事、そして、瞳の奥の制御された狂気を除けば…その狂気とてある意味良いところではあるが…確かに彼は誰彼無く気遣いも出来るのが滝崎だ。

それが……自分を恨む者であったとしても、である。

 

 

「……普通なら、短命の筈だけど…あれで何もないのも不思議なのよね。まあ、周りがあんな風に固められてる上に、あの憲兵が居ればね」

 

そう言った意味ではウォースパイトにとって滝崎は不思議な存在とも言える。

無論、彼が『歴史を変えた』と言う意味合いを含んでいるが。

 

 

「タカツカ少佐も変わってますよ、姉さん」

 

 

「そうね…人柄かしらね、彼の周りに人が集まる理由は」

 

苦笑を浮かべながら言った。

 

 

 

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