数日後 マルタ島鎮守府 滝崎執務室
「……平和だな」
「……まあ、マルタ島周辺は平和だな…多分」
そんな会話を交わしながら事務仕事を次々と消化していく滝崎と高塚。
「そう言えば最近、イギリス隊の動きが変わってきたって聞いたが本当かい?」
「レベッカとウォースパイトが来たからな。ヴァリアントは姉のウォースパイトに指揮権を渡して2人のサポート役に回ったし、レベッカの乗艦ユリシーズがイギリス隊向けにデータリンクし始めたからな。動きが精彩になり始めたそうだ」
「専用回線が出来たから、か。なるほどな」
高塚の質問に滝崎が答え、滝崎は納得する。
「で、松島宮は?」
「近海で派手に演習するから観に行ってる。ここに居る人間は俺とお前とエーディトだけ。艦娘は休みと非演習組ってところだな」
「何かあっても演習組が対応出来るな…陸上か奇襲でない限りは」
「フラグを立てるな。つーか、仕事をしろ」
「へいへい、てか、ほぼ終わってるんだよな〜。後は難問1つだけ」
「難問? なんだそりゃ?」
「曰く、糧食関係者労働激務化対策」
「……ガチか?」
「今はいいが、このペースで増えると今の人員では足りない。しかも、鳳翔さんや間宮さんが倒れたら間違いなく俺らは公開処刑だ」
「うむ、確かにな。それは早急に対策をとらないとヤバイ……で、アテはあるか?」
「間宮さんの方は本土の鎮守府で最近配属が始まった伊良湖の早急配属を要請するのが1番だ。ただ、鳳翔さんの事となると難しい」
「だよな……外部から腕の良い料理人を雇うとか」
「それはある。しかし、結局は松島宮を含めた全員の了承が必要なのさ」
「うーむ……まあ、追い追い考えよう。とりあえず、今はこの事務仕事を…」
そう滝崎が言った時、ドタドタと廊下を走る音と共にドアが乱暴に開かれた。
「てぇへんだ! てぇへんだ!!」
「どうした、涼風? ムー大陸でも現れたか?」
入って来た涼風に何とも気の抜けそうな冗談を言う滝崎。
「違うよ! 武装集団が門の前に現れたんだよ!!」
「「はあ!?」」
涼風の発言に思わず間抜けな声を出しつつ、互いを見る滝崎と高塚。
「武装集団ってどんなんだよ!?」
「あたいが解るわけないでしょう!」
「何か無いのか!? 戦車が居たとかさ!?」
「あっ、戦車いたよ! 古臭いのが多かったけど、なんか、ドイツ海兵隊が持ってるのみたいなのが!」
「…はぁ!?」
涼風の話を聞いて流石の滝崎も訳が解らなかった。
「とりあえず見に行こう」
「お、おう。そうだな」
2階 玄関上部踊り場
「おっ、来たか」
「エーディト、状況は?」
執務室から正面の正門が見える2階の踊り場に砲隊鏡を据えて司令部小隊の隊員と共に観察し、陣取っているエーディトが居た為、滝崎が声をかける。
「見てみろ。お前ならある程度の車種は解る筈だ」
「わかった……T90が2輌にT34/85が多数、それにBTR90…タイガー軽装甲機動車…ロシア製装甲車の皆々様お揃いって…」
砲隊鏡を覗いて陣容を掴んだ滝崎が苦笑いを浮かべながら呟く。
「ど、どうすんだい、副官!?」
「必要ならば、今すぐ攻撃命令を出して潰すが…どうする?」
「………陸軍、どうする?」
未だに砲隊鏡から目を離さない高塚に話を振る滝崎。
だが…………
「…………知り合い」
「…ロシア製兵器てんこ盛りの知り合いなんて聞いた事ないぞ?」
「だろうな。ちなみにロシア人でなくて日本人だ」
「……ますます訳が解らん。PMCか?」
「『自称』は『民兵組織』だ」
「………訊けば訊く程訳が解らなくなってくるな」
滝崎の言葉に涼風とエーディト以下その場に居た本部小隊の隊員達が頷く。
その反応に高塚が苦笑いを浮かべた時、外から拡声機の声が聞こえてきた。
『久し振りだ、同志! 君の異動先を聞いてこっちに来てみたよ!』
「……なんか、来た手段が解るから、余計に何と言っていいのかわからない」
「いやいや、待て待て。戦車を含めた重火器を自走以外の手段で国外に移動出来る日本人の自称『民兵組織』って何だよ? つーか、同志って確実にお前の事だよな? 色々と説明してくれ!」
滝崎の言葉に涼風とエーディト以達もウンウンと頷く…特にエーディトは腰のホルスターのボタンを外しながら。
「……元所属特科隊別中隊の一個上の先輩」
「……………………………はい?」
「前に俺の所属中隊が壊滅した話をしたよな?」
「あぁ、したな」
「唯一被害の無かった中隊の根本的理由」
「…一個上なら…陸曹?」
「いや、階級は同じ士長。でも、ロシア軍を中心に軍事に詳しい」
「ロシアなら…響呼ぶか?」
「嫁の1人って聞いた」
「嫁かい! しかも重婚かよ!」
「それは置いといて、なんで民兵組織なんだ?」
滝崎のツッコミの多さに呆れたのかエーディトが訊いてきた。
「あの一件の後、陸自を辞めたんだよ。まあ、理由は色々と察してくれ。で、元々組織してたサバゲーチームが本格的に軍事研究してるチームでさ……多分、マルタへの輸送は『スポンサー』が色々と手を回したんじゃあないかな、ハッキリ知らんけど」
「スポンサーいんのかよ」
「まあまあ、それで、そのスポンサーってどこなの?」
「ロシアの元国営石油企業」
「「おい!!」」
高塚の返答に遂に滝崎に加えエーディトもツッコミを入れた。
「あ、あの副官方、あたいは何処からツッコミを入れていいのかわかんないんだけど…」
「それは俺も一緒だ。で、とりあえず、大丈夫なんだな?」
「あぁ、ちょっと行って話を聞いてくる」
そう言って高塚は立ち上がった。
暫くして 松島宮執務室
「…と言う事情でロシアのソチからやって来た高塚の陸自時代の先輩で…」
「現第422親衛特殊任務連隊指揮官の山本剛(やまもとたけし)大佐です。どうぞ、よろしく」
「あっ、これはどうも…」
名刺を渡されて恭しく受け取る松島宮。
「山本し…大佐、来るならメールの1つでもくれれば対応出来たんですが」
「いや、すまない、同志。でも、元気そうで良かった。マルタに居ると聞いて良かったと思う反面、左遷させた奴等にどんな目に遭わそうか考えていたからね」
「やめて下さい、いや、本当に」
山本大佐の言葉に高塚がツッコミを入れる。
「で、いったいロシアの元国営石油企業スポンサーの民兵組織がこのマルタに何の様だ? まさか、深海棲艦を倒しに来た、と言うのか?」
「こら、エーディト」
エーディトの敵意剥き出しな発言を滝崎は諌める。
「端的に言えばそうなりますな」
「でも、黒海方面は深海棲艦の影響は少ない様に思えるけど…」
山本大佐の発言に松島宮はそう言いながら滝崎に助けを求める視線を送る。
「だが、いることによって影響があるのも事実ですからね。それに国益に影響がある為に我々が『スポンサー』から派遣された訳です」
「正規軍は軍事行動に忙しい、と言いたいかしら?」
「エーディト、国際問題になりそうだから止めろ。しかし、ロシア政府と繋がりがある石油企業がスポンサーの貴方方をマルタへと渡らすとなると、それなりに理由がありますね」
「その前に山本大佐。ソチて何をしていたんです?」
滝崎の言葉に割り込む形で高塚が山本大佐に訊く。
「唯一深海棲艦との戦いを経験したと言う事でスポンサーの依頼でソチを拠点に深海棲艦退治だよ。なにせ、彼女達は河川を遡上するからね」
「……まあ、遡上されたら面倒ですからね。つまり、資源大国であるロシアもパイプラインによる石油やガスは輸出出来ても、麦などの穀物の輸出は出来ない。それらの物品輸送の面で限界が出て来た為に海上物流の面から黒海は必要になったが、地中海からの増援、あるいは敗残部隊が黒海方面に逃げてくる可能性が出て来たので予め潰す為に派遣された、と」
「流石は我らが同志、説明しなくとも君は直ぐに理解してくれて助かる。また、本来なら正規軍を出したいのだが、今や国際的にロシア正規軍を出すと余計な勘繰りをされるから、民兵組織である我々が選ばれたのだ」
「なるほど…どう思う、滝崎?」
「まあ、人が足りてる訳では無いしな…いいんでないのかな? 高塚が身元保証をしているしね」
こうしてロシアからの民兵組織『第422親衛特殊任務連隊』が加わった。
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