翌日 マルタ島近海
「皆さん、マルタ島までもう少しですよ。頑張りましょうね」
「「「「はーい」」」かも」
香取型練習巡洋艦1番艦香取がそう言うと指揮下にある陽炎型駆逐艦15番艦野分、同18番艦舞風、夕雲型駆逐艦4番艦長波、同6番艦高波から返事が返ってくる。
それを聞いて香取は隣に居る海図を持った『ちょっと身長の高い学生服風な服を着た金髪の少女』に視線を向ける。
「ありがとうございます、ハーマイオニーさん。どうも、地中海は始めてで勝手がよくわかりませんから…」
「あら、カトリ。そんな事は気にしないで。私もマルタ島に行く所だったんだしね」
そう言ってダイドー型軽(防空)巡洋艦5番艦ハーマイオニーがウィンクしながら言った。
本来なら、香取以下5隻でマルタに行く筈だったのだが、途中でハーマイオニーと邂逅(ドロップ)した為にこうして道案内を頼んでいた。
だが……陽気な航海はここまでだった。
「香取さん、あれは…」
高波の言葉に香取とハーマイオニーが振り向いた……それが始まりだった。
暫くして マルタ島鎮守府松島宮執務室
「し、失礼します! 緊急事態です!!」
通信用紙を掴んだ大淀が廊下を走り、執務室の扉を乱暴に開けた。
「なんだ? 帝都でも空爆されたか?」
「高塚、それはシャレにならないよ。で、内容は?」
高塚のボケに滝崎がツッコミを入れる、何時もの事をやってから滝崎は大淀に訊いた。
「香取さん達が敵機動部隊と接敵しました! 空母ヲ級2隻を中心とする巡洋艦と駆逐艦の艦隊です!!」
「駆逐艦と巡洋艦主体の空母部隊!? 帝都空襲と同じではないか!!」
聞いていたエーディトが声を張り上げる。
しかし、松島宮を含め誰も慌てはいない。
「加賀、扶桑、神鷹、夕張、睦月、如月の第1対処部隊、並びに最上四姉妹とフェニックス、セントルイスの第2対処部隊は出撃! 手空きは警戒及び対空戦闘用意!!」
「司令部小隊か? 私だ、今すぐマルタ政府に空襲警報の発令を要請せよ! 我々も対空戦闘用意だ!!」
「じゃあ、俺はひとっ走りしてくるわ」
滝崎がテキパキと指示を下し、エーディトは専用回線で司令部小隊を通じて指示を出す。そして、高塚は鉄帽とメガホンを持って出ようとする。
「お、おい、高塚! 何処に行く!?」
「俺は憲兵だぜ? 空襲警報通知と残余艦娘、妖精を再編して対空戦闘用意するのも仕事だよ」
松島宮の問いに高塚はニヤリと笑いながら言った。
「わかってると思うが、空襲が始まったら鉄帽の顎紐外せよ」
「鉄帽の顎紐を着けたままだと、爆風と衝撃波で頭もってかれるからか? わかってるよ。じゃあ、行ってくる」
滝崎の物言いにそう言うと部屋を出て行った。
「あれだと大丈夫だな。さて、ウチらはウチらの仕事をやりますか」
その頃 マルタ島近海別海域
「マルタ鎮守府所属艦から鎮守府へ緊急通報?」
「はい。既にシーキングの早期警戒型を飛ばして確認にあたらせています」
イタリア海軍軽空母ジュゼッペ・カルバルディの艦橋で堅物系な参謀長(同年代女性)から報告を受けたレナータ。
現在、ジュゼッペ・カルバルディの周囲には元乗艦アンドレア・ドーリア型駆逐艦3番艦ジュゼッペ・フィオラブァンツォ、カルロ・ベルガミーニ型フリゲートの対潜型イニーオ・カンピオーニ、同汎用型アンジェロ・イアキーノの3隻が同行している。
そして、この艦隊が向かっているのはもちろん、マルタ島である。
「敵の規模は?」
「空母ヲ級2隻を中心に巡洋艦と駆逐艦を多数従えた機動部隊です」
これを聞いて司令部の面々(男共)が顔を寄せる。
「通報部隊は!?」
「教師と駆逐艦4人!」
「バカ! この軽巡の子を忘れてるぞ!」
「あっ、この金髪の子、タイプだ!」
「なに!? 俺はこの胸有りイケメン!」
「はあ!? このロングの子だろ!?」
「バカ! このおかっぱ頭の子だろうが!?」
「ここに居るのはバカばっかりだな! 女教師だろう!!」
「「「「「「おう、上等だ! 勝負じゃあ、ゴラァ!!」」」」」」
……何故か副司令を含めた参謀達ら残りの司令部要員が殴り合いの喧嘩を始めようとする。
それを楽しそうに笑いながら見ているレナータと額を抑えながら困惑する参謀長。
「まあ、何時もの事ね」
「何時もの事ね、ではありません、司令! あんた達、真面目な話をしてるのよ!!」
レナータにツッコミを入れ、次に勢い任せで海図台に己の拳を叩き付けて静かにさせる参謀長。
「まあ、それは置いといて、で、どうするの、貴方達?」
そう訊いて周囲を見るレナータ。
艦橋要員の大半は男性が占めている…当然、女性は少数派…中、彼らの答えは決まっていた。
『モテる為、名誉の為なら何でもやる! それがイタリア男児!!』
野郎共が声を揃えて宣言し、それをレナータは微笑みながら聞いていた。
その頃 マルタ島鎮守府内
「空襲警報発令! 可燃物は撤収! 手空きは対空戦闘用意!!」
メガホン片手にそう叫びながら走り回る高塚。
既に手空きの艦娘・妖精、更にドイツ海兵隊員が右へ左へと走り回る。
「ドックの用意! 手空きは余りの機銃や高角砲は前に決めた所定の位置に設置!」
「了解! オイ、急イデ準備ダ!!」
「「「「「「「「「「合点承知!」」」」」」」」」」
工廠から明石と工廠妖精達の声が聞こえ、更に出撃組は大急ぎで簡単なブリーフィングを行う。
「以上よ。質問は?」
「ドーリットル空襲と似てるって本当?」
「副官達の意見よ。心配要らないわ」
加賀の問いに最上が質問し、扶桑が答える。
そんな光景を松島宮の執務室から指示を出す合間に横目で見る滝崎。
「どうした、滝崎?」
それに気付いた松島宮が訊いてきた。
「ん、いや……最近、俺ら後手後手に回ってるなー、とね」
「仕方無いだろう。この先はギリシャのゴタゴタで止まっているかな」
隣で聞いていたエーディトが当然だろう、てなばかりに言う。
「いや……確かにそうなんだが、結局、皆んなに皺寄せさせてるなー…って」
「なら、早く指示を出せ。指示遅れは今の段階で致命的になりかねんぞ」
制帽の上から軽く叩きながらエーディトは言った。
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