えっ、そうには見えない?
数日後 マルタ島鎮守府 滝崎執務室
「暇だ……暇過ぎる……」
滝崎の執務席で暇を持て余す高塚。
現在マルタ島鎮守府は高塚を除く人間は仕事で外に出ている。
松島宮・滝崎・エーディトは先の難民暴動等、これから鎮守府運営に関わる事をマルタ政府と協議する為に首都バレッタへ行っていた。
カルメンとシェロンは乗艦の定期点検と自国艦娘のお披露目の為に帰国している。
よって、本日は高塚がマルタ島鎮守府を仕切っているのだが…。
「あきつ丸、木曾はビスマルク達ドイツ組と一緒に松島宮達の護衛に就けたし、秘書艦は大淀さんを除いて連れて行った。艦娘の大半は松島宮達と共に同行外出か遠征、訓練…まあ、俺の仕事は遠征や訓練の終了の報告を聞くだけ、か」
そう呟きながら椅子を回し、天井を見る高塚。
そして……ニヤける。
「とある旧陸軍砲兵将校はこう言った。『指揮官としてやりがいのあるのは中隊長か師団長である』…今はさしずめ師団長かな。こんな左遷じみた事でもされないと、臨時とは言え陸軍少佐が艦娘を指揮するなんてないな。いやー、持つべきは海軍の親戚か、と」
そう呟いて椅子の回転を止める。
するとドアがノックされた。
「どうぞ、開いてるよ」
「失礼するぞ、高塚少佐」
「長門か。駆逐艦が訓練か遠征で出ていて暇を持て余してるのか?」
「少佐もそれを言うか。まったく、陸奥はそれでむくれるが…」
「ははは、まあ、『ビック9』のイケメンな姉と人気者のお姉さんな妹、駆逐艦達には人気があるからな。まあ、妹はその認識は無いようだけど」
「少佐は口が上手いな」
「自衛隊に居た頃とは反対だよ。気が合わないと話せなかった…
今は普通に多弁だよ…さてはて、なんでかな?」
「さあ…私はそう言った事は得意ではないからな」
「あはは…で、なんだ? ビック9のイケメン?」
「いや、本来なら勤務時間中でダメなのだが…」
そう言って長門が差し出したのは……パピコアイス(ミルクコーヒー味)。
「……飲み友達ならぬ、パピコ友達なら、何時でも付き合うぞ」
その頃………第六駆逐隊
「もう直ぐマルタ島定期パトロールも終了。後はどうする?」
「間宮さんでパフェを食べましょう」
「ハラショー、賛成だ」
「わ、私も賛成なのです」
……まあ、何時もの通りの第六駆逐隊である。
「それにしても、最近は何もないわね。どうしたのかしら?」
「きっと、私達第六駆逐隊を含めたマルタ島鎮守府に恐れをなして逃げちゃったのよ」
「姉さん、『第六駆逐隊』は要らない」
雷の呟きに暁が胸を張って答え、響が密かにツッコミを入れる。
しかし、その考えは直ぐに覆った。
1時間後………マルタ島鎮守府
「なに!? 雷・電と離れ離れになった!?」
ズブ濡れになって帰って来た暁・響に事情を聞いた高塚が思わず叫んだ。
「だが、第六駆逐隊の哨戒ラインはマルタ島の周りだ。無線が使えない筈は…」
「いや、近場でも場所によって無線電波が妨害される場所がある…そこに定期パトロールが引っかかるのを待ち構えてたか」
奥歯を噛み締めながら高塚は呟き、長門は頷く。
「それで、2人とは何処で離れたの?」
タオルを持って来た陸奥が2人に尋く。
「途中まで一緒に逃げていたけれど、途中で二手に分かれた。その場所が…」
響が防水袋に入った小型海図を使い、要所要所を指差しながら説明する。
「陸奥、残留者に呼集を掛けてくれ。あと、大淀に伝えて滝崎と訓練部隊に通達してくれ。呼集を掛けてある程度集まったら迎撃隊を編成
し、各所に派遣する様に」
「わかったわ。でも、少佐はどうするの?」
「決まってるだろう。雷、電を助けに行く」
「な、待て! 正確な居場所も解らないのに行くつもりか!?」
「さっきのである程度範囲は絞れた。それに2人の性格と現状は把握している。なら、居場所は特定出来る」
長門の驚きながらの問いに高塚は冷静に答える。
「それに時間も無い。俺なら武器・装具を取りに行けば5分で済むが、皆はどうだ? ホテルから工廠の艤装保管庫まで5分、艤装点検5分、集合5分、編成に数分…省略できても10分も縮めるのは無理だろう?」
高塚の言いように陸奥が苦い表情で頷く。
確かに艤装は何時でも使える様にしている。しかし、『何時でも使える』と『直ぐに出れる』は決してイコールでは無い。
「と言う訳だ。すまないが、態勢が整い次第、各自展開してほしい。以上だ」
そう言うと高塚は部屋に戻ろうとした時……
「少佐、私を連れて行ってくれ! 今朝、点検したばかりだから、5分もあれば来れる! お願いだ!!」
そう言った長門に対して高塚は振り向くとニヤリと笑う。
「時間は無いぞ。直ぐに来い」
「あぁ、直ぐに行く!」
「それで、居場所はこっちでいいのか?」
艤装を着けて走る長門が鉄帽・防弾チョッキ・装具を装着した完全装備で同じく砂浜を走る高塚に訊いた。
「あぁ、第六駆逐隊は哨戒任務だから、燃料は3分の1を消費してる。これに分散して、更に高速で逃げたなら燃料消費は跳ね上がる。また、鎮守府に近いならそっちの方に逃げる。しかも、沿岸に沿う形だな。だが、人家が近いエリアは避ける。そして、まだ通信が出来ていない事を考えれば…この先のエリアしかない」
そう言いつつも高塚は頭をフル回転させていた。
常に最悪の事態を想定する……皮肉だが、それで生き残ったのだから。
ふと、砲撃音が高塚の耳に入った。
「近い。直ぐそこだ」
長門にそう言いながら走り続ける高塚。
そして、走り抜けた先には………
「……なに!?」
深海棲艦に囲まれているイ級が電の盾になっていた。
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