その日の夜 松島宮執務室
「それで、高塚が保護した子の様子は?」
「一時は危ない兆候もあったけど、今は安定しています。当分、安静にしていれば何の問題もありません」
松島宮に聞かれた明石はそう言って質問に答えた。
「そう……で、あの艦娘が誰か、なんだけど、工廠の見解は?」
「工廠長トシテ言ワセテ貰エバ、アノ子ハフランス艦ト考エマス」
「しかも、未成戦艦のリシュリュー型3番艦クレマンソーだ」
明石の肩に載る工廠長妖精に付け加える形で高塚が言った。
「あら、自信満々ね。証拠は?」
「あの子が抱き締める様にしっかりと持ってた、艦名プレートだ。まあ、多分、艤装に書いてあったやつだな…慣れない辞書調べは疲れたよ」
そう言って持っていた艦名プレートを投げ、滝崎がキャッチした。
「……フランス語の辞書でもひいたのか。言えば手伝ったのに」
「お前は副官の仕事があるだろう? そう言うのは暇な奴…俺みたいな憲兵の仕事だ」
「おいおい…そうなると、帰属問題上、上司になるのは…」
滝崎の言葉に自然と皆の視線がシェロンへと向く。
「え、あ、私!?」
「「「「いや、当然でしょう」」」」
カルメンを含めた4人から総ツッコミを受けるシェロン。
「まあ、先ずは回復を待つしかないな…今日はお開き」
……こうして、その日は終わった。
翌日 マルタ島鎮守府
「だーかーらー! 無駄使い禁止って言ったよね!!」
「お、お、落ち着け!!」
「そうだぞ、滝崎。上官殺しで逮捕なんて嫌だからな」
朝も早くから滝崎の怒鳴り声が響き、松島宮が慌て、憲兵高塚がのんびり止める声が執務室から聞こえる。
それを不知火と羽黒が扉の前で聞いていた。
「え、えっと…提督は何をなさったんですか?」
「また、副官に無許可で建造を行ったらしく、その事を咎めらているのだと思います」
羽黒の問いに慣れたと言わんげに素っ気なく答えたる不知火。
「なんだか…立場が反対ですね」
「本来なら、反対でも良い様な気もしますが…」
「あの2人はあれでいいのよ」
そう言って2人の会話に入ってきたのは加賀だった。
「あの方がバランスがいいのよ。まあ、提督は建造以外で暴走する事はあまり無いけど」
珍しく微笑みながらそう言ってドアをノックする加賀。
「副官、加賀です」
「あっ、加賀か。うん、入っていいよ」
滝崎の言葉にドアを開けると、頭に手をあてる滝崎、椅子に背を預ける松島宮、「ダメだこりゃ」と言いたげに両手を肩まで上げている高塚がいた。
「で、何か用事かい、加賀?」
「はい、新造艦の比叡さんをお連れしました」
「お久しぶりです! 金剛お姉様の妹分、比叡です! 恋も戦いも副官には負けません!!」
「なんで俺なんだよ!?」
比叡の紹介にツッコミを入れる滝崎。
比叡は比叡で松島宮とハイタッチを交わして、互いにニヤける。
「なんか、あったのか? 提督と比叡って?」
「さぁ、私も何でも知ってる訳でもないから」
「それもそうか」
そう言って2人は視線を滝崎を挑発する比叡に向けた。
暫くして………
「まったく、結局、何で親しいのか教えてくれなかったし…」
ムッスーと不機嫌な表情を露わにしつつ、高塚、加賀、羽黒、不知火と共に廊下を歩く滝崎。
「まあ、あの様子だと、意外にお前の事じゃあないか?」
「そうか? 逆に金剛の事な様な気もするがな…やめた、やめた、とりあえず、間宮行こう、間宮」
「「お供します」」
「あっ、私もお供します」
間宮と聞いて間髪入れずに返答する加賀、不知火と控え目に返答する羽黒。
これに滝崎は苦笑を浮かべながら間宮へと足を向ける。
甘味処『間宮』に入ると暇をしていると艦娘達がそこここの席に就て各々で楽しんでいた。
「さて、何処に座ろう」と考えていた時に高塚が外のテラス席に座る扶桑とヴァリアントを見付け、更にヴァリアントと扶桑も気づきいたらしく、滝崎達に手を振るのでお邪魔する事にした。
「おはようございます、御二方」
「Hello、タキザキ。朝から元気ね」
「あぁ、執務室のあれは空元気ってやつですな」
「まあ…聞きましたよ、また、提督が無断で建造したそうで」
「比叡さんが出ました。それで、比叡さんと提督が仲がいいので、少し不機嫌なの」
滝崎、ヴァリアント、高塚、扶桑、加賀と会話が回り、加賀の言葉にヴァリアントと扶桑が「あぁ」と言いたげに頷く。
「なら、早く金剛を出して欲しいわ。ここの紅茶もいいけど、イギリス流も久々に楽しみたいわ」
「努力致します」
今はこうしか答えられない。
「羊羹セット5つ、お願いね」
「ヤー、わかりました」
そして、その横で神鷹に人数分を注文する加賀。
羽黒、不知火はメニューを見て次の物を品定めする。
それに苦笑いを浮かべる滝崎だった。
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