1週間後……マルタ島鎮守府 松島宮執務室
「スペイン海軍から、大西洋側の深海棲艦に目立った動きは無い、と報告が入ったわ」
「同じくフランス海軍からもね」
カルメンとシェロンからの報告に松島宮は滝崎に顔を向ける。
「つまり、奪還は完了、と受け取っていいのだな?」
「もう一戦か、二戦は覚悟してたけどね。いやにアッサリと退いた気はするが……まあ、警戒は必要だけど、そう考えてもいいんじゃあないかな?」
「そうか、奪還は完了か。ふむふむ……今夜は宴会だ! 久々に飲んで、食って、騒ぐぞ!!」
「結局、そうなるのかよ。まあ、いいけど」
カルメンとシェロンがズッコケ、滝崎は呆れながらツッコミ、大淀と五月雨が苦笑いを浮かべる。
「別に構わないだろう? 改ニ組のおめでとう会も慰労会もアトランタの歓迎会もまだなんだぞ? やろう! いや、やれ!!」
「はいはい、今から間宮さん、鳳翔さんと打ち合わせてくるよ」
後を4人に任せて滝崎は執務室から退出した。
もう、こうと言ってしまった松島宮が退くわけ無いと滝崎は知っているからこそ、それに乗ってしまった方がいいとわかっていたからだ。
暫くして……
「では、後はよろしくお願いします」
「はい、わかりました」
「副官も無理をなされないように」
「あはは、久々の宴会に出れないなんて、もったい無いですよ。引き際をわきまえて、今日は過ごしますよ」
間宮、鳳翔との打ち合わせも終わり、そう言って別れた滝崎。
そのまま滝崎は少し寄り道感覚で軽く鼻歌を歌いながらビーチへと足を向けた。
すると、ビーチにアトランタが居た。
「どうしたんだ、アトランタ? いつも一緒の陸風や第六駆逐隊達はどうした?」
「あっ、滝崎副官。ちょっと1人でブラリと歩きたくなりまして…いまから戻りますね」
「いやいや、あまり無理をなさらずに。私も帰るところですし、途中まで付いて行きますよ」
そう言って少し足元がふらつくアトランタを支えながら、滝崎は鎮守府に向かう。
「どうですか、鎮守府は? 太平洋と違いますから、色々と慣れますか?」
「大丈夫です。フレッチャーに暁、他にも鳳翔さんや神鷹が気にかけてくれていますから。怪我もフレッチャーと暁が連れてくる駆逐艦の子達のお陰で良くなりましたから」
「まあ、確かにあの子達のお陰で回復も早かったですからね。明石からも色々と聞いてますので」
「はい……そう言えば、こうして副官とお話したのはどちらの世界でも初めてですね」
「あぁ、そうですね。ただ、ニューヨーク沖海戦での一件は話題に上がりましたけど」
「あれは……まあ、その場の勢いと言う事で…」
「あはは、わかりました。あっ、今夜は宴会がありますから、無理はなされない様に。あなたの歓迎会も兼ねていますからね」
「よろしいのですか?」
「ほら、松島宮も何気に騒ぐのが好きだから」
「あぁ〜、なるほど」
その日の夜 イベントホール
「では、地中海西部奪還お疲れ様&改ニおめでとう&アトランタよろしく宴会を始めます!!」
「いや、長いよ、松島宮」
松島宮の長い宴会名(?)紹介とそれにツッコミを入れる滝崎の前振り(?)によって宴会が始まった。
「いやいや、お疲れ様。漸くひと段落ついたよ」
そう言って滝崎は加賀、羽黒、川内、不知火の杯にお酒を注ぐ。
「ねぇ〜、副か〜〜ん、あのゴーグル、増やしてもいいよね?」
「川内、その話は明日な。確かに性能がいいのはわかったが、俺1人がどうにかなる範疇を越えてるからな」
「川内さん、せっかくの宴会に仕事関係は持ち込まないようにお願いします」
「そうよ、せっかくの宴会に水をささない事よ」
「あ、あの、お二人共、その辺に…」
滝崎の横に陣取り、またもや強請ろうとするのを不知火と加賀が棘を刺し、それを羽黒が止める。
それを苦笑いを浮かべながら見ていた滝崎の背中にいきなり圧力が加わった。
「ふーん、副官の所は賑やかね」
「あっ、ヴァリアントさん。扶桑さんと飲んでいたのでは?」
「扶桑は時雨達と飲み始めたわ。だから、ちょっと手持ち無沙汰なの」
「なるほど…あっ、大鳳はどうですか?」
「アークロイヤルが世話をしてるわ。でも、お互いに似た者同士だから、結構上手くやってるわよ」
「それはよかった。本当だったら、日本空母と組ませるのがベストとはわかっていますが、誰も彼も手が離せない状況ですので」
「ふーん…まあ、仕方ないわね。でも、今は良いコンビよ? まさか、無理矢理引き剝がしたりしないでしょうね?」
「まさか…また、機会があれば本人に希望を聞いてみます。とりあえず、今がいい状態なら、無理矢理動かす事もないでしょうし」
「そうね…じゃあ、私は提督と霧島の相手でもしてくるわ」
そう言ってヴァリアントは手を振って分かれた。
「ヴァリアントさん、結構柔らかい方なのね」
去って行くヴァリアントを見ながら加賀が呟いた。
「自分の不幸話を笑い話に変えれる人だ、って第六駆逐隊達が言ってたからな…まあ、中堅さんが増えるのは指揮統制を考えると、両手を挙げて喜べる事だけど」
「そもそも、この鎮守府は国際色が強すぎます。まあ、場所が場所なので仕方ありませんが」
加賀の呟きに滝崎が応じ、不知火がツッコミの様に言う。
「あら、誰かと思えば、滝崎副官ではないですか」
わざとらしい言い方に、そちらへ視線を向けるとレキシントンが居た。
「……貴女ね。少しは口が直らないの?」
「加賀さん、いっその事、一発ぶち込んでみては?」
「こら、2人共、やめなさい」
またもや戦う気満々な加賀と不知火を抑える、言われている本人の滝崎。
「あら、そんな危険な野獣も飼い慣らせないの? 大変ね」
「いや〜、これでも大人しい方なんだけどね」
殺気を出しまくる2人を抑えながら、滝崎は苦笑いを浮かべて言った。
「その上、夜戦、夜戦と五月蝿い軽巡の娘…」
「夜戦は良いよ! 夜戦は!」
「こら、川内。目をキラキラさせて主張しない」
レキシントンの言葉に目をキラキラさせる川内に滝崎はツッコミを入れる。
なお、羽黒は加賀と不知火を抑えるので手一杯である。
「………レキシントンさん、ですか?」
そう声を掛けたのはアトランタだった。
アトランタは暁に支えられながら来たのだが……どうも、顔が引きつっていた。
「あなたは…アトランタ…?」
「…私はサラトガさんから姉である貴女の事を色々と聞いています……でも、貴女は本当にレキシントンさんですか? 私が聞いたサラトガさんのお姉さん、レキシントンさんは貴女の様に憎悪に歪んではいませんでした!」
そう言ってアトランタは身体のバランスを崩す。
それを暁と滝崎が慌てて支えた。
「無理をするな、アトランタ。誰か、暁と一緒にアトランタを病室へ」
そう言って周りに指示を飛ばす滝崎。
そして、横目でいつの間にかレキシントンが消えている事を確認した。
「滝崎副官…私は暁ちゃんを撃沈しました……あの真っ直ぐな瞳を持つ子を撃沈して……死ぬまで後悔して……でも、あっちではボロボロになったところを暁ちゃんや皆さんに助けていただいて……お願いです、副官……レキシントンさんを素に戻して下さい…お願いします…」
そう言ってから暁達に支えられながら去っていくアトランタに滝崎は黙って見ていた。
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