2日後……西地中海中央部海域入り口 コエトロゴン艦橋
「……いよいよね」
双眼鏡を構えたまま呟くシェロンに副長が静かに頷く。
また、航海長以下艦橋要員全員が硬い表情で己の役目を果たしていた。
駆逐艦コエトロゴンを中心にエミール・ベルタン、青葉、ベアルン、鳳翔、アルバトロス、雪風の艦隊は攻略予定海域である西地中海中央部海域へと到達した。
そして、コエトロゴン乗組員を含めたフランス組は緊張で表情が硬い。
何故なら……これがフランス軍が主体となった作戦であり、決して失敗出来ないからだ。
更にコエトロゴンの乗組員には反攻作戦以来の戦闘であり、今までの雪辱を果たすと共に艦娘と組んでの初戦闘である為、緊張しない訳がなかった。
「……マイクを」
シェロンの求めに応じ、副官がマイクを渡す。
受け取ったシェロンは一度深呼吸をすると、覚悟を決めて口を開いた。
「こちら、艦長のシェロンだ。乗組員、艦娘、どちらも聞こえているな? これより、攻略海域に突入する。海軍の面子の保持の為に立案された様な戦いだが…今はそんな事を忘れ、ただ、目の前の敵に集中してくれ」
そう言って1拍置き、そして、続ける。
「だが…我らもやれる、戦えると言う事を示す機会でもある。待ちに待った反撃の時だ! 総員、暁の水平線に勝利を刻もう! 以上だ」
マイクを副長に渡し、一息吐きながら心中で呟く。
(まあ、日本の艦娘に手伝ってもらう、と言う格好悪い話だけど…松島宮達の為にも、ここは勝たないとね)
現状に溜め息を吐きつつ、シェロンは勝つ気でいた。
3時間後………
「敵水雷戦隊、全滅しました」
「わかった」
先鋒とも言える敵水雷戦隊を撃滅した攻略艦隊……だが、コエトロゴンの誰も喜ぶ素振りは見せない。
なぜなら……水雷戦隊程度なら、通常艦艇の攻撃でミサイルのアウトレンジ攻撃で倒せる。
そんなのはフランス海軍の誰もが知っている事だ。
問題はこの後に控えている通商破壊部隊の事である。
「艦長、バレアレスより入電。重巡洋艦を主体とする通商破壊部隊を撃滅、との事です」
通信士官からの報告に全体の空気は更に緊迫したものになる。
「確実にヲ級主体の機動部隊と戦う事になりますな」
「えぇ…いよいよ、正念場ね」
副長の言葉にシェロンが頷きながら答える。
偵察の結果、ヲ級2、重巡1、軽巡1、駆逐艦2の編成であり、数的には互角ではある……が、軽空母と搭載機少数の正規空母と言う若干の不安要素があった。
「後は如何に戦うか、ね。まあ、博打に近いけど」
同じ頃……艦娘組
「バレアレスさん達が後詰めを叩いてくれた様ですね」
コエトロゴンの通信をデータリンクで傍受した青葉が言った。
「そうですか…各員、残弾の報告を」
『ゆっきーと私は残弾3分の2』
『私も鳳翔さんも残弾同じ。艦載機は全機健在です』
アルバトロスとベアルンから互いのペアを含めた報告が入る。
「青葉さんの方はどうですか?」
「私も同じですね。まあ、これからが本番なので抑えましたけど」
「…そうですか」
経験の差と言うべきか、戦闘をやりながらの指揮でいっぱいいっぱいのエミールに対して、青葉の答えに少しへこむ。
それを察したのか、青葉が言った。
「大丈夫ですよ。何度も経験していけば、慣れて周りを見る余裕が出てきますから。それより、一言お願いします!」
……せっかくの良い発言が最後の一言で崩れてしまった事にエミール・ベルタンは苦笑いを浮かべるしかなかった。
暫くして………
「レーダーに反応…来ました! 敵の攻撃隊です!!」
フランス海軍が出してくれたアトランティクMk2哨戒機が発見した敵本隊からの攻撃隊飛来をオペレーターが報告した。
「……対空迎撃戦、用意!!」
シェロンの指示に主砲・各種ミサイルの安全装置が解除され、増設され防水カバーが掛けられいたF2 20㎜機関砲が姿を現し、更に特設銃架に12.7㎜機関銃やFN-MAG7.62㎜機関銃が設置され、携帯SAM、手空きの乗組員が出した個人携行のFA-MAS G1アサルトライフルまで持ち出して対空戦に備える。
「ベアルン、鳳翔の迎撃隊が攻撃隊と接触! 交戦開始しました!」
「対空ミサイル発射用意! 迎撃隊との距離が取れ次第、ミサイル発射!」
シェロンの指示にミサイルに標的がセッティングされていく。
「敵攻撃隊、離れます!」
「ミサイル発射!」
次々にミサイルが発射され、セッティングされた標的に向かっていく。
そして、命中・撃破を示すかの様にレーダーから幾つかの反応が消滅する。
「総員近接対空戦闘用意。全周囲厳警戒! レーダーは高高度! 艦娘と甲板見張り員は低空を警戒せよ! 来るぞ!!」
「総員低高度警戒! 敵攻撃隊が来ます!」
シェロンからの指示にエミールが伝える。
「青葉です。接近中の敵機の行動詳細をお願いします」
『こちら、コエトロゴンのオペレーターです。敵攻撃隊は現在、左舷側よりふたてに分かれて接近しています。一方は上昇、一方は降下中です。なお、降下中の部隊は少数です』
青葉の問いにコエトロゴンのオペレーターが丁寧に答える。
「わかりました〜、ありがとうございます。さて、エミールさん、どうやら、敵雷撃隊は少数です。どうしますか?」
「どうしますか…ですか?」
質問の意図を掴めず、エミールは質問で返してしまう。
「はい。雷撃機ならば、レーダーの支援さえあれば私達の主砲でも対処出来ます。では、残りの火器と意識を何処に振り分けますか?」
そう言われ、エミールはハッとしながら、ヘッドセットに向かって言った。
「シェロン艦長! 低空の雷撃隊は此方で対処します! そのかわり、敵爆撃機の対処を!」
『…わかったわ、カバーは任せて。オペレーター、レーダーで距離と速度、未来位置をエミール達に伝えて!』
『わかりました。敵雷撃隊、編隊にて左舷側より速度400で接近してきます』
「了解、砲撃用意! 信管調整!」
エミールの指示に単縦陣から輪形陣に変えながら青葉、ベアルン、雪風、アルバトロスは対空戦闘の用意を行う。
『雷撃隊、距離6000に接近!』
「撃て!!」
オペレーターの報告に砲撃を開始する。
発射された砲弾はコエトロゴンの適格なオペレートによって雷撃隊の鼻先で炸裂した。
『敵爆撃隊接近!』
『速射砲、ミストラル・ミサイル撃て! 各銃座も各個に応戦!』
艦首側の2門の76㎜速射砲と艦尾側のミストラル・ミサイル発射機が対応し、敵爆撃機が次々に墜ちていく……が、やはり全ては捌けない。
「くそ、化け物がきやがった!」
「ミストラルを持っている奴は個々に狙って撃て! 銃座と手空きは射撃態勢だ!」
「来てみろクソッタレ! 撃ち落としてやる!」
コエトロゴンの甲板では指揮官の命令に携帯SAM班が発射機を構え、機銃・小銃班は射撃態勢をとる。
「いや〜、皆さん燃えてますね〜」
「当然です。今までの屈辱を晴らせるかどうかですから」
青葉の呟きにエミールが答える。
「そうですか〜。まあ、燃えるのはいいですけど、燃え過ぎは危ないですからね」
「えっ? 青葉さん、何か言いました?」
「いえいえ、独り言です。それより、敵機に集中しないと、当たっちゃいますよ?」
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