2日後 マルタ島鎮守府 松島宮執務室
「つまり、昨日の戦闘を見る限り、エミール・ベルタン達の投入に問題はない…と言う事だな?」
「はい。6対3の数的劣勢をベルアンの航空支援があったとは言え、これを跳ね返し、私達の援護を必要としなかった…私達の判断は『可』です」
エミール・ベルタン達らフランス組の海域攻略投入を決める排他的経済水域に侵入する敵偵察艦隊迎撃戦。
ただ、普段で有れば軽巡と駆逐艦の3隻程度の艦隊の筈が、今回は重巡・軽巡各1隻、駆逐艦4隻の艦隊で来襲した。
これに対し、苦戦は予想されたが予定通り試験を兼ねた迎撃戦を行う事を決定した。
無論、イザとなれば評価官役の神通、五十鈴、霧島、扶桑、鳳翔、朝顔を『増援として派遣する』と言って3人を迎撃に向かわせた。
だが、その必要はなかった。
実戦経験豊富な神通達から厳しい指導を受けた3人は数的劣勢をものともせずに迎撃戦を展開し、見事にこれを撃破・殲滅していた。
「疲れているのに呼び出して済まなかったね。下がって休んでくれていいよ」
「わかりました。失礼します」
神通からの聞き取りが終わり、質問していた松島宮が滝崎に頷き、滝崎は神通の労を労うと退室させた。
そして、残った松島宮、滝崎、カルメン、シェロンが互いに顔を寄せる。
「神通達の評価は適正だと私は思うが…カルメンとシェロンは?」
「私も神通の評価を認めるわ」
「私は神通もエミール達も信じる」
「全会一致、投入確定だね」
カルメンとシェロンの意見を聞いた滝崎は松島宮に話をふった。
「うむ…では、編成についてだが…シェロンはどうする?」
「艦隊編成は……エミール達に任せるわ。それがいいような気がするの」
「そうか…まあ、今回はフランスが主体だからな。それは任せよう。カルメン、援護部隊の準備は?」
「そっちは大丈夫。バレアレスを中心とした慣れた部隊だもの。敵の後詰めは潰してやるわ」
「うむ……では、滝崎。後は頼んだ」
「…って、編成の事は俺が担当?」
「あぁ、我々は未だ色々と調整する事があるからな」
「わかった、わかりました」
暫くして……滝崎執務室
「失礼します。不知火はエミール・ベルタンをお連れしました」
「うん、ありがとう、不知火。楽にしてくれ、エミール…でいいかな?」
不知火に連れて来られた為か変に緊張しているエミール・ベルタン……そう言えば彼女らと余り話した事がないな、と気付いてしまう滝崎。
「は、はい、エミールでいい…であります!」
「あっ、いや、普通に喋ってくれていいから…不知火、君は少し顔を軟らかくしたらどうだ?」
「……不知火に落ち度でも?」
「君の表情が原因でエミールが固まっているんだよ。さて、エミール。先の戦闘の評価により、フランス組の西部地中海中央部海域攻略の参加が決定された」
滝崎の言葉にエミール・ベルタンの表情が違う緊張で固まる。
「よって、これより命令を下達する。フランス海軍巡洋艦エミール・ベルタンは、駆逐艦アルバトロス、空母ベアルンを中心とした艦隊を編成し、シェロン艦長指揮の駆逐艦と協同し、海域を攻略せよ、以上だ」
そう言って滝崎はエミールを見ると……
「……………」
「……器用な事に、立ったまま気絶していますね」
「フリーズしてるの!?」
固まったエミール。そのエミールの顔の前で手を上下に振り、気絶した事を確かめる不知火。
そして、最後にツッコミを入れる滝崎だった。
暫くして……
「あの様な状態で大丈夫なのですか?」
「余り言いたくないが、国際関係が挟まれた事だからな。非情と言われ様がやってもらわないと困る」
フリーズから復活し、編成表を受け取ったエミールが退室した後、不知火の問いに滝崎が答える。
「まあ、迎撃戦ではなく、海域確保の侵攻作戦だからな。今までと役者が反対だ。しかも、初めて自ら編成して戦う訳だから…双肩には色々と載ってるんだよ」
「それを承知の上で命じているなら、副官はドSですか?」
「いや、違うぞ。断じて違うぞ。それにフランス政府がお望みなのは『フランス艦を中心にフランス艦娘の指揮下の艦隊が海域を確保した』と言う事実だ。それなら、艦隊編成は実際に戦う彼女達自身に任せるのがセオリーだ。下手に編成を押し付けたら、彼女達の身にもならないからな。それにエミールは昼間の訓練の後に神通から艦隊編成と艦隊指揮の補講をしていたからな。その成果も見せてもらう必要がある」
「……やはり、副官や提督達はドSでは?」
「……一般的に言って、それは君に向けられる言葉だと思うが?」
「不知火に落ち度でも?」
「うーん…キャラの問題かな?」
「なんですか、それは……それより、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろう。何かあれば神通とかに相談するさ」
そう言って滝崎は事務仕事に手をつけはじめた。
暫くして……エミール・ベルタンの部屋
「と言う訳で、皆の意見を聞きたいんだけど?」
部屋に戻ったエミール・ベルタンは直ぐにフランス組のベアルンとアルバトロスを招集した。
「えっと……私達に編成権を任されたのなら、自由に編成していいかと…」
「そうだよ、エミール。あっ、私はネージュ(Neige フランス語で『雪』)を入れてほしいな」
「私も……鳳翔さんを…あっ、無理はしなくていいです、はい」
それぞれ、雪風と鳳翔を推す。
「2人を入れるとして…あと1人…」
残りの1人を誰にするか……迷った挙げ句のエミールが選んだのは……。
再び滝崎の執務室
「……失礼だとは解ってはいるが、正直に言うと、こんなに早くエミールが編成を終えて来るなんて思っていなかった。この部屋に来たのも、編成の相談かと思ったよ」
エミールが持って来た編成表をじっくりと見た滝崎は顔を上げてエミールに言った。
「雪風と鳳翔が入った理由は何となく解るが……何で君は青葉を入れたのかな?」
珍しい……と言うべきか、エミールは青葉を二番艦に据えていた。
「青葉さんを入れたのは……彼女が実戦経験者で、私達との同行取材を求めていたからです」
「……まあ、あいつの事だから、言いそうではあるな。わかった、この編成を上げておこう。まあ、本国も納得するだろう。ただ、エミール、1つ言っておく」
砕けた調子から一転し、緊張感ある声を聞いてエミールは体を固くする。
「この編成はどんな紆余曲折があったにしろ、君が選んだ人員だ。だから、責任を持って連れて帰ってこい。負けても、逃げ出してもかまわない…旗艦として、全員を生きて帰還させるんだ……わかったね?」
「は、はい! し、失礼します!」
そう言ってエミールは逃げる様に退室した。
「……脅してしまったかな?」
「かもしれませんね。ですが、副官は釘を刺すことも忘れていませんね」
滝崎の問いに不知火が答える。
「己の信条を正直に言ったまでなんだが…しかし、青葉を入れるか」
「大丈夫でしょうか? 国際問題化しそうですが?」
「……まあ、その懸念は有るが、あれでも歴戦艦だ。それにあのおちゃらけ具合も時には役に立つ」
「そう言う物でしょうか?」
「そう言う物さ」
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