転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

33 / 131
作中での何気無い会話から始まった秘書艦の話が……こんな事になりました。


33 秘書艦

数日後……マルタ島鎮守府 松島宮執務室

 

 

 

「漸く、形になってきたな」

 

窓から何時もの様に川内達を相手に戦闘訓練をしているエミール・ベルタンとアルバトロスを見ながら松島宮が言った。

 

 

「『月月火水木金金』で『鬼神通』に毎日鍛えられた、大抵の艦娘は様になるよ。後はそのシゴキに耐えられるかの問題さ」

 

 

「ふむ…まあ、確かにな。だが、こうして成長している姿があるし…何とか耐えた様だな」

 

 

「あぁ。鳳翔さん達からもベアルンの錬成も完了しつつある、と報告が入ってるし…あの3人は日本流を耐えた訳だ」

「そうだな。それなら、そろそろ実戦に出すべきだが…どうする?」

 

 

「とりあえず、いきなりの中部海域投入は不味いから、マルタ島排他的経済水域に出動して、錬成具合を判断しよう。ちょうど、偵察隊とおぼしき小艦隊が侵入して来ているみたいだからね」

 

 

「神通の判定基準は高そうだが…仕方がないな。まあ、いきなりの投入は私も危ないと思うから、その案には賛成だ」

 

 

「ありがとう。さて、なら、後は事務処理レベルの問題だな。早急に片付けるとするかな」

 

滝崎のこの言い様は『自分もするから、松島宮も片付けれる物からしようね』と言う、ある意味脅しであった。

「う、うむ、そうだな…そうしよう…」

 

冷や汗をダラダラかきながら松島宮は頷いた。

 

 

 

暫くして……滝崎の執務室

 

 

 

「それで、さっそく執務ですね」

 

 

「あぁ。言い出しっぺがやってないと、拘束力が無いからね」

 

松島宮を大淀と五十鈴、五月雨に任せ、滝崎は自らが処理する執務をやっている。

そして、いま部屋には霧島と鳥海が居た。

なお、なぜ鳥海が居るのかと言うと、霧島が滝崎から本を借りてるのを聞いて、鳥海も興味を持ったらしく、霧島と共に借りに来ていたからだ。

 

 

「副官さんは真面目ですね。でも、司令官さんも真面目ですが…なんで嫌がるんですかね?」

「執務仕事、特に書類処置が好きな人間は稀だと思うがね。まあ、松島宮の場合は建造とかに熱が入るのが問題と言えば問題だがな」

 

鳥海からの問いにそう答えながら滝崎は執務を済ませていく。

 

 

「それにこれを怠ると皆が戦えなくなる可能性があるからね。そんなリスクを生むなんて出来ないよ」

 

 

「それなら、副官も秘書艦が必要なのでは?」

 

 

「秘書艦ね…副官兼秘書官に提督と同じく秘書艦を付けるとなると…秘書官に秘書艦となって……ややこしくなりそうだな。まあ、今のところは大丈夫だけど」

 

そう言って滝崎は書類に自分の名前と判子を押して、『処理済』の箱に放り込んだ。

 

翌日………滝崎の執務室

 

 

 

「新人? 今から来るって?」

 

 

『あぁ。最低値で建造・完成した子をそっちに向かわせた。じゃあ、頼んだぞ』

 

 

「わかった、じゃあ……事後とは言え、電話で言って来るなんて…明日は嵐か?」

 

松島宮からの電話で、建造で完成した新人艦娘がそっちに来ると知らされ、知らされた事に珍しさを感じた滝崎。

そして、その知らせ通りに暫くしてからドアがノックされた。

 

 

「どうぞ」

 

 

「失礼します。駆逐艦不知火です。御指導、御鞭撻、よろしくです」

 

入って来たのは陽炎型駆逐艦二番艦不知火だった。

 

 

「よろしく、不知火。この鎮守府副官の滝崎だ」

 

 

「はい、よろしく」

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

……実は滝崎は不知火が来てから奇妙に思っていた。

それは……何か空気が違う事に。

 

 

「………………」

 

 

「………………」

 

 

「……………あれ? 不知火、君は何と言われて、こっちに来たの?」

 

 

「不知火ですか? 松島宮少将から副官の秘書艦を仰せつかりましたが…何か落ち度でも?」

これを聞いて漸く滝崎も空気の違う原因がわかった。

よって………

 

 

「……おい、聞いてないぞ…あっ、わざとか」

 

そう言って、内線電話のボタンを松島宮の執務室番号を押し、通じてからの第一声。

 

 

「あぁ、松島宮。いま不知火が来てるが…どう言う事か説明せんかい!!」

 

 

 

 

暫くして……

 

 

「やれやれ…悪戯心からあえて言わなかったって…まあ、いいけどさ」

 

そう呟きながらも滝崎はてきぱきと書類処置をしていく。

そして、暫くして、いまある全ての処理が完了してしまった。

 

 

「はい、終わり。とりあえず、いまある分は……どうした、不知火?」

 

ふと不知火を方を見ると、不知火は肩を落としていた。

 

 

「……副官が普通に執務をされているので…不知火の存在意義が解らなくなりました」

 

 

「おいおい…そう気を落とすな、不知火。秘書艦の仕事はそれだけじゃあないだろう?」

 

 

「……秘書艦……不知火の存在意義……落ち度……ブツブツ……」

 

 

「(あれ? なんでこうなったんだ??)し、不知火。時間もあるし、間宮さんのところに行こうか?」

 

 

「……はい、行きます」

 

クール駆逐艦娘の不知火の変わり身は早かった。

 

 

 

甘味処 間宮

 

 

「とりあえず、食べたいのを注文していいよ」

 

 

「わかりました」

 

そう言って開いたばかりで人の居ない店内のカウンター席に座る滝崎と不知火。

すると、奥から間宮が出てきた。

 

 

「あら、滝崎副官。不知火ちゃんと来たんですね」

 

 

「おや、間宮さんは不知火の件をご存知だったので?」

 

 

「はい、ちょうど提督に用事がありまして」

 

 

「なるほど。さて…ん、パフェのメニューが増えたんですね」

 

 

 

「はい、駆逐艦の子達からの要望で増やさせてもらいました」

 

 

「ふむ、どれどれ…抹茶とソフトクリーム、つぶ餡のパフェか、これを1つ。不知火は?」

 

 

「苺タップリソフトクリームパフェ、大盛りで」

 

 

「お、おう…」

 

即決な上にいきなり大盛り注文だった。

 

 

「はい、わかりました。少しお待ち下さいね」

 

そう言って間宮は奥に入っていった。

 

 

 

 

「ふむ、美味い」

 

 

「副官に同意見です」

 

注文したパフェが届き、それぞれ手をつける2人。

ただ、不知火の場合はクールな言葉の割には減りが早く、次々に口の中に収まっていく。

 

 

「Hello、間宮……と滝崎副官も居たのね」

 

艤装を外したレキシントンが店内に入ってきた。

 

 

「やあ、レキシントン。調子はどうかな?」

 

 

「貴方がいなければ最高よ。間宮、珈琲と何時ものをお願い」

 

 

「はい、少々お待ち下さいね」

 

そう言って間宮が奥へ引っ込んだ。

 

 

「なんだ、普段余り見掛けないと思ったら、間宮さんの所にきてたのか?」

 

 

「別に私の時間だから自由にしていいでしょう? それに時間を潰すにはここがちょうどいいのよ」

少し刺のある返しだが、滝崎は気にしない……隣に居る人物は別だが。

 

 

「……副官に対して口の聞き方がなっていませんね」

 

 

「あら、私はこの副官が嫌いなの。でも、最低限の礼儀は守っているわよ?」

 

 

「ならば、ますますその口の聞き方と態度を改めてもらう必要がありますね」

 

 

「……不知火、間宮で喧嘩をおこすなら、出入り禁止な。レキシントンもあえて乗るな」

 

 

「……わかりました」

 

 

「……ふん」

 

……もの凄く空気が悪くなった時に間宮が戻ってきた。

 

 

「はい、珈琲とクッキーアイスとチョコのパフェです」

 

 

「Thank You.いただきます」

 

そう言って幸せそうな顔で一口食べるレキシントン。

 

 

(なんだ、レキシントンもそんな顔が出来るじゃん)

 

普段の強面な表情を見慣れていた滝崎には新鮮だった。

 

 

 

次号へ

 




ご意見ご感想をお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。