転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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題名通り……でも、後半がちょっと……。


31 威力偵察

翌日……マルタ島沖合い

 

 

 

「まったく、何が『偵察任務』だよ。そのまま攻略しちまえばいいのに」

 

バレアレスを先頭に摩耶、鳥海、時雨、夕立、U954の6隻は偵察任務の為に出撃した。

偵察場所は西地中海中央部……つまり、件の海域である。

そして、その命令に愚痴を漏らす……いや、愚痴を言いまくる摩耶。

 

 

「もう、摩耶ったら…それが命令なんだから、仕方ないでしょう?」

 

そして、その愚痴を聞いて宥める鳥海。

だが、事情を知るバレアレスにしてみれば……仕方無いと思って諦めてもらうしかない、と言いたかった。

 

(ここが太平洋であれば、他の国のメンツなんて気に掛ける必要はない…でも、地中海で長期任務となるとそうもいかないから……皆さん大変ですね)

 

松島宮や滝崎、カルメンの苦労をそれなりに知るバレアレスにとってみれば、今はこうしていられるだけマシであった。

そして………

 

 

(……姉妹ですか…羨ましいな)

 

摩耶の愚痴を宥める鳥海、帰還後の予定を決めている時雨と夕立……自らが妹である事で姉にばかり迷惑を掛け、それに報いる事なく沈んだ自分を思い出しながら、無邪気に話す二組の姉妹にバレアレスはついつい羨ましがってしまう。

 

 

『バレアレスさ〜ん、こちら、クイヨで〜す。少し速度を落としてもらえませんか〜。追い掛けるので手一杯で〜〜す』

 

 

 

「えっ、あっ、すみません! 皆さん、クイヨさんがキツいのでペースを落として下さい」

 

そんな物思いもクイヨからの通信で中断し、艦隊指揮に専念するバレアレスだった。

 

 

 

西地中海中央部海域

 

 

 

「これで…最後ぽい!!」

 

そう言って夕立の放った魚雷が重巡リ級を吹っ飛ばした。

 

 

「はぁ〜、重巡と輸送艦なんて歪な編成でこの摩耶様達に敵うわけないだろうって」

 

先鋒の水雷戦隊を撃破し、補給部隊と接触し、これを撃破したバレアレス達。

 

 

「(……ですが、弾薬は半分を切りましたね。今回はこれでいいでしょう)皆さん、今回はここで帰還…」

 

しましょう……と言えなかった。

次の瞬間、彼女達に砲弾が降り注いだからだ。

 

 

「な、何がおきたっぽい!?」

 

 

「これは…戦艦クラスの砲弾!」

 

時雨が冷静に分析し、砲撃が戦艦である事を導き出す。

 

 

「へっ、弱っちい敵ばっかりで退屈してたとこだ。この摩耶様が相手するよ!」

 

「摩耶ちゃん!」

 

鳥海の叫びも闘志に火が着いた摩耶には聞こえていない。

 

 

「総員再度戦闘用意! 残弾報告!」

 

 

「こちら、時雨。残弾は砲弾がマガジン2つに装弾中の半分。魚雷は一回分」

 

 

「夕立も似た物ぽい!」

 

 

「私の方はマガジン1個と魚雷一斉射分しかないわ」

 

時雨、夕立、鳥海の報告を聞いたバレアレスは自身の残弾を確認する。

 

「……私もマガジン1個と装填している半分。魚雷も一斉射分です。摩耶さんは?」

 

 

「魚雷は私達と一緒です。ただ、砲弾は…」

 

 

「喰らいやがれ!!」

 

鳥海が代わりに答えようとするのを遮るかの様に砲撃を開始する摩耶。

しかも、連射である……あっという間にマガジンが空になる。

 

 

「……いま装填したのが最後のマガジンです」

「…………」

 

なんと言っていいのかわからないバレアレス。

 

 

「敵艦捕捉、戦艦1……だけ?」

 

そんな中、敵戦艦を捕捉した時雨が報告した……疑問符をつけて。

 

 

「1隻だけ? 他にいないの?」

 

 

「うーん…時雨の言ってる通りぽい」

 

鳥海の問いに夕立が答える。

 

 

(妙ですね…戦艦は例の輸送船団に引っ付いているものでしょうけど…何で単騎で? 何かの罠??)

 

時雨達の報告に思考を巡らすバレアレス。

その間にも摩耶はお構い無しに砲撃を続ける。

 

 

「……不味いですね。摩耶さん! 撤退します!」

罠の可能性もあり、しかも、時間が経てば敵の増援が来る事が決まっている為、バレアレスは当初の予定通りに撤退する事を決め、摩耶に向かって叫ぶ。

 

 

「なに!? 敵艦は戦艦1隻なんだぜ? この摩耶様がちょちょいと…」

 

そう言った直後、不意を突いたかの様に摩耶へ砲弾が直撃した。

 

 

「摩耶ちゃん!?」

 

 

「……っぅ…ちっ、喰らっちまった…」

 

どう見ても大破にしか見えない摩耶。

 

 

「撤収します!! 摩耶さんをかい…!?」

 

そして、バレアレスが気付いた……その摩耶の前に戦艦タ級が立っていた。

 

「摩耶さん!!」

 

思わず叫ぶバレアレス……次の瞬間、タ級に次々立ち上る水柱。

 

 

『もう! 皆、私の事を忘れすぎです!!』

 

それは海中に居るクイヨからの主張とも取れる雷撃だった。

 

 

「でぇぇい!!」

 

その隙を突き、砲身が折れた20.3㎝連装砲塔でタ級の顔面をブン殴る摩耶。

 

 

「…………」

 

 

「……元気ぽい」

 

 

「……あっ、撤収!! 全速力で撤収します!!」

 

 

「なに!? なんで…って、鳥海!?」

 

 

「はいはい、摩耶ちゃん。今の内に撤収するわよ」

反抗しようとする摩耶に対し、鳥海が襟首を掴んで引っ張っていった。

 

 

 

その日の夜……鎮守府内居酒屋『鳳翔』

 

 

 

「だああ!! あそこで撤収命令が出てなければな〜!!」

 

……帰還後、ドックに放り込まれ、修理が完了した摩耶は鳥海、バレアレスを伴い、居酒屋『鳳翔』の一席でやけ酒を飲みながら愚痴っていた。

 

 

「だいたい! なんで撤収命令が出たんだよ!!」

 

実はタ級との戦闘中に滝崎から撤収命令が通知されていた……バレアレスは戦闘後に気付いたのだが。

 

 

「あぁ、もう! あのクソ副官が!!」

「誰がクソだって?」

 

その一言に鳥海が振り向くと……摩耶の後ろに滝崎が立っていた。

 

 

「お疲れさま、バレアレス、鳥海、摩耶。それと、摩耶はあまりそんな事を公言するなよ。あっ、鳳翔さん、お任せしてよろしいですか?」

 

 

「はい。お任せ下さい」

 

返事と共に肴の準備に入る鳳翔から滝崎は視線を移す。

 

 

「あっ、あっ、ふ、副官…何でここに居るんだ?」

 

 

「うん? どっかの誰かさんが確実に愚痴ってるだろうな〜、と思ってな」

 

そう言って滝崎は手近にあった未使用のコップに自らビールを注ぎ、一口飲む。

 

 

「その誰かさんの愚痴を聞いてやらんとな。言い出しっぺだし」

 

そう言ってビール瓶を摩耶の方に向ける。

 

 

「……ご機嫌取りかよ…はあ…」

 

そう言いながらコップを傾ける摩耶だった。

 

 

 

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