転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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26 掃討任務 後編

バレアレス艦橋

 

 

 

「艦長、そろそろお時間です」

 

 

「……あと少し、続けましょう」

 

目の前に現れた深海棲艦と思われる多数の残骸に最初こそカルメン達も驚いたものの、直ぐに短時間の調査を開始した。

雨が降る中ではあったが、島風、陸風、乗組員数名が付近の捜索にあたっている。

そして、副長は捜索打ち切り時間である事をつげたのが先程の一言であった。

 

 

「下手に長時間留まれば、この雨がやんでしまい、我々はまた捕捉される可能性がありますが?」

 

 

「わかっている…だが、先の事と言い、現状と言い、何かおかしい……それも解らずに進むのは危険だ」

「そうですが……そろそろ引き上げませんと…」

 

 

「うむ……航海長、そっちの様子は?」

 

 

『艦長ですか? 捜索ですが、ダメですね。残骸ばかりで…こんな事になった原因を見付けるのは難しいですね』

 

ボートで捜索にあたっていた航海長はカルメンからの通信に困惑な声で答えた。

 

 

「それは仕方ないだろう。それと、そろそろ引き上げ…」

 

 

『ん、あれは…島風…あんな猛スピードで…うわ!?』

 

通信機の向こうで何かがぶつかる音とマンガで言うドタンバタンの騒がしい音が聞こえた。

 

 

「……航海長、どうしたの?」

『た、大変です! し、島風が…半分深海棲艦の艦娘を運んで来ました!』

 

 

「なっ…メディクはストレッチャーの用意! 保護カプセルの用意も…一刻を争う、早く!!」

 

 

 

暫くして……バレアレス艦橋

 

 

 

「半棲半艦…って言うのかしらね?」

 

 

「うむ…本官は答えかねます」

 

 

「自分も初めて見た時も思いましたが……半分半分ですね」

 

島風が回収した浄化途中の艦娘を保護カプセルに収容され、それをカメラ越しに見るカルメンらバレアレスの幹部3人。

 

 

「しかし、結局はあの状況の原因は掴めませんでしたね」

「我々に対する罠…と言うのは?」

 

航海長の言葉に副長が一つの案を出した。

 

 

「罠なら、他に方法もあるし、わざわざ圧倒的有利な数的利点を自ら削るかしら?」

 

 

「……そうですな」

 

 

「結局、何も解らないまま、浄化途中の艦娘を収容しただけ…ですか」

 

 

「……そうね」

 

そう呟きながら、カルメンは未だ降り続ける雨とその海面を見ていた。

 

 

 

それは突然だった。

幸運とも言える雨がやみ、艦娘達を展開した通常警戒に移ろうとした時、前方から『人が2人』が海上を走って来た。

「人型の深海棲艦? あるいは艦娘?」

 

 

「どっちでもよい! 島風、陸風を出せ!」

 

カルメンからの指示に海に降りようと両舷の甲板で待機していた島風と陸風が飛び降りる。

そして、機関全速で接近してくる2人に向かっていく。

 

 

「こちら、日本帝国地中海派遣艦隊マルタ島鎮守府所属の駆逐艦陸風です。貴官の所属と艦名を名乗りなさい」

 

率いる単装砲ちゃん5体に砲撃態勢を取らせて誰何する陸風。

 

 

「フランス海軍機雷敷設軽巡洋艦エミール・ベルタンです」

 

 

「同じくフランス海軍駆逐艦アルバトロスです」

「……え??」

 

 

「えっと…少々お待ち下さい」

 

疑問符を浮かべる島風の横で、そう言って陸風はバレアレスに通信を繋ぐ。

 

 

「カルメン艦長、探知した2人はフランス海軍の艦娘と言っていますが?」

 

 

『フランス海軍? でも、フランス海軍が艦娘を出してるなんて情報は……そもそも、フランス海軍に艦娘が居るなんて情報が…わかった、直ぐに収容して…』

 

 

『艦長! レーダーに反応!! 深海棲艦の艦隊と多数の航空機!!』

 

2人の会話に割り込むかの様にオペレーターが叫ぶ。

 

 

『こんな時に…陸風、島風。2人をバレアレスに! バレアレス達は全員出撃! 総員対空戦闘用意! 先手を取られたから、近接対空戦闘になるわ…気を引き締めなさい!!』

カルメンの放送の後、バレアレス艦内では戦闘開始のサイレンと共に乗組員達がそれぞれの配置に就いていく。

そして、設置された手動機銃から防水カバーを剥ぎ取り、艦内に収納していた携帯SAMや機銃・携帯SAMの予備弾薬と共に甲板に持って出る。

 

 

『とりあえず、迎撃の戦闘機よ! 一刻も早く戦闘機をなるべく高高度に打ち上げて!』

 

 

「はい!」

 

レキシントンの指示に零戦の矢を選んで弓を引く祥鳳。

たが……打ち上げるべく上を向いた瞬間、敵爆撃機が正に爆弾を投下しようとしていた。

 

 

「っ!!」

 

 

「このっ! ウチの戦姫達に手出すんじゃあねぇ!!」

そんな祥鳳の危機を救ったのはバレアレスの甲板で25㎜チェーンガンを操っていた水兵だった。

 

 

「へっへーん、ざまーみろ!」

 

 

「バカ! 新手が来たぞ!」

 

 

「任せろ! 俺がやる!」

 

投下前に敵機を撃墜した水兵が自慢気に言ったが、同僚の水兵がツッコミを入れ、更に別の同僚水兵が持っていた携帯SAMを構える。

 

 

「やらせるかよ、ちょっと高いが、1発奢るぜ!」

 

そう言いながら携帯SAMを発射し、発射されたミサイルは狙い通り、敵機下部で炸裂し、その破片が爆弾に引火・撃墜された。

 

 

「よし、早く戦闘機を上げてくれよ、戦姫達! それまで絶対守ってやるぜ!」

 

 

「ありがとうございます! 迎撃隊発艦!」

 

矢が放たれ、零戦隊が展開される。

レキシントンのF4F隊も展開し、迎撃戦が開始される。

これにバレアレスからの攻撃も加わり至近弾以外の被害は発生していなかった。

そして……

 

 

 

「水上レーダーに反応…深海棲艦の艦隊です!」

 

レーダー担当士官の報告にカルメンは直ぐに指示を出した。

 

 

「バレアレス! 敵主力艦隊…ボスを発見したわ。このまま敵艦隊に近付いて、砲戦で片付けましょう!」

 

『わかりました。シュペーさん! いよいよ、出番ですよ!』

 

 

『ふっ、いよいよ私の出番か…28㎝砲は何時でも撃てる! 頼むぞ、バレアレス! 艦長!』

 

 

「えぇ…総員に告ぐ。これより、敵主力艦隊との近接砲雷戦に移行する。気を引き締めていけ!」

 

 

 

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